207 / 238
第200話:群雄割拠
しおりを挟む
1570年8月、信濃国木曾谷。
「攻めろォォォ!!」
声を張り上げるのは上杉軍の大将である本庄繁長。
自ら先陣を切ると鬼神といわれた武を見せつける。
「うぬう・・・圧倒的ではないか・・・」
片や織田軍の大将である柴田勝家は兵が上杉軍に圧倒されていた。
「かくなる上はワシ自らあの敵将を・・・」
「待たれよ。ここで大将自ら出るは愚策。勝家様、今回は武運に見放されました。退くべきでございましょう。」
副将である金森長近がそれを諫める。
「何を言うか!! これ以上の敗北、面目が立たぬ。」
その金森長近の制止を振り切ると柴田勝家は配下の騎馬隊と共に乱戦の中に消えていった。
「・・・退くぞ・・・これ以上の戦闘はただの無駄死にじゃ・・・」
金森長近の命により織田軍は撤退を始めていく。
これで良い・・・猿に憐みを受けるならば死を望むわ・・・
勝家は一瞬振り返り、織田軍が撤退する姿を確認すると笑みを浮かべた。
「させぬ!!」
そこに上杉家の騎馬隊が勝家めがけて襲いかかるも、
「ふんぬ・・・ぬああああ!!」
あっという間に槍で突き刺し、叩き落していく。
「なるほど・・・鬼柴田か・・・。ただの鬼と鬼神のどちらが強いか・・・」
本庄繁長は槍を手にすると前に出て行こうとするが、
「聞き捨てなりませぬな。私も鬼弥五郎ですが・・・。」
その前を遮るように北条景広が現れた。
「好きにするが良い。」
「ああ・・・好きにさせてもらう。」
北条景広は柴田勝家に対し向かっていった。
「小僧・・・ワシが柴田勝家だと知って一騎打ちを望むか?」
勝家は余裕の笑みを見せる。
「ならば私を上杉家家臣北条景広だと知っておるか?」
景広は言い返す。
「知らぬ。(知っておるがな・・・こやつが鬼弥五郎か・・・)」
「だろうな・・・いくぞォォ!!」
両者は激しくぶつかり合うのだった。
同じ頃、甲斐国身延山の麓。
「手強いのう・・・。」
嘆息する徳川家康。
徳川軍は一万の兵で甲斐国に侵攻していた。
順調に武田の支城を制圧していき、身延山の麓までたどり着いたが、ここで強烈な足止めを喰らってしまう。
穴山信君率いる二千の兵が立て籠もる下山城が鉄壁の守りを見せていたのだ。
元々は穴山氏の館の一つであったが、徳川家の駿河制圧に対し城塞化を果たしていた。
「我らは武田の血筋よ・・・ここから先は通しはしない。」
城の物見櫓に立つのは穴山信君。
正史上では甲州征伐で徳川に寝返る男であるが、歴史改変により勝頼は既に亡き存在、崇拝する信玄の存在とその後継者不在が大きかったのである。
御館様が亡きあとは私が武田を背負うのだからな・・・竜芳様を還俗させ、武田の家を相続させることによってな。
甲斐国と武田家の繁栄だけを願うこの男、そしてもう一人の存在が家康の甲斐国進攻を妨げる。
今は亡き武田家家臣常葉家の館跡に陣取るのは武田家重臣小山田信茂。
この男も正史上では甲州征伐において武田家を見限るが、この1570年においては全くその意思はなかった。
勝頼の死により、彼もまた信玄の後継者争いに名を上げることを考えていた。
穴山信君は武田の血筋、しかしワシは御館様の身内に等しい。
御館様の亡きあとは盛信様に武田の家を相続させる・・・あの若の武勇はまさしく虎の名を引き継ぐに相応しい。
互いの思惑は異なるが、その思いは武田家への信玄への忠義であった。
しかし、彼らの望む結末とは異なる歴史の改変が待ち受けていることは知る由もなかった。
大分、先の話ではあるが・・・
大和国多聞山城。
殿・・・やつれすぎでしょう・・・
竹中半兵衛重治以下家臣団の心配そうな顔はよくわかる。
大丈夫じゃないのは確かだ。3日間連続でなずなちゃんと頑張った。
多分デキたと思いますよ・・・あなたたちの思惑通りに・・・
私はその間に越前の朝倉義景に書状を送っていた。
