マイホーム戦国

石崎楢

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第229話:嵐の後に

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大和国多聞山城。
織田側勝利との知らせが早馬で届いていた。
しかし、私は全く喜べなかった。

「これは若君の謀反と諸国には捉えられますぞ。」
明智秀満は焦りを隠せない。

「殿、仁興殿からの報告では美濃は落ち着いているとのことでございます。いかように?」
しかし、竹中半兵衛重治は険しい表情だ。

「とりあえずこのまま英圭に美濃を任せよう。氏家殿や安藤殿も心細いだろうし・・・」
私はそう答えると清興に目配せする。

「飛騨に使者を送るぞ。半兵衛。」
「分かり申した。十助はおるか?」
清興の命を受けた重治は家臣の喜多村十助直吉を呼んだ。

「姉小路殿には一度南都に来ていただきたいということです。十助頼むよ。」
「ははッ・・・」
私の言葉に十助は笑みを浮かべていた。

あの時の気の良い殿様が、今や征夷大将軍ときたものだ・・・嬉しい限りよ。

十助は主である重治が山田家入りした時のことを思い出していた。

「必ずや殿の為に!!」
足早に立ち去っていく十助。

「しかしなあ・・・これで信濃に入った岳人と上杉輝虎殿が戦うのは確実・・・」
「援軍は出しませぬぞ!!」
清興は強い口調で私の独り言を遮った。

「わかっている・・・私もそのつもりだよ・・・」

預かった国を放棄して思いのままに乱世を楽しむ我が息子を甘やかす訳にはいかない。
でも・・・心は苦しいのだ。
何故、こうなってしまった?
子育てをどこで間違えた?
そうか・・・

この時代に来てからは確かに・・・確かに距離が遠くなったものだ・・・



織田・山田連合軍による上杉軍撃退の報は山城国勝竜寺城にも届いていた。

「出陣よ・・・あの歴史ヲタの弟に姉の恐ろしさを思い知らせてやるわ!!」
1人息巻く美佳。

「美佳姫様、落ち着かれよ。」
景兼が行く手に立ちはだかっている。

「美佳様、岳人様には何か別のお考えがあると思われます。」
「そう思うしかございませんぞ。」
一馬と義成も美佳をなだめ続けていた。

「うう・・・なんか・・・なんかみんなゴメン!!」
美佳は顔を紅潮させながら頭を下げた。
その様子にその場にいる者達は思わず硬直してしまう。

「美佳様が謝られることなどございませぬ。」
「いや、あたしの教育が甘かった。甘すぎた・・・」
一馬たちの言葉にも美佳はただ頭を下げ続けるばかり。

そのとき、景兼が目を見開いた。

「美佳姫様、この疋田豊五郎景兼に妙案がございます。」
「・・・何よ・・・?」
美佳は景兼の表情がいつもと違うことに驚いていた。

豊五郎様、まさかとは思いますが・・・

その場にいる柳生厳勝の強張った顔。

「殿には征夷大将軍としての任に専念していただき、今すぐ、美佳姫様が山田家の家督を継がれるのです。」
景兼の言葉に厳勝は頭を抱え込む。

「な・・・何を申されまするか?」
義成は思わず言い返してしまう。

「これにより岳人様の求心力は落ちることでしょう。」
「若君を自滅に追い込む所存か? 確かにあの御方は変わられたが・・・変わられても殿の大事な・・・我らがお仕えする山田家の・・・若君ですぞ・・・。」
景兼の言葉に真っ向から反論する義成。

「以前よりそのお考えはお聞きしておりましたが、美佳姫様が家督を継がれたことにより自暴自棄になられた岳人様が、より大きな戦乱を巻き起こす恐れもございましょう。」
厳勝も口を添える。

「わかったわ。でも、どちらにせよ、今は動かないでおく。少し、頭を冷やしてくるわ。」
そう言うと美佳は大広間を出ていくのであった。


伊賀国上野城。
築城が順調に進んでいる中、義輝は一枚の書状を見てため息をついていた。

「義輝様、仁興殿からでございますか?」
灰月が傍らに控えていた。

「ああ・・・どうやら美濃はそこまで混乱しておらぬようだ。英圭のヤツ・・・内政までこなせるとはな。」
「それは小原殿共々、義輝様の御側にお仕えされていたからだと。」
「まあ・・・それはともかく岳人だ・・・どうしてこうなった・・・」
義輝は苦々しい表情で天を仰ぐ。

「詳しいことはわかりませぬが、次々と策を講じられてるとのことです。」
「間者の知らせか?」
「はい、ただ岳人様にお近づきになるのは困難だと。あの赤龍たちが常に傍らに控えている次第。」
灰月はそう言うと義輝の顔を見上げた。

