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第226話:第二次桶狭間の戦い(5)
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これはいけるかもしれぬ・・・
織田家家臣武藤舜秀は第1陣が持ちこたえていることに手応えを感じていた。
前田利家や金森長近らの奮闘ぶりが予想を遥かに上回っていたのである。
戦況は膠着しつつあった。
「大和国松倉重信様が手勢を率いて上杉の本陣へめがけて奇襲を仕掛けておりまする!!」
「さすがじゃ・・・ワシの策に寸分の違いもなく動いてくださる。大和の兵は強兵ぞ。」
そんな舜秀に危機が迫っていることには織田・山田陣営誰一人気付いていなかった。
「もうすぐ越後の龍の御姿を拝見できるぞォォ!!」
松倉重信は大和の兵を率いて上杉輝虎本陣へと突撃をかけていた。
様々な武器を多彩に使いこなす極限まで練兵された強き兵、強兵揃いの重信の、筒井軍の兵たち。
上杉軍の数に対し、個々の武で渡り合っている。
「ぐああッ!?」
そのとき、重信の眼前で数人の兵が一瞬で弾き飛ばされた。
「我こそは上杉輝虎様が家臣斎藤朝信なるぞォ!!」
その佇まいはまるで鬼神の如く。
越後の鍾馗・・・斎藤朝信・・・これは運が良いのか悪いのか・・・
重信は槍を振るい上杉の兵を同じく一瞬で数名吹っ飛ばした。
「我が名は大和国筒井家家臣松倉重信。」
「一介の国人の家臣でその武とは恐れ入る・・・大和にはどれ程の強者がおるのか?」
「将星煌めくが如し・・・でございまする。」
「それは嬉しいものじゃ・・・往くぞォ!!」
朝信は槍を振るい松倉重信へと襲いかかる。
この男を少しでもここに釘付けておかねば・・・
重信も手練れである。
しかし、この斎藤朝信の武が別格であることは既に理解できていた。
万が一でも勝つこと不可能・・・食い止めきれるのも不可能・・・
だが・・・ワシは死なぬ・・・どのようにしても死なぬ・・・
打ち合いはすぐに優劣が決まってしまった
圧倒的な斎藤朝信の攻勢に重信はただ防ぐのみ。
防ぐだけでもこのザマ・・・
だがな・・・ワシは亡き若殿が大輔様と夢見た戦の無い世の中を見届けねばならぬのだ・・・
その思いと裏腹に重信の槍が折れてしまった。
南無三・・・
今にも朝信の槍が重信の頭を叩き割ろうとしていた。
そこに一筋の矢が飛んでくる。
「チッ!?」
朝信はなんとその矢を手で掴み取る。
「さすがは越後の鍾馗殿・・・」
北畠家家臣吉田兼房が手勢を率いて加勢してきたのだ。
馬上から次々と鋭い矢を放つ兼房。
「見事な手並みじゃ!!」
そう言いながらめざとく全てを躱す斎藤朝信。
「フンッ!!」
兼房は弓を投げ捨てると槍を振るい朝信と打ち合う。
「次から次へと強い者が現れおるわ・・・これ程楽しい戦場はそうはあるまいィ!!」
打ち合うごとに強さが増していく朝信に兼房は劣勢に追い込まれていた。
上杉随一の将とも謳われる斎藤朝信・・・我が武でも遠く及ばぬか・・・
「吉田兼房殿ォ・・・助太刀いたす!!」
そこに松倉重信が再び槍を手にして朝信へと向かっていく。
更に次々と織田軍の騎馬武者たちも加勢していく。
「いくらワシとてこれは難儀じゃ・・・ワハハハ!!」
斎藤朝信は狂気の表情を浮かべるとたちまち二騎の騎馬武者を薙ぎ倒すのだった。
松倉重信と吉田兼房らが斎藤朝信を食い止めていることは武藤舜秀に伝わった。
「もう少し・・・もう少しじゃ。今日が終われば良い・・・」
「池田恒興様、御出陣されました!!」
「よし・・・これで上杉の本隊を完全に抑え込める・・・」
兵からの報告を受けて拳を握りしめる舜秀。
しかし、それは束の間の出来事であった。
なんだ・・・あれは・・・?
