マイホーム戦国

石崎楢

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第86話:本能寺の変 後編

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「ぐぬッ・・・」
光秀は片膝をつきながらも信長の一撃を必死に防いでいた。

「頑張るのう。素晴らしい忠誠心じゃ。」
信長の蹴りが光秀の顔面を捉える。

「ぐあッ・・・うう・・・」
唇が裂けて大量の血を流すも光秀は刀を手放さない。

「光秀・・・もう良い・・・私が死ねば良い・・・んぐ・・・」
私が言いかけるも意識のないはずの真紅が手を伸ばし口を塞いだ。
真紅の目から涙が流れている。

「日ノ本のため・・・争いのない世のため・・・殿を死なせるわけにはいかぬ。」
光秀はふらつきながらも立ち上がった。
既に全身は傷だらけではあるが、眼光だけは鋭く信長を見据えていた。

「ほう・・・ならばそろそろ先に死んでおけ。地獄で山田大輔を待っておれい!!」
信長は光秀の前に歩み寄ると刀を振るった。

殿・・・逃げてくだされ・・・

しかし、その信長の一撃は止められた。

あれ・・・身体が勝手に・・・

私は黒漆剣に操られるかのように勝手に身体が動いた。
その衝撃で信長の刀が真っ二つに折れる。

「よしっ・・・俺の友達・・・カモン!!」
私が叫ぶと次々と妖怪が現れて信長に飛びかかっていった。



その頃、慎之助と森可成は激闘を繰り広げていた。
互いの槍は閃光のように相手を捉えようとするも防がれる。

「なんと・・・又左にも引けを取らぬ腕ではないか・・・。」
徐々に劣勢に追い込まれている可成。

「・・・まだまだ・・・まだまだァァァ!!」
更に速度が上がっていく慎之助の槍。

「うおッ・・・うあッ・・・」
防ぎきれず全身を突き刺される可成。
そこに飛び込んでくる一人の若武者。

「父上!! 貴様ァァァ!!」
森可成の長子である森可隆だ。
不意をつかれた慎之助。

「慎之助ェ!!代われ!」
そこに純忠が割り込んできた。

「退け!!」
「退かねえ!!」

可隆の槍と純忠の鉄鏈が交錯する。

「純忠・・・後は頼む。私は殿の下へ急ぐ。」
「任せろ。」

慎之助は寺の奥へと走り去っていく。
純忠は笑みを浮かべながら次々と鉄鏈を振るう。

「くそ・・・手が読めんぞ。」
あっという間に追い込まれる可隆。
槍を弾かれて落としてしまう。

「どうした・・・この程度か・・・なにッ!?」
そのとき、寺から火の手が上がった。

「父上!!」
可隆は可成を抱きかかえると表門へと逃げていった。

「くそッ・・・。」
純忠は唇を噛み締めてうつむく。
表門からは織田軍が次々と突入していた。

少しでも減らす・・・一人でも多く織田の兵を道づれにしてやる。

純忠は鉄連を構えると織田軍の中に飛び込んでいった。

ただ一つの心残りは一馬の野郎が先に名声を上げたことか・・・
いや、どちらが強いかという決着を付けられなかったことだな。



そして五右衛門と慶次は織田軍の本陣にいた。

「くそがァァァ!!信長はどこだァァァ!!」
全身血まみれの五右衛門の絶叫がこだまする。
「おい・・・秀頼。信長はどこにおる?」
慶次は毛利秀頼の胸倉を掴んで持ち上げていた。

「殿は本能寺の中だ。利益殿・・・多分あれは殿ではないぞ。」
「なんだと?」
秀頼の言葉に思わず慶次は手を離した。

「殿のお姿と声をしておりましたが・・・ただ一つ違うところが・・・」
「なんだ?」
「どんなに乱心されても殿の目は・・・その輝きは我らの心を惹きつけた。しかし、今の殿は目が死んでいる。あれは殿ではない。」
そんな秀頼の言葉を聞いた五右衛門はすぐに本能寺へ戻るために走り出した。

「五右衛門!!」
慶次も慌てて後を追いかける。

あのとき疋田様が言っていた・・・上泉伊勢守と神後伊豆守の顔を持つ男・・・
信長に化けた?
まさか・・・信長は既に・・・これはヤバいぜ!!

