盗人令嬢にご注意あそばせ〜『盗用』スキルを乱用させていただきます!

星見肴

文字の大きさ
50 / 73

50話 奇襲

しおりを挟む
「現時点、適任はお前しかいない」
「当たり前だろ。師匠が俺をお前の補佐に任命したんだぞ。そこら辺の使える奴より俺が優秀なのは仕方がねぇ。師匠がスゲェからな」
(師匠への信頼感が分厚すぎる)

 面白い人達~とエマの頭の中で別の言葉が浮かぶ。きっと舞もこの状況をめちゃくちゃ楽しんでいる。かくいうエマも、すごく面白い。

「お前も探してないだろ。絶対お断りだ。なら、今からミレーヌと副隊長交代するって言え。そうしたらオッケーしてやる」
「その、すみません。この会話聞いてて良いものなんですか?」

 思わずといった風にイザークが問うが、「いつもこんな感じだから大丈夫」とヴォルグがさらっと言う。

「分かったら駄々を捏ねるな。考える時間があるのに思考を放棄をするな。土属性なら部隊の連中に適任者はいるんだぞ」
「……それを、他者にやらせる訳にはいかない」
「分かってんじゃねぇか。だったらお前も同じだ、自分の命を大事にしろ。この部隊はお前が立ち上げたモンだ。お前が上に立ってる時点で、お前がいなくなったら、この部隊に来た連中は路頭に迷うことになる」

 頭を使え、簡単に他人に任せるなとヴォルグは言って、

「契約期間内でも部隊から逃げるぞ、俺は! 責任感なんか持ちたくねぇからな!」
((((しまらない))))
「互いに信頼感が分厚くてお腹がいっぱいでーす」

 気付いたらそう口にしてしまっていたエマ。思わず口をふさぐ。ちょっと待って、今、舞が勝手に何か言った!
 視線が集まってきて、エマはすぐに謝罪してヴォルグの後ろに隠れた。こっち見ないでほしい。

 しかし、アルフレッドは溜息を零すとイビルティア―から離れた。こつこつと踊り場から数段の階段を降りていく。
 何故だか分からないが、エマはヴォルグから頭を撫でられた。

 エマは顔を上げて、改めてこちらへ向かってくるアルフレッドへ顔を向ける。
 その彼の背後の足元から、黒い何かがぬわっと現れた。きらりと太陽に何かが反射する。

「リースナー様、後ろ!」

 その声に弾かれたように、振り返った彼のすぐ真後ろに現れた黒いローブの男が切りかかる。アルフレッドはとっさに避けるも、ナイフは腕を掠めて制服を切り裂き、肌に一筋の線を引いた。

 同時に、がし! とエマの後ろ足首が何かに掴まれた。
 ぬるりとした感触を覚えて視線を下すと、地面から赤く濡れた手が生えている。それが、エマの足を掴んでいたのだ。びっくりしすぎて声が出ない。

 その赤い液体も肌に染み込むようにすっと消えてしまった。

「なっ、コイツ!」

 ヴォルグが的確に手を狙って蹴り上げたが、その前にその腕が地面の中に引っ込んでしまった。

 エマの嗅覚に、甘ったるい香りが刺激する。

(これ……!)

 ヒヒーン! と馬の嘶きと同時に呻き声が聞こえる。
 馬から落ちたイザークの真後ろに黒いローブの男が現れる。そして、手にはナイフ。そのナイフを彼の左肩付け根辺りに振り下ろした。

 痛みに一瞬呻き声を上げたものの、引き抜かれたそのナイフが首筋に当てられる。

(もしそれに、イビルティアーの実の成分が塗り付けられていたら)

 ぞっと背筋が凍る。
 エマはとっさに、イザークの近くにいる黒ローブへ、フラッシュの魔法陣を描きながら縮地で懐に飛び込んだ。

 かっと眩い閃光が視界を埋める。
 身体強化のスキルで攻撃力を底上げし、エマは目を閉じながら男の顔面があった辺りを目掛けて光の中、蹴り上げる。足に確かな感触と男のうめき声。

「イビルティアーです! ナイフに塗ってあります!!」

 光の外側へ抜けて、男からナイフをもぎ取るとその場に放り投げる。そして側頭部を回し蹴りでイザークから距離を剥がす。
 エマはすぐに、イザークを相手に鑑定を使用する。彼のステータスの中に、『邪龍の使徒』が……。

「あれ?! ない!?」

 彼のステータスの中に、『邪龍の使徒』は見当たらなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

処理中です...