マイホーム戦国

石崎楢

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第71話:大和合戦(3)箸尾・越智家躍動

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1567年6月3日、準備を整えた三好政康率いる三好軍は河内小山城を出た。
軍を三つに分けての行軍。
三好政康率いる本軍四千は交通の難所である大和街道を通る。
奇襲される危険性の高いルートで敵の注意を引きつける。
その間に穴虫峠を政康の弟の三好為三が一千の軍で、竹内峠を三好康長が三千の軍で越えていくのだ。

筒井家家臣布施行盛は五百の手勢を率いて布施城を離れた。
その心は既に決まっていた。

筒井家に未来はない。
山田や越智、十市と命運を共にするならば止むを得まい・・・

高田城にて高田当次郎の軍五百と合流するとそのまま北上し始めた。
そこに東から地響きのような音をたてて向かってくる軍勢があった。

「越智かァァァ!!」
行盛は予想していた。越智の動きからして必ず我らを攻撃してくると。
しかも筒井家を離反した既成事実を確認してから。

「安心めされい・・・。」
高田当次郎は北の方を指す。
「おお・・・岡殿か・・・」
岡城城主岡国忠率いる三百の軍勢が現れた。

「布施と高田だけでなく岡まで同時に現れるか・・・」
越智家広は拳を握りしめる

瞬殺じゃ・・・次は三好を相手にせねばならぬからな

「手間が省けるぞ・・・殲滅じゃ!!」
家広の声と共に越智軍二千の兵は突撃していった。

翌6月4日、河内と大和の国境の一つである穴虫峠。
強行軍でいち早く三好為三率いる軍は峠を越えていた。

まさかここを通るとは思ってもいるまい。
通りたいとも思わんが・・・

三好為三は無表情。
この街道は狭い故に行軍には不向きであるということ。
そして・・・

「ウオォッ!!」「覚悟せい!!」
待ち伏せしていた筒井軍の兵が次々と奇襲をかけてくる。

予想済みじゃて・・・しんどいけどな。

為三配下の兵は筒井軍の伏兵を蹴散らしていく。
矢や投石で三好の兵も倒れていくが意に介さぬように進軍を続ける。
やがて視界には大和平野が大きく見えてきた。
そしてなだらかな平野部に下りてくると・・・

「!?」
その先に軍勢が待ち構えているのが見えた。

「ようこそ・・・大和路へ♪」
箸尾高春率いる二千の兵である。
鉄砲隊を前面に並べてその背後には弓隊と完全に待ち構えている状態だ。

「おいおい・・・用意周到だな・・・伏兵も囮ということか。」
三好為三は苦笑いを浮かべる。

「よし・・・全軍突撃だァ!!」
高春の号令と共に箸尾軍は一斉に動き出した。


その頃、越智家広は高田城に入城していた。
かなりの兵力を消耗するも勝利を収めたのだった。

「高城殿、助かった。礼を申す。」
「はッ。」
越智家広の前に平伏するのは赤埴家家臣高城光重。
「信安殿には後でたっぷりと礼をせねばな・・・。」
家広は疲れ切った表情で体勢を崩した。
「すまぬな・・・ちと疲れたぞ、無礼を詫びる。」
「いえ、越智家広様の獅子奮迅の戦いぶりお見事でございました。」
光重の言葉に満足そうな笑みを浮かべた家広。

ワシの戦いぶりを知って宇智の国人衆が動けばな・・・


先日、6月3日の越智と布施・高田・岡の戦は激戦となっていた。
兵力では上回るも三方から攻め込んでくる敵に苦戦する越智軍。

「ええい・・・烏合の衆でありながらやるではないか・・・。」
越智家広は馬上から敵兵を薙ぎ倒しながらつぶやく。
そこに数名の騎馬武者が突撃をしてきた。

「越智家広ォ・・・覚悟ォ!!」

その声を聞いて家広は槍を構える。

面白い・・・久々にワシの強さを・・・

その瞬間・・・

「ぐえッ!?」「れッ!?」
敵の騎馬武者たちはあっという間に落馬していった。

「いとも容易く殿の側に敵兵を・・・何をしているのだァ!!」
敵の騎馬武者たちを瞬時に倒し、大声で檄を飛ばすその男。
越智家の若き家臣薩摩伝五郎である。
「殿に指一本触れさせるなァ!!」
得物の三日月槍を天高く掲げると次々と敵兵を突き倒していく。

「伝五郎。」
「はッ。」
「ワシに構うな。その代わりに布施でも高田でも岡でも構わん・・・首を獲って参れ!!」
「ははッ!!」
家広の言葉で伝五郎は猛然と敵兵の中に突撃していった。