「そうか・・・灰月。この先をどう考える?」
「上杉は態勢を立て直した後、真っ先に信濃・・・木曽に攻め入るでしょう。」
「その結末は?」
「それは・・・」
「やはり・・・そうか・・・」
灰月の答えに義輝は嘆息するのだった。


戦いから七日が過ぎた尾張国桶狭間砦跡。

「さあ・・・皆の衆、気張れ!!」
木下秀長の指揮の下、砦跡に築城が始まっていた。
後に、この改変された歴史において名城と謳われる桶狭間城となる城である。

「では!!」
六兵衛率いる畿内の山田軍、伊勢の北畠軍は自国へと帰っていった。
残っているのは負傷療養中の元規。
そして援軍として駐留する土屋昌続、山本菅助率いる二千の兵、北条からの降将である北条景広とその手勢五百程であった。

「なんとも不思議なもんじゃな。」
景広は屋敷の縁側で寝転がっている。
その向こうでは静かに笑みを浮かべて床に就く元規。

「どうでしたか・・・勝政様は?」
「まるで化け物・・・まあおぬしも相当だったがな。」
景広は元規の問いに答えるとお茶を飲み干す。

「私からすれば上杉の方々も皆が化け物です。」
「本庄殿のことだろ?」
「はい・・・互いに不意打ちの仕合となりましたが、真っ向からやり合いたいものです。」
元規はそう言うと身体を起こした。

生きている・・・私は・・・必ず若君の御乱心を食い止めねば・・・


再び大和国、場所は登美山霊山寺。

「ふああああ・・・・なんか毎日疲れるねえ。」
私は薬湯に浸かっていった。

この霊山寺の薬湯は古の時代に小野妹子の弟である小野富人が開いたものである。
とても疲労回復に効果があるので重用しているのだ。
私が来る日は貸切になってしまっているのが申し訳ない話だが。

「殿、お湯加減はいかがですか?」
蒲生鶴千代が声をかけてくる。

「ああ・・・上々だよ。私が出た後でもゆっくり浸かりなさいな。」
「はい!! ありがたき御言葉・・・といいいますか・・・なんですか? なんですか、あなた方・・・エエエッ!?」
会話の途中で鶴千代の様子がおかしい。

「今は殿の貸切でございます・・・って何故に脱いでるゥ!? ヒエッ・・・黒いィィィ!?」

どうしたというのだ、鶴千代・・・黒いって何? マジで黒いって何?

「ただいま・・・」
湯殿の戸が開くと2人の男がやってきた。
そのうちの1人はなんと黒炎ではないか。

「黒炎じゃないか。もう帰ってきたのか?」
私は黒炎の身体を見る。

なんだ・・・異常に毛深い・・・確かに黒い・・・黒いというより毛深い・・・
特にキツすぎるギャランドゥ・・・勘弁してくれ・・・

「ああ、貴様の頼みだからな。全力でかき集めてきたぞ。」
黒炎は言葉と裏腹に私を睨む。
男のツンデレはいい加減やめてくれ。

「大輔殿、散々でしただわさ・・・」
もう1人の男は天狗である。

「博多どころか明まで飛ばされましてねえ・・・」

そう愚痴をこぼす天狗ではあるが・・・

「確かに黒い・・・天狗さん、黒い立派な鼻が股間についているのね。」
「冗談キツイっス、大輔殿。これはおチ●チンぞね。」

「ぷっ・・・」
その会話を聞いて思わず吹き出す黒炎。

「おおッ・・・黒炎が笑った。」
「黒炎殿は下ネタ好きなんですかいな?」
私と天狗がここぞとばかりにツッコむ。

「やかましい・・・天狗・・・貴様の股間の鼻をもぎ取って大輔殿の額につけるぞ・・・」
「私がユニコーンになってしまいますやん。」
「ぷっ・・・ぶははは!!」
黒炎は私のしょうもないボケに笑い転げているではないか。

「ともかく大輔殿、明での話を聞いておくんなまし!!」
天狗はそう言うと湯船に入ってきた。

「かけ湯・・・」
「てめえ、身体も洗わんと風呂に入るなァァァ!!」
私が天狗に注意しようとした瞬間、黒炎の怒声が響き渡る。

「ひいいいい・・・」
天狗はあわてて湯船から飛び上がる。

その後、しっかりと身体を洗った黒炎と天狗が湯船に入ってきた。

「それでは大輔殿、明での話を聞いておくんなまし。」

こうして、黒炎と天狗の明での道中記が語られるのである。

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