上杉軍の右翼に変化が見られたのだ。
まさか・・・
武藤舜秀はすぐにそれ異変を悟った。
「守りを固めろォォォ!!」
舜秀が声を張り上げるも、
「ウオオオオオッ!!」
その声をかき消す怒号のような上杉軍の雄叫び。
直江景綱が手勢を率いて決死の突撃をかけてきたのである。
「あの部隊が織田の頭脳じゃ!! 潰せィ!!」
大局を見極める・・・さすが直江景綱か・・・
「撃てェェェッ!!」
舜秀の声と共に鉄砲隊が次々と上杉軍を撃ち倒していく。
「ぐあッ!?」
直江景綱は太腿に弾丸を受けて落馬した。
しかし、その表情は苦痛ではなく笑みである。
この勝負・・・もらった・・・
直江景綱の手勢が分散するとそこには右翼の主力が現れたのだ。
「しまった・・・もはやこれまでか・・・」
舜秀は嘆息すると槍を手に乱戦の中へと消えていった。
その頃、上杉軍本隊は織田・山田軍の第1陣の前に苦戦を強いられていた。
「小僧がァァァ!!」
小島弥太郎の振るう太刀の強烈な一撃。
「くっ!?」
元規はそれを刀で受け止める。
既に打ち合いは五十合を超えていた。
「受け止めるというよりは受け流す・・・何という天賦の才・・・」
上杉輝虎は元規の戦いぶりに感嘆していた。
こやつ・・・その若さで何という手練れ・・・
弥太郎も激戦の最中に内心、舌を巻いていた。
このままの打ち合いでは埒が明かない・・・誘い込むか・・・
元規は冷静であった。
血沸き肉躍るような打ち合い、死線間際の命のやり取り。
何故、私はこうも落ち着いている?
自分自身に驚いていた。
「それにしてもおぬしの剣は揺るがぬものじゃ。」
弥太郎が元規に言う。
「例え、神仏が御相手でもこの剣は揺るぎませぬ。我が主君であり師である義輝様から此度の戦の為に賜った『童子切』なのですからァ!!」
元規が反撃に出た。
その神速の太刀筋は歴戦の強者小島弥太郎にして初見に等しかった。
受け切れずに次々と全身を切り刻まれていく。
あれは義輝様の・・・いや・・・義輝様以上じゃ・・・
輝虎は弓を手にすると矢を鋭く放った。
それと同時に弥太郎は馬上から崩れ落ちる。
「!!」
元規はその矢を童子切で真っ二つにすると静かに輝虎を見つめた。
・・・くるか・・・軍神上杉輝虎殿・・・
とてつもない強大な威圧感を漂わせ輝虎は馬上の人となると刀を抜いた。
名刀姫鶴一文字・・・殿は本気じゃ・・・
弥太郎は兵たちに介抱されながら輝虎を見つめていた。
小原元規と上杉輝虎は互いに睨み合いながらじりじりと間合いを詰めていく。
ゆきますぞ・・・
くるか・・・
元規が打ち込み、輝虎が迎え撃つ構図が互いの中に生まれていた。
その時である。
「小原元規ィィィッ!!」
突然、一騎の騎馬武者が元規の不意打ちをかけてきた。
「!!」
元規はすぐさま腰につけた流星鎚をその騎馬武者に投げつけるも
「流星鎚敗れたりィィ!!」
鎖を投げつけて流星鎚の軌道を変えてしまう。
「本庄繁長・・・」
元規は完全に虚を突かれていた。
その騎馬武者は本庄繁長であった。
「不意打ちには不意打ちでお返しじゃァァァ!!」
その槍の一撃は元規の心臓を寸分違わず貫く軌道を描いていた。
そのはずであったが・・・
「ガハッ・・・」
元規は大きく吐血した。
しかし、その槍を元規は手で掴んでいた。
なんとか身体をひねって致命傷を避けた元規。
深く貫かれることはなかったが、腹部に刺さった槍と共に血飛沫が吹き上がる。
そのまま童子切の一太刀を繁長に浴びせるもわずかに届かぬまま・・・力なく崩れ落ちて落馬した。
「思い知ったか・・・な・・・ぐはッ!?」
狂気の表情の繁長、しかし鎧に横一文字のひびが入るとそのまま吐血する。
なんという男だ・・・ワシにも躱しきれぬ太刀筋とは・・・
繁長は横目で元規の姿を見やると笑みを浮かべた。
「弥次郎・・・生きておるか?」
「辛うじて・・・生き長らえた次第・・・」
輝虎は繁長の返答に大きくうなずくと馬を降り、姫鶴一文字を構えて元規へと歩み寄る。
「義輝様の忠臣を討つのは心苦しいが・・・」
輝虎は息も絶え絶えの元規の前に立った。
「させねえぜ!!」
「オウよ!!」
今度はその輝虎めがけてクナイが次々と飛んでくるのだ。
全てを打ち払った輝虎の眼前に元規の姿がなかった。
代わりに目の前にいるのは二人の忍び。その一人に元規は抱きかかえられていた。
「俺は山田忍軍上忍鳥兜の源次。」
「同じく上忍の啄木鳥の権八じゃ!!」
そう名乗る源次と権八であったが、勝算はなかった。
額に冷や汗を滲ませる二人の忍びに対し、輝虎は笑みを浮かべた。
そしてそのまま背を向ける。
見逃してくれるのか・・・
わからんが・・・逃げるぞ・・・
源次と権八は元規を抱きかかえて走り去っていく。
「今じゃ・・・今こそ攻め時ぞォォォ!!」
輝虎は何事もなかったかのように声をあげた。
その声を受けて、上杉軍本隊は砦へと勢いを増して進軍していく。
殿・・・あえてあの者たちをお見逃しされたか・・・
本庄繁長は手当を受けながら空を見上げた。
戦場の血生臭さと無縁かのような澄み切った青い空。
なんとも澄んだ青・・・
そう思った瞬間に繁長は眼を見開いた。
殿が都に辿り着く・・・山田大輔を打倒したとしよう・・・
その先に何がある・・・?
