マイホーム戦国

石崎楢

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第188話:山田忍軍危機一髪

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慶次と宇喜多直家が意気投合している頃、備中国松山城では・・・

「おい、寝てるんじゃねえ・・・しっかりせんか!!」
「申し訳ございませんですだァァァ!!」

城門の前で叱り飛ばされている一人の兵。山田忍軍上忍である毒蝮の金蔵である。
上手く三村元親のお膝元である備中松山城の守兵として潜り込むことができていた。

寒いねえ・・・なんでこんな山の上に城を作るってんだ。まあ大和にも龍王山城や高取城もあるがな。

金蔵は大手門の前の松明に手を当てて寒さを紛らわすのであった。


城内の台所では下女たちが掃除をしていた。
その中にも山田忍軍の者が紛れ込んでいる。
甲賀の抜け忍であった菊里。甲賀忍軍頭領鵜飼成五からの推薦で山田忍軍入りしていた。

「なんかなあ、ここのところずっとだが殿様の雰囲気が違くねえが?」
「んだな・・・何となくだがなあ。」

下女たちの話を聞きながら一心不乱に仕事をしている素振りを見せている。

やはり三村元親が怪しいか・・・噂とは別人のような凄味さえ感じさせる男・・・

菊里は黄扤が三村元親に化けていることは知らないが、その只者ならざる雰囲気は感じ取っていたのだ。
しかし、それは敵側からしても同じであった。

そしてあたいは気付かれている? そして泳がされている?

黄扤の部下らしき黄装束の者達が陰から自分を監視していることも理解していた。
元はあの烈海と同等の中忍である。

黄装束の男たち・・・あの中に甲賀の者がいるとしか考えられない・・・

それ故、諜報活動もできずに脱出の機会だけをひたすら待ち続けるしかなかった。
他にも忍び込んだ仲間たちが次々と行方知れずになっているという事実に怯えながら・・・


翌朝、城壁補強の為に呼ばれた大工たち。

音沙汰がないから心配してきたが・・・

その中に伊賀忍軍頭領の一人である藤林長門守正保がいた。

何となくではあるが・・・あまり良い風を感じぬ。
これは金蔵たちが心配だな・・・。

大工たちは全員が伊賀の忍びであった。
正保は重度の警戒をしていたのである。


「・・・」
その様子を物見櫓から眺めているのは橙騎。

黄扤一人にしないのが正解だったな・・・泳がせておいてまとめて釣り上げるとしようか・・・



備前国天神山城。
鳥兜の源次、啄木鳥の権八は労せずに城内に入り込んでいた。
守兵になりすまし、諜報活動を続けているも特に有益な情報はなかった。

「浦上宗景には何もないな。まあ・・・あるとすれば毛利に対する反骨心と三村に対する警戒心・・・」
「そして宇喜多直家に対する恐怖心か・・・」

二人は握り飯を食らいながら城下の景色を眺めている。
吉井川を天然の堀のようにしてそびえ立つ天神山城は堅固で大規模な山城であった。
しかし、既に城の見取り図と侵入口などを播磨の源之進の下に送っている。

「俺たちがハズレだとすれば金蔵が大当たりということか・・・」
「長門守様が既に手を打っておられるが、心配だな。」
「慶次殿も気になるな。」
「まああれは頭領ごえもんと一緒でバケモンだから理屈をゴネても仕方ねえって。案外、なるようになっているかもな。俺たちは余計なことは考えねえで任務をこなすだけだ。」

飯を食べ終えた源次と権八は持ち場へと帰っていくのだった。


それから数日後の備中国松山城。
夜更け頃、城壁の改修をしている大工たちが寝泊まりしている小屋を取り囲む黄装束の集団。
その中心にいるのは三村元親。

「やれ!!」
元親の命で黄装束の集団が戸を蹴り破って小屋の中へと襲撃をかける。

「ぐあッ!?」「があッ!?」
しかし、逆に次々と吹っ飛ばされていってしまう。

「おかしいですな・・・三村元親殿。この装束の者共は天下を乱す輩共なのだが。」
藤林長門守正保と伊賀の忍びたちが物音も立てずに小屋の中から現れた。

「貴様は何者だ?」
「伊賀忍軍頭領が一人、藤林長門守正保。」
「なるほどな・・・そこそこの大物が釣れたわい♪」

三村元親が手で合図すると鉄砲隊が次々と集まってくる。

しまった・・・

正保の視線の先には三村元親ではなく物見櫓の上に立つ橙騎の姿。
その瞬間、次々と鉄砲が火を噴くのであった。


しまった・・・気付かれたか!?