「そろそろ義景殿に届いただろうな・・・」
「動きますか・・・あの御方が?」
重治は私の言葉に対し、首をかしげた。
平和ボケしている朝倉義景は一乗谷を第二の京の都にしてしまう勢い。
もはや戦国大名ではなく、戦国貴族・・・殿の盟友に相応しいとは思えないのです。
「私自身が板挟みは嫌いだけど、ここはやはり同志として心意義を示してもらいたい。そのためのアイテムも一緒に送ったしな。」
「アイテム? なんだそのワケのわからん言葉は?」
六兵衛が久しぶりにツッコミを入れてくれた。
「ほら・・・思いだせ。宇陀山の我が家にあったモノだって・・・」
「なるほど。義景殿ではなく阿君丸様を釣るという訳か・・・さすがだ・・・殿。」
私と六兵衛の会話に他の者達はついていけてなかった。
しかし、その思惑通りになるのだ。
越前国一乗谷。
「おお・・・正信殿。わざわざ御自身で参られるとは・・・」
朝倉義景のもとに若狭国守護となっている本多正信が訪れていた。
「義景様もお変わりなく・・・といいますか・・・肥えましたな・・・」
正信の鋭いツッコミに対し、義景は腹をさすりながら笑い出す。
「ワハハハ・・・越前は平和よ。多分、日ノ本で一番平和じゃ。」
「さすれば・・・阿君丸様をお呼びしていただけませぬか? 我が殿、大輔様より贈呈したいものがございます。」
正信の言葉を受けて、義景の嫡男である朝倉阿君丸が大広間に現れた。
「若狭国守護本田正信様。私が越前国朝倉家嫡男の阿君丸と申します。」
その聡明そうな佇まいに正信は舌を巻いた。
正史上では既に亡き者である阿君丸も、改変により生きながらえていることを再び追記する。
「これを我が殿より・・・どうぞ。」
正信が阿君丸に手渡した袋の中・・・
「なんと・・・なんと威風堂々たる人形の数々・・・」
阿君丸はそうつぶやくと中に入っていた一枚の紙きれに目をやった。
そして正信を見ると義景に進言し始める。
「父上、私はいい加減に近江の浅井長政の所業に我慢が出来ませぬ。」
「え?」
驚く義景に対し畳みかける阿君丸。
「もしも私に兵を一万与えてくだされば浅井を攻め落としましょう。」
その二日後であった。
「出陣!!」
越前国一乗谷から出陣する朝倉軍、その数は二万。
総大将として朝倉義景自身が出陣していた。もちろん馬上ではなく籠の中である。
果たしてその向かう先は・・・!?
そして阿君丸を突き動かした人形とは!?
「攻めろォォォ!!」
声を張り上げるのは上杉軍の大将である本庄繁長。
自ら先陣を切ると鬼神といわれた武を見せつける。
「うぬう・・・圧倒的ではないか・・・」
片や織田軍の大将である柴田勝家は兵が上杉軍に圧倒されていた。
「かくなる上はワシ自らあの敵将を・・・」
「待たれよ。ここで大将自ら出るは愚策。勝家様、今回は武運に見放されました。退くべきでございましょう。」
副将である金森長近がそれを諫める。
「何を言うか!! これ以上の敗北、面目が立たぬ。」
その金森長近の制止を振り切ると柴田勝家は配下の騎馬隊と共に乱戦の中に消えていった。
「・・・退くぞ・・・これ以上の戦闘はただの無駄死にじゃ・・・」
金森長近の命により織田軍は撤退を始めていく。
これで良い・・・猿に憐みを受けるならば死を望むわ・・・
勝家は一瞬振り返り、織田軍が撤退する姿を確認すると笑みを浮かべた。
「させぬ!!」
そこに上杉家の騎馬隊が勝家めがけて襲いかかるも、
「ふんぬ・・・ぬああああ!!」
あっという間に槍で突き刺し、叩き落していく。
「なるほど・・・鬼柴田か・・・。ただの鬼と鬼神のどちらが強いか・・・」
本庄繁長は槍を手にすると前に出て行こうとするが、
「聞き捨てなりませぬな。私も鬼弥五郎ですが・・・。」
その前を遮るように北条景広が現れた。
「好きにするが良い。」
「ああ・・・好きにさせてもらう。」
