マイホーム戦国

石崎楢

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第139話:姫から鬼へ

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その頃、各所でも激戦が続いていた。
比叡山では今川家と里見家の戦いでは・・・

「待て!!この勝負引き分け!!」

第三試合を終えて三戦連続で引き分けである。
疲労困憊で戦いを終えた緑霊の姿。

「あの者共の力は・・・必要不可欠かと・・・あの御方のためにも・・・」
座り込んだ緑霊に竹筒を渡す青彪。

「白虎がいきなり分けた時点で雲行きが怪しくなっておったが、黄扤に続いてまさかオマエまでも分けるとは。」
「どうやらここのところ我が将星が輝きを失っている。紫恩の次は私かもな・・・。」
緑霊は竹筒の水を飲み干すと天を仰いだ。

「誰一人・・・もう失うわけにはいかぬ・・・誓ったであろう。もう一度に立つ時は誰一人欠けてはならぬと。」
そう言った赤龍が全身に闘気をみなぎらせながら試合場へと入っていく。

「よくも悪くも冷静な男・・・赤の色にそぐわぬからこそ我らをまとめてこれた・・・。」
白虎が口を開く。
「それが紫恩を失ってから我を見失っておる。皆、そうだ・・・我らの強さ・・・強者である理由を思い出さねば勝てんぞ。」
橙騎の重い口調はまるで自分自身に言い聞かせるようであった。

「今川家四番手赤龍!!」

赤龍は二刀流で構えを見せる。

「里見家四番手川獺丸!!」

里見家陣営から出てきたのは女子と見間違えるような可愛い顔をした少年だった。

犬じゃねえ・・・殿・・・今まで誰一人犬ではないぞ・・・

この試合を偵察している竹中半兵衛重治の眼が死んでいた。
里見家の八犬士の由来はそれぞれの苗字に犬の字が入っている・・・そのはずだった。
だが、この新生八犬士は・・・

第一試合が獅子丸、第二試合が狐火介、第三試合が蛇尾丸、そして川獺丸・・・絶対に偽名だ・・・こいつら偽名だ!! しかもその裏には何かがあると見える。

勝負を楽しんでいるかに見える里見陣営を見た重治は確信するのであった。



伏見稲荷では・・・

「ぐわッ・・・。」
北条陣営の侍が倒れ伏す。

「勝負あり!!勝者吉川元資。」

勝ち名乗りを受ける吉川元資は違和感を感じていた。
おかしい・・・こんなはずはない・・・。

第五試合を終えて毛利家は五連勝していた。
動揺しているはずの北条陣営。確かに当主の北条氏政は取り乱しているが、その家臣たちは平然としている。

「むッ・・・。」
同じく違和感を感じていた毛利家軍師口羽通良。
北条陣営の側にいる一人の男の存在に気が付いた。

宇喜多直家・・・何故そこにおる・・・

浦上家家臣宇喜多直家は北条陣営にまるで入り込んでいるがのようにふるまっていた。
戦国時代で最凶の謀将としてある意味でカリスマ化されている宇喜多直家。
毛利家にとって尼子の山中鹿介と並ぶ要注意人物として挙げられていた。

「刑部・・・気付いておったか。あの奸臣がおったことを。」
小早川隆景が口羽通良に耳打ちする。

「悪い予感がしますぞ。」
「ああ・・・それも踏まえた上でを動かした。」
「なんと・・・都に呼び寄せておられたと。」
「何をするかわからんかが、難儀じゃったが・・・とある御方に協力をしていただいた。此度の武道会にも参陣されておる心があまりに広すぎる御方じゃ。」

小早川隆景はそう言うと一人席を立つのだった。
その視線の先には山田家家臣鷲家計盛の姿があった。


そして大徳寺。

大きく吹っ飛ばされて地面に叩きつけられるのは飛鼠。
肩で息をしながら何とか立ち上がった。
その端正な顔も全身も既に傷だらけであり、見るからに満身創痍。
しかし、その眼は倒れる度に野獣のような鋭さを増していく。

「おぬしのような者は初めてじゃ・・・ワシにこれだけの傷を負わせ倒れても倒れても立ち上がりおる。」
上杉家家臣の鬼小島こと小島弥太郎は立ち上がる飛鼠の姿を見つめていた。
全身に傷を負い、頭部から出血さえしているが平然とした表情であった。


「弥太郎とここまでやれる名も知れぬ男がおったとは・・・日ノ本はどこまで広いのじゃ」
上杉輝虎は飛鼠の姿に感嘆していた。

「・・・飛鼠・・・あの鬼小島を相手にここまでとは・・・・」
尼子陣営内の霞丸がため息交じりでつぶやく。
鬼小島の勇名は出羽国にまで広まっていたのだ。
いつかは戦わねばならぬ相手だと霞丸は感じていたが、初めて目の当たりにした強さに戦慄していた。

だが・・・飛鼠・・・何故、おぬしは諦めないのだ・・・


両者の試合が始まって間もなく・・・

「くッ・・・マジで強え・・・。」
飛鼠はそうつぶやくと口元の血をぬぐった。

「ちょこまかと動きおるが、そのような攻撃ではワシには及ばぬぞ!!」
小島弥太郎は槍を次々と繰り出す。
恐ろしいまでの速さと重さの攻撃。飛鼠は木刀で弾くたびに手首が折れるかのような衝撃を感じていた。

