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第70話:大和合戦(2)第1次木津城の戦い
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岩成友通、三好長虎率いる三好軍はゆっくりと行軍を続けていた。
三好長虎はこの戦に乗り気ではなかった。
俺は大和よりも丹波だがな・・・。
一応、三好の勢力下にある丹波だが波多野、赤井両家は完全に独立した存在である。
山田大輔にわざわざ手を出す必要はなかった。
大和にかかる手間の半分以下で丹波は落とせるだろう。
そんな長虎を尻目に岩成友通は平静を装っていた。
しかし、その内側では怒りに満ちていた。
山田を殲滅する。誰一人生かしてはおかぬぞ!!
三好家の一家臣からこの地位まで昇り詰めた友通にとって、三好家内での地盤を弱体化させるかのような山田家の奇襲だった。
岩成友通の南下は山城国南部の国人衆を戦慄させるものであった。
しかし、その中でも足利家に忠誠を誓う者たちがいた。
椿井城の椿井氏や狛城の狛氏などは周辺の土豪たちと共に岩成友通・三好長虎率いる三好軍と交戦。
奮戦もあえなく敗れ去っていった。
同年6月1日、このまま勢いを増して三好軍は木津川の辺に到着し陣を敷いた。
「あれが木津城か・・・山田の城じゃな。」
友通は苦々しい顔つきで木津城を見つめる。
「山田の城ゆえに必ずや幾重もの罠が張り巡らされておろう。」
「わかっておるわ!!」
長虎の言葉に苛立ちを隠せない友通。
「貴様・・・俺を舐めてるのか?」
そんな友通に対し長虎は歩み寄ると胸倉を掴む。
「長虎ァ!!立場をわきまえろ。総大将はワシじゃ。」
家臣団はただ呆れ顔でそのやり取りを眺めているだけであった。
三好軍の姿は木津城からしっかりと確認できていた。
「ふぅ・・・一万はおるじゃろう・・・」
鳥屋尾満秀はため息交じりである。
そんな中、清興はただ三好軍を見据えていた。
「計盛、いるか?」
「はッ・・・ここに。」
清興の配下として鷲家計盛がついていた。
「ちと岩成友通をからかってみるか。」
「はッ。」
「島殿、何をされるのですか?」
大宮景連は清興と計盛が何をするのか想像できなかった。
「大宮殿にも協力してもらおう・・・。」
清興の策に計盛と景連は驚きを隠せなかった。
同年6月4日正午
三好軍は全軍食事をとり休憩に入っていた。
焦ってはならぬ・・・常に平常心じゃ。
ひたすら自分自身に言い聞かせる友通。
そこに伝令の兵が慌てて駆け込んできた。
「一大事でございます!!」
「どうした?」
友通は急いで本陣を出て木津川を眺める。
そこには一艘の船が上流からゆっくりと下ってきているのが見えた。
しかし、その舟には島家の旗が立っている。
島だとォ!!
友通は憤怒の形相に変わった。
しかもその舟の上で寝そべりながら酒を飲んでいる男が見えた。
勝竜寺城を散々荒らしまわった顔・・・あれは島清興ではないかァァ!!
