マイホーム戦国

石崎楢

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第169話:岳人の野望

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「お待ちくだされ、若君。」
黒田官兵衛考高は岳人に追いつくと声をかけた。

「官兵衛さん・・・」
岳人は立ち止まると振り返った。
その表情は満面の笑みであり、考高は思わずたじろいでしまう。

「ゆっくりお話をしましょうか・・・」


そんな中、大広間では岳人に蔑まされた義成と源之進が肩を落としていた。
そこに奪回した神吉城を守っていた清興が入ってくる。

「俺の出番はなかったな・・・源之進は相当な戦上手になったもんだな・・・ってどうした?」

勝ち戦の後とは思えない雰囲気に清興は顔をしかめた。

「島様・・・実は・・・」
重治が事の顛末を説明すると清興は大きく嘆息した。

「まあ・・・以前から気にはなっていた。戦をまるでなんというか・・・遊びのように考えている節があるということ。命のやり取りをしているのは、その駒となっている我ら将兵であるということをあまり気にかけてはおらぬということだ。」

そう言うと清興は重治や一馬たちを見回す。

「だが、市姫とのご婚姻で意識が変わられた。個人的に守るべき者の存在が若君を変えられた・・・俺はそう感じていた。だからこそ、あの戦いで自ら敵陣へと攻め入って三好長免を討ち取ったのだろう。」

清興は再び重治を見た。

「だが、若君は変わっていなかった。その本質も露わにさせたのは半兵衛。お前だ。」
「私ですか・・・」

清興の言葉に重治はうつむくしかなかった。

「半兵衛が我ら山田家に入ってからの畿内での躍進。殿が幕府において柱になっておるということ。それが若君の心に火をつけてしまったのかも知れぬ。」
「・・・」

半兵衛はふさぎ込むが、清興は表情をわざと崩して話を続けた。

「半兵衛を責めているわけではない。少なくともいずれはこうなるとは思っていた。もし殿が若君に家督を譲って隠居されたら、間違いなく山田家は日ノ本を統一すべく兵を動かすことになるだろう。」

「・・・武によって治める・・・恐怖によって支配されるということは間違いだと私は思っております。」
重治が首を大きく横に振る。

「ああ・・・だからこそ・・・出来る限り殿が健在のうちにと豊五郎殿や明智殿とは話をしていたところだ。我らの予想よりも早く若君の野心が高まっておるということか・・・。」

清興は言い終えると思わず天を仰いだ。

・・・ただ朗報もある。朋美御前様と真紅には殿の御子が宿っておる・・・
何があっても守らねばなるまい。この先・・・お生まれになった後が・・・危険だ。



「官兵衛さん・・・いや・・・官兵衛。」
「なんでしょうか・・・」

岳人と考高は本丸の外れから外の景色を眺めていた。

「僕や父さんたち山田家は遥か先の時代からやってきたんですよ。」

「・・・な・・・なんと申されました?」

何を言っているのだ・・・山田岳人・・・

そんな考高の反応に笑みを浮かべた岳人は話を続けた。

「僕らのいた時代、この日ノ本は・・・日本は平和そのもの。戦争のない国になっている。全ての国々が統一しての日本国。帝は天皇と呼ばれ一人の人間として扱われているんだ。」

「帝が・・・人? 帝は神では?」

「人だよ。その中身は何も変わらない人だ。普通に生まれて普通に死ぬ。僕はこの世界に神なんて実在しないことを知っている。だからこそ日本国は平和なんだ。」

「争いがない・・・平和・・・」

「まずはこの戦乱の世は後に戦国時代と呼ばれる。この時代をまず制するのは織田信長・・・」
「尾張の織田・・・!? 織田は親子で尾張と美濃で争っているのでは!?」
「僕のいた時代で伝えられている歴史では、これから織田信長は事実上、室町幕府を終わらせて日ノ本制圧に乗り出す。もちろん親子の争いなどはない。」
「私には・・・」
「黙って聞いてくれていればいいよ。しかし、織田信長はその志半ばで非業の最期を遂げる。討ったのは織田家家臣明智光秀。」

明智光秀は織田家家臣ではなく山田家家臣では・・・?

「その明智光秀もすぐに滅ぼされるんだ。織田家家臣羽柴秀吉・・・今の木下藤吉郎秀吉にね。そして信長の意思を継いだ秀吉は遂に日ノ本の統一を果たすんだ。」

その後も岳人は語り続けた。
秀吉が豊臣秀吉となり朝鮮に出兵し結果的に失敗すること、その後で徳川家康が豊臣家を打倒し江戸幕府を開き、争いのない日ノ本を築き上げるということ。その江戸幕府も明治維新によって打倒され、天皇家に権力が戻るということ。そこから日本は世界進出を試みていく。様々な戦争の果てに第二次世界大戦で敗れたことで武力を持たない平和な国へと変貌を遂げていくことを。


このような話は思いつきでできることではない・・・

考高は話を聞き終えると岳人を見つめる。

「この今語った歴史も僕らがこの時代に来たことによって変わっている。まず・・・明智光秀は織田ではなく父さんに仕えている。そして織田信長は既に死んでいる。今の信長はなりすまし。それだから織田家は分裂しているんだ。暗殺されたはずの将軍義輝は生きているし、その弟である覚慶・・・足利義秋は既にこの世にないだろう。松永久秀も僕のいた時代では織田信長に敗死するのは1577年。でも僕らは10年早く討ち取った。それによって大和国が統一された。わかるよね?」

「・・・若君はこの先をどう考えておられる?」

やはり・・・食いついてきた・・・黒田官兵衛。

「僕はこの先どうなるかを知っている。だからそれを踏まえたうえでこの国を僕等がいた時代以上に平和でより強い国に仕上げたいんだ。僕の究極は・・・秀吉が失敗するはずの朝鮮出兵を成功させる。そのためにも二百年、三百年後の武器を次々とこの時代で開発させていくんだ。現に今の僕ら山田軍が使っている連発式の鉄砲は約三百年後の鉄砲なんだ。火縄を使わない鉄砲だ。」

「・・・」
官兵衛は無言で岳人をただ見つめ続ける。

「そのためにも官兵衛。あなたの力が僕には必要なんだ。いずれは父さんの後を継いだ僕がこの日ノ本を統一して見せる。そして朝鮮や明、大陸に討って出て早い段階で強大な国を作り上げるんだ。そのためにはあなたの力が必要なんだということ・・・わかってくれるかい?」

「早急な返事は・・・」
「いいよ・・・急がなくていいから。」

岳人は考高にそう告げると空を見上げた。

急がなくていい・・・だって既に黒田官兵衛は僕の手中にあるのだから・・・



その後、大広間に戻ってきた岳人。

「源之進さん、義成さん・・・頭に血が上ったようでした。ごめんなさい。」

その謝る姿に源之進と義成は安堵の笑みを浮かべる。

「いえ・・・若君の策を読めなかった私の失態・・・」
「私もご無礼をいたしました。」

平伏する二人を見ている岳人は満面の笑み。
それを見ていた重治と清興の表情は曇ったままであった。

竹中殿・・・島左近様・・・そのお顔は・・・

考高は重治と清興の表情を見ると拭えない不安にさいなまされるのである。



ともかく、こうして戦国時代最高の軍師と謳われる黒田官兵衛考高が山田家に加わった。
更なる山田家の躍進へと繋がるが、岳人の中の野望は膨らみ続けるのである。


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