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第85話:本能寺の変 中編
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本能寺を囲む織田軍。
塀に次々と梯子がかけられていく。
そして門を壊すべく破城鎚も準備されていた。
「全くもって気乗りせんがな。」
一言つぶやくのは森可成。
手には十文字槍を握り締めて破城鎚の脇に立っていた。
「門を打ち破ってくるだろうし、塀を乗り越えてくるだろう。どちらにせよ数が違う。」
光秀は兵たちを分けていた。
敵の主力が攻めてくるであろう表門に鉄砲隊を配置。
四方に兵を分散させてはいた。
「光秀・・・程々に戦ったら何とかして逃げてくれ。敵さんは私の首が欲しいのだから。」
私は光秀の隣に立つ。
「何を・・・殿が死ぬときは私も死ぬときです。」
光秀は笑みを浮かべる。
「さあて・・・伝説でも残しますか。なんかね、殿と一緒だと恐れなどなくなります。」
「純忠、もしも生き残れたら何でも望みをかなえてあげよう。」
私の言葉に喜ぶ純忠。
「じゃあ・・・美佳様と結婚ですな。」
「待て待て待て・・・殿、純忠だけズルいですよ。私にもないのですか?」
そこに慎之助が割り込んでくる。
「慎之助ももちろんどうぞ。」
「私も美佳姫を嫁にください。」
慎之助は私を見た。
「純忠、慎之助・・・それは却下。」
「おいおい、何でも叶えると言っただろ?」「約束守れよ、オッサン。」
その様子を見て兵たちが笑っている。
「山田の殿様が空気を変えたな。」
「こんなところで死なすの勿体無いだろ?」
「全くだな。」
慶次と五右衛門は門の柱の陰に隠れた。
そのときだった・・・どこからか新たなる兵たちの声が聞こえてくる。
「どうした?」
信長は本陣を構え腰を下ろしていた。
「六角軍です。」
駆け込んできた兵が言った。
「察知していただと・・・どういうことだ。」
信長は思わず立ち上がった。
「拙者は近江国守護六角義定が家臣蒲生賢秀だ。山田大輔殿に所用があって参った。道を開けてくだされ!!」
六角軍の先頭に立つ蒲生賢秀の声だが、織田軍は全く道を開ける気配がない。
「何故、本能寺を囲んでおるのだ。大和国守護の山田大輔殿は我らの盟友なれば助けぬわけにはいかぬ!!」
賢秀が右腕を上げると六角軍の陣形が変化した。
「ゆくぞ!! 山田殿を救うのだ!!」
六角軍は怒涛の勢いで織田軍に襲いかかった。
「殿、六角軍が攻めてきましたぞ!!」
織田家家臣佐々成政が信長に声をかける。
「適当にあしらえ・・・。」
「は?」
「聞こえぬのかァァ!!」
「ははッ!!」
成政は慌てて下がっていく。
殿・・・何があったのだ。
成政は小牧山城でのことを思い出していた。
「成政。」
「なんでございましょうか。」
「ワシにもやっと友という存在ができそうだぞ。」
信長は穏やかな顔で成政に言う。
「徳川殿は?」
「竹千代は弟じゃ。だが、山田殿は違う。野心の欠片も見当たらん。あのような男は見たことがないぞ。」
「私も是非お会いしたいものです。」
成政は信長や秀吉から聞いていた山田大輔の人柄から尊敬の念さえ抱いていた。
会ったこともない人間ではあるが、尊敬できる男だと感じたのだ。
「本当にあそこにおるのは殿なのか?我らの主君織田信長なのか・・・?」
そんな成政に声をかけるのは織田家家臣中条家忠。
「顔や声からしてどう考えても殿だろう。だが、木下殿と又左が行方知らずなのも気になる。」
成政は家忠と共に兵を集める。