更に寝そべっている清興の脇に居る男が旗を振り回している。
『岩成主税愚将也』
その旗に書かれている文字を知った友通は完全にキレてしまった。
「全軍、突撃じゃ!! あの舟の者どもを討ち取れィ!!」
友通は大声で叫ぶも
「準備が整いません。」「しばしお待ちを!!」
家臣団は慌てるばかり。
そのまま舟は対岸に着くと清興たちは何事もなかったかのように立ち去っていった。
「くそッ・・・許さん・・・許さんぞォ!!」
怒りに震える友通を見て長虎はただ呆れるばかりだった。
いとも容易く島清興の術中にハマるとはな・・・
木津城に戻った清興はしたり顔。
それでも岩成友通は正攻法だろうな。
夜通しかけて川を渡り、その先に陣を構えるだろう。
「小四郎!!」
「はッ。こちらに。」
「城下の民を避難させろ。」
「御意。」
清興の命令に答える一人の若武者、島家家臣櫟原小四郎。
この状況でも自信に満ちた態度、大胆不敵な行動を取る清興に改めて満秀は感服するばかり。
鬼神の如き武だけではなく策謀にも秀でておる。この男、名将なり・・・
満秀の目に入るのは城下の民が家財道具を迷うことなく運び出し、一糸乱れずに移動をしていること。
「城下の者共は何処に行かれるのじゃ?」
満秀が聞くと清興は笑みを浮かべて答えた。
「多聞山城近くに仮の住まいを建てております。そこでしばらくはしのいでもらおうかと。これは殿のお考えですがな。民を戦に巻き込まぬよう・・・優しい御方だ・・・全くもってな。」
木津城下の住民はおよそ五百程なのですぐに木津城を離れることができた。
その様子に満足気の清興。
更にそこに多聞山城より芳野一馬率いる五百の援軍がやってきた。
「鳥屋尾様、お久しゅうございます。」
「一馬殿か・・・心強いのう。」
「島様、計盛は何処へ?」
一馬は計盛の姿が見当たらないので清興に聞いてみるも
「面白いことを考えているのでな・・・明日は雨のようだしな。」
ただはぐらかすだけの清興に一馬は首をかしげるのだった。
日付も変わり夜も更ける頃、三好軍は動き出した。
雨が降り出す中、舟による対岸への渡渉が始まった。
「音を立てるな・・・そして油断するな。いつ山田軍が攻めてくるかわからんぞ!!」
先陣を任せられているのは丹波国国人湯浅宗貞。
一千の兵を率いて対岸への渡渉を果たした。
続いて同じく丹波国国人塩見利勝率いる一千の兵が渡渉。
丹波の三好軍は罠や策略に注意深く対応しながら前進していく。
「行くか・・・」
続いて三好長虎の三千の兵も渡渉を始めた。
雨のせいとはいえ、時間がかかり過ぎてはないか・・・
このままでは夜明けじゃ・・・
その様子に苛立ちを隠せない岩成友通。
雨脚が弱まる中、次々と三好軍は渡渉に成功する。
雨が上がると共に辺り一面に霧が立ちこみ視界が遮られつつあった。
続いて友通率いる本軍も渡渉準備に入ろうとしたときだった。
どこからか怒号のような声が聞こえてきた。
その声は恐ろしい勢いで近づいてくる。
ま・・・まさか・・・!?
岩成友通は青ざめた。
そう遠回りして木津川を渡渉していた計盛と景連が五百の兵で夜明けに奇襲をかけてきた。
雨と霧を利用して背後に潜んでいたのだ。
「鷲家殿。」
「なんでございますか、大宮様。」
「島殿の作戦お見事ですぞ。」
大宮景連は槍を振りかざし一目散に三好軍の岩成友通の本陣めがけて突撃していく。
まあ・・・早朝、もしくは夜に霧が立ちこんだら攻めろっていう命令は無茶だと思うけれどな。
景連の凄まじい槍さばきに敵兵は次々と成す術もなく倒れていく。
そこに騎馬隊が向かってくると槍を投げ棄て瞬時に弓矢を構えた。
「我が腕前・・・とくと見よォ!!」
次々と放たれる矢は百発百中の如く騎馬隊の喉元を射抜いていく。
すると視線の先に大将らしき男の姿が・・・
あれが岩成友通か・・・
景連は弓を構えるも
「鉄砲隊前へ!!」
三好軍の鉄砲隊が壁を作ってきた。
これはヤバい・・・
焦る景連。
そのとき、鉄砲隊の中に一人の男が飛び込んできた。
鮮やかな太刀捌きで鉄砲隊を倒していく・・・計盛だった。
「鷲家殿・・・素晴らしい手並みだ・・・。」
計盛の前に鉄砲隊は火を噴くことなく沈黙。
その配下の兵たちも一人一人が屈強であり、たちまち鉄砲隊は壊滅状態となった。
「鉄砲は奪えるだけ奪え!!」
「おう!!」
計盛配下の兵たちは吉野から集められた腕自慢、怪力自慢ばかりであった。
次々と三好軍の鉄砲を奪っていく。
