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第219話:怒涛の如く
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1571年3月27日、三河国刈谷城。
本丸館に凶報がもたらされていた。
「緒川城陥落・・・信政様討死でございます。」
全身血まみれで駆け込んできた兵の姿に水野家家臣団一同は言葉を失っていた。
「そうか・・・我らも討って出るしかないということか・・・」
刈谷城城主水野信元はため息交じりに呟く。
「緒川城は陥落いたしましたが、織田家の坂井右近様の兵が上杉方と交戦しておるとのこと。自棄になる必要はございませぬぞ。」
水野家家臣高木清秀の進言ではあるが、信元は首を横に振るだけだった。
「信政めは三河武士として見事に散りおった。ワシも続かねば申し訳が立たんであろう。」
「・・・!!」
清秀以外の家臣団は眼光鋭く信元の言葉に頷く。
「むう・・・」
その光景に対し、清秀はただ嘆息するばかりであった。
「鬼弥五郎・・・やりおったか・・・」
刈谷城を眼前に陣を敷く上杉軍一万の本陣では総大将の本庄繁長が笑みを浮かべていた。
緒川城を陥落させたのは北条景広。
二千の兵で攻め落とすと、休むことなく援軍にきた織田家の坂井正尚の軍に攻撃を加えていたのである。
できることならば殿が来られる前にあの木下藤吉郎秀吉を引きずりだしたい。
繁長は刈谷城のその先を見据えていた。
「拙者に二千の兵を御預けくだされれば刈谷城を攻め落としてみせましょう。」
登坂藤右衛門清長がそんな繁長の心中を察したかのように口を開く。
「となると我が本隊は八千になるが、それで尾張に入れと?」
「十分でございましょう。」
両者は互いに眼光鋭く睨み合うも
「ワハハハ・・・各個撃破ということか!!」
「左様でございますぞ。」
清長の意図は既に繁長には伝わっていた。
むしろ伝わっていたということではなく、元よりその頭の中で立案していたことの一つのだったのである。
「信能はおるか?」
「はッ・・・ここに!!」
繁長の声と共に姿を見せた一人の若武者。
上杉輝虎の小姓の中でも切れ者と評判の高かった岩井信能である。
「藤右衛門とは幾つ違いか?」
「はッ・・・藤右衛門様とは三つだったかと。」
「そうか・・・ではお主に二千の兵を与えよう。」
「何ィ!!」
繁長の言葉を聞いて思わず声を荒げる登坂藤右衛門清長。
「待て待て・・・もちろん藤右衛門にも二千の兵を与えよう。」
苦笑する本庄繁長。
清長のあまりの剣幕に思わず後ずさりする信能だったが、それを聞くと安堵の思いでほっと胸をなでおろすのだった。
「藤右衛門は知立城を攻めよ。あそこの水野忠重は手強いようだ。」
「お任せくだされ!!」
清長は水野忠重の噂は耳にしていた。
織田にも属さずに自らを徳川の忠臣として家康が三河に帰る日の為に戦い続けていると。
そのような日など来ぬ・・・。
闘志を滾らせて登坂藤右衛門は本陣を出ていった。
「さて・・・信能はここから退け。」
「なんと!?」
「福釜城に向かえ。」
「では本庄様は?」
次は本庄繁長と岩井信能のやり取りである。
「鬼弥五郎が坂井正尚とやり合うている間に先に進ませてもらおう。」
「・・・まさか?」
「さすがだな。水野信元はワシを追いかけてくるだろう。とことん無視して先に進むフリでもしようか。」
「その隙に刈谷城を奪えとのことでございますな。」
「二千もの兵を一度に動かしてはそうそう上手くはいかぬぞ。刈谷城の兵力も二千。水野信元が反転しようが挟撃などせぬ。ワシは先に進むぞ。わかっておるな?」
「はッ・・・万事お任せくだされ!!」
そう答えた岩井信能の迷いなき眼差しを見た繁長。