既に前衛を突破した六角軍の勢いは圧倒的だった。
「あれが浅井に負け続けている六角の軍なのか・・・」
「敵将は蒲生賢秀・・・六角で最強の男だ。」
成政と家忠はお互いに顔を見合わせるとため息をついた。
そして本能寺の表門。
「門を破れッ!!」
森可成の声と共に門が打ち破られた。
織田軍の兵がなだれ込んでくる。
「撃てェェェ!!」
光秀の声と共に山田軍の鉄砲隊が一斉射撃。
連発式の銃の狙い撃ちで織田兵は次々と倒れていく。
その合間を縫って五右衛門と慶次もその剛剣で次々と織田軍の兵を斬り倒していく。
しかし、数が違い過ぎた。
織田軍の兵は塀を乗り越えて次々と侵入してくる。
「慎之助、純忠ァァ!!」
光秀は弓を構え次々と矢を放ち塀の上の織田兵を射落としながら叫ぶ。
「うおォォォッ!!」
純忠は鉄鏈を構えて織田軍の中に斬り込んでいく。
「ぐあッ!!」「ウぁッ!!」
山田軍の兵たちが一人の武将の槍の前に次々と倒されていく。
森可成である。
「貴様、これ以上はさせんぞォォ!!」
その前に慎之助が立ちはだかった。
「ほう・・・この織田の『攻めの三左』と知って挑むのか。」
森可成は十文字槍を構える。
「又左殿から聞いた森可成殿か・・・私は・・・俺は長滝慎之助。殿を守るために修羅でも悪鬼にでもなろうぞォ!!」
慎之助は槍を振りかざし周囲の織田兵を瞬く間に突き倒すと可成を睨みつけた。
その頃、裏手の門も打ち破られようとしていた。
「ヤバい・・・俺たち死ぬのかよ・・・。」
「大丈夫だって。我らには殿がいる。」
「一秒でも時間を稼ぐぞ。」
わずか五十名の山田軍の兵たちは震えながらも身構えていた。
そのとき、門の外が更に慌ただしくなった。
そして門が打ち破られる。
なだれ込む織田軍。
「えッ・・・。」
裏門を守っていた山田軍の兵たちは驚きの表情を浮かべていた。
織田兵は次々と背後から襲われて討ち取られていく。
「山田殿を守れェェェ!!」
朝倉軍が織田軍を追撃している。
その先陣を切る二人の武将の圧巻的な強さに織田兵達は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「元から俺は織田が気にくわなかったのだァァァ!!」
その手にするのは身の丈ほど長さの太刀。
朝倉家家臣真柄直隆である。
「兄上。急ぎますぞ・・・。」
その弟である真柄直澄は更に巨大な太刀を手にしていた。
人の身体の二倍ほどの大きさの太刀を一閃すると織田兵たちは恐怖のあまりへたり込んでいく。
「朝倉にもバケモノのような男たちがおるのか・・・」
山田軍の兵たちはその光景をただ茫然と見つめていた。
「・・・頼む・・・黒漆剣よ!!」
私は黒漆剣を抜いて天に掲げる。
すると空間が割れてその隙間から魑魅魍魎たちが次々と現れた。
「頼む。織田兵に憑りついてこい!!」
「おおォォォ!!」
私の声と共に魑魅魍魎の群れは織田兵に襲い掛かっていく。
「うわああ!?」 「ひえええ!!」
魑魅魍魎の出現により戦場は混沌状態と化した。
その隙に私は移動を試みるも
「いたぞ・・・山田大輔ェェ!!」
そこに織田兵が数名現れた。
「タダでは死にませんよ・・・。」
私も覚悟を決めて黒漆剣を構える。
しかし、その織田兵たちは次々と倒れていった。
血飛沫の中、現れたのは
「殿・・・ご無事で・・・」
真紅が全身に返り血を浴びながら歩いてくる。
「真紅・・・?」
だが、そのまま真紅は力なく倒れ込む。
なんと背中を大きく斬られていたのだ。
「殿様に・・・会いたくて・・・来ちゃった・・・。」
苦しそうな顔の真紅を私は思わず抱きしめる。
「ま、まさか・・・織田軍の中を?」
