マイホーム戦国

石崎楢

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第131話:北畠最強の男

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「始め!!」
審判の声と共に向かい合う義成と大宮景連。
第二試合は互いに強さを意識し合う者同士の戦いとなった。

「高井義成は天才じゃ。日ノ本全体を探してもそうはおらぬ程じゃて。」
北畠具教が言う。
私もその言葉には納得だ。目に見えて成長している、しかも成長が止まらないのだ。

「でも景連は・・・また違うだブヒ。」
そこに北畠具房が気になる言葉を放った。

「そう・・・あやつは純粋なだけじゃ・・・。」


「ゆくぞ!!」
義成が槍を振るう。その鋭いひと突きに思わずのけぞる景連。

速い・・・確実に相手を殺るという一撃か・・・

そのまま身体を捻りながら反撃しようとするも、既に義成は次の攻撃を放っていた。

私はこの戦いが命の取り合いにならないか心配になっていた。
タンボ槍も喉元に強く入れば命の危険があるだろう。
先ほどの慎之介は冷静に戦っていたが、あれはある程度の実力差があったから成せる業。
この二人はそこまでの実力差はない。

「好きにさせんぞォ!!」

景連は義成の攻撃をひとしきり受け流すと一気に踏み込んで間合いを詰めてきた。

そろそろ私の番だろう。

景連は槍を振りかぶるとみせかけて義成のみぞおちに突いてきた。

「甘い!!」

義成は後ろに飛びのきながら足で景連の手を蹴り上げる。
その槍は宙に舞うとカランという音を立てて地面を転がった。

「チッ・・・」
景連は慌てて槍を拾うと大きく間合いを取る。

予想以上の強さではないか・・・高井義成。

「審判殿、得物を木刀に変えてもよろしいですか?」

そして槍から木刀へと得物を持ちかえる。

「ふう・・・。」
木刀を構えた景連の目つきが変わった。
先程の慎之介と同じく闘気のようなものが身体から溢れ出ている。

なんだ・・・雰囲気が変わった?

