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第138話:天下無双の傾奇者
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「山田家三番手前田利益。」
慶次は槍をぶん回しながら前へと出ていく。
「武田家三番手保科正俊。」
武田家の槍弾正と謳われる名手保科正俊も槍を構えた。
「始め!!」
審判の声が響き渡るも両者共に動こうとしない。
互いの間合いを確かめ合うとかのように左右に少しずつ動いている。
「おお・・・慶次もただの猪じゃなさそうだぜ。」
五右衛門は慶次の動きを見て感嘆の声をあげた。
互いに槍を突かずして戦っている・・・戦場では考えられぬことだが、腕の優劣を決める立ち合いでは大切なこと・・・勝負はどちらが勝つにしても・・・長くはない。
清興の予感は的中することになるのだが・・・
ただ・・・らしくないぞ・・・慶次。
「故其疾如風。甲陽式槍術奥義・・・疾風剛虎槍!!」
突然、保科正俊は瞬時に間合いを詰めて高速の突きを放つ。
慶次はそれを既に見切ったかのようにかわしきった。
「む・・・無傷・・・だと・・・」
保科正直は慶次の姿を見て茫然とするしかなかった。
武田陣営は色めき立つばかりだが、信玄は表情一つ変えることはない。
「風を堪えても、林、火、山があるわ・・・のう正俊。」
そんな信玄のつぶやきは試合場に届くモノではなかったが、聞こえたかのように笑みを浮かべる保科正俊。
「次は俺のターンだな。ゆくぞォォォ!!」
慶次の強烈な一撃、叩きつけるかのような連続な攻撃が始まった。
「其徐如林・・・無想静林槍・・・。」
正俊は音も立てずに静かな流れるような足捌きでその攻撃をかわしていく。
更に・・・
「くッ・・・なッ・・・!?」
慶次の攻撃にカウンターを合わせての鋭い反撃。
次々と襲ってくる高速の槍だが、慶次も全て見切ったかのようにかわした。
「やるじゃねえか・・・ジイさん・・・!?」
慶次が再び間合いを取ろうとしたときだった。
「侵掠如火・・・烈火乱舞突!!」
保科正俊はその背後に回っていた。
そして凄まじい手数で槍を突きまくる。
「なんという重圧・・・なにッ・・・!?」
なんと慶次の着物から煙が出ている。その焦げた臭いに驚きつつも、何とかかわしながら逆に慶次は反撃を試みようとしていた。
しかし、その手数は減るどころか勢いを増していく。
防ぎきれねえ・・・ぐっ・・・
慶次は無意識のうちに後ずさりを始めていた。
「どうした・・・所詮は前田慶次郎利益といえどワシと比べれば場数が足りんわ!!」
正俊の声と共に慶次は自分の頬や肩から血が流れていることを察した。
俺が無意識に・・・この男に怯えている・・・? 違うだろ・・・違うだろうが・・・・
動きを止めた慶次郎に対し、保科正俊はとどめの一撃を繰り出す。
「不動如山・・・天威山砕撃ィィィッ!!」
俺は一体・・・何者なのだ・・・
薄れていく意識の中で慶次は自分自身に問いかけていた。
『お前に罪はない・・・慶次郎。全てはこの戦乱の世のせいじゃ・・・』
滝川一益の言葉が脳裏をかすめる。
『おぬしの強さ、立ち振る舞いが全ての者を魅了するのじゃ・・・。何にも囚われるな・・・慶次。』
養父である前田利久の優しき笑顔を思い出す。
ああ・・・そうだったな・・・何をしても俺は俺だ・・・
「俺が前田慶次郎利益だァァァッ!!」
その声と共に吹き飛ばされる保科正俊。
慶次の反撃の一撃はその槍をへし折っていた。
「・・・ま・・・まだじゃて・・・」