「わ・・・わたしもね・・・意外と強いんですよ・・・ガハッ!!」
吐血する真紅。
そう・・・真紅の通った後には織田兵たちの死体が山のように転がっていた。
「でも・・・幸せ・・・殿様に抱きしめてもらっております・・・。」
「もうしゃべらなくていいから・・・側室でも何でも許すから・・・死ぬな!!」
そんな瀕死の真紅を抱きしめる私の前に最悪の展開が待ち受けていた。
「山田大輔・・・覚悟してもらおうか・・・」
「信長ァァァ!!」
織田信長が現れたのだ。
手にした折れた槍を放り投げるとゆっくりと歩いてくる。
禍々しいオーラを漂わせながら虚ろな目で私を凝視していた。
「殿!!」
そこに光秀が駆け込んでくる。
そして信長を見ると弓矢を投げ棄てて刀を抜いた。
「殿・・・真紅を連れて裏門へお逃げください。朝倉軍が助けに来られました・・・。」
光秀は信長と対峙するも気圧されて後ずさりしていた。
間違いなく私では勝てぬ・・・いや・・・この男に勝てる者がおるのか・・・
信長の醸し出す圧倒的な強者の佇まいが光秀を戦わずして追い詰めていた。
しかし、光秀は大きく息を吸い込んだ。
「織田信長・・・覚悟ォォォ!!」
光秀は刀を振りかざし信長に飛びかかる。
信長は口元に笑みを浮かべると刀を抜き身構えた。
その頃、妙覚寺。
「なんと手強いのじゃ・・・。」
柴田勝家は焦りを隠せなかった。
山田軍の連発銃の威力もさることながら、統率のとれた戦い方に織田軍は苦戦していた。
およそ兵力差は十倍ではあるが、山田軍は誰一人絶望する者がいないのである。
「ぐあああッ!!」
槍を弾かれ大きく吹っ飛んで倒れるのは織田家家臣丹羽長秀。
それを見て織田兵たちは後ずさりする者も増えてきた。
「我が名は山田家第一の家臣滝谷六兵衛勝政。腕に覚えある者がおればかかってこい!!」
大刀を構えて織田軍を威嚇する。
「よし・・・俺が相手しよう。」
そこに清興がやってくる。
「島殿は勘弁してくれ。」
「俺も六兵衛とは嫌だがな・・・ハッハッハ!!」
清興は三つの生首を手にしていた。
橋介、良之、弥三郎だと・・・
倒れ込んでいた丹羽長秀はその三つの首を見て驚愕する。
信長の側近である長谷川橋介、佐脇良之、加藤弥三郎の首であった。
「何故・・・何故・・・兄上が・・・山田家を・・・岳人を・・・そしてあたしを・・・」
涙が止まらないお市をただ抱きしめる岳人。
「大丈夫だよ。何かの間違いだ・・・きっと何かの間違いだから。」
岳人は動揺していたが、それをひたすら隠し通していた。
理解できない・・・義兄上が私と市を襲うなど有り得ぬ。
「若君。裏から二条御所へお逃げくだされ!!」
そこに鉄心が駆け込んでくる。
「いや・・・御所こそ危険だ。逃げるならばこの妙覚寺の中を利用させてもらう。」
岳人は首を横に振る。
「なんですと?」
「私の腕が上がったことも知っているだろ?」
「フッ・・・殿と違って豪胆な御方ですな・・・まあ我らが若君と市姫には誰一人近づけさせませんがな!!」
鉄心は笑みを浮かべるとまた乱戦の中へと駆け出していった。
「さあ・・・私も行くか・・・。」
岳人はお市の頬にくちづけをすると立ち上がった。
手には連発式の銃、槍を背負うと歩き出す。
「・・・ご武運を!!」
お市は涙をぬぐうと大声で叫ぶ。
岳人は振り返りお市を見ると親指を立てた。
「私・・・僕がいた時代の言葉で言うよ・・・アイル・ビー・バック!!」
「どういう意味?」
「必ず戻ってくるってこと。」
「絶対だよ!!」
乱戦の中へと足を踏み入れていく岳人を笑顔で見送ったお市。
