マイホーム戦国

石崎楢

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第200話:群雄割拠

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1570年8月、信濃国木曾谷。

「攻めろォォォ!!」
声を張り上げるのは上杉軍の大将である本庄繁長。
自ら先陣を切ると鬼神といわれた武を見せつける。

「うぬう・・・圧倒的ではないか・・・」
片や織田軍の大将である柴田勝家は兵が上杉軍に圧倒されていた。

「かくなる上はワシ自らあの敵将を・・・」
「待たれよ。ここで大将自ら出るは愚策。勝家様、今回は武運に見放されました。退くべきでございましょう。」
副将である金森長近がそれを諫める。

「何を言うか!! これ以上の敗北、面目が立たぬ。」
その金森長近の制止を振り切ると柴田勝家は配下の騎馬隊と共に乱戦の中に消えていった。


「・・・退くぞ・・・これ以上の戦闘はただの無駄死にじゃ・・・」
金森長近の命により織田軍は撤退を始めていく。

これで良い・・・猿に憐みを受けるならば死を望むわ・・・

勝家は一瞬振り返り、織田軍が撤退する姿を確認すると笑みを浮かべた。

「させぬ!!」
そこに上杉家の騎馬隊が勝家めがけて襲いかかるも、
「ふんぬ・・・ぬああああ!!」
あっという間に槍で突き刺し、叩き落していく。

「なるほど・・・鬼柴田か・・・。ただの鬼と鬼神のどちらが強いか・・・」
本庄繁長は槍を手にすると前に出て行こうとするが、

「聞き捨てなりませぬな。私も鬼弥五郎ですが・・・。」
その前を遮るように北条景広が現れた。

「好きにするが良い。」
「ああ・・・好きにさせてもらう。」
北条景広は柴田勝家に対し向かっていった。

「小僧・・・ワシが柴田勝家だと知って一騎打ちを望むか?」
勝家は余裕の笑みを見せる。
「ならば私を上杉家家臣北条景広だと知っておるか?」
景広は言い返す。

「知らぬ。(知っておるがな・・・こやつが鬼弥五郎か・・・)」
「だろうな・・・いくぞォォ!!」

両者は激しくぶつかり合うのだった。


同じ頃、甲斐国身延山の麓。

「手強いのう・・・。」
嘆息する徳川家康。
徳川軍は一万の兵で甲斐国に侵攻していた。
順調に武田の支城を制圧していき、身延山の麓までたどり着いたが、ここで強烈な足止めを喰らってしまう。

穴山信君率いる二千の兵が立て籠もる下山城が鉄壁の守りを見せていたのだ。
元々は穴山氏の館の一つであったが、徳川家の駿河制圧に対し城塞化を果たしていた。

「我らは武田の血筋よ・・・ここから先は通しはしない。」
城の物見櫓に立つのは穴山信君。
正史上では甲州征伐で徳川に寝返る男であるが、歴史改変により勝頼は既に亡き存在、崇拝する信玄の存在とその後継者不在が大きかったのである。

御館様が亡きあとは私が武田を背負うのだからな・・・竜芳様を還俗させ、武田の家を相続させることによってな。

甲斐国と武田家の繁栄だけを願うこの男、そしてもう一人の存在が家康の甲斐国進攻を妨げる。

今は亡き武田家家臣常葉家の館跡に陣取るのは武田家重臣小山田信茂。
この男も正史上では甲州征伐において武田家を見限るが、この1570年においては全くその意思はなかった。
勝頼の死により、彼もまた信玄の後継者争いに名を上げることを考えていた。

穴山信君は武田の血筋、しかしワシは御館様の身内に等しい。
御館様の亡きあとは盛信様に武田の家を相続させる・・・あの若の武勇はまさしく虎の名を引き継ぐに相応しい。

互いの思惑は異なるが、その思いは武田家への信玄への忠義であった。
しかし、彼らの望む結末とは異なる歴史の改変が待ち受けていることは知る由もなかった。
大分、先の話ではあるが・・・


大和国多聞山城。

殿・・・やつれすぎでしょう・・・

竹中半兵衛重治以下家臣団の心配そうな顔はよくわかる。
大丈夫じゃないのは確かだ。3日間連続でなずなちゃんと頑張った。
多分デキたと思いますよ・・・あなたたちの思惑通りに・・・

私はその間に越前の朝倉義景に書状を送っていた。

「そろそろ義景殿に届いただろうな・・・」
「動きますか・・・あの御方が?」
重治は私の言葉に対し、首をかしげた。

平和ボケしている朝倉義景は一乗谷を第二の京の都にしてしまう勢い。
もはや戦国大名ではなく、戦国貴族・・・殿の盟友に相応しいとは思えないのです。

「私自身が板挟みは嫌いだけど、ここはやはり同志として心意義を示してもらいたい。そのためのアイテムも一緒に送ったしな。」
「アイテム? なんだそのワケのわからん言葉は?」
六兵衛が久しぶりにツッコミを入れてくれた。

「ほら・・・思いだせ。宇陀山の我が家にあったモノだって・・・」
「なるほど。義景殿ではなく阿君丸様を釣るという訳か・・・さすがだ・・・殿。」
私と六兵衛の会話に他の者達はついていけてなかった。
しかし、その思惑通りになるのだ。



越前国一乗谷。

「おお・・・正信殿。わざわざ御自身で参られるとは・・・」
朝倉義景のもとに若狭国守護となっている本多正信が訪れていた。

「義景様もお変わりなく・・・といいますか・・・肥えましたな・・・」
正信の鋭いツッコミに対し、義景は腹をさすりながら笑い出す。

「ワハハハ・・・越前は平和よ。多分、日ノ本で一番平和じゃ。」
「さすれば・・・阿君丸様をお呼びしていただけませぬか? 我が殿、大輔様より贈呈したいものがございます。」

正信の言葉を受けて、義景の嫡男である朝倉阿君丸が大広間に現れた。

「若狭国守護本田正信様。私が越前国朝倉家嫡男の阿君丸と申します。」
その聡明そうな佇まいに正信は舌を巻いた。
正史上では既に亡き者である阿君丸も、改変により生きながらえていることを再び追記する。

「これを我が殿より・・・どうぞ。」
正信が阿君丸に手渡した袋の中・・・

「なんと・・・なんと威風堂々たる人形の数々・・・」
阿君丸はそうつぶやくと中に入っていた一枚の紙きれに目をやった。
そして正信を見ると義景に進言し始める。

「父上、私はいい加減に近江の浅井長政の所業に我慢が出来ませぬ。」
「え?」
驚く義景に対し畳みかける阿君丸。

「もしも私に兵を一万与えてくだされば浅井を攻め落としましょう。」


その二日後であった。

「出陣!!」
越前国一乗谷から出陣する朝倉軍、その数は二万。
総大将として朝倉義景自身が出陣していた。もちろん馬上ではなく籠の中である。

果たしてその向かう先は・・・!?
そして阿君丸を突き動かした人形とは!?
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