マイホーム戦国

石崎楢

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第197話:謎の小谷城 囚われのお市を求めて 前編

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1570年7月30日、姉川の戦いと同時刻の近江国小谷城。
その山中に潜む六つの影があった。

「そろそろお時間だ。準備はいいか?」
五右衛門は他の五人を促す。

「ちょっといいか。ワシはこの城の奥にある大嶽城を調べたい。」
逆剣の歌蔵が口を開いた。

「なるほどな。いい考えだ。古き小谷城のことだな。」
熊手の善吉がうなずく。

「ただ気を付けねばならぬことがある。」
そこに杉谷善住坊が口を挟んできた。

「この小谷の地中には様々な抜け道が施されている。いわばこの山の中は迷宮状態だ。私はこの中にいると考えているが、どのような仕掛けが待ち構えているかは定かではない。」
「そうなのか?」
五右衛門は思わず聞き返した。

「遠藤直経という男は元は伊賀随一の知恵者よ。その頭脳だけで当時わずか十七で上忍に上り詰めた男。その男が築き上げた迷宮だというならば一筋縄ではいくまい。」
歌蔵が言う。

「石川様が十五で半蔵様や長門守様が十六で上忍に上がられた。その前ということですか!?」
千之助が聞き返すと

「ああ、あまりに頭が切れすぎて甲賀と内通しおった。」
そんな歌蔵の言葉に苦笑する善住坊。

「私が甲賀に誘われた頃には既に浅井に仕えておったがな。智謀をひた隠す剛の者として。」

そんな話で熟練の忍びたちが盛り上がる中、五右衛門は千之助とすみれを見ていた。

俺たちは上忍だが、千之助とすみれはやれるのか・・・

そんな五右衛門の不安を悟ったかのように千之助とすみれは自信に満ちた表情を見せた。

余計なお世話か・・・なんか俺も殿と一緒におったら単なるお人好しになってきちまったか・・・

「それじゃ酉の刻にここに再び集まる。市姫を誰かがお連れしていることを信じて。」

五右衛門の言葉と共にそれぞれが姿を消すのだった。



小谷城金吾丸を浅井軍の兵に化けて歩いている千之助。

とりたてて警備が厚いということもないか・・・

路上の置石に腰を下ろして兵たちの動きを観察していると

なんだ・・・廟が動いたぞ。

金吾丸片隅にあった廟が横に動くとそこから怪しい風貌の男が姿を現した。
そして周囲を警戒しながら何処かへと走り去っていく。

杉谷善住坊殿の言われた通りかもしれない。この城の地中には抜け道が掘られている。

千之助は確信するのだった。


その頃、大嶽城に潜入した歌蔵。

「殿と山田、六角の戦はどうだろうな?」
「なあに、あの大陸から来た連中が簡単にやっちまうだろ!!」

大陸から来た?

