マイホーム戦国

石崎楢

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第135話:疑惑と策謀の都

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二条御所では将軍義栄を中心に幕臣たちが集まっていた。
永禄最強大武道会の初日が終わり、明日の計画を立てるためである。

「大輔殿がやはり順当に勝ち残り何よりじゃ。」
「だが、明日は甲斐の武田家が相手というのは辛いところですな。」
義栄と細川藤孝がトーナメント表を見ると複雑そうな表情を見せていた。

「それにしても姉小路は織田の猛将どもを配下に加えるとは卑怯ですな。」
幕臣の一人が声を上げる。

「誠にけしからん。しかし、それを真っ向から撥ね退ける上杉輝虎はそれ以上じゃ。」
近衛前久は満足気であった。
上杉家は見事に姉小路を打ち破ったのだ。

しかし・・・次の尼子は・・・厄介ですがな。

摂津晴門は思い出していた。
尼子陣営に居た一人の男のことを。

武輝丸なる男・・・あれはどう見ても義輝公ではないか。

「摂津殿は尼子が気になるようじゃな。」
近衛前久は晴門に声をかける。

「いえ・・・まあ・・・毛利に滅ぼされかけたところからの復活ぶりに・・・」
「違うであろう。」

まさか・・・近衛様も気付いていおられるというのか・・・!?

明らかに狼狽している晴門。

「我が妹の夫だった男を忘れるわけがあるまい。」
その耳元で前久はささやいた。

「されど・・・」
「恨みもあるじゃろう。まあワシもこの混沌が収まればいくらでも首なぞくれてやろう。だが、今は帝のもとで日ノ本をまとめねばならぬ。いずれ来るときのためにな・・・。」

近衛前久の視線の先に一人の男がいた。
幕臣の様だが、その鋭き眼光・・・灰月が幕臣に扮しているのだ。

ただ足利家の後を受け継ぐ者の選別だけではない・・・この武道大会には別の意味がある。

灰月と前久は互いにうなずきあうのだった。


京都大覚寺内の山田家宿舎。

「まずは比叡山では今川と里見が勝ち抜けました。」
比叡山での試合を偵察していた重治が言った。

「今川と里見はどちらが強い?」
五右衛門が興味津々に聞いてくる。

「五分でしょう。」

その重治の予想だにしない返答に私たちは驚くしかなかった。
今川の配下はどうみてもあの色装束の男たちだ。
一人一人が恐るべき猛者。
それに対し坂東の小国の里見家・・・互角とは・・・

そのとき、私は思い出した。

「八犬士か・・・。」

思わず声に出してつぶやいた八犬士という言葉。
そう、里見八犬伝・・・里見はその里見なのだ。

でも・・・時代が少しずれている。
百年はズレている。

小学生の頃、父に連れられて見に行った里見八犬伝の映画。
大人になりブルーレイを購入しているのだ。
そのぐらい里見八犬伝が好きなのだ。


「続いて大徳寺ですが、上杉と尼子になりました。どちらも圧倒的ですぞ。」
大徳寺での試合を見ていたの焔の陣内だった。

「義輝様がおられますからな。ただ上杉は武田同様に配下に傑物が多いと聞いている。」
「だが、三河の徳川を破った強さは本物ですぞ!!」
清興に対し陣内が首を横に振る。

「そこまでか・・・そこまで強いのか・・・尼子は?」
「飛鼠、霞丸、鬼石。この三名は義輝様と変わらぬ強さだと・・・」

陣内の言葉に一同戦慄が走った。

「面白れぇ・・・。こういう展開を待っていたぜ。」
「そうだな。日向の伊東といい安房の里見といい、そして隠岐の尼子といい畿内より離れた場所にどれ程の男たちがいるというのだ!!」
五右衛門と慶次はすぐにテンションが上がるも清興は冷静だった。

義輝様と同等の者が複数名同時に没落したはずの尼子に・・・?

その疑念は重治や一馬たちも同じであった。

「殿。尼子には何か裏があるかもしれませぬ。」
「義輝様がおられるとはいえ、用心に越したことはございませぬ・・・。」
一馬と義成の言葉に陣内がうなずいていた。

「陣内。ぬかりはないんだよね?」
「既に伊賀から手練れを複数名程、尼子の宿舎付近に配置しておりますぞ。」

私もわかっていた。尼子に裏があるということを。
しかし、それよりも義輝が狙われないかが心配だったのだ。


「最後に伏見稲荷でございます。」
伏見稲荷に偵察に出ていた鷲家計盛が帰ってきた。
本来は岳人とお市の警護の為に多聞山城からやってきたのだが、偵察を頼んでいたのだ。