上杉の未来は明るい・・・
そう思わねばこの先を戦い続けていくことはできぬからな。
すぐに慌ただしく動き出す上杉軍。
その様子は刈谷城の水野信元にはよく見えていた。
「一隊が知立の忠重めを攻めるべく向かったか・・・。この城を落とすには大軍などいらぬと見える。本庄繁長めが!!」
登坂藤右衛門清長が兵を率いて知立城方面へと向かっているのを見つめると憤りを隠せない。
「更に一隊が福釜城へと退却する模様!!」
家臣の声に今度は唇を噛み締めている。
「おのれ・・・この期に及んで後事の憂いを無くそうするだとォ!? 明朝に城を討って出るぞ。奇襲をかけてくれるわ!!」
そんな水野信元であったが、更に追い打ちをかける本庄繁長。
日も暮れると上杉軍は刈谷城を眼前に進軍を始めたのである。
「なんとォ!!この刈谷の城を無視しおるか!!」
「我らを愚弄するにも程があるぞォ!!」
荒ぶる家臣団と怒りに打ち震える水野信元。
「かつて吉法師様は二千の兵で二万の今川軍を打ち破り、街道一の弓取りと謳われたあの今川義元を討ち取った。
それに比べれば本庄繁長は名将たれと上杉方の一介の武将に過ぎぬわ。恐るるに足らん!!」
士気も高まった水野軍は刈谷城から討って出ていった。
城に残されたのは守将として残った高木清秀わずか百五十ばかりの兵であった。
既に逢妻川のほとりまで進軍していた上杉軍の背中を捉えた水野軍。
夜間に川を渡ることを躊躇しているかのような陣形は隙だらけに見えた。
「一気に攻めて敵将の首を獲れ!!」
「オオッ!!」
水野信元の声と共に一気に上杉軍に斬り込んでいく水野軍。
「さあ来い・・・もっと引き付けるのだ。」
本庄繁長は笑みを浮かべていた。
逃げ惑う上杉軍を追い回し、敵陣深くへと斬り込んでいく水野軍。
「一兵たりとも逃がさんぞ・・・今だァァァ!!」
「うおおお!!」
繁長の声と共に一斉に兵たちの咆哮が響き渡る。
「むうッ・・・謀られたか・・・」
左右から上杉軍が囲むように押し寄せてくる。
更に正面には鉄砲隊が姿を現した。
馬上でただ茫然となる水野信元。
「一騎打ちをせぬのは申し訳ないが・・・鉄砲隊撃て!!」
繁長の声と共に鉄砲隊が一斉射撃を行う。
「!?」
信元は全身を撃ち抜かれて声を上げることなく落馬する。
「と・・・殿ォォォ!!」
「おのれェェェ!!」
生き残った家臣団が射撃の隙をついて勇猛果敢に突撃をかけてくる。
蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う鉄砲隊。
その背後から上杉軍の騎馬隊が姿を現した。
「おぬしらの忠義に免じてワシ自ら相手いたそう。」
その先頭にて槍を構える本庄繁長は水野家家臣団を迎え撃つのだった。
同じ頃、刈谷城。
「予想よりも呆気ないものだな・・・」
岩井信能は眼前にて平伏している高木清秀を一瞥すると天を仰いだ。
ほぼ抵抗らしい抵抗もないままに刈谷城を奪取することに成功したのである。
敵味方問わず、ほとんど血が流れなかったというのが救いか・・・
それにしてもこの城の作りならば抵抗のしようがあると思えるのだが、この男は・・・
水野家でも名将の誉高い高木清秀ともあろう者が・・・
「高木清秀殿、拙者のような若造に頭を下げる必要などございますまい。」
「いや・・・敗軍の将なれば生殺与奪は貴殿にある。」
確かに敗将、しかも降伏に限りなく近い形でありながらも堂々たる顔つきに信能は感嘆するばかり。
「清秀殿、我らに降りませぬか。我が殿は決して貴殿を・・・」
「すまぬが、ワシは三河に徳川の殿が帰ってくる日を待ち望んでおる。」
「水野家の家臣でありながら徳川と・・・!?」
「遅かれ早かれ織田信長公亡き今、水野は徳川に付くしかない。ワシの望み通りになるはずじゃったが・・・。越後の龍は余計なことをしよったわ。」
