マイホーム戦国

石崎楢

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第221話:山田と武田

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上杉輝虎の刈谷城入城より遡ること半月前。
大和国柳生庄を歩く旅人の一団があった。

「なんじゃ・・・あの者共は・・・」
「大丈夫かいな?」
村人たちが心配そうに彼らを見つめている。

「大和に入ってからは全く敵の姿は感じられぬ。何とか助かったということか。」
顔に大きな傷跡を持つ精悍な男、土屋昌続である。
その隣で生気を失った表情を見せているのは山本菅助。

運試しどころか・・・ますます寿命が縮んだぞ・・・

その二人の背後をやつれきった入道が馬上の人となっていた。
甲斐の虎こと武田信玄その人である。

「もう間もなく迎えが来られますぞ。」
信玄の隣を歩いているのは藤林長門守正保。
他十名の商人姿の男たちが険しい目つきで付き添っている。
無論、伊賀の忍び者たちである。

「本当に信玄殿が来られた・・・。」
私は島清興、竹中半兵衛重治、明智左馬助秀満と共に信玄たちを柳生まで出迎えに来ていた。

「おお、大輔殿・・・久しいのう。」
「信玄殿もお変わりなくて何よりです。」

旧交を温めあうとそのまま多聞山城城下町へと信玄たちを連れて行った。

「古の都南都・・・ここはまるで桃源郷のようじゃ・・・」
信玄は眼を輝かせている。
茶処いまい南都本店で抹茶ラテを味わい、『切り蕎麦 大ちゃん』で舌鼓。
そして茶屋娘劇場で茶屋っ娘の公演を楽しむ。

「どうですか?」
「たまらんですなあ・・・あの膝から上の生足がたまらん。」
「あの見えている太ももの部分を絶対領域というのですよ。」
「なるほど・・・確かに絶対に目が離れんわい。グヘヘヘ♪」
武田信玄もエロオヤジと化しているではないか・・・

「日ノ本で一番可愛いのは誰?」
茶屋っ娘。のお福の声に
「お福ちゃ~ん!!」
土屋昌続と山本菅助の熱狂的な叫び。
歴戦の勇士たちもどうやら癒されているようで連れてきた甲斐があったというもの。


「次はどこじゃァァァ♪」
上機嫌の武田信玄。甲斐の虎の面影がまるでないんですけど・・・
「あとはホストクラブGOEMONぐらいですかな?」
そんな私の返答に

「ホストクラブ・・・とな?」
「イケメン・・・いや・・・どんな言い方をすれば・・・」
「イケメン? 大輔殿、なんという素晴らしい響きのある言葉じゃ。」
「伊達男や傾奇者とお酒が飲める店といいますか・・・」
「ウホッ♪」

あれ・・・信玄さんがなんかエラく喰いついてきているんですけど・・・

そしてGOEMONにて

「ガハハハ、長政殿よォ。おぬしは本当に伊達男じゃな♪」
「ひいいいい・・・」
支配人の浅井長政に執拗に絡む信玄。
私や重治、清興、秀満はドン引きである。

「おい、昌続?」
「はッ・・・いかがされましたか、清興殿?」
「甲斐の虎とはなんぞや?」
その光景を茫然と見つめる清興。
土屋昌続はうつろな目で語りだした。

「御館様はどちらも好まれるのです。」
「なんとォ!?」
「私もかつては幾度となく危機がございまして・・・」

こうして夜も更けていくのであった。


翌日、多聞山城大広間。

「いやあねえ!! 昨晩はあまりの楽しさに我を忘れましたぞ♪」
上機嫌の武田信玄の姿。とても病人とは思えないんですけど・・・

「・・・」
重治が私に無言で目配せをする。

「ところで信玄殿。このような危険な時期にわざわざ大和まで来られた理由を教えていただきたいのです。」
私の言葉に対し、はぐらかす信玄。
「ただ無性に大輔殿に会いとうなった・・・ではダメか?」

大広間に沈黙が流れる。

「御館様・・・」
山本菅助が小声で信玄を促し始めた。

「分かり申した。でははっきりと言わせていただきたい。」
信玄は鋭い視線を私に向ける。
それにより大広間に更なる緊張感が走った。

「大輔殿、ワシと兄弟にならぬか?」

その信玄の一言に瞬時に場が凍りつく。

どういうことだ・・・私はそっちの趣味はない。綺麗なお姉ちゃんが好きなんですけど・・・

「ど・・・どういうことですか?」
思わず尻をおさえてしまう私を呆れ顔の重治が遮った。

「殿、意味が違いますぞ。」

エッ・・・それは助かった・・・けどね・・・意味がわかりません。信玄殿と兄弟・・・?

