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二人の侍女
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薄暗くなって夜が始まろうとする今、私達は馬に跨って大通りを走っていた。
結局、目的地らしき場所へ向かう一番の近道は劇場沿いのこの大通りだ。
選択の余地はない。
現場である劇場と近辺の捜査は後からくる警備兵に任せておく。
劇場につく頃、貴族街の方向からも二頭の早馬がやって来た。
急いでいた私達だが馬の足を止めてその馬に跨がる人物達を確認した。
目に付いたのには理由がある。
二人共珍しく侍女服を着た女性だったからだ。
向こうも気づいて私の傍に馬を寄せると地面に降りて首を垂れた。
私の顔を知っている様だった。
「誰か?」
「お初にお目にかかります。私共はランベルト伯爵令嬢エリゼ様に仕える者です」
「無礼を承知でお伺い致します。エーベルハルト殿下でございますか?」
「そうだ」
記憶が刺激されて思い出す。
以前学園の入り口前で見た事があった。特徴的な髪色だからすぐにわかる。
エリゼの実家ランベルト領のある領民だけに見られる特徴だ。
燃えるような赤毛は。
「私共は今、お嬢様を探しております」
「もしや殿下も同じではないでしょうか」
「ああ。その通りだ」
劇場にいた伯爵家の誰かが伝えたのだろうか。それにしても行動が早い。
伝言を受け取ったとしても通常の侍女なら心配して待っている事しかできない筈だ。
だがこの二人は即座に伯爵邸を飛び出してきたらしい。
二人の乗って来た馬を見ると、鞍も鐙もつけていない。
貴族街と王城は丁度劇場から見ると大体等距離だ。
急いでエリゼの居た劇場へ向かったら丁度王城を飛び出した私達と鉢合わせしたという事か。
私は端的にエリゼが姿を消した事と魔法技研資格証を頼りに追跡している事を伝える。
そして二人を加えて私達は再び走り出した。
発信魔石の反応を受信水晶板で確認しつつ馬を飛ばす。
騎乗しながら落とさずに確認するのは大変だった。
私達が到着した場所は一応王都と言われる範囲の土地ではあるが実情は違う。
王都外周壁の外のあまり治安が良くないと言われている地域だ。
魔石の反応はそのさびれた一角からだった。
ひと気も無くなって馬の足音が響きやすいので馬を降りて近づく。
いくら王城のお膝元とは云え、王都は広い。
やみくもにエリゼを探してさまよう必要が無かったのは監視員の報告とエリゼの持つ魔法技研資格証のおかげだった。
「あそこのどこかにお嬢様が居られるのですか?」
「恐らくね」
髪の長い侍女に問われて私は手持ちの受信水晶板を見せる。
私の魔力を吸った水晶版は下面中央に私自身の位置を青点で表示していた。
そのすぐ上に発信魔石から発信された赤点が大きくにじんで浮かんでいる。
この地域のどの建物かまでは正確に特定できない。
王都の外周壁の外になると受信が大まかにしか出来ない。
伝導魔石が地面に埋め込まれていないからだ。
「どこです?」
「それが詳しくわからない。ただあの一角のどれかにいると思うのだが」
「マルタ」
ロングヘアーの侍女がボブカットの侍女を振り返る。
ボブカットの侍女が取り出したのは何かが入った小さい袋だった。
「反応ある?」
「……ああ、若干向こうに引っ張られる様な気がする。間違いなくここら辺だ。
でも全然弱い。まだ遠いのかもしれない」
「それは何だ?」
「お嬢様と引き合う魔石です。詳しくは後でご説明いたします」
そんなものは聞いた事もない。
だが二人の侍女は魔石の子袋を持ちながら歩き始めた。
人がいるのかいないのか廃屋が立ち並ぶ一角を完全無警戒な感じで進む。
そのあまりの不用心さにこちらが驚く。
王家の人間が云うのもなんだがここら辺は治安が良くないはずだ。
時期を置いて掃討してもまたどこからともなく戻ってきて住み着く者達が居る。
これ以上探す当てもない私達も周囲を警戒しながら後を進んだ。
「!」
突然マルタという侍女の手にある魔石の小袋が飛んで行った。
何の脈絡もなく突然に。
しかし飛んでいたのは少しの間だけでやがて力なく地面に転がった。
「アルマ、あっちだ!」
「ええ!」
突然駆け出した二人に慌てて私達も続く。ただし出来る限り物音を抑えて。
