マイホーム戦国

石崎楢

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第230話:黒炎と天狗の中華漫遊記 前編 

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遡ること約3ヶ月前、1571年2月。
黒炎と天狗は筑前の博多の港でただ立ち尽くしていた。

「おい、天狗?」
「はい・・・」
「船でこの海を渡れそうか?」
「無理っしょ・・・ぶべ!?」

黒炎の拳が天狗の顔面に入った。

「む・・・無理でございましょう・・・」
「だよな。」

そう言うと黒炎は空を見上げた。

この黒炎は魑魅魍魎を操ることが出来る希有な男。
奴の攻撃は本当に効くし、痛いし、腹が立つってーの。

憎々しげな目つきで黒炎を見つめる天狗。
その視線に気付いた黒炎は突然、さわやかな笑顔を見せる。

なんですかい・・・そのクソさわやかな笑顔は・・・

いぶかしげな表情の天狗に優しく語りかける黒炎

「なあ・・・天狗?」
「なんでっしゃろ?」
「飛べるよな、天狗?」
「へい・・・確かに空を飛べますが・・・ってここまで乗せてきたでしょ。」
「今、飛べると言ったよな?」
「だから飛べますって!!」
「よし、決定だ。明まで飛んでいくぞ。」
「ぬ・・・ぬわんだとォォォォ!?」

悪鬼のような黒炎の笑顔を見た天狗の絶叫が玄界灘に響き渡るのだった。


こうして黒炎と天狗は明国福建の福州の町に辿り着いた。

「すんごい人が多いですなあ。」
「当たり前だ。日ノ本のような小島ではない。」
黒炎はそう言うと町にたむろっているならず者たちの溜まり場へと入っていった。

何? 何なのよ・・・

茫然となる天狗。
その視線の先ではならず者達に囲まれて路地裏へと連れて行かれる黒炎。

まさか・・・

天狗が慌てて追いかけていくと

「ひでえ・・・・」

ならず者たちは全員叩きのめされ気絶していた。

「軍資金ゲット・・・これで当分は楽できるぞ。」
黒炎は紙幣と銀貨を袋に詰めると天狗の肩に手を置いた。

「四川まで行くぞ。」
「四川ってどこ?」
「俺の言うとおりに飛べ。」

こうして黒炎と天狗は四川へと飛んで行った。

「四川には何があるんですかい?」
「ああ・・・どうやら最年少で特級●師となった少年がいるらしい。」

黒炎の言葉に天狗は黙り込む。

「どうした・・・天狗?」
「ちょっと待て・・・待て待て待てィ・・・特●厨師ってダメ。そんな言葉使っちゃダメ。」
「ダメ・・・なのか?」
「伏字でごまかせるけどダメよ。某中華●番でしょ。それに時代が明じゃなくては清でしょ。」
「清・・・しん・・・シン・・・殉星を持つ男のことか?」
「そっちのシンもダメ。某種死の可哀想な男の子もダメ。サーベルを持ってターバン巻いたインド人もダメ。」
「タイガー・●ェット・シンのことまでは考えてへんよ。」

その後でしばらく沈黙が続くのだった。

こうして辿り着いた四川随一の町である成都。
そのあまりのスケール感に天狗は圧倒されていた。

「凄え・・・」
「成都はこの明国で一番美味しい町だ。」
得意げに語る黒炎。
天狗は人間に化けると美味しそうな店を探し始めるが、

「何も迷うことなどない。四川といえばここだ。」
黒炎に連れられて辿り着いた店。

「こ・・・ここは・・・」
天狗は思わず後ずさりする。
そしてどこからともなく聞こえてくるBGM。

「び・・・ビストロ●泉・・・水曜ど●でしょ・・・グハッ!?」
言いかけた天狗の顔面を黒炎が平手打ちする。

「BGMなどない。ただの空耳・・・幻聴だ。」
黒炎はそう言うと店の看板を指さす。

「この店の名は四川随一の名店と謳われる菊●楼・・・」
「言っちゃった・・・伏字でもアカンぞ・・・伏字のところはどうせ『下』なんだろ?」
天狗のツッコミが入ったが、

「残念・・・そこは『門』だ。」
「下品過ぎ、お下劣だわさ・・・そんな名前の店で食べても食欲でるかい!?」
「貴様・・・」
「いやね、言わせてもらいますわ!! 例えば伏字のところが『水』だったらね、うなぎよ、うなぎ!! うなぎ食べたくなるっしょ?」
「確かにな・・・」
珍しく天狗が黒炎を言い負かし始めていた。
そのときだった・・・

「兄弟和孩子!!」
という声と共に1人の少年が店の中から姿を現した。

「久しぶりだな、マサオ。」
「您身体好就比什么都好。」
「大きくなったな・・・もう何年になるか・・・」
「已经五年了!!」

黒炎とその少年マサオの会話は弾んでいるが、天狗は苛立ちを隠せなかった。

「待て待て待てィ・・・待ちやがれい!!」
二人の会話に割って入る天狗。

「なんで違う言語で会話が成立している・・・そんなわけないやろがァ・・・」
天狗が怒声を浴びせた瞬間、

「それでさ、黒炎兄さんは日本で何してたん?」
「しゃべれるんかいィィ!! 日本語ペラペラやんけ!!」
「ウッセーな、オッサン。」
マサオはツッコむ天狗の脛に蹴りを入れる。