変わらぬ戦乱ではないか?
殿にはその先を灯す気はない・・・
戦場こそ殿が輝きを放つ舞台・・・
戦がなくなったとすればその先は・・・
その先こそが大変ではないか?
桶狭間の砦では木下藤吉郎秀吉が出陣の準備をしていた。
この劣勢が続けば砦は持たん。
ここで打って出て我らの気勢を上げねば・・・
そこに木下小一郎秀長が駆け込んできた。
「兄上・・・一大事でございまするゥゥ!!」
「どうした?どうした小一郎!!」
「武藤舜秀殿、討ち死にでございまする・・・」
「な・・・なんだと・・・」
秀吉は思わず後ずさりする。
「第2陣は坂井右近様討ち死により崩壊、第1陣も最早上杉輝虎本隊の勢いを止めきれませぬ。第3陣と滝谷勝政様は御奮闘されておりますが・・・」
秀長の言葉に秀吉は覚悟を決めた。
「ここで食い止める・・・少しでも長くじゃ・・・清州に使いを送れ。殿に小牧へ逃れるよう・・・」
秀吉が言いかけたときだった。
「藤吉郎・・・ワシじゃ!!」
そこに蜂須賀小六正勝が姿を見せたのである。
「小六は小牧を出てどうする・・・」
秀吉が怒りの声を上げようとするも
ば・・・馬鹿な・・・
小六の背後にいる者の姿に驚愕するのだった。
織田家家臣武藤舜秀は第1陣が持ちこたえていることに手応えを感じていた。
前田利家や金森長近らの奮闘ぶりが予想を遥かに上回っていたのである。
戦況は膠着しつつあった。
「大和国松倉重信様が手勢を率いて上杉の本陣へめがけて奇襲を仕掛けておりまする!!」
「さすがじゃ・・・ワシの策に寸分の違いもなく動いてくださる。大和の兵は強兵ぞ。」
そんな舜秀に危機が迫っていることには織田・山田陣営誰一人気付いていなかった。
「もうすぐ越後の龍の御姿を拝見できるぞォォ!!」
松倉重信は大和の兵を率いて上杉輝虎本陣へと突撃をかけていた。
様々な武器を多彩に使いこなす極限まで練兵された強き兵、強兵揃いの重信の、筒井軍の兵たち。
上杉軍の数に対し、個々の武で渡り合っている。
「ぐああッ!?」
そのとき、重信の眼前で数人の兵が一瞬で弾き飛ばされた。
「我こそは上杉輝虎様が家臣斎藤朝信なるぞォ!!」
その佇まいはまるで鬼神の如く。
越後の鍾馗・・・斎藤朝信・・・これは運が良いのか悪いのか・・・
重信は槍を振るい上杉の兵を同じく一瞬で数名吹っ飛ばした。
「我が名は大和国筒井家家臣松倉重信。」
「一介の国人の家臣でその武とは恐れ入る・・・大和にはどれ程の強者がおるのか?」
「将星煌めくが如し・・・でございまする。」
「それは嬉しいものじゃ・・・往くぞォ!!」
朝信は槍を振るい松倉重信へと襲いかかる。
この男を少しでもここに釘付けておかねば・・・
重信も手練れである。
しかし、この斎藤朝信の武が別格であることは既に理解できていた。
万が一でも勝つこと不可能・・・食い止めきれるのも不可能・・・
だが・・・ワシは死なぬ・・・どのようにしても死なぬ・・・
打ち合いはすぐに優劣が決まってしまった
圧倒的な斎藤朝信の攻勢に重信はただ防ぐのみ。
防ぐだけでもこのザマ・・・