「勝てるぞォ・・・押し込めィ!!」
岡国忠は兵たちに檄を飛ばす。

流れは確かにこちらだ・・・。

自らも槍を振るい越智軍の兵を突き倒していく。
そこに伝五郎が単騎で突撃してきた。

「貴様ァッ・・・やる気か・・・っれ?」
それを見て国忠も槍を構えて応戦しようとするも、首元に横殴りの槍の一撃を喰らった国忠は、あらぬ方向に首を曲げたまま落馬した。

「手柄は頂いたぞ。」
その一撃を浴びせて岡国忠を討ち取ったのは越智家家臣寺崎希信。
「希信・・・貴様ァ!!」
「何しようが大将首を獲った者勝ちだろうがァ!!」
「ならば・・・次の・・・」
「それも俺が頂く・・・出世じゃ・・・目指すは山田の家臣じゃ!!」
希信は槍を振り回しながら敵軍の中へと消えていった。
「山田の家臣に鞍替えする気かァ!!待ちやがれ!!」
伝五郎も慌てて後を追いかけていくのだった。

岡国忠が討ち取られたか・・・

布施行盛は動揺を隠しながら乱戦の中を駆け抜けていた。
岡国忠の戦死により軍の統率と士気が乱れ始めている。
それならば越智家広を討ち取るまで!!

その視線の先には越智家広の姿が入った。

来たか・・・布施行盛。

越智家広は槍を投げ棄てると大刀を手にした。
「覚悟ォ!!」
布施行盛が槍を振るう。
両者の得物がぶつかり合う。その手並みはただの国人たちではなかった。
「やるのう・・・」
「ぬかせェ!!」
大将同士の激しい一騎打ちに周囲の兵たちの手が止まる。
「何故、筒井を裏切った?」
「裏切った?裏切ったのは筒井の方じゃ!!」
行盛の攻撃が更に一段と激しさを増す。
家広は気圧されながらも更に続ける。
「大和の為だとは思わんのか?」
「思わん!!」
「つまらぬ意地を捨てて我らは一つになる。それは悪いことなのか?」
「・・・。」
「山田の動向をワシはずっと見ておった。あやつらに悪意はないぞ。」
「山田ではなく筒井が・・・筒井が大和をォォォッ!!」
行盛の渾身の一撃で家広は馬ごと吹っ飛ばされる。

も・・・もう若くないな・・・身体が持たんぞ・・・

家広は体勢を立て直すも冷や汗を流していた。
久々の戦で更に久々の一騎打ちであり、腕よりも体力の衰えを痛感していた。

「時代は変わる・・・ワシがこのようにおぬしに気圧されているようにな。」
「・・・。」
「二十年前ならおぬしなど一捻りじゃ。」
「ぬかせィッ!!今の姿こそゆるぎなき越智殿の姿じゃァ!!」
「それならば今の筒井もまやかしではなかろう。」
「ぐぬッ・・・」
「筒井の若殿が決めたことに従うことこそ真の忠義ではないのか?」
「ウオォォォッ!!」
行盛は槍を振るうも紙一重で家広は躱すと大刀の一撃。

「ぐッ・・・ぐはッ!?」
咄嗟に槍で防ぐもそのまま槍ごと行盛は大刀で斬り倒された。

じ・・・順慶様・・・

その脳裏には幼き頃の筒井順慶をあやしていた思い出。
その父である筒井順昭の死により右も左もわからぬまま当主の座に座った順慶の姿。
日々追うごとに凛々しさを増していく若き主君。
松永久秀に筒井城を追われて布施城に匿った際の無念の涙を流す姿。

地面に叩きつけられた行盛は血の涙を流していた。

「チッ・・・年のせいか・・・踏み込みが甘かったのう。」
家広は合図をして兵を呼び集める。

「布施行盛を捕らえよ。すぐに手当じゃ・・・」
家広は行盛と目が合う。

おぬしが忠臣であることはわかっておる・・・
筒井の若殿を悲しませとうはないしな・・・

「退け!!」
岡国忠討死、布施行盛捕縛の報を受けた高田当次郎は戦線を離脱。
居城の高田城へと逃げていた。

「な・・・なんということだ・・・。」
しかし辿り着いた高田城には山田の旗が立っていた。
「拙者は赤埴信安が家臣高城光重。高田城は落ちましたぞ。」
門の上に立つ光重。赤埴からの援軍が作戦通りに高田城を攻め落としていたのだ。
「む・・・無念・・・。」
高田当次郎は馬から下りると降伏の意思を示したのだった。


箸尾軍は三好為三の軍を完膚無きまでに叩きのめしていた。
兵力の差もあったが、三好為三が既に戦意を失っていたのも大きかった。

実のところワシはこの大和攻めは不服なのじゃ。

一度も後ろを振り返ることなく撤退していくその姿に高春は呆れ顔であった。

三好は本当に一枚岩ではないな・・・


こうして越智軍は布施・高田・岡軍に、箸尾軍は三好為三の軍に勝利を収めた。
しかし、まもなく竹内峠を越えて三好康長の軍が迫ってくる。
これから大和国南部の戦いも更に激しさを増すのである。

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