マイホーム戦国

石崎楢

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第68話:決戦へ・・・

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1567年4月、多聞山城。

茶屋娘劇場の掃除をしている十市遠勝。
まだ肌寒い季節ではあるが、汗を流す程一心不乱に仕事をしていた。

このやりがい・・・あの頃が嘘のようだ。

龍王山城が陥落し、行方不明扱いされた上に弟の十市遠長が家督を継いだ。
行き場を失い、浪人として大和国内を彷徨っていた時だった。

「十市の元殿様じゃねえの?」
偶然に街道沿いで再会したあのときの山田の忍び・・・石川五右衛門殿。
私の窮状を察した石川殿の口利きで今の仕事にある。
いざという時は侍に戻り、山田家のために働く覚悟もできている。

そのとき劇場の外に複数の人影が・・・

「申し訳ございません、本日は劇場は休館でございま・・・。」
外に出て対応しようとした遠勝であったが、
「あ・・・兄上・・・兄上ではございませぬか!?」
そこに立っていたのは十市遠長たちであった。

多聞山城大広間。

「此度の勝竜寺城攻め、非常に感服いたしました。」
遠長が私に頭を下げる。
「まあ・・・首尾よく攻めることができたのが幸いでした。」
私も頭を下げた。

全く私は何もしてないんだけどね・・・

「つきましてはこれまでのことは全て水に流して・・・」
遠長が言いかけるも私は遮った。
「待ってください。これは私から言わせてください。十市殿、我らと共に大和を守りましょうぞ。」
「はッ!!」

あの・・・これじゃ十市殿が家臣状態ではないですか・・・

「我ら、十市家は山田家の傘下に入らせていただきます。」

あ・・・平伏しないでよ・・・

こうして十市家も私たちの輪に加わった。
筒井順慶、越智家広、十市遠長、箸尾高春の大和四家が一つになったのである。
そしてこの四家は大和四天王としてこれからの戦国の世に名を刻んでいく。


そして三好・松永との戦に向けての準備も着々と進められていた。
それに伴い、各武将たちの異動も始まった。

龍王山城にいた義輝が一千の兵を率いて筒井家の支城であった宝来城に移った。
筒井家から山田家に譲渡され、改修も同時に始まった。
周辺に簡易的な砦を多数建設し事態の急変に備えている。

同じく筒井家の支城の超昇寺城も山田家に譲渡された。
井足城の六兵衛が黒木鉄心を伴い城主として入城。
一千の兵で守りを固める。

この二つの城が多聞山城を西から守る生命線となる。

そして北の備えである木津城には清興が檜牧から移ってきた。
宇陀全域から集めた二千の兵で守る。

更に交通の要所である歌姫峠に幾重もの門と柵、そして砦の建設が始まった。
楠木正虎が三百の兵を率いてここを守る。

沢城から高山重友が家臣団と兵を引き連れて郡山城に入城。
筒井家の支城であったが、城の改修に着手。
五百の兵で宝来城の後詰めをする。

十市遠長は二千の兵を率いて十市城を出発。
西大寺付近に陣を構える。


筒井家も動いた。
筒井順慶の本軍は筒井城、小泉城を中心に周辺の支城を守り信貴山城の松永久秀に対処する。
十市への牽制役だった筒井家家臣井戸良弘は筒井家支城の龍田城に入城。
城を任せられていた土豪の龍田氏と結んで松永への牽制役を担った。
筒井軍、その兵の総数は五千。

その中で、筒井家家臣団において強大な戦力を誇る箸尾高春は独自の動きを見せていた。

私の目は節穴ではないぞ・・・布施行盛。

岡城を攻めるも落とせなかったことに疑問を抱いていた。
元より箸尾家は幾度となく筒井家に反抗しており、他の家臣団と比べて見方が違う。

布施行盛は忠臣だ。だが山田家への忠誠はない・・・それどころか敵意のみだろう。
そして十市の山田家への帰順や越智の動き・・・面白くはないだろうな。
布施は裏切らないという先入観は私にはないぞ。