「武田信玄様、それは我ら山田と武田家が姻戚関係を結ぶということでございますな?」
「さすが竹中半兵衛殿。御明察じゃ。」

いんせきかんけい・・・? いんせき・・・隕石・・・?
スターダストレ●リューション?
星屑革命ィィィ!?

私の脳裏に浮かぶのは眉毛が印象的な黄金の戦士二人の姿・・・
いや・・・待て・・・隕石ではない・・・それは星屑・・・
ギャラクシアン●クスプロージョン?
銀河爆発ゥゥゥ!?

次に脳裏に浮かぶのはチート気味な双子の黄金の戦士たち・・・
いや・・・待て・・・銀河じゃねえか・・・スケールデカすぎ・・・
隕石だろ・・・隕石はメテオライト・・・いん・・・姻戚・・・姻戚ィィィ!?

信玄と重治のやり取りに置き去りの私であったが、

「なんですとォォォ!!」
やっと意味がわかってしまったので思わず大声をあげてしまった。

「大輔殿の御子を武田に・・・我が家門存続のためにお願いいたす!!」
平伏する信玄たちの姿。

答えられない・・・そんなことすぐに答えられるわけないだろうが・・・


そして信玄たちが去った後の大広間。
私は頭を抱えるしかなかった。

「殿・・・」
重治は私を心配そうに見つめるばかり。

「武田は源氏の宗家なればこの結びつきは日ノ本統一への大きな布石となる。なるでしょうが・・・・」
秀満も歯切れが悪い。私の性格をよくわかっている。

「自分の子を・・・自分の子供を・・・? 例えば暁人が越智家を継ぐのはあくまでも名目上、山田暁人であることに変わりはない。だが・・・これは我が子が武田になるということだろ?」
そんな私の言葉に朋美はうつむくしかなかった。

重い空気が流れる中、
「お待ちください、殿。」
そこに姿を見せたのはなずなだった。

「なずなちゃん・・・休んでなさい。無理しちゃだめよ。」
朋美は立ち上がるとすぐになずなの肩に手を添えるが、

「御台様、大丈夫でございますわ。」
なずなは笑みを浮かべると私の前まで歩み出た。

やめろ・・・なずなちゃん。言わないでくれ・・・

私にはなずなが言おうとしていることがすぐにわかってしまった。
それは絶対に聞きたくない言葉・・・

「この腹の中の御子を武田に・・・」
「ダメだ!!」
なずなの言葉を遮った私であったが、あまりの剣幕に家臣団が青ざめている。

「ダメではございませぬ!!」
しかし、なずなは気丈に言い返す。
あれだけ私に従順だったなずなだったが故に、相当な覚悟が感じ取られた。

「今は乱世・・・殿が昔おられた時代とは違います。」
「それはわかるが、なんでそういう犠牲が必要なんだ!!」
「犠牲ではないですわ!!」

なずなは強い口調で言い放つと再び優しい表情に戻った。

「殿の言われる争いのない世の中になればいつでもこの子に会える・・・違いますか?」
「・・・」

私には言い返すことが出来なかった。
暁人もなずなのお腹の中の子も現代でいえば不貞行為の結果である。
だが私の子であることには変わりはない。

「なずなちゃん。でも今は無事にこの子が元気に生まれてくることを考えなさい。」
朋美がなずなを諭す。
その言葉一つで場の空気が穏やかなものへと変わっていく。

さすが朋美様・・・
そうだな♪

慎之介と純忠は朋美を笑顔で見つめる。
それに笑顔で応えると朋美はなずなの隣に座った。

「これであなたは絶対にこの国を平和にしないといけなくなったわね♪」
「ああ・・・そうだな。」
私はそう答えるしかなかったのであった。


次の日、まだ生まれていないが故に口約束ではあるが、武田信玄と私は姻戚関係を結ぶことになったのである。
しかし・・・

「なんですとォ!?」
「じゃがらワシはなずな殿が無事に御子が生まれるまで畿内に残らせてもらおうと・・・」

なんと武田信玄はなずなが無事に出産するまで甲斐に帰らないことを決めていた。

「山に籠って安産祈願するということじゃ!!その間は昌続と菅助をお好きに使われるが良い。」

信玄の言葉を受けた土屋昌続は笑みを浮かべながら慎之介と純忠に目をやった。

長滝慎之介、平尾純忠・・・このような時がくるとはな・・・嬉しいぞ。

「土屋殿と共に戦える機会があるということか・・・光栄だ。」
「ああ・・・全くだな。一馬のやつが悔しがる姿が目に浮かぶぜ。」
慎之介と純忠も嬉しそうである。

しかし、それよりも更に嬉しそうな顔をしているのは竹中半兵衛重治だった。
その意味は後にわかることとなる。

ともかくこの山田と武田の姻戚関係が乱世の平定への小さいながらも布石となるのであった。
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