しかし、溢れ出る涙を止めることができないのであった。
本能寺、妙覚寺の戦いはまだ終わりが見えてこない・・・
どのような結末を迎えるのであろうか。
塀に次々と梯子がかけられていく。
そして門を壊すべく破城鎚も準備されていた。
「全くもって気乗りせんがな。」
一言つぶやくのは森可成。
手には十文字槍を握り締めて破城鎚の脇に立っていた。
「門を打ち破ってくるだろうし、塀を乗り越えてくるだろう。どちらにせよ数が違う。」
光秀は兵たちを分けていた。
敵の主力が攻めてくるであろう表門に鉄砲隊を配置。
四方に兵を分散させてはいた。
「光秀・・・程々に戦ったら何とかして逃げてくれ。敵さんは私の首が欲しいのだから。」
私は光秀の隣に立つ。
「何を・・・殿が死ぬときは私も死ぬときです。」
光秀は笑みを浮かべる。
「さあて・・・伝説でも残しますか。なんかね、殿と一緒だと恐れなどなくなります。」
「純忠、もしも生き残れたら何でも望みをかなえてあげよう。」
私の言葉に喜ぶ純忠。
「じゃあ・・・美佳様と結婚ですな。」
「待て待て待て・・・殿、純忠だけズルいですよ。私にもないのですか?」
そこに慎之助が割り込んでくる。
「慎之助ももちろんどうぞ。」
「私も美佳姫を嫁にください。」
慎之助は私を見た。
「純忠、慎之助・・・それは却下。」
「おいおい、何でも叶えると言っただろ?」「約束守れよ、オッサン。」
その様子を見て兵たちが笑っている。
「山田の殿様が空気を変えたな。」
「こんなところで死なすの勿体無いだろ?」
「全くだな。」
慶次と五右衛門は門の柱の陰に隠れた。
そのときだった・・・どこからか新たなる兵たちの声が聞こえてくる。
「どうした?」
信長は本陣を構え腰を下ろしていた。
「六角軍です。」
駆け込んできた兵が言った。
「察知していただと・・・どういうことだ。」
信長は思わず立ち上がった。
「拙者は近江国守護六角義定が家臣蒲生賢秀だ。山田大輔殿に所用があって参った。道を開けてくだされ!!」
六角軍の先頭に立つ蒲生賢秀の声だが、織田軍は全く道を開ける気配がない。
「何故、本能寺を囲んでおるのだ。大和国守護の山田大輔殿は我らの盟友なれば助けぬわけにはいかぬ!!」
賢秀が右腕を上げると六角軍の陣形が変化した。
「ゆくぞ!! 山田殿を救うのだ!!」
六角軍は怒涛の勢いで織田軍に襲いかかった。
「殿、六角軍が攻めてきましたぞ!!」
織田家家臣佐々成政が信長に声をかける。
「適当にあしらえ・・・。」
「は?」
「聞こえぬのかァァ!!」
「ははッ!!」
成政は慌てて下がっていく。
殿・・・何があったのだ。
成政は小牧山城でのことを思い出していた。
「成政。」
「なんでございましょうか。」
「ワシにもやっと友という存在ができそうだぞ。」
信長は穏やかな顔で成政に言う。
「徳川殿は?」
「竹千代は弟じゃ。だが、山田殿は違う。野心の欠片も見当たらん。あのような男は見たことがないぞ。」
「私も是非お会いしたいものです。」
成政は信長や秀吉から聞いていた山田大輔の人柄から尊敬の念さえ抱いていた。
会ったこともない人間ではあるが、尊敬できる男だと感じたのだ。
「本当にあそこにおるのは殿なのか?我らの主君織田信長なのか・・・?」
そんな成政に声をかけるのは織田家家臣中条家忠。
「顔や声からしてどう考えても殿だろう。だが、木下殿と又左が行方知らずなのも気になる。」
成政は家忠と共に兵を集める。
既に前衛を突破した六角軍の勢いは圧倒的だった。
「あれが浅井に負け続けている六角の軍なのか・・・」
「敵将は蒲生賢秀・・・六角で最強の男だ。」
