重清狸ばなし★ヒプノサロンいせき1

野栗

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MINO 1930s 海を見た山狸

アンチャンティー

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おミヨが店に戻ると、ちょうどセラピーを終えた高校生が店を出るところだった。おミヨは客に軽く会釈をすると、ペットボトルの錦竜水を台所に置いた。

「…今日も過去世退行はあかんかったけど、梅沢くんの話聞いとると、前のデモデモダッテから少し抜けてきたいうか、あの子なりに腹をくくり始めとるような感じやな。…あ、みっちゃん、今晩、時間あるで?」

海四(みよん)は錦竜水をやかんに注ぎながらおミヨにたずねた。

「はい」

「みっちゃん、こないだの続き、してええで?」

「…はい。せなならんと思います」

二階のセラピー室の窓を開ける。上を見ると夕闇迫る空が、下を見ると瓦屋根に囲まれた中庭が見える。ハーブの香りをかすかに含んだ風が入ってくる。
おミヨは自分の入る行李を押し入れから出し、底にタオルケットを敷いた。

「みっちゃん、受け取ってくれるで」

海四が階段の途中から声をかける。
おミヨは海四からお盆を受けとる。上には耐熱ガラスのカップが2つと、スダチの輪切りが二切れ乗った小皿。海四は台所に戻ると、今度は錦竜水を沸かして入れたポットとハーブの入ったガラスポットを持って上ってきた。

「今日のお茶は何です?」 

「アンチャンーバタフライピーともいうな。まあ、楽しみにしとって」

海四がガラスポットに湯を注ぐと、透明な湯がたちまち鮮やかな青に変化した。おミヨは目を見張った。

「ちょっと早いんやけどな、庭のが少し咲き始めとってな。このところぬくかったけん」

「うわあ、きれいなもんですね」

「去年、タイから来たいうお客さんから種もろうて育ててみたんやけど、こんなにきれいに出るなんて思うてもみなんだわ」

カップに移して、一口飲む。ピンとこない味だ。

「みっちゃん、これ入れてみ」

海四がスダチを指す。
親指と人差し指でスダチをはさみ、絞る。たちまち青い色の中にピンクが広がり、紫色に変化した。

「すごい…」

スダチの酸味を帯びた紫の茶を飲むと、おミヨは術を解き行李に入った。

「眠うないで?」

「いえ」

「ほな、始めるか」

「…目をつぶって、目の奥の方をよう見てね…いち、に、さん!」

海四は指をパチンと弾いた。同時に、過去世をつなぐビジョンを行李の真上に展開する。

「みっちゃん、前に進めるで?」

「…暗いです…ゆっくりなら、行けます…」

「…今、どこにおる?」

「…道…山道…」

「少し前に進んでみ」

「…はい」

海四は行李の上のビジョンを見つめて、静かに声をかける。おミヨがうなずく。

「…林みたいなところに来ました…狸の穴が、あります…」

「穴に何かおるで?」

おミヨは四つ足でそろそろ近づくと、その穴に顔を突っ込む。

左前足に包帯を巻いた梅吉が横たわっていた。

ふと、外に気配を感じて慌てて顔を引き抜く。

「みっちゃん、少し上の方に行ける?」

「はい」

おミヨは手近の木によじ登った。

風呂敷包みを咥えた狸が穴に入っていくのが見えた。
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