義成は警戒しながら槍を構えつつ間合いを少しずつ詰めていく。

「気を付けろ義成・・・少し違和感を感じる。」
景連の様子を見た清興がつぶやいた。

牽制してみるか・・・

義成は景連めがけて鋭い突きを振るった。
その瞬間だった。

「!?」
槍が真っ二つに折れた。
そして目の前にいるはずだった景連の姿がない。
動揺する義成。

「義成、後ろだ!!」
「わかっている!!」

一馬の声と共に景連は義成の背後を取っていた。
しかし、義成は気付いており景連の攻撃をかわそうとするも

「くッ・・・。」

着物が破れて鮮血がほとばしる。
義成は激痛に耐えながら大きく間合いをとった。
そして審判に頼み新しい槍に交換した。

「鈴鳴の太刀・・・完全に会得しおっておるわ。」
北畠具教は苦笑いを浮かべている。

「父上のよりも速いだブヒ。」
「ああ・・・それがあやつが北畠最強と云われる所以じゃ。」

北畠具房の言葉に具教はうなずくと鳥屋尾満栄を見る。

高井義成の武芸の才は大宮景連では及ばぬだろう。
だが、生まれながらの武があやつにはあるのじゃ。
そう・・・生まれながらの強者。


「ぐあああッ・・・」
鳥屋尾満栄の前に吹っ飛ばされる大宮景連。
満栄は大宮含忍斎の館で元服したての景連に稽古をつけていた。

倒れぬか・・・

どれだけ痛めつけても決して倒れない景連の姿に戦慄を覚えていた。
むしろ笑みを浮かべて向かってくる姿には狂気さえ感じてしまう程。


そして2年後、

「参ったぞ・・・。」
立ち合いで満栄は景連に敗北したのだ。
北畠具教から直々に伝授された秘剣の数々に屈してしまった。

大御所様の技だけではない・・・こやつは単純に強いだけじゃ。

純粋に勝利を喜ぶ景連の姿に諦め顔の満栄であった。


相性が最悪じゃねえか・・・万能な義成に対し際立った剣技の大宮景連。

五右衛門は自分が戦いたい素振りを見せていた。
それを見た慶次が声をかける。

「義成には大宮景連にはないものがあるだろうが!!」
「・・・フッ・・・そうだったな。」

それを聞いた五右衛門は笑みを浮かべる。
清興もうなずいた。


「もう一度喰らえ・・・鈴鳴の太刀!!」
景連の神速の剣が義成を襲う。

「くうッ・・・グッ・・・!!」

吹っ飛ばされながらも今度は義成の槍が折れることはなかった。
肩で息をしながら立ち上がったその眼光は鋭く輝いていた。


強い・・・赤井直正や飯田基次、青い装束の男・・・全くひけを取らんその強さ・・・。
だが、それはあくまでも生まれもった強さだ。
戦場で培われた真の強さではない。


「さすがだ。高井義成。貴殿のような強き者は初めてだ。それに敬意を表して我が奥義を見せよう。」
景連は太刀を下段に構える。

「フッ・・・是非味わいたいものだぜ。」
義成も槍を構えてそれに受けて立つ。

「奥義・・・破軍散牙斬はぐんさんがざん!!」
一気に踏み込んでいった大宮景連は下段の構えから義成を斬り払った。

「あの距離から・・・届くのか!!」
さすがの五右衛門や清興も驚きの表情を浮かべてしまう。

鮮血が再びほとばしった。
剣圧で着物を斬られた義成の身体から血が噴き出ている。
しかし、左手だけで槍を構えその致命傷に成り得る直撃を防いでいた。

「うぐ・・・あ・・・」
景連は白目を剥いた。
義成の右拳がカウンターとなってそのみぞおちを抉っていたのだ。

力なくうつ伏せに倒れ伏す景連。
後ずさりしながらも倒れることのない義成。

「勝負あり!! 勝者高井義成!!」

審判の声と共に歓声が上がる。

「まさか強さで上回りおったか・・・高井義成、見事じゃ!!」
思わず北畠具教が声を上げる。

「・・・痛え・・・ちょっと無理かも・・・」
義成は激痛に耐えながら係員に運ばれて陣営に帰ってきた。

「よくやったが、すぐに治療だ。」
私は賞賛よりも治療を優先させる。後からいくらでも褒めたたえてやろう。大事になったら褒めても意味を成さないのだから。

「幾度も死地を乗り越えてきたという差じゃな。」
鳥屋尾満栄は運ばれてきた景連に声をかける。

「完敗でございます・・・。」
眼に涙を浮かべた景連は力なく答えた。

「腕では引けは取らなかったが、やはりおぬしはまだまだ経験が足りぬ。いっぺん死んでみるのはどうじゃ?」
そんな景連の姿に北畠具教が問いかける。

「大御所様。それは・・・?」
「大輔殿に頼んでおぬしを客将として山田家に加えてもらおうということじゃ。」
「なんと!! よろしいのですか!?」
その具教の言葉に喜びを露わにする景連。

「戦場での経験を経て真の強さを得るがいい。さすれば真の北畠最強の男となるじゃろう。」

そう言うと北畠具教が試合場へと歩いていく。

「大御所様・・・次は拙者が・・・」
慌てて止めに入る鳥屋尾満栄に対し、具教は手で制止した。

「真の北畠最強の男を見せてやろう。勝っても負けても我らの戦いはこれで終いじゃ。」

試合場に立つ北畠具教は五右衛門を見つめる。

ありがてえ・・・あのときの続きってことだよな・・・
一度たりとも忘れたことはねえぜ!!

かつて吉野にてほんのわずかな時間だが、五右衛門と北畠具教は立ち合った。
続きがしたい。その思いは両者ともに強かったのだ。

「俺が行く。島殿、よろしいな?」
「好きにしろ。互いに求め合っている者同士を邪魔する訳にはいくまいて。」

五右衛門は清興の言葉に笑顔でうなずくと具教のもとへと向かっていった。


北畠具教対石川五右衛門。
この対決の行方はどうなるのか・・・

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