そう言うと清秀は岩井信能を見つめた。
「戦のない世の中・・・お主には想像できるか?」
「!?」
「侍が要らぬ刀を振り回すことなく・・・弱者が蹂躙されることのない日ノ本・・・わかるか?」
「ど・・・どのような・・・!?」
清秀の問いかけに思わず身震いする信能であった。
そして知立城へと向かう登坂藤右衛門清長の軍は途中で陣を敷いて休んでいた。
「そろそろ終わっているだろう。それにしても本庄繁長様は気が利くお人だ。」
そう呟くと燃え上がる灯明へと刀を振るう清長。
あの山田家の連中と戦える・・・ずっと俺が願っていたこと。
その為にも尾張攻めは成功させねば・・・
知立城はその3日後に陥落、清長に見逃された水野忠重は敗残兵を率いて駿河の徳川家康の元へと落ち延びていくのであった。
翌朝、水野軍のおびただしい数の無残な亡骸たちが転がる中、本庄繁長の下に北条景広からの使いが訪れていた。
「そうか・・・あの坂井正尚の軍を撃退したか・・・」
本庄繁長は安堵の表情を見せた。
緒川城の完全なる奪取、それは上杉軍が尾張侵攻が既成事実になったということである。
一度は殿に逆らったこの身。だが変わらずにワシを重用してくださる。
山田家との戦だけは避けたいところだが、殿が望むならばその道を切り開くのみ。
もう二度と迷わぬ・・・
繁長は全軍を率いると北上せずに西進、そのまま緒川城へと向かうのだった。
その緒川城では北条景広が全身返り血を浴びたまま、大広間で寝転がっていた。
俺は追いつけたのだろうか・・・あの山田家の者達に・・・
わからん・・・ただ今の俺にとっては織田の坂井右近も物足りぬと感じた。
そんな俺の中の渇き・・・正しいのであろうか・・・
ただ殿が来られる。その進まれる先にこの俺の渇きを潤してくれる瞬間があるだろう。
だが、ただ潤されるべきなのか・・・それは狂気に過ぎないのではないか?
上杉軍の名将たちは、様々な思いを胸に秘めながらも怒涛の攻めで、遂に尾張へと足を踏み入れたのであった。
本丸館に凶報がもたらされていた。
「緒川城陥落・・・信政様討死でございます。」
全身血まみれで駆け込んできた兵の姿に水野家家臣団一同は言葉を失っていた。
「そうか・・・我らも討って出るしかないということか・・・」
刈谷城城主水野信元はため息交じりに呟く。
「緒川城は陥落いたしましたが、織田家の坂井右近様の兵が上杉方と交戦しておるとのこと。自棄になる必要はございませぬぞ。」
水野家家臣高木清秀の進言ではあるが、信元は首を横に振るだけだった。
「信政めは三河武士として見事に散りおった。ワシも続かねば申し訳が立たんであろう。」
「・・・!!」
清秀以外の家臣団は眼光鋭く信元の言葉に頷く。
「むう・・・」
その光景に対し、清秀はただ嘆息するばかりであった。
「鬼弥五郎・・・やりおったか・・・」
刈谷城を眼前に陣を敷く上杉軍一万の本陣では総大将の本庄繁長が笑みを浮かべていた。
緒川城を陥落させたのは北条景広。
二千の兵で攻め落とすと、休むことなく援軍にきた織田家の坂井正尚の軍に攻撃を加えていたのである。
できることならば殿が来られる前にあの木下藤吉郎秀吉を引きずりだしたい。
繁長は刈谷城のその先を見据えていた。
「拙者に二千の兵を御預けくだされれば刈谷城を攻め落としてみせましょう。」
登坂藤右衛門清長がそんな繁長の心中を察したかのように口を開く。
「となると我が本隊は八千になるが、それで尾張に入れと?」
「十分でございましょう。」
両者は互いに眼光鋭く睨み合うも
「ワハハハ・・・各個撃破ということか!!」
「左様でございますぞ。」
清長の意図は既に繁長には伝わっていた。
むしろ伝わっていたということではなく、元よりその頭の中で立案していたことの一つのだったのである。