「おおう・・・!?」
激痛に飛び跳ねる天狗。
それを尻目に黒炎とマサオは店の中へ入っていった。

「黒炎・・・よく来たな。」
「師匠、お元気そうで何よりです。」
店主を見つめながら、穏やかな表情の黒炎。

「なんだかよくわかりませんわ・・・」
天狗は呆れ顔でその光景を眺めている。

「お父さん!!」
「メイメイ!!」
そこに1人の美少女が現れると黒炎と抱き合っているではないか。

「黒炎殿・・・その娘は?」
「ああ、紹介しよう。俺の一人娘のメイメイだ。15歳になる。」
黒炎の言葉を受けて、メイメイが頭を下げる。

「黒炎殿、それでは奥さんは?」
「ああ・・・アイツはもういない・・・」

天狗はしまった・・・と思っていた。
黒炎の遠い眼差しから感じ取れたのは、奥さんを亡くしているのだということ。

「何、カッコつけてるのよ、父さん・・・お母さんは外に男作って出て行っただけでしょ(笑)」

そっちかい・・・黒炎さん、アンタってば甲斐性ないんだねえ・・・

メイメイの暴露により黒炎は涙を流してヘコんでいる。
天狗は思わず肩に手を乗せて慰めてあげるのだった。

「ともかく兄弟子・・・俺と勝負だ!!」
「ほう・・・どれだけ腕を上げたか・・・」
マサオの挑発を受けた黒炎がニヤリと笑う。

遂に・・・料理バトル・・・始まるか・・・

天狗は心配そうな顔で状況を見つめる。

「ゆくぞォォォ!!」
「来い!!」

二人は超高速で料理を始めた。

「おお・・・」

鮮やかに宙を舞う食材が吸い込まれるように鍋の中に落ちていく。

「鮮やか・・・」

二人が同時に鍋を振るうとキラキラと輝く食材が軌跡を描いていく。

なんという鮮やかな手並、

天狗は感動していた。
元々は人間であり、極限まで修練を重ねた結果、天狗となった男である。

このような・・・美味しそうな食べ物はないぞ・・・日ノ本には。
大輔殿が様々な珍奇な食べ物を開発しては大当たりしているが・・・
これは・・・これは間違いなく・・・間違いなく日ノ本で大ヒット間違いなし!!

辣子鶏ラーズージー。」
マサオの作った一品は美しくも刺激が強そうである。

「な・・・辛い・・・口から火が出るぞォォォ!!」
天狗はそれを一口食べると大声で叫んだが、

「いや・・・なんだ・・・この複雑な味わい・・・全てが混ざり合い・・・戦いながら調和していく・・・」
天狗の箸は止まらなかった。
血眼になって食べている。
あっという間に完食してしまった天狗は涙を流している。

「こんなに美味しいものを食べたことがないだわさ。」
「謝謝。俺は常に会心の一食しか作らない。」
「マサオさん、カッコイイねえ。」
天狗がマサオのことをヨイショしていると、

「俺も出来たぞ・・・見るがいい!!」
黒炎も一品を作り上げた。

「こ・・・これは・・・」
「ああ・・・俺は魚香茄子ユーシャン・チエヅだ。」

黒炎の作った魚香茄子を一口食べた天狗は涙を流す。

「辛い・・・でも、美味いっス。」

「判定は?」
「マサオさん。」

「やった・・・これで30戦30勝だぜ・・・。」
「一度ぐらい勝ちたかった・・・」
勝ち誇るマサオの隣で肩を落とす黒炎であった。

勝負の後は、菊●楼の店主の御好意で様々な乾燥食材や調味料を調達、更に鍋などの鉄製の調理器具も調達できた。

「どうやって運ぶのですかい?」
天狗が黒炎に聞くと
「まあ・・・任せろ・・・」
黒炎が印を構えると地面が割れて一羽の鳥が現れた。

「呼んだかい?」
その鳥は人のような顔を見せるとしゃべりだす。

「ら・・・羅刹鳥・・・」
マサオと店主は恐怖のあまり昏倒してしまう。

「すまないが仲間を集めてくれ。そして、これらの荷物を日ノ本へ運んでくれないか?」
「大分・・・もらわないと割に合わんぞ。」
「50でどうだ?」
「100・・・」
「わかった・・・100だな。後日、まとめて渡そう。」
「ありがたい・・・では任せろ。」

羅刹鳥が翼を広げると地面が割れて次々と同じような鳥が姿を現す。
そして、食材や調理器具を前に次々と人の姿に変化していった。
そのまま、旅商人の集団となり、荷物を運びながら立ち去っていく。

「この中華の妖怪のようですな。それぞれが恐ろしい程の妖力をお持ちのようで・・・」
天狗は冷や汗を流していた。
黒炎とメイメイは笑顔で手を振っている。

「ところであの鳥さんたちが言ってた50や100って何ですか?」
天狗は軽く黒炎に聞いてみる。

「生きた人の目玉よ。」
「ひいいいいい・・・・」
メイメイの返答に思わず悲鳴を上げる天狗であった。

やはり・・・黒炎は鬼畜や・・・その娘も可愛い顔して鬼畜や・・・

「さて・・・俺様は次は広東の広州に向かうとするか・・・」
「父さん、気を付けてね。」
「大丈夫、いざとなればが身代わりになってくれるから。」

笑顔で見送るメイメイを背に黒炎は歩き出した。
右手で恐怖のあまりに硬直している天狗をズルズルと引きずりながら・・・


果たして、次の広東では何が待ち受けているのだろうか。
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