上 下
31 / 64

30

しおりを挟む
 ヴァレリアから要求するのは二点。

 予約名簿を元にしている予約済みの人々に自分達を優先してほしいと謝罪して回る。
 ちなみに大半の人が文字を知らない。売り子達が毎回指差し苦労しながら口頭説明をしているので手紙はまず無理だ。

 そして、所望しているのは陛下。直に赴いた方がヴァレリア達が頭を下げるより何百倍も許可が貰えるだろう。

 それらが出来るのであれば、優先した際に発生する損害分を補う。帳簿からの算出はアルトにもしてもらっているが、かなりの額である。

 帳簿を陛下が目を点にする。一日の売上がまずおかしいのは分かる。最多売上は即時対応できるクレープだ。

 二号店の出資については丁寧にお断りした。
 二号店の準備はしているが、募集をかけると毎回貴族の屋敷で働いている人が押し掛けてくる。しかも、レシピを盗んで来ないとクビにすると怒られていと泣き出す始末。

「皆さんは知的財産を軽んじていらっしゃいます。人の技術を盗んで自分達の利益にしようとする身勝手な方が多すぎるからこそレシピ公開も見送っています」

 転売ヤー侯爵なんて典型例。腕を見込んだのならば手伝ってやれば良いものを、彼らの技術を権力で奪って自分の物だと騒いでいた。
 開発者が技術の所有権を持っているという認識がない。人の技術を便利な玩具だと思っている節がある。

「技術の所有権を明記する法律や、個人の技術を外の圧力から守る法律はないのですか?」
「……そういったものは……ない、かなぁ」

 他の人に教えるのは構わないが、第二の転売ヤー侯爵が出て来ている以上、人を選ばなければならない。

 この前はどこぞの男爵直々に乗り込んできて下等生物共が貴族様に技術を教えるのは当然だろうと怒鳴ってきた男爵の名前つきでチクる。多分しばかれているだろうが。

「開発者の技術に関する法律については、よくよくお考え下さい。人の知的財産は無料ではありません。それ相応の時間と労力を費やしています。それらの保護が約束されないていない限りは、皆さんが考案したレシピを、私の一存で渡すわけにはいきません」
「ん? ヴァレリア?」
「そうか……それはすまなかったね」
「ご理解いただき感謝します」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

幸介による短編恋愛小説集

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:539pt お気に入り:2

チート鋼鉄令嬢は今日も手ガタく生き抜くつもりです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,698pt お気に入り:135

いずれ最強の錬金術師?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:6,737pt お気に入り:35,342

龍の寵愛

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,740pt お気に入り:4

死が見える…

ホラー / 完結 24h.ポイント:3,152pt お気に入り:2

ショート朗読シリーズ

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:511pt お気に入り:0

才能だって、恋だって、自分が一番わからない

BL / 連載中 24h.ポイント:646pt お気に入り:13

処理中です...