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29話 スキル特務部隊・下
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「よし、寝たな。今日は仕事サボれる」
「なっ?! ダメですよ! この殺害依頼書、もうエマちゃんの殺害許可日を過ぎてるんですよ?!」
キャシーがそう吠える。
確かに、リンクしている契約書には殺害完了の報告に印鑑が押されていない。まだ殺されていない可能性は高い。
「それに、あのマリアエル様が自分の娘を家から追い出すなんてことを許容するとは思えません!」
マリアエルの評判はヴォルグも知っている。かつて第2師団の隊長を務めた優秀な女性。彼女は、娘のアリアが『浄光』のスキルを得てから突然湧き出たように話題の人物になった。そのせいで、興味もないマリアエルの情報をあちこちで聞く嵌めになったのだ。
だが、エマ。彼女の名前をヴォルグは聞いたことがない。
エマは、2日前の夜にはアルフレッドに会っている。ぱっと見じゃ分からないよう少年に変装していた。これらを推察するに、エマが自衛のために家から逃げ出した可能性は高い。まだ王都内で身を潜めている可能性はある。
「だがまぁ、んなもんは家に乗り込めば分かる。ターナーの野郎はウザかったし、ちょっとオウチにお邪魔しようじゃねぇか。こい、キャシー。寝落ちしたボスの代行は俺の役目だ」
「隊長の紅茶に睡眠を薬入れたのは、あなたですよ。私、見てましたからね」
「眼の前で見てたくせに、何も言わなかったのはどこのどいつだ」
溶け切てっいない睡眠薬がカップの底に沈殿しているのに気づいてないアルフレッドの方が問題だ。普段なら疲れていても気づく。
無理しているのは分かり切っている。アルフレッドの脳に残存しているアスカの記憶は、彼自身の記憶とほとんど相違することがない。口から呟けば大体、何を指しているか普段の彼なら気づくのだ。
ともあれ、アルフレッドが寝てる間に少しは仕事を片付けなければ無理をする。こんな小さな子供が殺害対象だ。絶対に行くと言って聞かない。
彼には世界各国に拠点を持つ邪龍神信仰のカルト教団『ファフニール』の捜索と逮捕に本腰入れさせるべきだ。
。いざという時、やはり彼の力はあった方が良い。
「で、何が見えたんだ? じゃないと、こっちまでお前が持ってくる案件じゃねぇだろ」
キャシーは明るい水色の瞳をそろりとズラして。
「これらの資料、全てエマちゃんが用意したみたいなんです。でも、差出人は『サニア』というメイドの人になっていて……」
キャシーから渡された手紙に目を通す。確かに、手紙にはサニアという女性がエルフィールド家の不正な証拠を見付け、帳簿は一部を自分のスキルが念写したものを同封したと書いてある。ターナーは交友関係が広いが、あまりスキル特務部隊の人たちとは関係がないから、もみ消されないだろうと思ったとも。
「念写スキルを、エマが使ったのか?」
「そうです。私から見ると、そういう状況にしか見えませんでした。私のスキルからは、終始エマちゃんしか映り込んでないんです。でも、何でそんな嘘を書いたのでしょうか?」
最後の文末には、エマを助けてほしいと書いてあるが、手紙を用意したのはキャシーの『思念読取』でエマ自身だと判明している。一方でエマ自身は自力で脱走済み。事情が分かってて、マリアエルが逃がしたとか、だろうか?