鉄砲の音により危険を察知した金蔵は城下へ逃げようとするも

「逃がさぬぞ・・・この間者め!!」
三村軍の兵たちに取り囲まれていた。

「くッ・・・やはり泳がされていただけかよォ!!」
金蔵は城門の前の松明を蹴り飛ばす。
地面に引火した火が城門へと飛び火していく。

「食らいな・・・季節外れの打ち上げ花火を・・・」

大手門が大爆発を起こす。


完全に気付かれた・・・これはマズイわ・・・

菊里は城内に入り込んでいた配下の忍びを集めて搦手門から逃げ出していた。
その後を追いかけてくる黄装束の男たち。

「参ったわね・・・詰んだわ・・・」

菊里達の前方から橙装束の男たちが姿を現す。
これにより、完全に逃げ道を塞がれてしまったのであった。


どちらにせよ・・・どうにかして逃げねえと・・・

金蔵は城内へと戻っていた。
次々に迫ってくる三村軍の兵を斬り倒しながら土蔵へと逃げ込む。

死にたくねえよ・・・。殿様が言ってた争いのない世の中。見届けててえし、味わいたいんだよ・・・

肩口に負った傷に薬を塗ると天を仰いだ。
しかし真っ暗な土蔵の中、天井が重くのしかかってくるかのような錯覚にさえ捉われてしまう。

そのときだった。土蔵の中に三村軍の兵たちが入ってきた。
手にした松明で金蔵の姿を照らし出す。
するとその中の隊長格のような男が金蔵に声をかけてきた。

「オメエさんは毒蝮じゃねえか・・・」
「その声・・・まさか・・・道順かい?」

金蔵の目の前には元伊賀抜け忍の伊賀崎道順の姿があった。

「百地丹波様からエライ大金頂いてよォ・・・面が割れねえ俺様は三村の中に入り込んでいたわけだ。」

道順と共にいる兵たちは金で雇われた元野盗などのならず者たちであった。

「とりあえずは色々と暴れさせてもらおう。金目の物や女は手当たり次第に頂くぞ!!」
「オウ!!」

呆気にとられている金蔵。次々と城内に火を放っていく伊賀崎道順たち。

「敵襲じゃァァァ!!」「どうすればええんかァァァ!?」
口々に適当な声を上げながら城内を混乱状態へと陥れていく。


その騒ぎは三村元親の下にも伝わっていた。

「敵襲だと? 馬鹿なことがあるか!!」
「しかし次々と城が焼かれておりまする。」

今だ!!

生き残っていた藤林長門守正保と忍びたちはその隙に逃げ出す。

「逃がすな!!」
叫んだ三村元親であったがクナイが次々と飛んでくる。
めざとく全てをかわすも表情は険しさを増していた。

「待たせたのう、長門守。」
「丹波様!!」
そこに百地丹波率いる伊賀忍軍が姿を現したのだ。

「さあ・・・拙者の花火はより過激ですぞ!!」
山田忍軍中忍焔の陣内が手元の導火線に火をつけた。

「何を・・・まさか!?」
三村元親は慌てて地面に倒れ込む。
轟音を上げて爆発する元親のすぐ側の櫓。


「これは一杯食わすつもりが食わされたな・・・ワハハ。」
顔を上げた三村元親の隣に橙騎が笑いながら立っていた。

「このような姿形でなければ・・・歯痒いものだ・・・」
元親はそう言うとため息をつくのだった。


「助かったわ・・・」
その頃、菊里たちも伊賀忍軍上忍轟雷たちによって窮地を脱していた。

「それにしても金蔵が潜入を見破られるなどありえん。あやつは伊賀でも随一・・・いや甲賀や風魔にもおらぬだろう。どこからか漏洩されたとしか考えられぬ。」
轟雷は火の手が上がっている城を見上げてつぶやいた。


こうして備中国での潜入は失敗に終わったかのように見えたが・・・
しかし、入れ替えで百地丹波や轟雷たちが残って内密に諜報活動を続けることになるのだった。


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