マイホーム戦国

石崎楢

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第140話:好敵手!!一馬対昌続

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「武田家五番手土屋昌続!!」

土屋昌続は槍を手にするとゆっくりと試合場に入っていく。

「山田家四番手芳野一馬!!」

「よっしゃァァァ!!」
気合十分の一馬は両手に槍を持つと私を見た。

いや・・・本当に私は出る気満々だから!!

私の闘志あふれる態度に呆れたジェスチャーを見せると一馬は試合場に立った。

「大分熱くなっているな・・・心配だ。」
休憩を終えた義成が戻ってきた。
「そうだな。相手は土屋殿だ・・・伊東家との戦いを見る限りかなりの手練れ。」
慎之介は落ち着きがない。
そわそわしながら私の方をチラ見してくる。

そんな顔するなって・・・出たいのか? そこまで戦いたいのか慎之介?

そんな無言のやり取りの最中、

「始め!!」

審判の声と共に一馬と土屋昌続は互いに得物を構える。

これが双槍・・・どのように扱うというのだ・・・

土屋昌続にとって双槍というものは初見になる。
ほとんどの者が一馬と戦場で相対すると戸惑わざるを得ない。

「二本の槍とは・・・間合いを測れば自在の攻撃を繰り出せるだろうが、防御には向いておらぬし、懐に飛び込めば造作もないじゃろう。」
次に控えている真田信綱はそのように解釈していた。
しかし、その父である真田幸隆は首を横に振っていた。

「だが、あの三好政康に勝利し生け捕りにしたのじゃ。我らの予想を覆すモノなのかもしれぬぞ。」
その幸隆の言葉は敗戦続きの武田陣営に重くのしかかるのだった。

最早、試すなどという余裕はないぞ・・・

土屋昌続は思い切り踏み込んで槍を突いた。
二本の槍でそれを軽く受け流すと一馬が今度は一気に間合いを詰めていった。
その双槍から繰り出される攻撃は変幻自在。

これが・・・双槍か・・・。

昌続はめざとく防いでいくも防戦一方になりつつあった。

強いな・・・どれだけ誘い込んでも踏み込んではこないか。

一馬は時折、隙をつくって誘い込んでいるが昌続が応じてこないことに感嘆していた。


「一方的ではないな。かなり技量的には拮抗しているぞ・・・。」
清興が私の隣に座りこむとそうつぶやく。

「ああそうだな。一馬の誘いに応じない土屋殿。土屋殿の罠に勘付いて強く踏み込めない一馬。面白いな。」
「え!?」
そんな私の言葉に驚きを隠せない清興。

「殿・・・わかるのか?」
「わかるよ。」
「そうでございますか・・・。」

なんか清興の口調が変わったぞ・・・どうしたのだ。

まさか・・・殿は本当に坂上田村麻呂様の・・・。だとすれば、今までの無礼をどうやってチャラにできるのか・・・できねえだろうなあ・・・

私と清興も腹の探り合いも始まったが、一馬と土屋昌続の戦いもギリギリの駆け引きが続いている。

「さすがだな・・・土屋殿ォ!!」
一馬が双槍を振りかざし次々と高速の攻撃を仕掛ける。

「ふう・・・芳野殿の相手は難儀極まりないぞォ!!」
巧みな槍捌きでそれを全て弾き返す昌続。
そしてそこから左右に細かく動きながら様々な角度から槍を突き返していく。

「徐々に互いに我慢が出来なくなってきたみたいだな。」
「ああ・・・やはりこうでなくては面白くないだろう。一馬も土屋昌続もな!!」
五右衛門と慶次も身を乗り出して戦いを見つめていた。

「くッ・・・」
「チッ・・・」

互いの頬を槍がかすめると鮮血が飛び散る。
しかし退くことなく両者は眼を見開いて打ち合いを続ける。

「芳野殿はなんかそういう奥義みたいなものはないのか?」
激しい打ち合いの中、昌続が口を開いた。

「まだ完成しておらぬ・・・土屋殿はどうなのだ?」
そう聞き返した一馬に対し昌続はニヤリと笑う。

「では味わってもらおう・・・我が必殺の槍をォォォ!!」

土屋昌続が構えた槍の穂先が小さな円を描いていく。
そのときだった。

「ウルァァァ!!」
突然、表情を一変させた一馬が左手の槍を投げつけてきたのだ。

「なッ!?」
慌てて弾き飛ばす昌続だったが、一瞬だけ一馬の姿を見失ってしまった。

どこだ・・・

「!!」
一馬は大きく飛び上がっていた。
そのまま両手で思い切り槍を振り下ろす。

「まだだ!!」
なんとその渾身の一撃を仰け反ってかわしきる昌続。

「承知の上だッ!!」

しかし振り下ろした反動を利用してそのまま槍を突き上げる一馬。
土屋昌続はその槍を力強く弾き返したが・・・

「ぐッ・・・ぐお・・・」
そのみぞおちに槍の一撃が入っていた。
一馬は投擲した槍を拾い、双槍に切り替えていたのだった。

「勝負あり!! 勝者芳野一馬!!」

審判の声と共に一馬は喜びのガッツポーズを決めた。
そして傍らでうずくまっている昌続に声をかける。

「土屋殿。楽しかったですぞ。」
「ああ・・・私も同じだ・・・負け惜しみだが、次は先程のような手は通じんぞ・・・。」

両者が健闘を称え合う姿に場内は拍手喝采。
一馬は昌続に肩を貸す。

「大丈夫だ・・・礼を申す。」
「いいってことよ。」

その光景を微笑みながら武田信玄は見つめていた。

「このぐらいで良いかのう・・・。山田には島左近に石川五右衛門も控えておる・・・あまりに怪我人を出すとこれからに響きそうじゃ。」

信玄はそうつぶやくと真田幸隆を見た。

「殿の思いのままに・・・。」

やや口惜し気な真田信綱だったが、苦笑いを浮かべるしかなかった。


「さあ・・・役者は揃ったな・・・私の出番だ!!」
私は木刀を片手に試合場へと歩き出す。

「ほんとに行きやがった・・・殿ォ・・・。」
出番を奪われた慎之介が泣きそうな顔でつぶやいている。
それも耳に入っていたが関係はない。

私も魂を震わせる戦いがしたいのだ・・・。
実際にあの生駒山での修行の日々、本能寺での命の危機・・・私を強くさせてくれたはず。

「おお・・・山田は当主自ら出おったか・・・ならばワシがゆくかのう・・・。」
「殿?」

武田信玄は木刀を手にすると試合場へとゆっくりと歩き出す。

なんと・・・武田信玄自らが出てきたか・・・。

私は威厳ある佇まいの甲斐の虎の姿に戦慄を覚えていた。

山田大輔か・・・わずかな期間で三好・松永を追いやり大和・山城・河内・和泉、更には若狭も支配下に置いた恐るべき男。その何も考えておらぬような途方に暮れた顔つきには騙されんぞ。

信玄も私もじっと見据えている。

ここでまさかの私と武田信玄の戦いとなるのである。
共に不惑の年齢四十路対決・・・。
果たして私は甲斐の虎に打ち勝つことができるのであろうか・・・

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