マイホーム戦国

石崎楢

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第155話:摂津攻略戦 前編

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1569年3月摂津国高槻城。
三好三人衆最後の一人である岩成友通は摂津国内の兵力を集結させていた。

この戦いで三好家の畿内における命運が決まるようなもの・・・
ワシは退かんぞ。決して退きはせん。

「出陣じゃ!!」
「オオ!!」
士気も高まった三好軍一万は淀川へ向けて進軍していった。

その淀川の対岸に陣を敷いているのは三好長虎率いる河内国の山田軍。
兵力は五千と三好軍の半数であったが、それには訳があった。
石山本願寺の存在である。


2月末頃、山城国勝竜寺城。

「なんと申されましたか若君?」
三好長虎が驚愕の表情で聞き返す。

「摂津の三好義継、岩成友通を攻めるなら石山本願寺を牽制する必要があるのですよ。」
岳人の言葉に集まった家臣団は驚きを隠せない。
既に清興や一馬、義成は各前線に帰還している。
そんな中、竹中半兵衛重治だけは笑みを浮かべていた。

「本願寺の勢力は日ノ本各地に点在しておりますが、石山本願寺は特にその中心として一揆を手引きしていると思われます。自由にさせてはなりません。かと言って敵対も後々の災いになるでしょう。」
「さすがだね、半兵衛さん。」

そういえば織田信長が本願寺を倒すのに10年ぐらいかかったと岳人が言っていたな。

私は話についていけてはいないが、とりあえずどっしりと構えてごまかしている。
そんな中で三好康長と三好為三が前に進み出た。

「我らで本願寺の動きを封じましょう。」
「任せていただこうか!!」

歴戦の勇士であるこの両名が名乗り出たのは心強い。
永禄最強大武道大会の優勝の効果は家臣団や領国の国人衆に大きな影響を及ぼしていた。

「では三好長虎殿には南から攻めあがってもらいます。」
「淀川を挟んで牽制するのだな、高槻城を。間違いなく岩成友通が芥川城に籠ることはないと踏んでのことか?」
「さすがでございます。」

重治の意図を理解した三好長虎は大きくうなずく。

「そして東からは二手に分かれます。長滝殿と仁興殿に山崎城に入城していただきたい。兵は三千あればよろしいかと。」
重治は慎之介と英圭に目配せをすると二人は親指を立てた。

「そして重要なのがもう一部隊・・・これは私が指揮します。」
重治は私と岳人を見つめる。

「別動隊ですか・・・」
「さすが若君。」
「少数でないと実行できない作戦でしょう。失敗すれば半兵衛さんは討ち取られますよ。」
「存じてます。」

岳人は鋭い視線を重治に投げかけるも、しっかりと受け止めている。

「出来ればあの方たちをお呼びしていただければ・・・」
「任せるよ。」
重治の言葉に私は大きくうなずくのだった。


淀川を挟んで対峙する山田軍と三好軍。

「山崎からの敵の動きはどうじゃ?」
「はッ・・・山田軍は長滝慎之介と仁興英圭を大将に三千程の兵でこちらへと進軍しております。」
岩成友通は家臣から報告を受けると険しい表情になる。

名うての若武者共か・・・こっちを抑えねばなるまい。長虎より遥かに手強いじゃろうて。

「若造共にいいようにはさせませんぞ。」
岩成友通の重臣である番頭義元が名乗り出た。
そして五千の兵を率いて山崎方面へと向かっていく。

その様子は三好長虎の眼にはっきりと映っていた。

番頭大炊助か諏訪盛直か・・・岩成友通がワシを前にして動くことはないだろう。

「よし、榴弾砲を準備しろ。」
長虎の指示で榴弾砲が三基並べられた。

「撃て!!」

突然の轟音に慌てふためく三好陣営。

「ギャアァ!!」
着弾と共に三好軍の兵たちの絶叫が響き渡る。

「大筒・・・あれが長免の軍を打ち破った大筒なる物か・・・動かずにして我らを仕留めると・・・」
岩成友通は拳を震わせると立ち上がった。

「とどまっていても始まらぬぞ、討って出る!!」

三好軍が動き出した。堤を越えて進軍してくる姿に長虎はニヤリと笑った。

「さあ・・・終わりにするぞ。夢を見るには咎を負い過ぎたということだ・・・」


山崎城を出た山田軍は番頭義元率いる三好軍と水無瀬にてぶつかり合った。

「さあ・・・高槻の城は目の前だ。数は関係ないぞ!!」

慎之介が先陣を切って槍を振るうと敵兵は次々と吹っ飛ばされていく。

「鉄砲隊前へ!! あの槍使いを撃ち殺せ!!」
三好軍の中から鉄砲隊が前面に出てきた。

「好機!!」
慎之介が怯まずに突撃していくと同時に山田軍から連発式銃を持った騎馬鉄砲隊が前面に展開していく。

「ぐわあああッ!?」
その一斉射撃により射撃の準備をしていた三好軍の鉄砲隊はあっという間に壊滅状態に追いやられていった。
連射を終えた騎馬鉄砲隊が下がると盾隊と鉄砲隊が入れ替わりで現れた。

「くっ・・・弓隊撃て!!」
三好軍の弓攻撃だが盾隊によって防がれてしまう。

「撃て!!」
英圭の声と共に鉄砲隊の三段撃ちによって三好軍の弓隊は無残にも撃ち殺されていく。

「ゆくぞォォォ!!」
そのまま英圭は鉄棒を振り回すと騎馬隊を率いて三好軍へと突撃をかけていった。


そんな激戦の最中、竹中半兵衛重治たちは山中に潜んでいた。

「まだか・・・?」
聞いてくるのは柳生宗厳だ。

「父上・・・久しぶりの戦に浮足立ってはなりませぬぞ。」
「一人前の口を利きおるわ・・・」

落ち着いている厳勝の姿に憎まれ口を叩きながら笑みを浮かべる宗厳。

柳生や伊賀の忍びたち及び宝蔵院の達人たちによる二百の兵力を山中に分散させていた。
それぞれの視線の先にあるのは芥川城であった。


勝竜寺城にて重治が言ったこと・・・

「柳生と宝蔵院の方々のお力で芥川城を直接落とすのが私の別動隊の役目です。岩成友通を丸裸にする・・・。」
「なんだと・・・義継が残っているといえ、あの城は難攻不落じゃぞ!!」

さすがの三好康長も驚きを隠せずに重治に言い返す。

「手筈は整っております・・・」
しかし、重治は意に介していないかのように康長の眼を見据えた。
何かを察した康長は腕組をすると表情を崩す。

「おぬし・・・恐ろしい男じゃ・・・」
「褒め言葉と捉えてよろしいでしょうか。」
「ワハハハ・・・大輔殿・・・いや我が殿よ、太公望や張良を得たと言えるぞ。」
「それは恐れ多いこと・・・」

そんなやり取りを重治は思い出していた。

伊賀からも援軍が来るとは嬉しい誤算だったが・・・

そんな重治の周囲には焔の陣内が控えている。

「半兵衛殿、全ての指示はお任せするぞ。」
「ありがたいです。」
重治はうなずくと地面に横になって身体を大きく伸ばす。

夜を待つ・・・ただそれだけだ。

やがて暮れゆく空を見上げると重治は大きなため息をつくのであった。


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