だがな・・・ワシは亡き若殿が大輔様と夢見た戦の無い世の中を見届けねばならぬのだ・・・
その思いと裏腹に重信の槍が折れてしまった。
南無三・・・
今にも朝信の槍が重信の頭を叩き割ろうとしていた。
そこに一筋の矢が飛んでくる。
「チッ!?」
朝信はなんとその矢を手で掴み取る。
「さすがは越後の鍾馗殿・・・」
北畠家家臣吉田兼房が手勢を率いて加勢してきたのだ。
馬上から次々と鋭い矢を放つ兼房。
「見事な手並みじゃ!!」
そう言いながらめざとく全てを躱す斎藤朝信。
「フンッ!!」
兼房は弓を投げ捨てると槍を振るい朝信と打ち合う。
「次から次へと強い者が現れおるわ・・・これ程楽しい戦場はそうはあるまいィ!!」
打ち合うごとに強さが増していく朝信に兼房は劣勢に追い込まれていた。
上杉随一の将とも謳われる斎藤朝信・・・我が武でも遠く及ばぬか・・・
「吉田兼房殿ォ・・・助太刀いたす!!」
そこに松倉重信が再び槍を手にして朝信へと向かっていく。
更に次々と織田軍の騎馬武者たちも加勢していく。
「いくらワシとてこれは難儀じゃ・・・ワハハハ!!」
斎藤朝信は狂気の表情を浮かべるとたちまち二騎の騎馬武者を薙ぎ倒すのだった。
松倉重信と吉田兼房らが斎藤朝信を食い止めていることは武藤舜秀に伝わった。
「もう少し・・・もう少しじゃ。今日が終われば良い・・・」
「池田恒興様、御出陣されました!!」
「よし・・・これで上杉の本隊を完全に抑え込める・・・」
兵からの報告を受けて拳を握りしめる舜秀。
しかし、それは束の間の出来事であった。
なんだ・・・あれは・・・?
上杉軍の右翼に変化が見られたのだ。
まさか・・・
武藤舜秀はすぐにそれ異変を悟った。
「守りを固めろォォォ!!」
舜秀が声を張り上げるも、
「ウオオオオオッ!!」
その声をかき消す怒号のような上杉軍の雄叫び。
直江景綱が手勢を率いて決死の突撃をかけてきたのである。
「あの部隊が織田の頭脳じゃ!! 潰せィ!!」
大局を見極める・・・さすが直江景綱か・・・
「撃てェェェッ!!」
舜秀の声と共に鉄砲隊が次々と上杉軍を撃ち倒していく。
「ぐあッ!?」
直江景綱は太腿に弾丸を受けて落馬した。
しかし、その表情は苦痛ではなく笑みである。
この勝負・・・もらった・・・
直江景綱の手勢が分散するとそこには右翼の主力が現れたのだ。
「しまった・・・もはやこれまでか・・・」
舜秀は嘆息すると槍を手に乱戦の中へと消えていった。
その頃、上杉軍本隊は織田・山田軍の第1陣の前に苦戦を強いられていた。
「小僧がァァァ!!」
小島弥太郎の振るう太刀の強烈な一撃。
「くっ!?」
元規はそれを刀で受け止める。
既に打ち合いは五十合を超えていた。
「受け止めるというよりは受け流す・・・何という天賦の才・・・」
上杉輝虎は元規の戦いぶりに感嘆していた。
こやつ・・・その若さで何という手練れ・・・
弥太郎も激戦の最中に内心、舌を巻いていた。
このままの打ち合いでは埒が明かない・・・誘い込むか・・・
元規は冷静であった。
血沸き肉躍るような打ち合い、死線間際の命のやり取り。
何故、私はこうも落ち着いている?