「信能はおるか?」
「はッ・・・ここに!!」
繁長の声と共に姿を見せた一人の若武者。
上杉輝虎の小姓の中でも切れ者と評判の高かった岩井信能である。
「藤右衛門とは幾つ違いか?」
「はッ・・・藤右衛門様とは三つだったかと。」
「そうか・・・ではお主に二千の兵を与えよう。」
「何ィ!!」
繁長の言葉を聞いて思わず声を荒げる登坂藤右衛門清長。
「待て待て・・・もちろん藤右衛門にも二千の兵を与えよう。」
苦笑する本庄繁長。
清長のあまりの剣幕に思わず後ずさりする信能だったが、それを聞くと安堵の思いでほっと胸をなでおろすのだった。
「藤右衛門は知立城を攻めよ。あそこの水野忠重は手強いようだ。」
「お任せくだされ!!」
清長は水野忠重の噂は耳にしていた。
織田にも属さずに自らを徳川の忠臣として家康が三河に帰る日の為に戦い続けていると。
そのような日など来ぬ・・・。
闘志を滾らせて登坂藤右衛門は本陣を出ていった。
「さて・・・信能はここから退け。」
「なんと!?」
「福釜城に向かえ。」
「では本庄様は?」
次は本庄繁長と岩井信能のやり取りである。
「鬼弥五郎が坂井正尚とやり合うている間に先に進ませてもらおう。」
「・・・まさか?」
「さすがだな。水野信元はワシを追いかけてくるだろう。とことん無視して先に進むフリでもしようか。」
「その隙に刈谷城を奪えとのことでございますな。」
「二千もの兵を一度に動かしてはそうそう上手くはいかぬぞ。刈谷城の兵力も二千。水野信元が反転しようが挟撃などせぬ。ワシは先に進むぞ。わかっておるな?」
「はッ・・・万事お任せくだされ!!」
そう答えた岩井信能の迷いなき眼差しを見た繁長。
上杉の未来は明るい・・・
そう思わねばこの先を戦い続けていくことはできぬからな。
すぐに慌ただしく動き出す上杉軍。
その様子は刈谷城の水野信元にはよく見えていた。
「一隊が知立の忠重めを攻めるべく向かったか・・・。この城を落とすには大軍などいらぬと見える。本庄繁長めが!!」
登坂藤右衛門清長が兵を率いて知立城方面へと向かっているのを見つめると憤りを隠せない。
「更に一隊が福釜城へと退却する模様!!」
家臣の声に今度は唇を噛み締めている。
「おのれ・・・この期に及んで後事の憂いを無くそうするだとォ!? 明朝に城を討って出るぞ。奇襲をかけてくれるわ!!」
そんな水野信元であったが、更に追い打ちをかける本庄繁長。
日も暮れると上杉軍は刈谷城を眼前に進軍を始めたのである。
「なんとォ!!この刈谷の城を無視しおるか!!」
「我らを愚弄するにも程があるぞォ!!」
荒ぶる家臣団と怒りに打ち震える水野信元。
「かつて吉法師様は二千の兵で二万の今川軍を打ち破り、街道一の弓取りと謳われたあの今川義元を討ち取った。
それに比べれば本庄繁長は名将たれと上杉方の一介の武将に過ぎぬわ。恐るるに足らん!!」
士気も高まった水野軍は刈谷城から討って出ていった。
城に残されたのは守将として残った高木清秀わずか百五十ばかりの兵であった。
既に逢妻川のほとりまで進軍していた上杉軍の背中を捉えた水野軍。
夜間に川を渡ることを躊躇しているかのような陣形は隙だらけに見えた。
「一気に攻めて敵将の首を獲れ!!」
「オオッ!!」
水野信元の声と共に一気に上杉軍に斬り込んでいく水野軍。
「さあ来い・・・もっと引き付けるのだ。」
本庄繁長は笑みを浮かべていた。
逃げ惑う上杉軍を追い回し、敵陣深くへと斬り込んでいく水野軍。
「一兵たりとも逃がさんぞ・・・今だァァァ!!」
「うおおお!!」
繁長の声と共に一斉に兵たちの咆哮が響き渡る。
「むうッ・・・謀られたか・・・」
左右から上杉軍が囲むように押し寄せてくる。
更に正面には鉄砲隊が姿を現した。