その隙に景連は本陣に突入するも
「!?」
突然の槍による攻撃・・・景連は辛うじて回避するも冷や汗が流れた。
「ワシを誰だと思っておる・・・岩成友通じゃ・・・」
友通が槍を構えて立っていた。
「強いですね・・・さすが天下に名高き岩成友通殿。」
景連は馬から跳び下りると倒れている敵兵から槍を奪う。
友通はニタリと笑みを浮かべて手招きで挑発。
景連も笑みを浮かべて槍を構えた。
しかし、そこに邪魔をするかのように家臣団が現れた。
「殿を守れ!!」
「クッ・・・」
景連は馬に飛び乗ると馬首を転じて逃げていった。
潮時ですね・・・
計盛に目配せをする。
「退け!!」
計盛が声を上げると配下の兵が法螺貝を吹いた。
一斉に山田軍は退却していく。
また・・・やられたか・・・
「追わんで良い・・・どのような策を講じておるかわからんぞ。無駄な犠牲が増える。」
怒りを通り越して呆れ顔の友通。
「我らの渡渉は中止じゃ・・・軍を立て直すぞ。」
そう言うと兜を外すと天を仰いだ。
「どうやら奇襲は成功したようだな。」
木津城本丸からその様子を眺める清興。
「我が占いが的中したようですね・・・良かった。」
安堵の表情を浮かべる小四郎。
雲の流れ、空の色、風の匂いで雨が降り、霧が生じることを予測していたのだった。
山城の山中深くに逃げ込んだ計盛と景連は逃げきれたことを察知すると馬を止めた。
「鷲家殿、素晴らしい太刀筋・・・お見事でした。」
「いえ・・・私など家中では下でございます。山田家には最早、同じ人とは思えぬ方々もおられまする。」
その話を聞いた景連はただ驚くばかりであった。
この山田軍の奇襲は三好軍に戦力的ダメージはあまり与えなかった。
既に三好長虎、丹波国の三好軍の総勢五千の兵が木津川を渡渉に成功し、陣を敷いている。
しかし、岩成友通の精神的ダメージは大きく、この木津の地において山田軍は戦術的に優位に立つことになるのであった。
三好長虎はこの戦に乗り気ではなかった。
俺は大和よりも丹波だがな・・・。
一応、三好の勢力下にある丹波だが波多野、赤井両家は完全に独立した存在である。
山田大輔にわざわざ手を出す必要はなかった。
大和にかかる手間の半分以下で丹波は落とせるだろう。
そんな長虎を尻目に岩成友通は平静を装っていた。
しかし、その内側では怒りに満ちていた。
山田を殲滅する。誰一人生かしてはおかぬぞ!!
三好家の一家臣からこの地位まで昇り詰めた友通にとって、三好家内での地盤を弱体化させるかのような山田家の奇襲だった。
岩成友通の南下は山城国南部の国人衆を戦慄させるものであった。
しかし、その中でも足利家に忠誠を誓う者たちがいた。
椿井城の椿井氏や狛城の狛氏などは周辺の土豪たちと共に岩成友通・三好長虎率いる三好軍と交戦。
奮戦もあえなく敗れ去っていった。
同年6月1日、このまま勢いを増して三好軍は木津川の辺に到着し陣を敷いた。
「あれが木津城か・・・山田の城じゃな。」
友通は苦々しい顔つきで木津城を見つめる。
「山田の城ゆえに必ずや幾重もの罠が張り巡らされておろう。」
「わかっておるわ!!」
長虎の言葉に苛立ちを隠せない友通。
「貴様・・・俺を舐めてるのか?」
そんな友通に対し長虎は歩み寄ると胸倉を掴む。
「長虎ァ!!立場をわきまえろ。総大将はワシじゃ。」
家臣団はただ呆れ顔でそのやり取りを眺めているだけであった。
三好軍の姿は木津城からしっかりと確認できていた。
「ふぅ・・・一万はおるじゃろう・・・」
鳥屋尾満秀はため息交じりである。
そんな中、清興はただ三好軍を見据えていた。
「計盛、いるか?」
「はッ・・・ここに。」
清興の配下として鷲家計盛がついていた。
「ちと岩成友通をからかってみるか。」
「はッ。」
「島殿、何をされるのですか?」
大宮景連は清興と計盛が何をするのか想像できなかった。
「大宮殿にも協力してもらおう・・・。」
清興の策に計盛と景連は驚きを隠せなかった。
同年6月4日正午
三好軍は全軍食事をとり休憩に入っていた。
焦ってはならぬ・・・常に平常心じゃ。
ひたすら自分自身に言い聞かせる友通。
そこに伝令の兵が慌てて駆け込んできた。
「一大事でございます!!」
「どうした?」
友通は急いで本陣を出て木津川を眺める。
そこには一艘の船が上流からゆっくりと下ってきているのが見えた。
しかし、その舟には島家の旗が立っている。
島だとォ!!