成政と家忠はお互いに顔を見合わせるとため息をついた。
そして本能寺の表門。
「門を破れッ!!」
森可成の声と共に門が打ち破られた。
織田軍の兵がなだれ込んでくる。
「撃てェェェ!!」
光秀の声と共に山田軍の鉄砲隊が一斉射撃。
連発式の銃の狙い撃ちで織田兵は次々と倒れていく。
その合間を縫って五右衛門と慶次もその剛剣で次々と織田軍の兵を斬り倒していく。
しかし、数が違い過ぎた。
織田軍の兵は塀を乗り越えて次々と侵入してくる。
「慎之助、純忠ァァ!!」
光秀は弓を構え次々と矢を放ち塀の上の織田兵を射落としながら叫ぶ。
「うおォォォッ!!」
純忠は鉄鏈を構えて織田軍の中に斬り込んでいく。
「ぐあッ!!」「ウぁッ!!」
山田軍の兵たちが一人の武将の槍の前に次々と倒されていく。
森可成である。
「貴様、これ以上はさせんぞォォ!!」
その前に慎之助が立ちはだかった。
「ほう・・・この織田の『攻めの三左』と知って挑むのか。」
森可成は十文字槍を構える。
「又左殿から聞いた森可成殿か・・・私は・・・俺は長滝慎之助。殿を守るために修羅でも悪鬼にでもなろうぞォ!!」
慎之助は槍を振りかざし周囲の織田兵を瞬く間に突き倒すと可成を睨みつけた。
その頃、裏手の門も打ち破られようとしていた。
「ヤバい・・・俺たち死ぬのかよ・・・。」
「大丈夫だって。我らには殿がいる。」
「一秒でも時間を稼ぐぞ。」
わずか五十名の山田軍の兵たちは震えながらも身構えていた。
そのとき、門の外が更に慌ただしくなった。
そして門が打ち破られる。
なだれ込む織田軍。
「えッ・・・。」
裏門を守っていた山田軍の兵たちは驚きの表情を浮かべていた。
織田兵は次々と背後から襲われて討ち取られていく。
「山田殿を守れェェェ!!」
朝倉軍が織田軍を追撃している。
その先陣を切る二人の武将の圧巻的な強さに織田兵達は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「元から俺は織田が気にくわなかったのだァァァ!!」
その手にするのは身の丈ほど長さの太刀。
朝倉家家臣真柄直隆である。
「兄上。急ぎますぞ・・・。」
その弟である真柄直澄は更に巨大な太刀を手にしていた。
人の身体の二倍ほどの大きさの太刀を一閃すると織田兵たちは恐怖のあまりへたり込んでいく。
「朝倉にもバケモノのような男たちがおるのか・・・」
山田軍の兵たちはその光景をただ茫然と見つめていた。
「・・・頼む・・・黒漆剣よ!!」
私は黒漆剣を抜いて天に掲げる。
すると空間が割れてその隙間から魑魅魍魎たちが次々と現れた。
「頼む。織田兵に憑りついてこい!!」
「おおォォォ!!」
私の声と共に魑魅魍魎の群れは織田兵に襲い掛かっていく。
「うわああ!?」 「ひえええ!!」
魑魅魍魎の出現により戦場は混沌状態と化した。
その隙に私は移動を試みるも
「いたぞ・・・山田大輔ェェ!!」
そこに織田兵が数名現れた。
「タダでは死にませんよ・・・。」
私も覚悟を決めて黒漆剣を構える。
しかし、その織田兵たちは次々と倒れていった。
血飛沫の中、現れたのは
「殿・・・ご無事で・・・」
真紅が全身に返り血を浴びながら歩いてくる。
「真紅・・・?」
だが、そのまま真紅は力なく倒れ込む。
なんと背中を大きく斬られていたのだ。
「殿様に・・・会いたくて・・・来ちゃった・・・。」
苦しそうな顔の真紅を私は思わず抱きしめる。
「ま、まさか・・・織田軍の中を?」
「わ・・・わたしもね・・・意外と強いんですよ・・・ガハッ!!」
吐血する真紅。
そう・・・真紅の通った後には織田兵たちの死体が山のように転がっていた。