馬上でただ茫然となる水野信元。
「一騎打ちをせぬのは申し訳ないが・・・鉄砲隊撃て!!」
繁長の声と共に鉄砲隊が一斉射撃を行う。
「!?」
信元は全身を撃ち抜かれて声を上げることなく落馬する。
「と・・・殿ォォォ!!」
「おのれェェェ!!」
生き残った家臣団が射撃の隙をついて勇猛果敢に突撃をかけてくる。
蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う鉄砲隊。
その背後から上杉軍の騎馬隊が姿を現した。
「おぬしらの忠義に免じてワシ自ら相手いたそう。」
その先頭にて槍を構える本庄繁長は水野家家臣団を迎え撃つのだった。
同じ頃、刈谷城。
「予想よりも呆気ないものだな・・・」
岩井信能は眼前にて平伏している高木清秀を一瞥すると天を仰いだ。
ほぼ抵抗らしい抵抗もないままに刈谷城を奪取することに成功したのである。
敵味方問わず、ほとんど血が流れなかったというのが救いか・・・
それにしてもこの城の作りならば抵抗のしようがあると思えるのだが、この男は・・・
水野家でも名将の誉高い高木清秀ともあろう者が・・・
「高木清秀殿、拙者のような若造に頭を下げる必要などございますまい。」
「いや・・・敗軍の将なれば生殺与奪は貴殿にある。」
確かに敗将、しかも降伏に限りなく近い形でありながらも堂々たる顔つきに信能は感嘆するばかり。
「清秀殿、我らに降りませぬか。我が殿は決して貴殿を・・・」
「すまぬが、ワシは三河に徳川の殿が帰ってくる日を待ち望んでおる。」
「水野家の家臣でありながら徳川と・・・!?」
「遅かれ早かれ織田信長公亡き今、水野は徳川に付くしかない。ワシの望み通りになるはずじゃったが・・・。越後の龍は余計なことをしよったわ。」
そう言うと清秀は岩井信能を見つめた。
「戦のない世の中・・・お主には想像できるか?」
「!?」
「侍が要らぬ刀を振り回すことなく・・・弱者が蹂躙されることのない日ノ本・・・わかるか?」
「ど・・・どのような・・・!?」
清秀の問いかけに思わず身震いする信能であった。
そして知立城へと向かう登坂藤右衛門清長の軍は途中で陣を敷いて休んでいた。
「そろそろ終わっているだろう。それにしても本庄繁長様は気が利くお人だ。」
そう呟くと燃え上がる灯明へと刀を振るう清長。
あの山田家の連中と戦える・・・ずっと俺が願っていたこと。
その為にも尾張攻めは成功させねば・・・
知立城はその3日後に陥落、清長に見逃された水野忠重は敗残兵を率いて駿河の徳川家康の元へと落ち延びていくのであった。
翌朝、水野軍のおびただしい数の無残な亡骸たちが転がる中、本庄繁長の下に北条景広からの使いが訪れていた。
「そうか・・・あの坂井正尚の軍を撃退したか・・・」
本庄繁長は安堵の表情を見せた。
緒川城の完全なる奪取、それは上杉軍が尾張侵攻が既成事実になったということである。
一度は殿に逆らったこの身。だが変わらずにワシを重用してくださる。
山田家との戦だけは避けたいところだが、殿が望むならばその道を切り開くのみ。
もう二度と迷わぬ・・・
繁長は全軍を率いると北上せずに西進、そのまま緒川城へと向かうのだった。
その緒川城では北条景広が全身返り血を浴びたまま、大広間で寝転がっていた。
俺は追いつけたのだろうか・・・あの山田家の者達に・・・
わからん・・・ただ今の俺にとっては織田の坂井右近も物足りぬと感じた。
そんな俺の中の渇き・・・正しいのであろうか・・・
ただ殿が来られる。その進まれる先にこの俺の渇きを潤してくれる瞬間があるだろう。
だが、ただ潤されるべきなのか・・・それは狂気に過ぎないのではないか?
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