それでも何とか立ち上がろうとする保科正俊だったが、足が言うことを聞かず審判が試合を止めた。
「勝負あり・・・勝者前田利益!!」
慶次はそのまま保科正俊のところに歩み寄ると肩を貸す。
「大丈夫かい?ジイさん。」
「フハハハ・・・参ったのう・・・老いぼれ扱いとはな・・・」
そんな慶次に苦笑するしかない正俊。
「老當益壮・・・そういうことだ!!」
「たまらんのう・・・武田に欲しいぞ・・・この傾奇者が!!」
「ワハハハ!!」
豪快に笑いながら武田陣営に保科正俊を送り届けた慶次。
「・・・なんという漢じゃ・・・。次は誰が行く?」
その姿に信玄は感嘆のため息を漏らした。
「誰でも良いからかかってこぬかァァァッ!!」
試合場に戻った慶次は槍を手に仁王立ちすると啖呵を切る。
その堂々たる姿に我々も武田家も観衆も心奪われてしまった。
「まさしく傾奇者じゃ・・・。」
公家たちから拍手喝采が巻き起こる中、武田家から出てきたのは
「ワシが出る・・・ここいらで若い者に見せておかねばな・・・。」
名将”鬼美濃”の異名を誇る馬場信春だ。
1回戦でまさかの伊東祐信に喫した敗北。
若さと才気には勝てぬことはわかっておるが、どうせならばこの男と戦いたいわ・・・
審判からタンボ槍を受け取ると慶次と向かい合った。
「山田家前田利益はそのまま、武田家四番手馬場信春!!」
「これまた高名な馬場美濃守殿。嬉しい限りじゃァァァッ!!」
ド派手に見栄を切る立ち姿に再び観衆から拍手が巻き起こる。
「なんか慶次が大人気だな・・・。」
「くそッ!!」
清興と五右衛門はその様を恨めし気に見つめている。
「私の出番は?」
一馬も出番を失い悲し気に立ち尽くしていた。
「慎之介。」
「殿、何でございましょうか?」
「出番が来たら私と変わってくれ。」
「え?」
予想だにせぬ発言を聞かされたの慎之介の顔が面白い。
いや、それよりもこの戦いだ。
私も観ているだけでアドレナリンが出てきた。
今ならきっと真紅を喜ばせられるだろう。だが、それはしない。
「私も黒漆剣の正統伝承者だ、任せろ。」
それならば絶対に殿まで回さんぞ・・・俺で決める!!
このやり取りを聞いて我に返った一馬であった。
「始め!!」
審判の声と共に、慶次は一気呵成に馬場信春に飛びかかる。
来たかァ!!
満面の笑みを浮かべた馬場信春は真正面からその攻撃を受け止める。
お互いに防御を無視したかのような激しい打ち合いが始まった。
「さすが馬場信春・・・強い・・・。」
清興は馬場信春の戦いぶりに感嘆していた。
防御を無視しているかのようで絶妙なタイミングで慶次の攻撃を外している。
「あのオッサンの見切りが凄い・・・だから勝つには肉を切らせて骨を断つしかなかったのです。」
観衆の中にいたはずの伊東祐信が、いつの間にか治療を受けている厳勝の隣にいた。
「おぬしは日向伊東家の・・・」
「柳生厳勝殿、先程の戦いに胸打たれました。私は伊東祐信と申します。」
そして若き天才二人は慶次と馬場信春の戦いを食い入るように見つめていた。
「あの馬場というオッサンを捉えるのが難しいのです・・・果たして・・・」
「大丈夫。何せ、前田慶次郎利益は常軌を逸脱した御方だ。」
厳勝には確信していた。慶次の勝利を。
そしてその瞬間はすぐに訪れた。
「うおおおッ!!」
突然、槍を放り投げた慶次は馬場信春の槍を掴み強引に奪い取ろうとする。
その予想外の展開に明らかに動揺する信春。
「ガルルル・・・!!」
そして槍の取り合いの中で慶次は槍をへし折ってしまった。
「な・・・得物が・・・ぐはッ・・・がはッ!?