そして高春はその疑念を越智家広に伝えていた。

「箸尾の若は大したものじゃ・・・。」

越智軍は高取城から布施城に近い越智城と貝吹山城に主力の二千の兵を移した。
布施の動向を越智家に託すると箸尾軍二千の兵は北上を開始した。
この箸尾高春と越智家広の動きが後の戦況を大きく左右することになる。


その頃、伊勢国霧山城では
「美佳様のためじゃ・・・全軍で山田を助けるだブヒ。」
北畠具房が息巻いていた。
「織田や斎藤に留守を狙われますぞ。」
北畠家筆頭家臣大宮含忍斎は呆れ顔だ。
「神戸や長野が食い止めれば良いブヒ。」
「ならぬ・・・下がれ豚骨。」
そこに北畠具教が現れた。
「と・・・豚骨ゥ!? 酷いぞ父上ってブヒィ!?」

狼狽する具房を蹴り倒すと具教は上座に座った。

「既に満秀と景連に三千の兵を与えて向かわせておる。」
「はッ!!」
大宮含忍斎は平伏すると笑みを浮かべた。

我が子の名が天下に轟くときか・・・

大宮景連は北畠家で鳥屋尾満秀と並ぶ剛の者。
そして大御所北畠具教からその武芸の腕はお墨付きを得ていた。

我が軍最強の二人を送ったぞ・・・大輔殿。
使いこなせば必ずや貴殿を勝利へと導くであろう。

具教は笑みを浮かべると大広間から出ていった。


その頃、三好三人衆も戦の準備を整えていた。
三好長免は七千の軍を飯森山城城下に集結させていた。
更にそこに三好家家臣篠原長房、池田勝正両軍合わせて八千が到着した。

「フハハハ・・・この大軍ならば山田かどのような武具を使おうと敵ではない。あとは北と南の準備が整えば一気呵成に攻め立てて終いじゃ。」
そんな余裕を見せている長免の陣中には三好義継もいた。
一応の総大将扱いではあるが発言さえ許されない状況、まさしく傀儡。
その表情はただ怒りに満ちていた。

この戦が終われば次は貴様らが這いつくばることになるぞ・・・
三好長免、政康、岩成友通ィッ!!


山城国勝竜寺城。
三好長虎率いる三千の兵が合流した。

酷いものだな・・・

長虎は勝竜寺城の惨状を見てため息をつく。

「・・・。」
岩成友通は無言で大広間に座している。
五千の兵を集めて出陣の準備は整っていた。


河内国小山城。
三好政康が飯森山城から五千の兵を率いて拠点を移していた。
高屋城から三好康長が三千の兵を率いて合流してくる。

「手筈ではあやつらが合流してくるはずですな。」
「布施が高田と岡と手を組んで北上してくるか・・・虫の好かんヤツよ。」
康長の言葉に政康は顔をしかめた。


三方から三好三人衆が攻めてくることを岳人や景兼は予測していた。

「北の岩成友通、西の三好長免、南の三好政康。そして信貴山城の松永弾正久秀・・・。敵兵の数は三万をゆうに超えるでしょうな。」
景兼は静かな口調で言う。

多聞山城大広間は静まりかえっている。

「我ら、大和の総兵力でも確実に兵力は足りませぬ。」
光秀は目を閉じる。
評定の様子を不安げに覗いている美佳。

「でも・・・やるしかないんだ!!」
岳人はそう叫ぶと私を見つめた。
「ああ・・・私なりに色々と手は打っている。上手くハマれば勝てる!!」
「おお!!」「殿が動いた!!」
私の言葉に景兼たち家臣団から歓声が上がる。

「どのように動かれたのですか?」
一馬や義成が聞いてくるも
「後で教えてやるよ・・・苦労したからな。」
五右衛門が私の代わりに答えてくれた。

そう・・・私は私なりに動いた。
果たしてどう転ぶかはわからないが・・・

まもなく決戦の火蓋が切って落とされる。
大和の命運を左右する一大決戦になるのであった。
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