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1章
35話 神様からのプレゼント
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和葉は滔々と語る。
ベナードがブレーメンとグルであること、ブレーメンが既にメメルの研究が成功していることを知っていること。そして今、冒険者ギルドが魔法ポーションの素材を、全て差し押さえる準備を着々と整えていること。
そして、
「今、君の研究完成のための知恵が、今の君に必要な人材も、全て出揃った。そこには、タタさんも含まれている」
扉が壊された店。例え補助金が出されても、修理するために店を一時的に休むしかない。
しかし、ブレーメンに狙われているメメルを抱えながらこの店に隠し通すのは無理だ。
そう、このタイミングで壊された。
まるで、
「タタさんにも、ジェペットさんと共にいてほしいと言わんばかりだ」
「アンタの勝手な想像だろう」
「あなたがこんな国に思い入れがあるようには見えない。少なくとも、国に売るのは私と同様に反対しているしな」
タタは押し黙った。
本当にこのエルヴァニア帝国を思っているのなら、ケイのように国を擁護する発言をするだろう。残念ながら彼女はそれをしなかった。今まで一度だって。
「運命も時間も、もう待ってはくれない。ブレーメンが店にいたのも、確信的に君がいると断言していたのも、見張りがいたからかもしれない。だが彼は今、色黒の男性に追われて逃げて行った。監視も彼を救助するためにここを一時的に離れているはずだ。抜け出すなら、今しかない」
「冒険者ギルドにも嗅ぎ回っている奴がいるって話だっただろう」
「あぁ。目星はついているんだ」
そして和葉は、ぽつりと共犯者の名を告げた。
■□■□■
カズハの口から紡がれた技法を聞いて、脳髄が痺れるような感覚に襲われた。まるで魂が震えたようだった。
できる。これなら、完成させられる。
「そういえば、まだ教えていないことがあった。私、異世界人なんだ」
「なんだって?!」とタタが目をかっ開いた。
「えっ!? 嘘!?」メメルも口をあんぐり開く。
私もこんな事になるとは思わなかったと、カズハは穏やかに微笑んだ。
たった今まで冒険者ギルドを使って帝国を抜ける方法を説いていた人が浮かべるには優し過ぎて、変な笑み。
それでも、分かるだろうか? と彼は静かな口調で問う。
「異世界人がいるだけでも低確率なのに、今、君が必要とする異世界の知恵まで持っていた。これが、どれほどの奇跡であるか」
寧ろ神様なんて信じていなさそうなカズハがこれも神様からのプレゼントなんだという。今まで、メメルが諦めないでいたから、たくさん送りたくて仕方がなかったんだろう、と。
あの時、彼へノートを渡したことを、ちっとも後悔しなかった。
実験室の使用禁止を言い渡されたその日には、追い出されるように学園を退学にされた。
退学だというのならば荷物ぐらい返すのが普通だろう。それなのに、学園内にある寮にあるメメルの私物も全て取り上げられた。
何もかもなくなった。
でも研究ノートは、カズハに預けていたお陰でベナードに渡らずに済んだ。
この話をカズハにすると、ちょっとムッとしたけれど、
「でもそれは、君の人生において、大きな転換期だからだ。こんな国にいるなという神様からのお達しだ。だって、君が通い続けたいと心底思っていたニルヴァーナ学園の在籍権は、もうない。君には、もうこんな程度の低い国になんて、合わないんだよ。こんな場所で骨を埋めるには君は勿体ないと思っているから、君に、こんな事が起きたんだ」
まるで、歯車が噛み合うような精密さで、運命が動き出す。
着実に、そして、劇的に……まるで、背中に強風を吹き付けられているように、ぐいぐいと背を押されているような。
心の底から、衝動が沸き上がる。
――行くしかない!
