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 遡ること数日前。
 シリルは王立図書館の中にある禁書庫へ向かって早足で本棚の間を抜けていった。壁に沿って立っている本棚に触れると、幻のようにその棚は消えて扉が見えてきた。
 それを開けば禁書庫だ。そこには数種の本を開いて置きっぱなしにして、黒に程近い焦げ茶色の髪を一つに纏めている少年が本をバサバサと捲っていた。

「ジェーカーさん!」

 呼び掛けるが返事はない。集中し過ぎると彼はいつも周りに気づかない。シリルは肩を大きく揺するとようやく本を捲る手を止め、琥珀を埋め込んだような黄金色の瞳がシリルを捉えた。

「どうかしたのか」
「ジェーカーさん、聞いて下さい! アルト・ヴァイオレットがっ!!」
「ギルバートと呼んでほしいんだが」
「ギルバートさん! ヴァイオレットの奴がまた陛下に無礼を働いたんだ!!」

 アルトが新しい魔道具の試作品を持ってきた。見た目はアクセサリーだが、武器の出し入れが可能になるという魔道具だ。
 ものは試しと木剣を入れて使い心地を確認していた国王陛下。調整が済むと、アルトは息抜きだ何だと言い掛かりを付けて模擬戦を始めた。
 見事な剣裁きで数分も経たないうちに魔道具の中に入っていた木剣を全て使わせた上で圧勝だった。

 アルトは木剣の先を鼻に向けたまま、苛立たしげに弱いと言い放ったのだ。

「それは弱いな」
「弱くない! 陛下は手加減して下さってたんだ!!」
「そうなのか?」

 アルトは現役である。執務の多い国王の技術がそこまで必要はないのだが、シリルは国王が弱いわけがないと信じて疑わない。
 むしろ、卑怯な手を使って国王を負かしたのだと考えた。

 それに最近始めたお菓子屋も何かしら小細工をして売り上げを伸ばしているに違いない、あの魔道具もろくでもない方法で入手したに違いないと、とにかくアルトのやることが気に食わないお年頃だった。

「だから、あいつの秘密を暴きに行きましょう!」
「そうか」
「ギルバートさんも来てください!」
「うん? 何故だ?」

 少年は浮かれていた。
 いつもシリルは周りの大人から疎まれていた。自分達の頭が悪いからなのに、正論を述べ、間違いを指摘するとすぐに不機嫌になる頭でっかちばかり。

 自分の父に匹敵する知識を持つ人など陛下以外にいない。そう思っていた所に、ギルバート・ジェーカーは現れた。しかもシリルと歳が近かった。
 シリルは、ギルバートと二人なら、どんな問題も解決できると信じていた。ずっと一緒にいられるのだと。
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