友通は憤怒の形相に変わった。
しかもその舟の上で寝そべりながら酒を飲んでいる男が見えた。
勝竜寺城を散々荒らしまわった顔・・・あれは島清興ではないかァァ!!
更に寝そべっている清興の脇に居る男が旗を振り回している。
『岩成主税愚将也』
その旗に書かれている文字を知った友通は完全にキレてしまった。
「全軍、突撃じゃ!! あの舟の者どもを討ち取れィ!!」
友通は大声で叫ぶも
「準備が整いません。」「しばしお待ちを!!」
家臣団は慌てるばかり。
そのまま舟は対岸に着くと清興たちは何事もなかったかのように立ち去っていった。
「くそッ・・・許さん・・・許さんぞォ!!」
怒りに震える友通を見て長虎はただ呆れるばかりだった。
いとも容易く島清興の術中にハマるとはな・・・
木津城に戻った清興はしたり顔。
それでも岩成友通は正攻法だろうな。
夜通しかけて川を渡り、その先に陣を構えるだろう。
「小四郎!!」
「はッ。こちらに。」
「城下の民を避難させろ。」
「御意。」
清興の命令に答える一人の若武者、島家家臣櫟原小四郎。
この状況でも自信に満ちた態度、大胆不敵な行動を取る清興に改めて満秀は感服するばかり。
鬼神の如き武だけではなく策謀にも秀でておる。この男、名将なり・・・
満秀の目に入るのは城下の民が家財道具を迷うことなく運び出し、一糸乱れずに移動をしていること。
「城下の者共は何処に行かれるのじゃ?」
満秀が聞くと清興は笑みを浮かべて答えた。
「多聞山城近くに仮の住まいを建てております。そこでしばらくはしのいでもらおうかと。これは殿のお考えですがな。民を戦に巻き込まぬよう・・・優しい御方だ・・・全くもってな。」
木津城下の住民はおよそ五百程なのですぐに木津城を離れることができた。
その様子に満足気の清興。
更にそこに多聞山城より芳野一馬率いる五百の援軍がやってきた。
「鳥屋尾様、お久しゅうございます。」
「一馬殿か・・・心強いのう。」
「島様、計盛は何処へ?」
一馬は計盛の姿が見当たらないので清興に聞いてみるも
「面白いことを考えているのでな・・・明日は雨のようだしな。」
ただはぐらかすだけの清興に一馬は首をかしげるのだった。
日付も変わり夜も更ける頃、三好軍は動き出した。
雨が降り出す中、舟による対岸への渡渉が始まった。
「音を立てるな・・・そして油断するな。いつ山田軍が攻めてくるかわからんぞ!!」
先陣を任せられているのは丹波国国人湯浅宗貞。
一千の兵を率いて対岸への渡渉を果たした。
続いて同じく丹波国国人塩見利勝率いる一千の兵が渡渉。
丹波の三好軍は罠や策略に注意深く対応しながら前進していく。
「行くか・・・」
続いて三好長虎の三千の兵も渡渉を始めた。
雨のせいとはいえ、時間がかかり過ぎてはないか・・・
このままでは夜明けじゃ・・・
その様子に苛立ちを隠せない岩成友通。
雨脚が弱まる中、次々と三好軍は渡渉に成功する。
雨が上がると共に辺り一面に霧が立ちこみ視界が遮られつつあった。
続いて友通率いる本軍も渡渉準備に入ろうとしたときだった。
どこからか怒号のような声が聞こえてきた。
その声は恐ろしい勢いで近づいてくる。
ま・・・まさか・・・!?