どうやら二人は石のとんだ延長線上に向かっているらしい。
迷いなく向かった先に廃屋が建っていた。
男が一人外に立っている。
エリゼを拉致した者達は複数人いるはずだ。無警戒だとも思えない。
いきなり真正面から入るのもどうかと一瞬迷う。
だが侍女二人の判断は早かった。
「突貫するぞ」
「そうね」
「ああ」
私もすぐに決断した。
結局、応援を呼んだり集まるのを待つ余裕なんてないのだ。
こんな場所に令嬢が連れてこられた時点で一刻を争う事態の筈だ。
建物を調べる時間も惜しい。
調べている時にこちらが見つかったら意味も無い。
「殿下方はこちらでお待ちください」
「危険ですから」
「足手まといにはならない。人手はあった方がいいだろう」
後ろのエリアスやローラントを振り替えると二人も私に頷いた。
私と同じく緊張している。
訓練だけで人を傷つけたことなどないからだ。
剣を抜く指に力が思わず入る。
二人は何か言いたそうだったが何も言わなかった。
時間が惜しいからだろう。
五人の気持ちが一緒になって建物を見る。
マルタが何かを投げる。そして二人の侍女は突然ダッシュした。
男が倒れるか否かの時点でアルマが建物の扉を蹴り飛ばす。
扉が開いた瞬間にマルタが突入した。私達も続く。
一番近くの男は驚いた表情のままマルタの二度目の投擲の餌食となった。
胸に柄の所まで刃物が深く突き刺ささっている。すごい力だ。
驚きつつも剣を抜いた別の男はマルタに斬りかかった。
しかし、交差した次の瞬間男の手首があっさり床に転がっていた。
いつの間にかマルタは逆手に刃物を構えていた。
アルマを見ると既に別の男達が床に転がっていた。
その手に持つのは鉛入りの鞭らしい。
倒れた男二人の顔が血だらけになっていて頭蓋骨が陥没している。
一瞬で四人戦闘不能にしたが、ならず者はまだ他に数人いた。
ここにエリゼはいない。
「ここはお任せを」
「奥をお願いします」
「頼む!」
騒ぎを聞いたのか奥の部屋の扉を開いて男が出てきた。
二人の侍女の後ろを通り抜けた私は間髪入れずに男の肩口を剣で抉った。
エリアスが男を蹴り倒しローランドが武器を奪い男を制圧する。
部屋には何かに覆いかぶさる男がいた。
床に横たわるエリゼを視界にとらえた途端、頭が怒りで弾ける。
そして私は無意識に剣を振るった。
結局、目的地らしき場所へ向かう一番の近道は劇場沿いのこの大通りだ。
選択の余地はない。
現場である劇場と近辺の捜査は後からくる警備兵に任せておく。
劇場につく頃、貴族街の方向からも二頭の早馬がやって来た。
急いでいた私達だが馬の足を止めてその馬に跨がる人物達を確認した。
目に付いたのには理由がある。
二人共珍しく侍女服を着た女性だったからだ。
向こうも気づいて私の傍に馬を寄せると地面に降りて首を垂れた。
私の顔を知っている様だった。
「誰か?」
「お初にお目にかかります。私共はランベルト伯爵令嬢エリゼ様に仕える者です」
「無礼を承知でお伺い致します。エーベルハルト殿下でございますか?」
「そうだ」
記憶が刺激されて思い出す。
以前学園の入り口前で見た事があった。特徴的な髪色だからすぐにわかる。
エリゼの実家ランベルト領のある領民だけに見られる特徴だ。
燃えるような赤毛は。
「私共は今、お嬢様を探しております」
「もしや殿下も同じではないでしょうか」
「ああ。その通りだ」
劇場にいた伯爵家の誰かが伝えたのだろうか。それにしても行動が早い。
伝言を受け取ったとしても通常の侍女なら心配して待っている事しかできない筈だ。
だがこの二人は即座に伯爵邸を飛び出してきたらしい。
二人の乗って来た馬を見ると、鞍も鐙もつけていない。
貴族街と王城は丁度劇場から見ると大体等距離だ。
急いでエリゼの居た劇場へ向かったら丁度王城を飛び出した私達と鉢合わせしたという事か。
私は端的にエリゼが姿を消した事と魔法技研資格証を頼りに追跡している事を伝える。
そして二人を加えて私達は再び走り出した。
発信魔石の反応を受信水晶板で確認しつつ馬を飛ばす。
騎乗しながら落とさずに確認するのは大変だった。
私達が到着した場所は一応王都と言われる範囲の土地ではあるが実情は違う。
王都外周壁の外のあまり治安が良くないと言われている地域だ。
魔石の反応はそのさびれた一角からだった。
ひと気も無くなって馬の足音が響きやすいので馬を降りて近づく。
