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 ヴァイオレット家のお菓子屋が軌道に乗り、繁盛し始めて王都でも話題になってきた頃。

「わたしも、ヴァイオレットさまのお店のお菓子が食べたいです!」

 国王――フレデリックの執務室にやってきたアレンがそうアルトに言った。アルトは大人げなく、店舗まで並べば三時間後にはクレープが食べれると丁寧に言った。

「そこを……――」
「帰ります」
「待て待て、お前はまだ勤務時間だろう」
「その汚いオーラをしまってお手を動かしてください。クビですか? ならばこちらの辞表――に」
「それは言ってない。ちょっと工面してくれと――」
「甘えるな、並べゴミ」
「~~~~~~っ!!」

 暴言を吐き捨てるアルトに我慢ならないと、深い藍色の髪の少年がバシンとテーブルを叩いて立ち上がる。

「アルト・ヴァイオレット! お前は駄々を捏ねている子供か! 陛下にこんな無礼を!」
「お前よりまともな意見だな、シグルト」

 踵を返してさっさと出ていったアルト。
 あの男、馬鹿にしやがって! と再び少年は吠える。そんな少年とよく似た髪色の男性が、少年の肩を掴む。

「シリル、落ち着きなさい」

 少年――シリル・ベイリーは声を荒げる。
 しかし、父も陛下もそんなシリルの言葉を聞いてはくれなかった。少なくとも彼はそう感じた。

 陛下の仕えられるだけでも光栄なことだ。こうやって陛下と謁見できるのは、限られた人間しかいない特別な人間だ。そこに、人間があんなのなんて!

 シリルは口をぎゅっと引き結んだ。





 帰ってきて上機嫌なアルトは建物の外観が写った写真を見せてきた。

「この店のどれからな二号店を建てないかい?」
「え? でも、まだ始まって一ヶ月しか経っていませんよ?」

 ここ最近、シオンのお菓子を毎日二十個買いに来る男がいて、後を追ったところ元の価格より倍以上の値段で転売されていることが発覚した。

 どこぞの侯爵家当主が率先してやっていて、アルトの暴力と恐喝家宅捜索で、あっという間にその侯爵家は摘発。家はもう潰しているがもちろん、ヴァレリアはそこまで教えられていない。

 だが、転売ヤー侯爵は権力を悪用して良質な商品を安く買い叩いて転売し、自分の店に定着してくると買っていた店が盗作したと騒いで裁判沙汰にすると脅していた。最後にはその店を取り込んだそう。

 その報告を受けたヴァレリア。節度と常識と倫理感のない転売ヤーは異世界でもご本家に迷惑行為を働くんだなと思った。
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