マイホーム戦国

石崎楢

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第101話:稲葉山城陥落

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1568年4月、美濃国稲葉山城。

浅井軍は軍備を整え、万全の態勢で織田軍の攻撃に備えていた。
旧斎藤の兵力も合わせて七千。
十分に織田軍の攻撃を堪え切れる計算をしていた。

朝倉は何があっても北近江に攻め入ることはない。
六角が相手ならば残した兵力で十分に渡り合える。

浅井長政は自信に満ち溢れていた。
そこに急使である。

「織田軍五千の兵で大垣城に入城した模様です。」
「なんだと・・・大垣城?」
長政は首を傾げた。

「もしやとは思いますが・・・。」
浅井家家臣の遠藤直経は焦りの表情を浮かべる。

まさかとは思うが・・・美濃を通り越して近江に侵攻するつもりか?

長政は拳を握り締めると叫んだ。

「先回りして奇襲をかける!!」
「お待ちくだされ。今、城を手薄にするわけにはいきますまい。」
「近江に織田を足の指一本でも入れさせるわけにはいかぬ。」
「まだ尾張には兵力が残っております。」
直経は必死になだめようとしているが

「二千の兵でも残りの織田の兵相手ならば守り切れる。この城はそういう城なのだ。」
長政は聞く耳を持たなかった。


数日後、大垣城を出陣した織田軍に対し浅井軍は五千の兵で奇襲をかけた。

「ワハハハ・・・造作もないことよ!!」
浅井軍を率いる猛将磯野員昌は槍を振るい縦横無尽に暴れまわっていた。

「待てい。これ以上はやらせんぞ。」
そこに立ちはだかったのは織田家家臣佐々成政。

「ワシが磯野員昌と知ってのことか?」
「拙者は近江の田舎侍のことなど知りませぬ。」
「この貧弱な尾張侍がァァァッ!!」
成政の挑発に怒り心頭の員昌は槍を構えて襲い掛かってくる。

「!?」
数合程渡り合うと、成政は槍を放り投げて馬首を転じて逃げ出す。

「貴様、逃げるのか?」
追いかけようとする員昌の前に更に一人の武将が立ちはだかった。

「拙者、織田家家臣塙直政と申す。いざ尋常に勝負!!」
織田家家臣塙直政は槍を構えると員昌に手招きして挑発した。

「ぐぬう・・・舐めおってからにィ!!」
いきり立つ員昌は標的を直政に変えて襲いかかる。
しかし、数合渡り合うと直政も馬首を転じて逃げ出した。

それに合わせて織田軍も退却を始める。

「大垣に逃げる気か・・・追うな。我らは殿の下に戻らねばならぬ。稲葉山城を手薄にするわけにはいかぬ。」
冷静になった磯野員昌であったが・・・


その後も幾度となく近江に攻め込む気配を見せる織田軍。
浅井長政はその度に兵を出してそれを未然に防ぐ。

そんな繰り返しの中、1568年5月だった。

またも織田軍が近江侵攻を企てたため、浅井長政は兵を出した。
そのとき、急使が駆け込んできた。

「織田軍七千の兵がこちらに向かっていおります。」

その報告を受けた長政はニヤリと笑った。

この城が欲しいだろうな・・・信長よ。
まあ渡さないがな。


そして織田軍は木曽川を渡ると美濃国伏屋に陣を構えた。

「さあ、城でも作るとするかのう。信盛?」
「ははッ。」

信長の命を受けて佐久間信盛は伏屋に築城の準備を始めた。

そのことはすぐに稲葉山城にも伝わる。

「悠長に城を築き始めていると? 信長め・・・舐めた真似をォォォ!!」
「これはさすがに我らを愚弄しておる。」

長政以下浅井家臣団も怒りを覚えていた。
しかし、その怒りは徐々に驚きへと変わっていく。
翌日には既に塀が完成していた。

「なんだ・・・わずか一夜にして塀が出来上がっておるぞ。」
浅井軍の兵たちの間に動揺が走る。

更に次の日には櫓が建ちはじめていた。

「信じられぬ・・・有り得ぬことだ。」
その報を受けて、さすがの浅井長政も驚きを隠せなかった。
「完成させてはなりませぬ。」
そこに遠藤直経が進言する。

さすがに目の前に拠点を作られては兵たちの士気に関わる。
特に斎藤家からの降兵は殿の器量に疑心暗鬼しているところだ。

直経には危惧することが余りに多いのだった。

「わかっておる。夜襲をかけるぞ。斎藤殿おられるか?」
「・・・はッ・・・ここに!!」

長政に呼ばれて斎藤龍興がやってきた。

「今宵・・・あの織田の城に夜襲をかける。勝ち負けではなく必ず火を放て。」
「ははッ!!」

その長政の言葉に龍興はしっかりと答えた。
しかし、その胸の内は・・・

フン・・・ワシを捨て駒にするか。
勝ち負けを気にせずだと・・・目にもの見せてくれよう!!