「でも・・・幸せ・・・殿様に抱きしめてもらっております・・・。」
「もうしゃべらなくていいから・・・側室でも何でも許すから・・・死ぬな!!」
そんな瀕死の真紅を抱きしめる私の前に最悪の展開が待ち受けていた。
「山田大輔・・・覚悟してもらおうか・・・」
「信長ァァァ!!」
織田信長が現れたのだ。
手にした折れた槍を放り投げるとゆっくりと歩いてくる。
禍々しいオーラを漂わせながら虚ろな目で私を凝視していた。
「殿!!」
そこに光秀が駆け込んでくる。
そして信長を見ると弓矢を投げ棄てて刀を抜いた。
「殿・・・真紅を連れて裏門へお逃げください。朝倉軍が助けに来られました・・・。」
光秀は信長と対峙するも気圧されて後ずさりしていた。
間違いなく私では勝てぬ・・・いや・・・この男に勝てる者がおるのか・・・
信長の醸し出す圧倒的な強者の佇まいが光秀を戦わずして追い詰めていた。
しかし、光秀は大きく息を吸い込んだ。
「織田信長・・・覚悟ォォォ!!」
光秀は刀を振りかざし信長に飛びかかる。
信長は口元に笑みを浮かべると刀を抜き身構えた。
その頃、妙覚寺。
「なんと手強いのじゃ・・・。」
柴田勝家は焦りを隠せなかった。
山田軍の連発銃の威力もさることながら、統率のとれた戦い方に織田軍は苦戦していた。
およそ兵力差は十倍ではあるが、山田軍は誰一人絶望する者がいないのである。
「ぐあああッ!!」
槍を弾かれ大きく吹っ飛んで倒れるのは織田家家臣丹羽長秀。
それを見て織田兵たちは後ずさりする者も増えてきた。
「我が名は山田家第一の家臣滝谷六兵衛勝政。腕に覚えある者がおればかかってこい!!」
大刀を構えて織田軍を威嚇する。
「よし・・・俺が相手しよう。」
そこに清興がやってくる。
「島殿は勘弁してくれ。」
「俺も六兵衛とは嫌だがな・・・ハッハッハ!!」
清興は三つの生首を手にしていた。
橋介、良之、弥三郎だと・・・
倒れ込んでいた丹羽長秀はその三つの首を見て驚愕する。
信長の側近である長谷川橋介、佐脇良之、加藤弥三郎の首であった。
「何故・・・何故・・・兄上が・・・山田家を・・・岳人を・・・そしてあたしを・・・」
涙が止まらないお市をただ抱きしめる岳人。
「大丈夫だよ。何かの間違いだ・・・きっと何かの間違いだから。」
岳人は動揺していたが、それをひたすら隠し通していた。
理解できない・・・義兄上が私と市を襲うなど有り得ぬ。
「若君。裏から二条御所へお逃げくだされ!!」
そこに鉄心が駆け込んでくる。
「いや・・・御所こそ危険だ。逃げるならばこの妙覚寺の中を利用させてもらう。」
岳人は首を横に振る。
「なんですと?」
「私の腕が上がったことも知っているだろ?」
「フッ・・・殿と違って豪胆な御方ですな・・・まあ我らが若君と市姫には誰一人近づけさせませんがな!!」
鉄心は笑みを浮かべるとまた乱戦の中へと駆け出していった。
「さあ・・・私も行くか・・・。」
岳人はお市の頬にくちづけをすると立ち上がった。
手には連発式の銃、槍を背負うと歩き出す。
「・・・ご武運を!!」
お市は涙をぬぐうと大声で叫ぶ。
岳人は振り返りお市を見ると親指を立てた。
「私・・・僕がいた時代の言葉で言うよ・・・アイル・ビー・バック!!」
「どういう意味?」
「必ず戻ってくるってこと。」
「絶対だよ!!」
乱戦の中へと足を踏み入れていく岳人を笑顔で見送ったお市。
しかし、溢れ出る涙を止めることができないのであった。
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