自分自身に驚いていた。
「それにしてもおぬしの剣は揺るがぬものじゃ。」
弥太郎が元規に言う。
「例え、神仏が御相手でもこの剣は揺るぎませぬ。我が主君であり師である義輝様から此度の戦の為に賜った『童子切』なのですからァ!!」
元規が反撃に出た。
その神速の太刀筋は歴戦の強者小島弥太郎にして初見に等しかった。
受け切れずに次々と全身を切り刻まれていく。
あれは義輝様の・・・いや・・・義輝様以上じゃ・・・
輝虎は弓を手にすると矢を鋭く放った。
それと同時に弥太郎は馬上から崩れ落ちる。
「!!」
元規はその矢を童子切で真っ二つにすると静かに輝虎を見つめた。
・・・くるか・・・軍神上杉輝虎殿・・・
とてつもない強大な威圧感を漂わせ輝虎は馬上の人となると刀を抜いた。
名刀姫鶴一文字・・・殿は本気じゃ・・・
弥太郎は兵たちに介抱されながら輝虎を見つめていた。
小原元規と上杉輝虎は互いに睨み合いながらじりじりと間合いを詰めていく。
ゆきますぞ・・・
くるか・・・
元規が打ち込み、輝虎が迎え撃つ構図が互いの中に生まれていた。
その時である。
「小原元規ィィィッ!!」
突然、一騎の騎馬武者が元規の不意打ちをかけてきた。
「!!」
元規はすぐさま腰につけた流星鎚をその騎馬武者に投げつけるも
「流星鎚敗れたりィィ!!」
鎖を投げつけて流星鎚の軌道を変えてしまう。
「本庄繁長・・・」
元規は完全に虚を突かれていた。
その騎馬武者は本庄繁長であった。
「不意打ちには不意打ちでお返しじゃァァァ!!」
その槍の一撃は元規の心臓を寸分違わず貫く軌道を描いていた。
そのはずであったが・・・
「ガハッ・・・」
元規は大きく吐血した。
しかし、その槍を元規は手で掴んでいた。
なんとか身体をひねって致命傷を避けた元規。
深く貫かれることはなかったが、腹部に刺さった槍と共に血飛沫が吹き上がる。
そのまま童子切の一太刀を繁長に浴びせるもわずかに届かぬまま・・・力なく崩れ落ちて落馬した。
「思い知ったか・・・な・・・ぐはッ!?」
狂気の表情の繁長、しかし鎧に横一文字のひびが入るとそのまま吐血する。
なんという男だ・・・ワシにも躱しきれぬ太刀筋とは・・・
繁長は横目で元規の姿を見やると笑みを浮かべた。
「弥次郎・・・生きておるか?」
「辛うじて・・・生き長らえた次第・・・」
輝虎は繁長の返答に大きくうなずくと馬を降り、姫鶴一文字を構えて元規へと歩み寄る。
「義輝様の忠臣を討つのは心苦しいが・・・」
輝虎は息も絶え絶えの元規の前に立った。
「させねえぜ!!」
「オウよ!!」
今度はその輝虎めがけてクナイが次々と飛んでくるのだ。
全てを打ち払った輝虎の眼前に元規の姿がなかった。
代わりに目の前にいるのは二人の忍び。その一人に元規は抱きかかえられていた。
「俺は山田忍軍上忍鳥兜の源次。」
「同じく上忍の啄木鳥の権八じゃ!!」
そう名乗る源次と権八であったが、勝算はなかった。
額に冷や汗を滲ませる二人の忍びに対し、輝虎は笑みを浮かべた。
そしてそのまま背を向ける。
見逃してくれるのか・・・
わからんが・・・逃げるぞ・・・
源次と権八は元規を抱きかかえて走り去っていく。
「今じゃ・・・今こそ攻め時ぞォォォ!!」
輝虎は何事もなかったかのように声をあげた。
その声を受けて、上杉軍本隊は砦へと勢いを増して進軍していく。
殿・・・あえてあの者たちをお見逃しされたか・・・
本庄繁長は手当を受けながら空を見上げた。
戦場の血生臭さと無縁かのような澄み切った青い空。
なんとも澄んだ青・・・
そう思った瞬間に繁長は眼を見開いた。
殿が都に辿り着く・・・山田大輔を打倒したとしよう・・・
その先に何がある・・・?
変わらぬ戦乱ではないか?
殿にはその先を灯す気はない・・・
戦場こそ殿が輝きを放つ舞台・・・
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その先こそが大変ではないか?
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ここで打って出て我らの気勢を上げねば・・・
そこに木下小一郎秀長が駆け込んできた。
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「どうした?どうした小一郎!!」
「武藤舜秀殿、討ち死にでございまする・・・」
「な・・・なんだと・・・」
秀吉は思わず後ずさりする。
「第2陣は坂井右近様討ち死により崩壊、第1陣も最早上杉輝虎本隊の勢いを止めきれませぬ。第3陣と滝谷勝政様は御奮闘されておりますが・・・」
秀長の言葉に秀吉は覚悟を決めた。
「ここで食い止める・・・少しでも長くじゃ・・・清州に使いを送れ。殿に小牧へ逃れるよう・・・」
秀吉が言いかけたときだった。
「藤吉郎・・・ワシじゃ!!」
そこに蜂須賀小六正勝が姿を見せたのである。
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