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 返り血を浴びたアルトが輝かしい笑みを浮かべて戻ってきた時は帰らされるのではないかと思ったが、無事に冒険者の身分証カードを作る行程や、実際依頼の張り出されている看板を見たりして帰ることができた。

 その日の夜。職員を帰らせてからフォンはヴァレリアに渡された二通の手紙を読みこんだが、どちらも衝撃的な内容だった。

 一通目は、数年後にベネディエッタの封印塚が何かの要因で破壊され、そしてベネディックが増えること、更に十六歳になった卒業式にヴァレリアがベネディエッタに体を乗っ取られること。
 ヴァレリアは簡易地図に封印塚のある場所を書き記していた。まるでその目で見てきたように。

 学園にやってきた聖女が仲間達と共に国を守るためにベネディエッタに乗っ取られたヴァレリアを倒すことはできる。しかし死んでしまった自分が幼少期に戻ってきたと書かれていた。

 かつてベネディエッタを封印し、ベネディックを退けた聖女と同じ力を持つ少女の名前と住所も記載されていた。何かあった時は少女を守ってほしいと書いてあった。

 最後に自分がどれだけ最低な人間だったかも綴っていた。たくさんの人の優しさや、思いやりを無下にしていた。第一王子の婚約者と傲慢に生きてきたこと。

 そして、このステラが見える能力こそ、ヴァレリアが未来を変える必要な鍵であり、今すぐにでも強くなるために戦う必要があるということ。

 もう一つはヴァレリアのステラが見える能力について公言したくない理由が記されていた。

 ステラによる差別も減ること、ステラの少ない人達の偏見が減ることはとても喜ばしいことではあるが、悪用された時に被害が甚大になる。

 他国との戦争だけではない。人間を強制的に兵器へと引き上げてしまうこと、それを権力者は無理強いできる。国土を広げ、利益を得るという欲望のままに平民を苦しめる。

 ダンジョンや素材採取をすること、土地を治める権力者の考えに左右されてしまうこと、それは国内の流通が滞り、増税すら始めるだろう。

 それに問題は権力者だけに留まらない。犯罪者が乱獲する可能性もある。どれだけ規制しようと金になると自分勝手に刈り尽くす。
 素材の絶滅は後世の人々に這い上がる術がなくなることを意味する。

 フォンに会いに来た理由は、強くなってこの運命を打破すること。そのため、嫌がってるアルトを説得する手助けをしほしい。

 もうこれ以上、誰かを不幸にしないために。そう文末には記されていた。
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