「さぁ? 詳しくは行ってみれば分かるだろ。令状取ってくる。徹底的に潰すぞ」
「分かりました。他のメンバーは?」
「ユリウスぐらいで良いだろ。暴れたら取り押さえるのは騎士連中の仕事だ。ソイツらは俺が連れてくるから、ユリウスに声掛け頼むわ」
完全に寝落ちしているせいで、やたら重たく感じるアルフレッドを、隊長室に私物として置かれているベッドに押し込んだ。
寝ている時でさえ眉間に皺が寄っているアルフレッドを一瞥して、ヴォルグは証拠品を持って騎士団本部へと向かった。
「なっ?! ダメですよ! この殺害依頼書、もうエマちゃんの殺害許可日を過ぎてるんですよ?!」
キャシーがそう吠える。
確かに、リンクしている契約書には殺害完了の報告に印鑑が押されていない。まだ殺されていない可能性は高い。
「それに、あのマリアエル様が自分の娘を家から追い出すなんてことを許容するとは思えません!」
マリアエルの評判はヴォルグも知っている。かつて第2師団の隊長を務めた優秀な女性。彼女は、娘のアリアが『浄光』のスキルを得てから突然湧き出たように話題の人物になった。そのせいで、興味もないマリアエルの情報をあちこちで聞く嵌めになったのだ。
だが、エマ。彼女の名前をヴォルグは聞いたことがない。
エマは、2日前の夜にはアルフレッドに会っている。ぱっと見じゃ分からないよう少年に変装していた。これらを推察するに、エマが自衛のために家から逃げ出した可能性は高い。まだ王都内で身を潜めている可能性はある。
「だがまぁ、んなもんは家に乗り込めば分かる。ターナーの野郎はウザかったし、ちょっとオウチにお邪魔しようじゃねぇか。こい、キャシー。寝落ちしたボスの代行は俺の役目だ」
「隊長の紅茶に睡眠を薬入れたのは、あなたですよ。私、見てましたからね」
「眼の前で見てたくせに、何も言わなかったのはどこのどいつだ」
溶け切てっいない睡眠薬がカップの底に沈殿しているのに気づいてないアルフレッドの方が問題だ。普段なら疲れていても気づく。
無理しているのは分かり切っている。アルフレッドの脳に残存しているアスカの記憶は、彼自身の記憶とほとんど相違することがない。口から呟けば大体、何を指しているか普段の彼なら気づくのだ。
ともあれ、アルフレッドが寝てる間に少しは仕事を片付けなければ無理をする。こんな小さな子供が殺害対象だ。絶対に行くと言って聞かない。
彼には世界各国に拠点を持つ邪龍神信仰のカルト教団『ファフニール』の捜索と逮捕に本腰入れさせるべきだ。
。いざという時、やはり彼の力はあった方が良い。
「で、何が見えたんだ? じゃないと、こっちまでお前が持ってくる案件じゃねぇだろ」
キャシーは明るい水色の瞳をそろりとズラして。
「これらの資料、全てエマちゃんが用意したみたいなんです。でも、差出人は『サニア』というメイドの人になっていて……」
キャシーから渡された手紙に目を通す。確かに、手紙にはサニアという女性がエルフィールド家の不正な証拠を見付け、帳簿は一部を自分のスキルが念写したものを同封したと書いてある。ターナーは交友関係が広いが、あまりスキル特務部隊の人たちとは関係がないから、もみ消されないだろうと思ったとも。
「念写スキルを、エマが使ったのか?」
「そうです。私から見ると、そういう状況にしか見えませんでした。私のスキルからは、終始エマちゃんしか映り込んでないんです。でも、何でそんな嘘を書いたのでしょうか?」
最後の文末には、エマを助けてほしいと書いてあるが、手紙を用意したのはキャシーの『思念読取』でエマ自身だと判明している。一方でエマ自身は自力で脱走済み。事情が分かってて、マリアエルが逃がしたとか、だろうか?
「さぁ? 詳しくは行ってみれば分かるだろ。令状取ってくる。徹底的に潰すぞ」
「分かりました。他のメンバーは?」
「ユリウスぐらいで良いだろ。暴れたら取り押さえるのは騎士連中の仕事だ。ソイツらは俺が連れてくるから、ユリウスに声掛け頼むわ」
完全に寝落ちしているせいで、やたら重たく感じるアルフレッドを、隊長室に私物として置かれているベッドに押し込んだ。
寝ている時でさえ眉間に皺が寄っているアルフレッドを一瞥して、ヴォルグは証拠品を持って騎士団本部へと向かった。
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