そのまま慶次は馬場信春の顔面に拳を打ち込んでいく。
そして振り返ると山田陣営へと引き返していった。
その向こうでは白目を剥いて崩れ落ちていく馬場信春の姿。
「勝負あり!! 勝者前田利益!!」
まさしく天下無双の好漢というべきか・・・天下無双の傾奇者というべきか・・・
その堂々たる後姿に武田信玄はただ感嘆するだけだった。
慶次の二人抜きで山田家は完全に優位に立った。
しかし、武田にはまだ真田や土屋昌続など強き者が控えているのである。
次なる戦いは果たして・・・
慶次は槍をぶん回しながら前へと出ていく。
「武田家三番手保科正俊。」
武田家の槍弾正と謳われる名手保科正俊も槍を構えた。
「始め!!」
審判の声が響き渡るも両者共に動こうとしない。
互いの間合いを確かめ合うとかのように左右に少しずつ動いている。
「おお・・・慶次もただの猪じゃなさそうだぜ。」
五右衛門は慶次の動きを見て感嘆の声をあげた。
互いに槍を突かずして戦っている・・・戦場では考えられぬことだが、腕の優劣を決める立ち合いでは大切なこと・・・勝負はどちらが勝つにしても・・・長くはない。
清興の予感は的中することになるのだが・・・
ただ・・・らしくないぞ・・・慶次。
「故其疾如風。甲陽式槍術奥義・・・疾風剛虎槍!!」
突然、保科正俊は瞬時に間合いを詰めて高速の突きを放つ。
慶次はそれを既に見切ったかのようにかわしきった。
「む・・・無傷・・・だと・・・」
保科正直は慶次の姿を見て茫然とするしかなかった。
武田陣営は色めき立つばかりだが、信玄は表情一つ変えることはない。
「風を堪えても、林、火、山があるわ・・・のう正俊。」
そんな信玄のつぶやきは試合場に届くモノではなかったが、聞こえたかのように笑みを浮かべる保科正俊。
「次は俺のターンだな。ゆくぞォォォ!!」
慶次の強烈な一撃、叩きつけるかのような連続な攻撃が始まった。
「其徐如林・・・無想静林槍・・・。」
正俊は音も立てずに静かな流れるような足捌きでその攻撃をかわしていく。
更に・・・
「くッ・・・なッ・・・!?」
慶次の攻撃にカウンターを合わせての鋭い反撃。
次々と襲ってくる高速の槍だが、慶次も全て見切ったかのようにかわした。
「やるじゃねえか・・・ジイさん・・・!?」
慶次が再び間合いを取ろうとしたときだった。
「侵掠如火・・・烈火乱舞突!!」
保科正俊はその背後に回っていた。
そして凄まじい手数で槍を突きまくる。
「なんという重圧・・・なにッ・・・!?」
なんと慶次の着物から煙が出ている。その焦げた臭いに驚きつつも、何とかかわしながら逆に慶次は反撃を試みようとしていた。
しかし、その手数は減るどころか勢いを増していく。
防ぎきれねえ・・・ぐっ・・・
慶次は無意識のうちに後ずさりを始めていた。
「どうした・・・所詮は前田慶次郎利益といえどワシと比べれば場数が足りんわ!!」
正俊の声と共に慶次は自分の頬や肩から血が流れていることを察した。
俺が無意識に・・・この男に怯えている・・・? 違うだろ・・・違うだろうが・・・・
動きを止めた慶次郎に対し、保科正俊はとどめの一撃を繰り出す。
「不動如山・・・天威山砕撃ィィィッ!!」
俺は一体・・・何者なのだ・・・
薄れていく意識の中で慶次は自分自身に問いかけていた。
『お前に罪はない・・・慶次郎。全てはこの戦乱の世のせいじゃ・・・』
滝川一益の言葉が脳裏をかすめる。
『おぬしの強さ、立ち振る舞いが全ての者を魅了するのじゃ・・・。何にも囚われるな・・・慶次。』
養父である前田利久の優しき笑顔を思い出す。
ああ・・・そうだったな・・・何をしても俺は俺だ・・・
「俺が前田慶次郎利益だァァァッ!!」
その声と共に吹き飛ばされる保科正俊。
慶次の反撃の一撃はその槍をへし折っていた。
「・・・ま・・・まだじゃて・・・」
それでも何とか立ち上がろうとする保科正俊だったが、足が言うことを聞かず審判が試合を止めた。
「勝負あり・・・勝者前田利益!!」