「冒険者ギルドに行く!」
「よし、来た。タタさん、マジックバッグは? 詰めるだけ物を詰める手伝いをしよう」
「分かった、分かったから。急かしなさんな……」
今まで後ろ向きだったタタも、重たい腰を上げた。
メメルは直感する。
今日には、帝都を離れるんだ。
それは、エルヴァニア帝国への決別。
でも、その前に。
「あの……カズハさんに、聞いてほしいことがあるの」
「何だろうか?」
彼が異世界人なら、何も知らないだろう。
だから、タジトラ村の名前を挙げても、反応しなかったのだ。
ならきっと、この事実も知らない。
「私ね……――」
ベナードがブレーメンとグルであること、ブレーメンが既にメメルの研究が成功していることを知っていること。そして今、冒険者ギルドが魔法ポーションの素材を、全て差し押さえる準備を着々と整えていること。
そして、
「今、君の研究完成のための知恵が、今の君に必要な人材も、全て出揃った。そこには、タタさんも含まれている」
扉が壊された店。例え補助金が出されても、修理するために店を一時的に休むしかない。
しかし、ブレーメンに狙われているメメルを抱えながらこの店に隠し通すのは無理だ。
そう、このタイミングで壊された。
まるで、
「タタさんにも、ジェペットさんと共にいてほしいと言わんばかりだ」
「アンタの勝手な想像だろう」
「あなたがこんな国に思い入れがあるようには見えない。少なくとも、国に売るのは私と同様に反対しているしな」
タタは押し黙った。
本当にこのエルヴァニア帝国を思っているのなら、ケイのように国を擁護する発言をするだろう。残念ながら彼女はそれをしなかった。今まで一度だって。
「運命も時間も、もう待ってはくれない。ブレーメンが店にいたのも、確信的に君がいると断言していたのも、見張りがいたからかもしれない。だが彼は今、色黒の男性に追われて逃げて行った。監視も彼を救助するためにここを一時的に離れているはずだ。抜け出すなら、今しかない」
「冒険者ギルドにも嗅ぎ回っている奴がいるって話だっただろう」
「あぁ。目星はついているんだ」
そして和葉は、ぽつりと共犯者の名を告げた。
■□■□■
カズハの口から紡がれた技法を聞いて、脳髄が痺れるような感覚に襲われた。まるで魂が震えたようだった。
できる。これなら、完成させられる。
「そういえば、まだ教えていないことがあった。私、異世界人なんだ」
「なんだって?!」とタタが目をかっ開いた。
「えっ!? 嘘!?」メメルも口をあんぐり開く。
私もこんな事になるとは思わなかったと、カズハは穏やかに微笑んだ。
たった今まで冒険者ギルドを使って帝国を抜ける方法を説いていた人が浮かべるには優し過ぎて、変な笑み。
それでも、分かるだろうか? と彼は静かな口調で問う。
「異世界人がいるだけでも低確率なのに、今、君が必要とする異世界の知恵まで持っていた。これが、どれほどの奇跡であるか」
寧ろ神様なんて信じていなさそうなカズハがこれも神様からのプレゼントなんだという。今まで、メメルが諦めないでいたから、たくさん送りたくて仕方がなかったんだろう、と。
あの時、彼へノートを渡したことを、ちっとも後悔しなかった。
実験室の使用禁止を言い渡されたその日には、追い出されるように学園を退学にされた。
退学だというのならば荷物ぐらい返すのが普通だろう。それなのに、学園内にある寮にあるメメルの私物も全て取り上げられた。
何もかもなくなった。
でも研究ノートは、カズハに預けていたお陰でベナードに渡らずに済んだ。
この話をカズハにすると、ちょっとムッとしたけれど、
「でもそれは、君の人生において、大きな転換期だからだ。こんな国にいるなという神様からのお達しだ。だって、君が通い続けたいと心底思っていたニルヴァーナ学園の在籍権は、もうない。君には、もうこんな程度の低い国になんて、合わないんだよ。こんな場所で骨を埋めるには君は勿体ないと思っているから、君に、こんな事が起きたんだ」
まるで、歯車が噛み合うような精密さで、運命が動き出す。
着実に、そして、劇的に……まるで、背中に強風を吹き付けられているように、ぐいぐいと背を押されているような。
心の底から、衝動が沸き上がる。
――行くしかない!
「冒険者ギルドに行く!」
「よし、来た。タタさん、マジックバッグは? 詰めるだけ物を詰める手伝いをしよう」
「分かった、分かったから。急かしなさんな……」
今まで後ろ向きだったタタも、重たい腰を上げた。
メメルは直感する。
今日には、帝都を離れるんだ。
それは、エルヴァニア帝国への決別。
でも、その前に。
「あの……カズハさんに、聞いてほしいことがあるの」
「何だろうか?」
彼が異世界人なら、何も知らないだろう。
だから、タジトラ村の名前を挙げても、反応しなかったのだ。
ならきっと、この事実も知らない。
「私ね……――」
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