岩成友通は青ざめた。
そう遠回りして木津川を渡渉していた計盛と景連が五百の兵で夜明けに奇襲をかけてきた。
雨と霧を利用して背後に潜んでいたのだ。
「鷲家殿。」
「なんでございますか、大宮様。」
「島殿の作戦お見事ですぞ。」
大宮景連は槍を振りかざし一目散に三好軍の岩成友通の本陣めがけて突撃していく。
まあ・・・早朝、もしくは夜に霧が立ちこんだら攻めろっていう命令は無茶だと思うけれどな。
景連の凄まじい槍さばきに敵兵は次々と成す術もなく倒れていく。
そこに騎馬隊が向かってくると槍を投げ棄て瞬時に弓矢を構えた。
「我が腕前・・・とくと見よォ!!」
次々と放たれる矢は百発百中の如く騎馬隊の喉元を射抜いていく。
すると視線の先に大将らしき男の姿が・・・
あれが岩成友通か・・・
景連は弓を構えるも
「鉄砲隊前へ!!」
三好軍の鉄砲隊が壁を作ってきた。
これはヤバい・・・
焦る景連。
そのとき、鉄砲隊の中に一人の男が飛び込んできた。
鮮やかな太刀捌きで鉄砲隊を倒していく・・・計盛だった。
「鷲家殿・・・素晴らしい手並みだ・・・。」
計盛の前に鉄砲隊は火を噴くことなく沈黙。
その配下の兵たちも一人一人が屈強であり、たちまち鉄砲隊は壊滅状態となった。
「鉄砲は奪えるだけ奪え!!」
「おう!!」
計盛配下の兵たちは吉野から集められた腕自慢、怪力自慢ばかりであった。
次々と三好軍の鉄砲を奪っていく。
その隙に景連は本陣に突入するも
「!?」
突然の槍による攻撃・・・景連は辛うじて回避するも冷や汗が流れた。
「ワシを誰だと思っておる・・・岩成友通じゃ・・・」
友通が槍を構えて立っていた。
「強いですね・・・さすが天下に名高き岩成友通殿。」
景連は馬から跳び下りると倒れている敵兵から槍を奪う。
友通はニタリと笑みを浮かべて手招きで挑発。
景連も笑みを浮かべて槍を構えた。
しかし、そこに邪魔をするかのように家臣団が現れた。
「殿を守れ!!」
「クッ・・・」
景連は馬に飛び乗ると馬首を転じて逃げていった。
潮時ですね・・・
計盛に目配せをする。
「退け!!」
計盛が声を上げると配下の兵が法螺貝を吹いた。
一斉に山田軍は退却していく。
また・・・やられたか・・・
「追わんで良い・・・どのような策を講じておるかわからんぞ。無駄な犠牲が増える。」
怒りを通り越して呆れ顔の友通。
「我らの渡渉は中止じゃ・・・軍を立て直すぞ。」
そう言うと兜を外すと天を仰いだ。
「どうやら奇襲は成功したようだな。」
木津城本丸からその様子を眺める清興。
「我が占いが的中したようですね・・・良かった。」
安堵の表情を浮かべる小四郎。
雲の流れ、空の色、風の匂いで雨が降り、霧が生じることを予測していたのだった。
山城の山中深くに逃げ込んだ計盛と景連は逃げきれたことを察知すると馬を止めた。
「鷲家殿、素晴らしい太刀筋・・・お見事でした。」
「いえ・・・私など家中では下でございます。山田家には最早、同じ人とは思えぬ方々もおられまする。」
その話を聞いた景連はただ驚くばかりであった。
この山田軍の奇襲は三好軍に戦力的ダメージはあまり与えなかった。
既に三好長虎、丹波国の三好軍の総勢五千の兵が木津川を渡渉に成功し、陣を敷いている。
しかし、岩成友通の精神的ダメージは大きく、この木津の地において山田軍は戦術的に優位に立つことになるのであった。
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