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MINO 1930s 海を見た山狸
アンチャンティー
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おミヨが店に戻ると、ちょうどセラピーを終えた高校生が店を出るところだった。おミヨは客に軽く会釈をすると、ペットボトルの錦竜水を台所に置いた。
「…今日も過去世退行はあかんかったけど、梅沢くんの話聞いとると、前のデモデモダッテから少し抜けてきたいうか、あの子なりに腹をくくり始めとるような感じやな。…あ、みっちゃん、今晩、時間あるで?」
海四(みよん)は錦竜水をやかんに注ぎながらおミヨにたずねた。
「はい」
「みっちゃん、こないだの続き、してええで?」
「…はい。せなならんと思います」
二階のセラピー室の窓を開ける。上を見ると夕闇迫る空が、下を見ると瓦屋根に囲まれた中庭が見える。ハーブの香りをかすかに含んだ風が入ってくる。
おミヨは自分の入る行李を押し入れから出し、底にタオルケットを敷いた。
「みっちゃん、受け取ってくれるで」
海四が階段の途中から声をかける。
おミヨは海四からお盆を受けとる。上には耐熱ガラスのカップが2つと、スダチの輪切りが二切れ乗った小皿。海四は台所に戻ると、今度は錦竜水を沸かして入れたポットとハーブの入ったガラスポットを持って上ってきた。
「今日のお茶は何です?」
「アンチャンーバタフライピーともいうな。まあ、楽しみにしとって」
海四がガラスポットに湯を注ぐと、透明な湯がたちまち鮮やかな青に変化した。おミヨは目を見張った。
「ちょっと早いんやけどな、庭のが少し咲き始めとってな。このところぬくかったけん」
「うわあ、きれいなもんですね」
「去年、タイから来たいうお客さんから種もろうて育ててみたんやけど、こんなにきれいに出るなんて思うてもみなんだわ」
カップに移して、一口飲む。ピンとこない味だ。
「みっちゃん、これ入れてみ」
海四がスダチを指す。
親指と人差し指でスダチをはさみ、絞る。たちまち青い色の中にピンクが広がり、紫色に変化した。
「すごい…」
スダチの酸味を帯びた紫の茶を飲むと、おミヨは術を解き行李に入った。
「眠うないで?」
「いえ」
「ほな、始めるか」
「…目をつぶって、目の奥の方をよう見てね…いち、に、さん!」
海四は指をパチンと弾いた。同時に、過去世をつなぐビジョンを行李の真上に展開する。
「みっちゃん、前に進めるで?」
「…暗いです…ゆっくりなら、行けます…」
「…今、どこにおる?」
「…道…山道…」
「少し前に進んでみ」
「…はい」
海四は行李の上のビジョンを見つめて、静かに声をかける。おミヨがうなずく。
「…林みたいなところに来ました…狸の穴が、あります…」
「穴に何かおるで?」
おミヨは四つ足でそろそろ近づくと、その穴に顔を突っ込む。
左前足に包帯を巻いた梅吉が横たわっていた。
ふと、外に気配を感じて慌てて顔を引き抜く。
「みっちゃん、少し上の方に行ける?」
「はい」
おミヨは手近の木によじ登った。
風呂敷包みを咥えた狸が穴に入っていくのが見えた。
「…今日も過去世退行はあかんかったけど、梅沢くんの話聞いとると、前のデモデモダッテから少し抜けてきたいうか、あの子なりに腹をくくり始めとるような感じやな。…あ、みっちゃん、今晩、時間あるで?」
海四(みよん)は錦竜水をやかんに注ぎながらおミヨにたずねた。
「はい」
「みっちゃん、こないだの続き、してええで?」
「…はい。せなならんと思います」
二階のセラピー室の窓を開ける。上を見ると夕闇迫る空が、下を見ると瓦屋根に囲まれた中庭が見える。ハーブの香りをかすかに含んだ風が入ってくる。
おミヨは自分の入る行李を押し入れから出し、底にタオルケットを敷いた。
「みっちゃん、受け取ってくれるで」
海四が階段の途中から声をかける。
おミヨは海四からお盆を受けとる。上には耐熱ガラスのカップが2つと、スダチの輪切りが二切れ乗った小皿。海四は台所に戻ると、今度は錦竜水を沸かして入れたポットとハーブの入ったガラスポットを持って上ってきた。
「今日のお茶は何です?」
「アンチャンーバタフライピーともいうな。まあ、楽しみにしとって」
海四がガラスポットに湯を注ぐと、透明な湯がたちまち鮮やかな青に変化した。おミヨは目を見張った。
「ちょっと早いんやけどな、庭のが少し咲き始めとってな。このところぬくかったけん」
「うわあ、きれいなもんですね」
「去年、タイから来たいうお客さんから種もろうて育ててみたんやけど、こんなにきれいに出るなんて思うてもみなんだわ」
カップに移して、一口飲む。ピンとこない味だ。
「みっちゃん、これ入れてみ」
海四がスダチを指す。
親指と人差し指でスダチをはさみ、絞る。たちまち青い色の中にピンクが広がり、紫色に変化した。
「すごい…」
スダチの酸味を帯びた紫の茶を飲むと、おミヨは術を解き行李に入った。
「眠うないで?」
「いえ」
「ほな、始めるか」
「…目をつぶって、目の奥の方をよう見てね…いち、に、さん!」
海四は指をパチンと弾いた。同時に、過去世をつなぐビジョンを行李の真上に展開する。
「みっちゃん、前に進めるで?」
「…暗いです…ゆっくりなら、行けます…」
「…今、どこにおる?」
「…道…山道…」
「少し前に進んでみ」
「…はい」
海四は行李の上のビジョンを見つめて、静かに声をかける。おミヨがうなずく。
「…林みたいなところに来ました…狸の穴が、あります…」
「穴に何かおるで?」
おミヨは四つ足でそろそろ近づくと、その穴に顔を突っ込む。
左前足に包帯を巻いた梅吉が横たわっていた。
ふと、外に気配を感じて慌てて顔を引き抜く。
「みっちゃん、少し上の方に行ける?」
「はい」
おミヨは手近の木によじ登った。
風呂敷包みを咥えた狸が穴に入っていくのが見えた。
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