マイホーム戦国

石崎楢

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第198話:謎の小谷城 囚われのお市を求めて 後編

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「・・・ふう・・・」
歌蔵は土蔵の中で壁にもたれていた。
その前に怪し気な風貌の男たちが5人倒れている。

「貴様は伊賀者か?」
そこに数人の男が姿を現す。その異様なまでの殺気に歌蔵は目を見開いた。

「ワシは動けん。斬るなら斬れ・・・」
「斬りたいところだが、今は斬らん・・・今は敵ではないからな。」
その男たちは坑道へと降りて行った。
歌蔵は苦笑すると深手を負った脚をさするのだった。


どうやら・・・ワシが一番乗りのようじゃ・・・

熊手の善吉は坑道の最深部に辿り着いていた。
そこは地下牢のようになっている。

なるほど・・・ここはどうやらただの牢獄ではないな・・・

そこには怪しい風貌の男が3人見張りに立っていた。

どちらにせよ・・・何・・・?

善吉は目を疑った。牢獄に別の1人の男が繋がれている。
その男は伊賀者にとっては天敵ともいうべき男であった。

風魔小太郎・・・あれ程の者が敗れたというのか・・・

「どうする・・・熊手?」
そこに杉谷善住坊もやってきた。

「善吉じゃ・・・どうして甲賀の者は伊賀者を渾名で呼ぶのかいな。」
「それにしても難儀な任務だ。生きて帰れる保証がまるでない。」
二人は同時にため息をつく。

そのときだった。

「うおおッ・・・なによ、これェェェ!?」
と声がして走ってくるのはすみれ。
その背後には巨大な岩石が転がってきている。

「Юу вэ?」

怪し気な風貌の男たちがその騒ぎに慌てて飛び出してきた。

「もらった!!」
杉谷善住坊は懐から短筒を取り出すとすぐさま男たちの一人を撃ち殺す。

「Дайсан! !」
それに気づいた男たちが善吉と善住坊に襲い掛かる。
すぐさま刀を抜いて防ぐもその男たちの攻撃の重さに驚きを隠せない。

「刀が折れる?」
「ああ・・・ずっと受けていれば刀か腕のどちらかがイカれてしまうな。」

ドド―ンという音と共に岩石は壁面に当たって止まった。

「・・・杉谷様、善吉さん!!」
すみれはクナイを手にするが、そこに更に複数名の怪し気な風貌の男たちが現れた。

「マズイな・・・詰んだか・・・」
善住坊はつぶやくと短筒に弾を詰めた。

「すみれ。歌蔵の姿が見えぬ・・・」
「そのときは覚悟の上・・・」
「何とか逃げろ・・・ワシらが引き付けておく。」
善吉はそう言うと両手に鉤爪を装着した。

「ワシらか・・・伊賀者と道連れとは前代未聞だな。」
それを聞いた善住坊は苦笑する。

「何を言うか、いずれは伊賀も甲賀も風魔も・・・いや・・・忍びと呼ばれる存在がなくなる時代が来るんだぜ。今の内から仲良くしておくことが大切だと思うぞ!!」

その声と共に怪し気な風貌の男たちはあっという間に血飛沫を上げて倒れていった。

「おいおい・・・こいつらをいとも容易く倒されると我らの立場がないんじゃが・・・」
五右衛門のあまりの強さに善吉は呆れ顔。

「早く市姫様を助けますぞ!!」
千之助も姿を見せると怪し気な風貌の男を斬り倒して牢の方へと走っていく。

「龍口様・・・恐ろしく強くなられている。」
「さすが丹波様のお気に入りじゃ・・・いずれは伊賀を背負う器よ。」
すみれの言葉に善吉はうなずいた。


そして牢獄の奥に進んでいくと

「市姫様・・・」
「・・・千之助にすみれ・・・五右衛門殿も・・・」

やつれきった顔のお市が座り込んでいた。
そこは牢獄というより立派な部屋のようになっていたが、その真ん中でお市は料理にも手をつけず虚ろな眼差しを向けてくる。

「い・・・市姫は・・・浅井長政による精神的な凌辱を受け続けておった・・・。さすがの俺もはらわたが煮えくり返ってこのザマだ・・・」

隣の牢から風魔小太郎の声がする。

「風魔小太郎。貴様ほどの男が不覚を取るか・・・」
五右衛門は隣の牢に入ると小太郎を解放する。

「俺を助けるか・・・」
「一応はウチの大事な未来の御台様を助けようとした。十分だろう。それに貴様を殺すのは俺だ。正々堂々と俺が貴様を殺す。」
「ふッ・・・甘いが容赦のない奴だぜ。」

