盗人令嬢にご注意あそばせ〜『盗用』スキルを乱用させていただきます!

星見肴

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28話 スキル特務部隊・中

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「嫌がらせか」
「騎士サマならやるだろうよ」

 冒険者にとって個人能力の全体公開は非常に痛手だ。仲間内ならまだしも、冒険者の中にはならず者が少なからずいる。そういう連中にも自分の手の内を晒すことになるからだ。

「つち」
「は?」

 ヴォルグが眉根を寄せる。
 アルフレッドは、じっと読み込んでいた資料からヴォルグへと顔を上げる。
 
「今、私はなんて言った?」
「アスカからの助言か? 多分、『つち』って言ったぞ。ステータスで『つち』っていえば『土』属性じゃないか?」

 アルフレッドは手書きされたステータスを再度読み直す。覗き込んできたヴォルグと共に属性欄を確認しながら、ぺらぺらめくっていく。確かに、土属性だ。全員に土属性が入っている。それに気付いて重たく感じる頭を抱える。

 アルフレッドのスキル『仮面』には、他者の魂を強制的に仮面へと変える能力がある。その仮面を被ると、その魂の当人が持っている『記憶』や『個人能力』を使用することができる。主に、アルフレッドが使用するのは個人能力だ。面を嵌めることで、アルフレッド自前の物は使えなくなるが、魂が持っている能力を使用することができる。それは、属性変化も起こるのだ。

 アルフレッドは『記憶』を使用することはない。それは、アルフレッドの脳へ他者の記憶を直接ダウンロードするため、記憶の混濁が激しいからだ。完全に記憶をダウンロードすると
 そしてアルフレッドは他者――アスカの記憶を完全にダウンロードしたことがある。そのせいで、以前のアルフレッドの人格は消失。今のアルフレッドは第三者から見聞きした「アルフレッド」という人間を、ただ模倣しているだけだ。

 そして今もアスカの人格の方が勝っている。お陰で、時々こうやって口から不意に意識してもいないのに言葉が出る。

 アスカは聡明な女性だった。観察眼に長け、わずかな違和感をも見つけ出し、彼女の記憶の中にある『名探偵』のように真実を炙り出した。アルフレッドが記憶を引き継いでからも、彼女の持つ観察眼はアルフレッドの中で顕在しているのだ。

「…………見落とした」
「働き過ぎだ、寝ろ。せめて8時間」
「長い」

 こんこん、とノックした隊員に入るよう促すと、大きな茶封筒を持った赤紫色の髪で片目を隠している隊員のキャシーが頭を垂れた。至急確認してもらいたいものがあると、彼女は紙袋から資料を取り出し、次々と横一列に並べていく。

 その中には、エルフィールド家の家紋印が入った殺害依頼書まであった。
 殺害対象はエマ・エルフィールド。黒髪で、青い瞳の少女。写真は少々ぼんやりしている。

(あの少年が口にしてた、名前……?)
「あら、あの子じゃない」そうアルフレッドは口にする。

 室内に沈黙が訪れる。

「いや、誰だ?」

 何も記憶にない。記憶のどの部分を漁って、アスカはあの子と言ったのだろうか。

「頭貸せ」と言ったヴォルグがアルフレッドの頭に手を乗せる。しばらく目を瞑っていれば、数日間の出来事が逆再生されるように瞼の裏に蘇る。この感覚はどうも慣れない。そして2日前の夜、冒険者達が突然暴れ出したあの光景。突然冒険者ギルド内で起きた、殺人と暴動……。

「あっ」

 ヴォルグが、殺害依頼書を拾い上げて見下ろす。

「少し成長してやせ細ってるが、お前が探してるそばかすの少年だ」
「そばかすの少年……――え?」

 ヴォルグに指摘される通り、瞳の色や目元、唇などの箇所を指摘されて、アルフレッドはようやく記憶の中の少年の瞳と合致する。

「確かに、あの少年だ……」
「ほら、これ紅茶。カフェイン取っておけ」

 言われるままにアルフレッドはカップに入った紅茶を口に含む。
 そうだ、あの時「エマ・エルフィールド」と少年は叫んだ。あれは、自分の名前だったのか。

 何故、あのタイミングで自分の名前を叫んだ?
 あの時は、確か……。

 意識が暗く落ちる。寝てしまったと気づいて目を開く。思考が、止まる。いつの間にか落ちていた瞼を開くと、視界がぐらぐらと揺れる。

「気配が……」

 再びがくん、とアルフレッドの意識が落ちた。
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