「北条と毛利でございます。北条は風魔勢が恐るべき強さ。毛利は島津に競り勝ったという印象でございます。」
計盛の言葉に五右衛門の反応が一番大きかった。

「風魔は・・・俺が潰す。」
「俺もだ・・・若と市姫を狙いやがった連中を許すわけにはいかねえ。」
慶次もかつての岳人の結婚の際の風魔の奇襲を忘れることができなかったのだった。



その頃、比叡山では・・・

「首尾は上々だな・・・。」
今川氏真がいびきをかいている隣室で赤龍たちが密談をしていた。

「里見の連中はかなりの障壁になるぞ・・・もしやも有り得る。」
黄扤が不安げな顔を見せていた。

「どうした黄扤、オマエらしくないぞ。明日は俺以外で頼むぞ。」
九州最大勢力の大友家の猛者共を1人で撃破した緑霊は笑みを浮かべている。

「ある程度の加減が必要になってくる。それが面倒だということだ。ひと思いにやれるのであれば別だがな。」
黄扤の言葉に緑霊もうなずく。

「まあ・・・ともかくここが囲まれているということは事実じゃ。数はそこまで多くはないが。」
青彪が壁に掛けてあった槍を手にする。
白虎も無言で既に見構えていた。

「我らを狙う者共と言えば・・・決まっておろう。」
赤龍は青彪の手から槍を奪うと天井を突き刺した。

外したか・・・

「小賢しいな赤龍。今川の家臣に扮してまでとはな・・・。」

庭に一人の男が立っていた。

「ほう・・・これは久しいではないか・・・黒炎。」
「貴様、本当に我らから寝返るとはな・・・。」
赤龍を遮るように白虎が黒炎の前に立ちはだかる。

「寝返る?俺は一度たりとも貴様らを仲間だと思ったことはないが・・・何か?」
黒炎が言いかけたとき、黄扤が双刀を振りかざし襲い掛かってくる。

「紫恩が死んだのだぞ!!」
「・・・。」
黄扤の攻撃を無言でかわす黒炎。

「俺と貴様らはそもそも。俺は貴様らの国のことなど興味はない。」
「なんだとォ・・・」
「さあ・・・遊ぼうぜ・・・。」

黒炎は戦輪を指で次々と回し始める。
更にその背後から黒装束の男たちが数名現れた。
漆黒の夜空に白い雪が舞い降りてくる中、戦いが始まった。


その頃、大徳寺でもある男に危機が迫っていた。

「ウラァァァッ!!」
本田平八郎の剛槍の前に串刺しになる忍びたち。

「殿を守れ!!」
榊原康政も鮮やかな太刀捌きで次々と忍びたちを斬り捨てていく。

そのとき、家康の寝室の戸が大きく吹っ飛んでいった。
更に複数名の忍びたちの首が宙に舞う。

「いい度胸じゃ!! ワシが徳川家康だと知ってのことならば冥土の土産にするが良いわ!!」

完全に野獣の目と化した家康が刀を手に姿を見せる。

「織田信長でしょう・・・。」
渡辺守綱が槍で忍びたちを次々と突き伏せながら家康の隣に立つ。

「許せませぬ。」
安藤彦四郎も刀を手に家康を庇う様に立ち振る舞う。

「なるほどな・・・ワシをも容赦なく消そうとするか・・・。」
家康はとめどなく姿を現す忍びたちを見据えていた。

この数は多い・・・。

しかし、忍びの大群の動きが突然乱れ始めた。
次々と上がる血飛沫の中を長刀を振り回しながら現れる一人の男。

「尼子の武輝丸殿か!!」
「徳川殿。守綱殿ご無事か・・・。」

徳川と尼子の戦いで義輝は渡辺守綱と戦った。
槍半蔵の実力に驚嘆しつつも辛くも打ち倒したのである。

「ふう・・・徳川殿も襲撃されたか・・・。」
飛鼠と霞丸もやってくる。

「尼子の・・・もしや?」
「ああ・・・我らも襲撃された。撃退したがな・・・。」


尼子の宿舎にはおびただしい数の忍びの死体が転がっている。
山田家が配した伊賀の手練れたちと鬼石や山中鹿介たちが見事に撃退していた。


「ただ・・・我らを襲った忍びとは違う。どういうことだ・・・。」
義輝はそう言うと家康を見た。


家康を襲ったのは織田の忍び、しかし尼子を襲った忍びは正体不明である。
また黒炎による襲撃を受けた赤龍たち謎の集団。

都の夜に疑惑と策謀が渦巻いているのだった。
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