五右衛門は乱戦の中を駆け抜けていった。



「魑魅魍魎だろうとワシには関係あらぬ。」
信長はなんと素手で妖怪たちを殴り倒していく。

「あんた・・・信長ではないな!!」
私は黒漆剣の切っ先を向けると冷静さを装って言ってみた。

しかし、返事することなく妖怪たちを次々と気絶させていく。
そのときだった。
私の着物の裾を誰かが引っ張っている。

「か・・・河童?」
「はい、私は河童でやんす。」

私は河童と会話している。

「このくのいちさんの怪我を何とかしてみるでやんす。だから御主人様は殴られている仲間たちを助けてくれでやんす。」
「わかった。」
私は黒漆剣を信長めがけて振るう。

「おおっ・・・予想以上の太刀筋!! やるではないか。」
大きく飛び退いた信長だが、その表情は余裕そのもの。

「さあ・・・塗り塗り・・・塗り塗り・・・」
河童は真紅の着物を脱がすと背中の傷に薬を塗り始める。

「河童の薬はよく効きますぜ。」
私に声をかけてきたのは妖怪油すまし。
「でもあやつは河童の中でも相当のエロ河童ですぜ。でへへ♪」

見ると真紅の露わになった美しい胸を河童は触ろうとしていた。

「モミモミしてもいいでやんすよね・・・」
「おい、河童・・・真紅の怪我の治療は感謝しますがねえェェェ!!」
「お許しィィィ!?」
私の強烈な黒漆剣の一撃で河童は空高く飛んで消えていった。

「そろそろお遊びは・・・なっ!!」
言いかけた信長に巨大な刀が振り下ろされる。
辛うじて躱すも床をも破壊するその威力に驚愕の表情を浮かべた。

「さあ・・・山田大輔様。裏手は我ら朝倉が確保しております。お逃げくだされ。」
身長2m以上はありそうな巨漢が巨大な太刀を信長に向けて威嚇している。
朝倉家家臣真柄直隆だ。

「これは予想できぬ・・・くっ!!」
更に鋭い槍の一撃を宙返りして躱した信長。

「この動き・・・まるで忍びではないか・・・織田信長!!」
慎之助だった。

「参ったのう・・・これではみすみす山田大輔を逃がすことになるではないか。」
信長はニタリと笑うと両手を広げて大きく息を吸い込む。

すると気絶していた妖怪たちが一斉に起き上がった。

「さあ、こいつらに憑りつくがよい。」

妖怪たちは虚ろな目で私たちの方へと向かってくる。

「おいおい・・・妖怪じゃねえか・・・動いているよ・・・」
真柄直隆はその巨体を震わせながら後ずさりしている。

どうなってるのだ・・・この信長は・・・

私にはこの状況が全く理解できなかった。
ただ後ずさりするばかりの私たちであったが・・・

そのとき、辺り一面を黒い霧が包み始める。

「悪いな・・・山田大輔は俺の個人的感情で逃がすぞ。」
黒装束の男が信長の身体を羽交い絞めにしている。

「黒炎・・・。」
私は思わずつぶやく。
そう・・・かつて京の都に魑魅魍魎を解放し、鞍馬山を窮地に追い込んだ黒炎だった。

「離せ、黒炎!!」
「さあ往け・・・また会う時はその黒漆剣を貰い受けるぞ。」

「すみません・・・。」
私たちは逃げ出した。
真柄直隆が光秀と真紅を抱えてくれている。

「殿様、無事かァァァ!!」
そこに五右衛門が合流してきた。

「兄上。山田の手練れの者を助けましたぞ。」
真柄直澄が気絶している純忠を抱えて走ってくる。
その後ろには慶次と毛利秀頼がいた。

「生き残っている者は裏門から逃げるのだ!!」
私は大声で叫ぶ。

すると傷つきながらも山田軍の兵の生き残りたちが集まってくる。

「逃がすかァァァ!!」
追撃してくる織田兵たち。

「殿様ァ!! 遅れてすまない!!」
そこに金蔵と権八が忍びたちを引き連れて現れた。
次々とクナイを投擲して織田兵たちを倒していく。
しかし、どう見ても山田忍軍ではない。