夜、稲葉屋城を出た斎藤龍興は二千の兵を率いて建造中の伏屋城に近づいていた。
城内には灯りが点り、夜通しで建造しているであろう音が辺り一面に響き渡っている。
建造中の城門前では織田軍の一隊が待機しているのがわかった。

「構わん・・・行くぞォ!!」
斎藤龍興の声と共に浅井軍は怒涛の勢いで伏屋城に突撃をかけてきた。

「浅井が来た・・・これはマズイ・・・逃げろ!!」
城門前の織田軍を指揮する織田家家臣蜂屋頼隆はそのまま城内に逃げ込む。

それを追いかけるように浅井軍は伏屋城内になだれ込んでいった。
そして龍興は驚きの光景を目にする。

「なんだと・・・張りぼてだと言うのか・・・。」
伏屋城の壁も建造中の櫓も張りぼてであった。
中はもぬけの空である。
しかもその塀に火が点いて一斉に燃え上がる。

「さあ・・・浅井軍よ。覚悟して貰おうか。」
逃げたはずの蜂屋頼隆率いる織田軍がそれに乗じて襲いかかってきた。


稲葉山城では燃え上がる伏屋城がはっきりと見えていた。

「腐っても『蝮の血を引く者』ということか。」
長政は笑みを浮かべていた。
遠藤直経以下の家臣団も笑顔で伏屋城夜襲の成功を確信していた。

その喜びも束の間である・・・すぐに希望は悪夢へと変貌していった。

「城下に火が放たれました・・・夜襲でございます!!」
稲葉山城の大広間に兵が駆け込んでくる。

「まさか織田か?」
冷静さを装いながら長政は聞く。

「飛騨の姉小路でございます!!」
「!?」
余りの予想外の出来事に長政や家臣団は言葉を失った。


城下に火を放ちながら攻めてきた飛騨国国司姉小路頼綱率いる三千の兵。

「これで良いのだろう信長公。」
姉小路頼綱は燃え上がる城下町を見つめてつぶやく。

「おのれ!! 姉小路め!!」
稲葉山城から浅井軍が打って出てきた。
遠藤直経を先頭に姉小路軍へと向かってくる。

「殿・・・!?」
姉小路の家臣の一人が頼綱に声をかける。

「大丈夫だ・・・。」
その頼綱の言葉と共に燃え上がる城下町に現れた織田軍。

「さあ・・・皆殺しじゃァァァ!!」
柴田勝家率いる三千の兵が稲葉山城へと突撃していった。

「なッ・・・城を守れ!!」
慌てる遠藤直経。
猛将磯野員昌は織田の近江侵攻を防ぐために出陣して不在である。
城内の兵力が余りに手薄なのだ・・・

しかしそのまま直経は織田軍と姉小路軍に挟撃されてしまう形となった。

更に東から稲葉山城内へと侵入していく織田軍。
丹羽長秀率いる二千の兵である。


これでは・・・全ては俺がただ信長の掌で踊らされていただけではないか・・・

浅井長政はただ茫然と城下の状況を見つめるだけであった。

「殿、逃げますぞ。」
浅井家家臣宮部継潤が言う。
「なんということだ・・・なんという屈辱・・・」
長政はそのままガックリとひざまずくだけであった。



「くッ・・・このまま逃げるしかない・・・者共ついてこい!!」

伏屋城を攻めていたはずの斎藤龍興率いる浅井軍は逆に追い立てられて敗走していた。
その中から斎藤家譜代の者たちだけを連れて稲葉山城とは真逆の南へと龍興は軍列を抜けて逃げていった。


翌朝、稲葉山城は開城した。
旧斎藤家家臣の不破光治は撤退する浅井軍に同行せずに織田軍に降ったのだ。

「ほう・・・良い眺めじゃ・・・。」
稲葉山城の天守閣から城下を眺める信長。

上手くいくもんじゃな・・・それにしてもこの織田信長という男を演じるのは面白いものじゃ。

勝利の余韻に浸る信長であったが、そこに信じられない報告が届いた。

「殿ォ!! 大変でございまするぞォ!!」
物凄い形相で駆け込んでくる佐久間信盛。

「どうした?」
「清州城が・・・清州城が奪われました!!」
「誰にじゃ?」
「の・・・信重様でございます!!」
信長は思わず放心状態で立ち尽くす。

「秀吉や利家も伴っておるとのこと・・・山田でございます。山田の力を借りて信重様が尾張に戻られたと。」
信盛自身も未だに信じられぬといった表情を見せていた。

「山田は丹波を攻めているのではないのか・・・」
信長には予想外の出来事だった。
山城国に送り込んでいた間者からは幕府からの命を受けて山田軍は丹波に向けて出陣したという報告があったからである。


そう・・・確かに山田軍は丹波へと出陣していた。

しかし、尾張国清州城では・・・

「帰ってきたぞ・・・帰ってきたんだ尾張に!!」
織田信重は喜びの声を上げている。
その前で秀吉や利家たちは笑顔を見せていた。


一体、どのようにして秀吉たちは清州城を奪い取ったのであろうか・・・

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