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双子達の勝利

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 腹部の裂け目から全身を現したニアは、ダリルの内臓を地面に撒くと倒れてしまった。


「うぐ……、お腹の中でアイツの体内を食い破ってやったわ……」


 ニアの姿は全身が胃酸で爛れて苦痛に顔を歪めていた。

 ダリルの方は腹部から臓物をまき散らしながら事切れていたのだ。

 そんな妹を見てミラは、苦痛の中でも叫んでいた。


「ニア!!」


 ミラは、妹が生きていたのが解って安心しているとシャイラも驚きを隠せずにいた。


「よくも弟を……。毒で体が麻痺している筈なのに……」


 シャイラは、信じられないというような表情を浮かべていた。


「私は……屍食鬼なのよ。毒は長くは効かないわ……」


 ニアは、ふらつきながら立ち上がっていた。


「お前達は絶対許さない……。弟の仇を取ってやる!」


 シャイラはニアを睨むと、ミラの体を巻き付けている尻尾に力を込めた。

 ミラは、さらに体を締め付けられて苦悶の表情を浮かべ瀕死の状態になっていた。

 そんな姉を見てニアは、怒りの表情で睨みつけ、


「お姉ちゃんを……。許さない!」

「この状態で勝てると思う? お前の姉は、もう少し力を強めれば全身の骨がバラバラになるぞ!」


 しかし、ニアはシャイラの脅し文句にも屈せずに冷静に攻撃の機会を窺っていたのである。


「……」


 シャイラは、何か嫌な予感がしていた。彼女は姉を締め付けている尻尾を見ているようだ。

(まさか……)

 シャイラがその事に気がついた時には遅かったのである。

 ニアは、満身創痍の状態で飛び掛かっていきシャイラの尻尾に噛みついたのである。


「ぎゃあぁぁ!!」


 シャイラが悲鳴を上げた。

 シャイラの尻尾は、ミラを締め付けていた為に無防備になっていたのである。

 ニアは、拘束されている姉を助ける為と、そして自分の身を顧みない覚悟で行動したのであった。

 そんな妹の決死の行動にミラを締め付けていた尻尾が僅かに緩んだのだ。


「く……」


 ミラは、その隙を見逃さなかった。彼女は全身に力を込めシャイラの尻尾から逃れる事に成功したのである。


「何!?」


 シャイラは、ニアの行動に動揺してミラを逃がしてしまい苛立っていた。

 ミラは、ニアの傍に駆け寄ると肩を貸して立たせていた。


「ニア!!」

「お姉ちゃん……」


 2人は、お互いの無事を喜び合っていたのだがシャイラがそれを許さなかったのだ。


「この死に損ない!!」


 シャイラは、2人を睨み付けると尻尾を振り回して攻撃してきたのである。

 2人は慌てて躱すと、ミラはニアを連れて逃げようとしたがシャイラに回り込まれてしまった。


「逃がすか!!」


 シャイラは、ニアの足に尻尾を巻き付けると思いっきり引っ張って転倒させてしまった。


「きゃあ!」

「ニア!!」


 助けようとしたミラを尻尾で弾き飛ばし、掴まったニアは、シャイラの尻尾に拘束されしまった。


「これで終わりだ……」


 シャイラは、そう呟くとニアを締め上げるのであった。


「うぐぐうぅ……」


 ニアは、徐々に意識が朦朧としてきて体に力が入らなくなっており息ができなくなっていた。


「ニア!!」


 ミラは、妹を助けようと彼女の方に向かっていったが、姉の行動を読んでいたかのようにミラに向けて毒液を牙から飛ばし先制攻撃を掛けたのである。

 しかし、毒液を喰らいながら高速でシャイラの背後に移動した。


「!?」


 シャイラは動きに反応できず驚いていると、突然、首筋にミラが牙を突き立てていた。


「うあぁぁ!!」


 ミラは首に噛みついて、彼女の血を啜り始めた。

 同時に、ニアを締め付ける力が弱くなってきたので何とか抜け出そうともがいていた。

 段々、シャイラの表情が虚ろになって目に力がなくなっていた。


「うがあぁ……」


 シャイラの断末魔のような声が響き渡り、そのまま倒れていった。

 ミラが、勝利を確信した瞬間であった。


「これで、私の操り人形にしてあげるわ」


 ミラは、ニヤッと笑いながら気を失ったシャイラを見詰めていたのである。


 双子達が姉弟と戦っている頃、ランシーヌはアンドレアが召喚した魔物キマイラと対峙していた。

 キマイラは、体長5m程の巨体で筋肉隆々であり口は大きく裂け鋭い牙が何本も生えており、眼が赤く光っていた。

 ランシーヌはその異形の姿に圧倒されていた。

(これは……まずいわね)

 そんなランシーヌの様子を見て、アンドレアは嘲りの表情をしていた。


「お前に、こいつを倒す事が出来るかな?」

「やってみなければ分からないわ!」


 ランシーヌは、覚悟を決めた表情で身構えたのである。

 1人と1匹の魔物は、暫く睨み合っていた。

 先に動いたのはキマイラの方であった。

 ランシーヌに飛び掛かっていくと鋭い爪で斬りつけてきたのである。

 彼女は何とか躱したが、その風圧だけで吹き飛ばされそうになっていた。

 キマイラは、そのまま追撃してきてランシーヌに噛みつこうとしたのだ。


「くっ!?」


 ランシーヌは、何とか攻撃を躱したが態勢を崩してしまった。

(もう1度、攻撃されたらやばいわね……)

 そう思った瞬間、再びキマイラが飛び掛かってきたのである。

(こうなったら、一か八かやるしかないわ!!)

 ランシーヌは笑みを浮かべながら両手を前に突き出し呪文を唱えた。


「我が手に集え炎よ! 敵を焼き焦がせ!!」


 ランシーヌの両手から、凄まじい炎が噴き出してキマイラを包み込んだのだ。

 しかし、キマイラは全く動じず炎が効いている様子はなかったのだ。


「そんな、馬鹿な……」


 驚きの表情で呟いていると、キマイラはランシーヌに向けて炎を吐き出してきたのである。

 ランシーヌは、咄嗟に身を躱すと炎は彼女の髪の毛をかすめていった。


「く……」


 髪の毛から焦げた匂いがし、彼女は悔しさのあまり唇を噛んでいた。


「そんな程度の魔法じゃ、キマイラには通用しないわ」


 アンドレアが嘲笑しながら言ってきた。


「うるさいわね!」


 ランシーヌは、冷静さを失って感情的になって怒鳴っていた。

 キマイラは炎を浴びても平然としていた。

 それどころか、更に興奮した様子でランシーヌを威嚇するように咆哮をあげたのであった。
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