「甲賀の忍び衆だ・・・。」
五右衛門はつぶやいた。



時を同じくして妙覚寺では

「山田の若君を守れ!!」
援軍に訪れたのは若狭国の武田軍であった。
朝倉軍と共に都に常駐していた。

武田軍を指揮するのは、若狭武田家当主武田元昭の叔父にあたる武田信景。
三千の兵で総攻撃を仕掛けてくる。
十分の一の兵力の山田軍に気圧された上に武田軍に蹂躙されている織田軍。

「これではまるで負け戦ではないか。」
柴田勝家は嘆息する。
「退きましょう・・・無駄な戦でございます。」
負傷しながらも戻ってきた丹羽長秀が言う。

そこに元規が流星鎚を振り回しながら突撃してきた。

「おお・・・いたぞ!! 織田軍の大将とお見受けいたす。私は山田家家臣小原元規と申します。いざ・・・尋常に勝負。」
「小僧・・・ワシが柴田勝家と知ってのことか・・・。」

柴田勝家は槍を構えるも丹羽長秀が遮った。

「鉄砲隊前へ!!」
丹羽長秀の声と共に織田軍の鉄砲隊が前に出てきて元規に狙いを定める。

「させるかァ!!」
声を張り上げて馬に乗った英圭が鉄砲隊の中に飛び込んだ。
更にそこに現れた一団の忍び集団。
次々と織田の鉄砲隊に襲い掛かっていく。

「間に合った・・・。良かったぞ・・・。」
そうつぶやくのは甲賀忍軍の新頭領となった鵜飼成五。
鮮やかな太刀捌きで織田兵を斬り倒している。

「ぬう・・・退け・・・退くのだァァァ!!」
勝家の号令と共に織田軍は一斉に退却を始めた。
織田軍の兵たちもこの戦いに疑問を持つ者が多かったのだった。
一糸乱れぬ足取りで退却していく姿を見つめる六兵衛と清興。

「とても後味が悪い戦いでしたな。」
「ああ・・・本当だな。まあ無事で何より何より。」


そして妙覚寺の中では岳人がお市を抱きしめていた。

「勝った・・・勝ったというか退却していったんだけどね。」
岳人がお市の頭を撫でながら言う。
「岳人。わらわは尾張に兄を問い詰めに行きます。」
お市は涙を浮かべながら怒りの表情を見せる。

「そのときは私も一緒に行くよ。でもね、今はその時じゃないから。」
岳人はお市をなだめると更に強く抱きしめた。

父さん・・・父さんは無事だよね?



燃え上がる本能寺から撤退していく織田軍。
私たちはそれをただ見つめるだけであった。

「殿・・・生きている・・・ということは勝ったのね・・・」
真紅が私の腕の中で目を覚ました。

「ああ・・・勝ったよ、ありがとう。」
「う・・・うぅ・・・」
真紅は泣き出した。

「生きている・・・生きているって素晴らしいことだな。」
純忠も目に涙を浮かべていた。
その隣では力尽きたかのように眠っている慎之助。

「拙者、織田家家臣毛利秀頼と申します。山田大輔様・・・非礼をお詫びいたします。」
秀頼が平伏する。
「一体・・・信長殿の一連の行動はどういうことなのですか?」
私は毛利秀頼に問いかけた。

「まあ・・・殿様、後にしよう。今は休むだけだ。」
「そうだぜ!!」
五右衛門と慶次は地べたに寝転んだ。



こうしてイレギュラーな本能寺の変は幕を閉じた。
ここから時代が急変する。

群雄割拠の大戦国時代の幕開けへと繋がるのであった。
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