小太郎は鎖を外されると、岩壁に背もたれて力なくうなだれる。

「あの男たちは元の者共だ。蒙古といえばわかるだろう。」
小太郎は立つことが出来ないほど痛めつけられていた。
五右衛門や善住坊たちにとっては信じられない姿であった。
数多くの伊賀者・甲賀者を血祭りに上げてきた男とは思えない。

「奴らの首領はダルハンという男。俺でも歯が立たなかった・・・五右衛門、貴様でも・・・」
「どのぐらいだ・・・俺が勝てる確率は?」
「七三の割合だ。ちなみに貴様が三だ・・・」

五右衛門はそれを聞くと久しぶりにおぞましい程のオーラを放った。

「それは楽しみだ・・・。」
「あとあやつらは次々と日ノ本に入り込んできておる。ちなみにな・・・伝えておくと貴様ら山田家に邪魔をするあの色装束の男たち・・・あれは明の者だ。」
「・・・やはり・・・」
「ただ勘違いするな。明の者ではあるが、明に敵する者共・・・」

小太郎が言いかけた時だった。
怪し気な風貌の男たち=蒙古兵たちが押し寄せてきた。

「これでは脱出できねえぞ・・・」
五右衛門たちは出口を塞がれてしまった。
すみれは虚ロな目のお市を背負うと後ずさりを始めた。

しかし、更に信じられない光景が五右衛門たちの前に・・・
蒙古兵たちが次々と斬り倒されていく。

「貴様ら・・・」
五右衛門は憤怒の形相で刀を抜いた。

「今は敵ではないぞ、石川五右衛門。」
静かな眼差しで五右衛門を一瞥するのは緑霊。

「こちらも命令を受けているんでな・・・」
白虎は双剣を振り回しながら、次々と蒙古兵を切り刻んでいく。

「ちなみにお前たちの仲間の伊賀者は無事だ。」
青彪の言葉を聞いてすみれは安堵する。

「・・・助けに感謝する。」
そう言うと五右衛門たちも蒙古兵に斬りかかっていった。
手強い蒙古兵たちだが、さすがに日ノ本と明国の手練れの前には成す術がなかった。
程なく蒙古兵たちを全滅させた五右衛門たちは、お市と風魔小太郎を連れて坑道を引き返す。
お市はすみれの背中でいつの間にか眠りについていた。

「・・・Үхсэн」
しかし死にかけていた蒙古兵の一人が岩壁にあったレバーを下ろす。
更に懐から火薬球を出すと火をつけた。

ズドドーンという大爆発音と共に坑道が崩れ始める。

「ひいい!?」
その音に驚いて目を覚ましたお市は、すみれを突き飛ばすと錯乱状態で牢の方へ階段を降り始める。
その頭上に岩壁が崩れ落ちてきた。

「市姫!!」
小太郎は力を振り絞り市姫を庇う。

「・・・」
五右衛門たちと緑霊たちの目の前で崩れ落ちる岩壁の中に、お市と小太郎は消えていった。

「なんということだ・・・」
白虎が立ち尽くす。緑霊や青彪は茫然とした表情で牢があった方を見つめていた。

「い・・・市姫様ァァァ!!」
すみれはその場で泣き崩れる。
五右衛門たちもただ立ち尽くすしかなかった。

「何故だ・・・何故、こんなことになるんだァァァ!!」
五右衛門の悲しい叫びが坑道の中に響き渡るのだった。


歌蔵と合流した五右衛門たちは混乱状態の小谷城を後にした。

「すまない・・・私たちから岳人様にご報告させていただく。」
青彪の言葉に、

「俺たちも同行する。これでは浮かばれん。若君に申し訳が立たん。」
五右衛門はそう答えるしかなかった。

市姫を失った若君が増々暴走するのだけは阻止しねえとな。この腹を切ってでも・・・

強い覚悟を胸に秘めていたのであった。

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