仕方ねえ・・・山田家の連中と戦うまで隠しておきたかったが・・・

飛鼠は更に動きの速さを上げた。まるで分身するかのような速さで動くと弥太郎の一撃をかわしてその腕に乗る。

「なんだとォゥ!?」

焦る弥太郎を尻目にそのまま回転しながら斬りかかる。

轟雷旋回撃ごうらいせんかいげき!!」

飛び散る血飛沫、そして弥太郎の巨躯が倒れていく。

勝った・・・まあ・・・こんなも・・・

勝利を確信した一瞬の隙、飛鼠の身体が宙に舞った。
そして激しく地面に叩きつけられる。
まるで全身がバラバラになったかのような衝撃に悶えつつ、目を見開くと

初見で見切られたってヤツかい・・・

「なんと凄まじき剣よ。ワシが血を流したのは川中島以来かのう・・・。」
頭から血を流しながら満面の笑みを浮かべて仁王立ちしている小島弥太郎の姿だった。



「ふう・・・ふう・・・ウオォォォッ!!」
飛鼠が声をあげた。その身体には更なる闘気のようなものがほとばしっている。

俺は・・・負けない・・・俺は・・・俺も鬼だ・・・


遡ること1560年、土佐国での長浜の戦い。
長宗我部氏と本山氏による激戦は長宗我部の長浜城奪取により戸ノ本の戦いへと移行していた。

「圧倒的に不利じゃないの・・・。」
長宗我部家嫡男の元親はこのとき齢二十二、余りにも遅すぎる初陣である。

「いたぞォォ、長宗我部の姫若子じゃァァ!!」
本山軍の兵たちが元親めがけて群がってくる。

「若君を守れ!!」
周囲の兵たちが必死に食い止める。

「佐吉、茂蔵・・・構わん・・・逃げろ!!」
元親は幼少期から顔馴染みの兵たちに声をかける。
しかし、彼らは振り返って笑みを浮かべると本山軍へ特攻していった。

俺は・・・戦いたくないのじゃ・・・何故、人と人が殺し合わねばならぬ・・・

「兄上!! 危ない!!」
そんな元親に襲い掛かる本山軍の騎馬隊。
それを単騎で打ち払うのは元親の弟である長宗我部親貞。

殺し合いなどせんでも話し合えば良い・・・何故、話し合うことができぬ・・・

「兄上・・・うわッ・・・」
激戦の中でバランスを崩した親貞が落馬した。
そこに群がっていく本山軍の騎馬隊。
その光景を見ていた元親の中で何かが弾けた。

「!?」
それは戦慄の瞬間であった。
あっという間に本山軍の騎馬隊が鮮血と共に吹っ飛ばされていく。

「あ・・・兄上・・・」「若君・・・?」

親貞や佐吉、茂蔵たちの視線の先には野獣のような眼光を放つ一人の騎馬武者がいた。

「ウオォォォッ!!」
元親は咆哮を上げると本山軍へ単騎で突貫していくのであった。

そしてこの戦いの後、土佐の姫若子は鬼若子と呼ばれるようになる。



飛鼠は木刀を投げすてると槍に持ちかえた。
その異様な雰囲気に思わず後ずさりしている小島弥太郎。

ワシが・・・ワシが無意識に後ずさりしていると・・・

その瞬間、飛鼠が槍を振るって飛び込んできた。

「させぬゥゥゥ!!」

弥太郎も槍を振るった。

次の瞬間、折れた槍が宙を舞っていく。
小島弥太郎の手の中の槍が真っ二つに折れていた。
そして飛鼠のタンボ槍の穂先がその喉元ぎりぎりで止まっていた。

こやつ・・・立ったままで気を失っておるのか・・・

飛鼠は槍を突き出したまま動かなかった。

「し・・・勝負あり!! し・・・勝者小島・・・」
「待てい!!」

審判の声を制止した弥太郎は飛鼠を抱きかかえると尼子陣営へと連れていく。
そして義輝と目を合わせると口を開いた。

「お久しぶりでございます。生きておられてワシは嬉しいですぞ。」

その言葉に笑みを浮かべた義輝は飛鼠を抱きかかえる。

「本当は俺はお前と戦いたかったがな・・・」
「ありがたきお言葉、しかし・・・ワシはこの飛鼠に負けもうした。戦場ならば死んでおります。」

そう言い残した弥太郎は審判に耳打ちすると上杉陣営へと戻っていく。

「し・・・勝者・・・飛鼠!!」

観衆たちの拍手喝采が鳴り響く中、飛鼠は穏やかな顔に変わっていた。

「弥太郎・・・おぬしが負けたのは初めてじゃな・・・。」
上杉輝虎が声をかける。

「違いましょう・・・ワシは殿に一度たりとも勝ったことがございませぬ。」
小島弥太郎の返答に上杉家家臣団は驚愕の表情を浮かべた。

せっかく生きておられたのなら・・・一度やりますか?

輝虎は尼子陣営の義輝へ視線を投げかける。

そう急かすな・・・まだ戦いは続くだろうが・・・

それに対し、義輝は笑みを浮かべるのだった。

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