歌蔵は首をかしげる。
その後も大嶽城の櫓などをくまなく調べたが、何も怪しいところはなかった。
土蔵の中に隠れて一息ついていた歌蔵。

ガタンという音と共に目の前の地面から木の戸が現れると開いた。

「!?」
そこから怪しい風貌の男が這い上がってくる。
驚く歌蔵と目が合うとニヤリと笑う。

「Би үүнийг харсан.」
その男は謎の言葉を発すると刀を手に歌蔵めがけて飛びかかるのだった。


「忙しいですわ。」
「新入りは口を動かす前に手を動かしなさい!!」
「はい。」
すみれは下女として小谷城本丸館の台所に潜入していた。

もしも市姫様がおられるなら、浅井長政は特別なお食事を準備されるはずだわ。

その予想は的中していた。浅井長政や主だった者が留守のはずだが、何故か特別に豪勢な食事の準備が整えられていたのだ。

「美味しそうです。こんなもの見たことありません!!」
お調子者風に演じながら、すみれは他の下女たちから情報を得ようと試みる。

「なんか殿さまに大事な御客人が来られているとかねえ・・・よくわからんが。」
「でもな、大陸から来たっちゅう怪し気な男がいつも本丸御殿へ運んでるんよ。」

怪しさ全開じゃない・・・

そんなところに怪し気な風貌の男が現れてその食事を運んでいった。
後をつけていくすみれ。
やがてその男は本丸館の一つの部屋の中に入っていった。

「・・・」
気配を消してふすま越しに様子を探ろうとしたすみれだったが、

「Энэ хэн бэ?」
突然、戸が開くとすみれは部屋の中に引きずり込まれた。
その怪し気な風貌の男が短刀をすみれの喉元に突き付けてくる。

「触るな・・・」
すみれはそれを払いのけて距離を取ろうとするも、その男は平然とすみれの速さについてくる。
そしてそのまま腹に拳を入れられたすみれは悶絶した。

な・・・なんて速さと馬鹿力なの・・・

意識が朦朧としたすみれの胸元に短刀を突き刺そうとした怪しい風貌の男。
しかし、すぐに危険を察知したかのように飛びのくと刀を構えた。

「気付くか・・・なかなかやるじゃねえか・・・大陸の者。」
音もなく五右衛門が姿を現す。その手の刀からは血が滴っていた。

「Саад бэрхшээл!!」
怪しい風貌の男がそう叫んだ瞬間、その身体は胴体から横に真っ二つにズレ落ちた。
既に五右衛門に斬られていたのだ。

「ただ俺様の程の剣は大陸でもそうはいないようだな。」
五右衛門はそう言うと部屋の中を物色する。

「なるほどね。」
床の間の掛け軸をめくるとそこに横穴があった。
五右衛門とすみれはその横穴に入ると木製の階段があった。

「これが杉谷善住坊が言ってた抜け道か・・・」
降りていくとそこはまるで鉱山の坑道のようになっていた。
進んでいくとやがて道は二手に分かれる。

「すみれ、大丈夫か?」
「私は命に代えても市姫様を救出することを若君に誓ったのです。」
「わかった・・・だが、死ぬなのよ。」
「はい。」

五右衛門とすみれは二手に分かれた。


その頃、地上では

「ふう・・・」
怪しい風貌の男を倒した杉谷善住坊が井戸の中へと降りていた。
そして井戸の底に立った瞬間、

「!?」
井戸の底の壁から槍が次々と飛び出してきた。

危なかった・・・仕掛けか・・・

辛うじて上に飛びのいた善住坊はイヤな汗をぬぐう。

罠を・・・仕掛けを外しながら行かねばならぬということか・・・
これを知らずに行けば危ないぞ・・・。

善住坊の目には仕掛けを解除するレバーが見えていた。


すみれは坑道を奥へとゆっくり進んでいた。

人の気配は感じない。でも危険な香りが溢れ出ている・・・

そのまま歩いているとカチッという音がした。

「ええッ!?」

上から天井が落ちてきた。吊り天井の仕掛けである。
思わず足がすくんで動けないすみれ。

「すみれ!!」
そこに千之助が現れるとすみれを抱きかかえて転がるように吊り天井をかわした。

ドドーンという大きな音が坑道内に鳴り響く。

「これはマズイ・・・奴らが動き出す・・・」
千之助とすみれは起き上がると周囲を見回す。

「龍口様・・・申し訳ございません。失敗ばかりで・・・くのいち失格でございます。」
「気にするな。ここは私に任せろ。市姫様を頼む。」

すみれを先に行かせると千之助は刀を抜いた。

「Би тэнд байсан!!」
怪しい風貌の男たちが三人現れるとそれぞれに武器を構える。

わかる・・・わかるぞ。こやつらは一人一人が相当手強い。勝てるか・・・私で?

そんな状況の中、千之助は何故か思わず笑みを浮かべてしまった。

命の危機だというのに・・・笑えるってか・・・やるしかないね・・・

「この日ノ本の忍びの力を見せてやろう・・・刮目せよ・・・」
千之助は印を構えると目を閉じる。

「喰らえ!!」
そのまま懐から次々と白い球を怪しい風貌の男たちに投げつける。

「Ухаалаг байна!!」
その男たちはその白い球を笑いながら次々と斬り落としていく。
それを見た千之助はニヤリと笑った。

「おおッ・・・!?」
悶絶するような悪臭に包まれた男たちは苦しみだす。
更に地響きのような音が聞こえてきた。
大量のネズミたちが臭いに釣られて男たちに襲い掛かっていく。

「私は既に忍びではないはずなのだが・・・」
千之助はそうつぶやくとクナイを三本投擲すると振り返ることなく立ち去っていく。
その背後で、喉元をクナイで貫かれた男たちは断末魔を上げることなく倒れていった。


姉川の戦いの陰でお市救出作戦も始まっていた。
坑道を進んでいく五右衛門たちを待ち受ける過酷な現実。
果たして無事にお市を救出することができるのだろうか・・・


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