いくら王城のお膝元とは云え、王都は広い。
やみくもにエリゼを探してさまよう必要が無かったのは監視員の報告とエリゼの持つ魔法技研資格証のおかげだった。
「あそこのどこかにお嬢様が居られるのですか?」
「恐らくね」
髪の長い侍女に問われて私は手持ちの受信水晶板を見せる。
私の魔力を吸った水晶版は下面中央に私自身の位置を青点で表示していた。
そのすぐ上に発信魔石から発信された赤点が大きくにじんで浮かんでいる。
この地域のどの建物かまでは正確に特定できない。
王都の外周壁の外になると受信が大まかにしか出来ない。
伝導魔石が地面に埋め込まれていないからだ。
「どこです?」
「それが詳しくわからない。ただあの一角のどれかにいると思うのだが」
「マルタ」
ロングヘアーの侍女がボブカットの侍女を振り返る。
ボブカットの侍女が取り出したのは何かが入った小さい袋だった。
「反応ある?」
「……ああ、若干向こうに引っ張られる様な気がする。間違いなくここら辺だ。
でも全然弱い。まだ遠いのかもしれない」
「それは何だ?」
「お嬢様と引き合う魔石です。詳しくは後でご説明いたします」
そんなものは聞いた事もない。
だが二人の侍女は魔石の子袋を持ちながら歩き始めた。
人がいるのかいないのか廃屋が立ち並ぶ一角を完全無警戒な感じで進む。
そのあまりの不用心さにこちらが驚く。
王家の人間が云うのもなんだがここら辺は治安が良くないはずだ。
時期を置いて掃討してもまたどこからともなく戻ってきて住み着く者達が居る。
これ以上探す当てもない私達も周囲を警戒しながら後を進んだ。
「!」
突然マルタという侍女の手にある魔石の小袋が飛んで行った。
何の脈絡もなく突然に。
しかし飛んでいたのは少しの間だけでやがて力なく地面に転がった。
「アルマ、あっちだ!」
「ええ!」
突然駆け出した二人に慌てて私達も続く。ただし出来る限り物音を抑えて。
どうやら二人は石のとんだ延長線上に向かっているらしい。
迷いなく向かった先に廃屋が建っていた。
男が一人外に立っている。
エリゼを拉致した者達は複数人いるはずだ。無警戒だとも思えない。
いきなり真正面から入るのもどうかと一瞬迷う。
だが侍女二人の判断は早かった。
「突貫するぞ」
「そうね」
「ああ」
私もすぐに決断した。
結局、応援を呼んだり集まるのを待つ余裕なんてないのだ。
こんな場所に令嬢が連れてこられた時点で一刻を争う事態の筈だ。
建物を調べる時間も惜しい。
調べている時にこちらが見つかったら意味も無い。
「殿下方はこちらでお待ちください」
「危険ですから」
「足手まといにはならない。人手はあった方がいいだろう」
後ろのエリアスやローラントを振り替えると二人も私に頷いた。
私と同じく緊張している。
訓練だけで人を傷つけたことなどないからだ。
剣を抜く指に力が思わず入る。
二人は何か言いたそうだったが何も言わなかった。
時間が惜しいからだろう。
五人の気持ちが一緒になって建物を見る。
マルタが何かを投げる。そして二人の侍女は突然ダッシュした。
男が倒れるか否かの時点でアルマが建物の扉を蹴り飛ばす。
扉が開いた瞬間にマルタが突入した。私達も続く。
一番近くの男は驚いた表情のままマルタの二度目の投擲の餌食となった。
胸に柄の所まで刃物が深く突き刺ささっている。すごい力だ。
驚きつつも剣を抜いた別の男はマルタに斬りかかった。
しかし、交差した次の瞬間男の手首があっさり床に転がっていた。
いつの間にかマルタは逆手に刃物を構えていた。
アルマを見ると既に別の男達が床に転がっていた。
その手に持つのは鉛入りの鞭らしい。
倒れた男二人の顔が血だらけになっていて頭蓋骨が陥没している。
一瞬で四人戦闘不能にしたが、ならず者はまだ他に数人いた。
ここにエリゼはいない。
「ここはお任せを」
「奥をお願いします」
「頼む!」
騒ぎを聞いたのか奥の部屋の扉を開いて男が出てきた。
二人の侍女の後ろを通り抜けた私は間髪入れずに男の肩口を剣で抉った。
エリアスが男を蹴り倒しローランドが武器を奪い男を制圧する。
部屋には何かに覆いかぶさる男がいた。
床に横たわるエリゼを視界にとらえた途端、頭が怒りで弾ける。
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