重清狸ばなし★ヒプノサロンいせき1

野栗

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MINO 1930s 白い狸

コタンの記憶

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「みっちゃん、おはよう。そろそろ起きない」

ーあれ?  うち、そんなに寝とったんかいな?

「みっちゃん、もう8時が来よるでよ」

海四(みよん)が半ばあきれた口調で居間の方に声をかける。

え? そんなになっとるん?

おミヨは行李から這い出すと、慌てていつもの娘姿に変化(へんげ)した。

昨夜の過去世は、なんかようわからん難しい話ばかりで、うち、頭の回路がショートしてしもうたみたいじゃ。

店に放り込まれた新聞を広げると、阿波おどりのフルカラー見開きの広告と、折込広告の束が目に飛び込んできた。折込を広げると、旅行会社主催の甲子園応援ツアーの案内が入っていた。

蜂須賀商業。

ユキコは、どこで梅沢たちの闘いを見守るのだろうか。

あの時ー鳴門の球場から徳島駅に戻った時、ショートカットのマネージャーから突き返された手作りのお守り。

ユキコが最初に店に来た時、捕手の梅沢のことで泣くだけ泣いて、最後にみんなにお守りを作りたいと言った。幸せと健康を司るパワーストーンをいくつか出して並べると、ユキコは形や色合いを確かめながら、一つ一つ慎重に選んでいた。

あんなに心を込めて選ばれた石たちが、乱雑にナイロン袋に押し込まれ、まるで汚いもののようにユキコに押し付けられた場面を思い出すたび、おミヨは胸が痛んだ。

人の真心がまさに弊履の如く扱われる瞬間を、あの時おミヨは初めて目の当たりにした。たとえユキコがどんなに下らない、つまらない人間だとしても、あんな扱いされなければならぬいわれなど、どこにもないはずだ。

スピってる?  バカにしたいなら精出してそうすればいい。他人の真心を簡単に粗末に扱えるような人間など、そうすることによって、人の心を徹底的に痛めつけられることを知っている人間など、うちはほんまに願い下げや。

      ***

海四は昨夜のビジョンに映った若い人類学者に、ハラハラするものを感じていた。美馬農林学校の実習助手として、また学生野球指導者の卵として新しい道を進み始めたカノと野球部の後輩たちに、この先何が待ち構えているのか。

見たくない。

学生時代に見るともなしに見た深夜テレビのドキュメンタリー映像を、海四はずっと忘れられないでいた。

戦前、北海道各地のコタンの墓場から、学者たちによって研究目的で持ち去られたアイヌ民族の遺骨。

旧帝国大学の資料庫にあまりにも長い間、誰からも顧みられぬまま放置され続けたアイヌ民族の遺骨。

次世代のアイヌ民族の人々の、あまりにも長い長いたたかいの末に、ようやくふるさとのコタンに返還される、その時の映像。

正装して粛々と遺骨を迎えるアイヌ民族の老人たちと、遺骨の入った箱を車から無造作に取り出す、大学関係者たちの表情のない顔。

通りいっぺんの「謝罪」の言葉を木で鼻をくくるように読み上げる主任教授らしき男の態度に、最後列に並んでいた一人の若い研究者が、たまりかねて声を上げた。

「研究のためと称して勝手にアイヌコタンの墓をあばき骨を盗み、次世代のアイヌ民族の声をこれだけ長い間無視したまま遺骨を倉庫に放置し続けて、あなた方、言うことはたったそれだけなんですか!」

若い研究者はアイヌの老人たちの前でひざまづいた。

「長い間、申し訳ございませんでした!」

大声で叫ぶと、研究者はその場に突っ伏して慟哭した。

おミヨの過去世ーカノたちの運命。
怖い。見たくない。
自分には、とてもあの研究者のような勇気は出ない。
かれは今、大学の中でどんな境遇におかれて学問を続けているのだろうか。

海四は中庭にしつらえた小さなハーブガーデンに立つと、ハーブティーの材料の吟味をはじめた。

アンチャンの青い花を摘んでポットに入れる。「蝶豆」の異名をもつ可愛らしい花々に湯を注ぐと、たちまち鮮やかなブルーが広がった。

冷蔵庫から頂き物のカルピスの瓶を出して、中の量を確かめる。まだ十分にある。

荒熱の取れた青い茶を冷蔵庫に入れる。海四はふと思い付いて、茶殻になったアンチャンの花を一つずつ製氷皿に入れて水を注ぎ、製氷室に入れた。
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