慶次はそのまま保科正俊のところに歩み寄ると肩を貸す。
「大丈夫かい?ジイさん。」
「フハハハ・・・参ったのう・・・老いぼれ扱いとはな・・・」
そんな慶次に苦笑するしかない正俊。
「老當益壮・・・そういうことだ!!」
「たまらんのう・・・武田に欲しいぞ・・・この傾奇者が!!」
「ワハハハ!!」
豪快に笑いながら武田陣営に保科正俊を送り届けた慶次。
「・・・なんという漢じゃ・・・。次は誰が行く?」
その姿に信玄は感嘆のため息を漏らした。
「誰でも良いからかかってこぬかァァァッ!!」
試合場に戻った慶次は槍を手に仁王立ちすると啖呵を切る。
その堂々たる姿に我々も武田家も観衆も心奪われてしまった。
「まさしく傾奇者じゃ・・・。」
公家たちから拍手喝采が巻き起こる中、武田家から出てきたのは
「ワシが出る・・・ここいらで若い者に見せておかねばな・・・。」
名将”鬼美濃”の異名を誇る馬場信春だ。
1回戦でまさかの伊東祐信に喫した敗北。
若さと才気には勝てぬことはわかっておるが、どうせならばこの男と戦いたいわ・・・
審判からタンボ槍を受け取ると慶次と向かい合った。
「山田家前田利益はそのまま、武田家四番手馬場信春!!」
「これまた高名な馬場美濃守殿。嬉しい限りじゃァァァッ!!」
ド派手に見栄を切る立ち姿に再び観衆から拍手が巻き起こる。
「なんか慶次が大人気だな・・・。」
「くそッ!!」
清興と五右衛門はその様を恨めし気に見つめている。
「私の出番は?」
一馬も出番を失い悲し気に立ち尽くしていた。
「慎之介。」
「殿、何でございましょうか?」
「出番が来たら私と変わってくれ。」
「え?」
予想だにせぬ発言を聞かされたの慎之介の顔が面白い。
いや、それよりもこの戦いだ。
私も観ているだけでアドレナリンが出てきた。
今ならきっと真紅を喜ばせられるだろう。だが、それはしない。
「私も黒漆剣の正統伝承者だ、任せろ。」
それならば絶対に殿まで回さんぞ・・・俺で決める!!
このやり取りを聞いて我に返った一馬であった。
「始め!!」
審判の声と共に、慶次は一気呵成に馬場信春に飛びかかる。
来たかァ!!
満面の笑みを浮かべた馬場信春は真正面からその攻撃を受け止める。
お互いに防御を無視したかのような激しい打ち合いが始まった。
「さすが馬場信春・・・強い・・・。」
清興は馬場信春の戦いぶりに感嘆していた。
防御を無視しているかのようで絶妙なタイミングで慶次の攻撃を外している。
「あのオッサンの見切りが凄い・・・だから勝つには肉を切らせて骨を断つしかなかったのです。」
観衆の中にいたはずの伊東祐信が、いつの間にか治療を受けている厳勝の隣にいた。
「おぬしは日向伊東家の・・・」
「柳生厳勝殿、先程の戦いに胸打たれました。私は伊東祐信と申します。」
そして若き天才二人は慶次と馬場信春の戦いを食い入るように見つめていた。
「あの馬場というオッサンを捉えるのが難しいのです・・・果たして・・・」
「大丈夫。何せ、前田慶次郎利益は常軌を逸脱した御方だ。」
厳勝には確信していた。慶次の勝利を。
そしてその瞬間はすぐに訪れた。
「うおおおッ!!」
突然、槍を放り投げた慶次は馬場信春の槍を掴み強引に奪い取ろうとする。
その予想外の展開に明らかに動揺する信春。
「ガルルル・・・!!」
そして槍の取り合いの中で慶次は槍をへし折ってしまった。
「な・・・得物が・・・ぐはッ・・・がはッ!?
そのまま慶次は馬場信春の顔面に拳を打ち込んでいく。
そして振り返ると山田陣営へと引き返していった。
その向こうでは白目を剥いて崩れ落ちていく馬場信春の姿。
「勝負あり!! 勝者前田利益!!」
まさしく天下無双の好漢というべきか・・・天下無双の傾奇者というべきか・・・
その堂々たる後姿に武田信玄はただ感嘆するだけだった。
慶次の二人抜きで山田家は完全に優位に立った。
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