北条景広は柴田勝家に対し向かっていった。
「小僧・・・ワシが柴田勝家だと知って一騎打ちを望むか?」
勝家は余裕の笑みを見せる。
「ならば私を上杉家家臣北条景広だと知っておるか?」
景広は言い返す。
「知らぬ。(知っておるがな・・・こやつが鬼弥五郎か・・・)」
「だろうな・・・いくぞォォ!!」
両者は激しくぶつかり合うのだった。
同じ頃、甲斐国身延山の麓。
「手強いのう・・・。」
嘆息する徳川家康。
徳川軍は一万の兵で甲斐国に侵攻していた。
順調に武田の支城を制圧していき、身延山の麓までたどり着いたが、ここで強烈な足止めを喰らってしまう。
穴山信君率いる二千の兵が立て籠もる下山城が鉄壁の守りを見せていたのだ。
元々は穴山氏の館の一つであったが、徳川家の駿河制圧に対し城塞化を果たしていた。
「我らは武田の血筋よ・・・ここから先は通しはしない。」
城の物見櫓に立つのは穴山信君。
正史上では甲州征伐で徳川に寝返る男であるが、歴史改変により勝頼は既に亡き存在、崇拝する信玄の存在とその後継者不在が大きかったのである。
御館様が亡きあとは私が武田を背負うのだからな・・・竜芳様を還俗させ、武田の家を相続させることによってな。
甲斐国と武田家の繁栄だけを願うこの男、そしてもう一人の存在が家康の甲斐国進攻を妨げる。
今は亡き武田家家臣常葉家の館跡に陣取るのは武田家重臣小山田信茂。
この男も正史上では甲州征伐において武田家を見限るが、この1570年においては全くその意思はなかった。
勝頼の死により、彼もまた信玄の後継者争いに名を上げることを考えていた。
穴山信君は武田の血筋、しかしワシは御館様の身内に等しい。
御館様の亡きあとは盛信様に武田の家を相続させる・・・あの若の武勇はまさしく虎の名を引き継ぐに相応しい。
互いの思惑は異なるが、その思いは武田家への信玄への忠義であった。
しかし、彼らの望む結末とは異なる歴史の改変が待ち受けていることは知る由もなかった。
大分、先の話ではあるが・・・
大和国多聞山城。
殿・・・やつれすぎでしょう・・・
竹中半兵衛重治以下家臣団の心配そうな顔はよくわかる。
大丈夫じゃないのは確かだ。3日間連続でなずなちゃんと頑張った。
多分デキたと思いますよ・・・あなたたちの思惑通りに・・・
私はその間に越前の朝倉義景に書状を送っていた。
「そろそろ義景殿に届いただろうな・・・」
「動きますか・・・あの御方が?」
重治は私の言葉に対し、首をかしげた。
平和ボケしている朝倉義景は一乗谷を第二の京の都にしてしまう勢い。
もはや戦国大名ではなく、戦国貴族・・・殿の盟友に相応しいとは思えないのです。
「私自身が板挟みは嫌いだけど、ここはやはり同志として心意義を示してもらいたい。そのためのアイテムも一緒に送ったしな。」
「アイテム? なんだそのワケのわからん言葉は?」
六兵衛が久しぶりにツッコミを入れてくれた。
「ほら・・・思いだせ。宇陀山の我が家にあったモノだって・・・」
「なるほど。義景殿ではなく阿君丸様を釣るという訳か・・・さすがだ・・・殿。」
私と六兵衛の会話に他の者達はついていけてなかった。
しかし、その思惑通りになるのだ。
越前国一乗谷。
「おお・・・正信殿。わざわざ御自身で参られるとは・・・」
朝倉義景のもとに若狭国守護となっている本多正信が訪れていた。
「義景様もお変わりなく・・・といいますか・・・肥えましたな・・・」
正信の鋭いツッコミに対し、義景は腹をさすりながら笑い出す。
「ワハハハ・・・越前は平和よ。多分、日ノ本で一番平和じゃ。」
「さすれば・・・阿君丸様をお呼びしていただけませぬか? 我が殿、大輔様より贈呈したいものがございます。」
正信の言葉を受けて、義景の嫡男である朝倉阿君丸が大広間に現れた。
「若狭国守護本田正信様。私が越前国朝倉家嫡男の阿君丸と申します。」
その聡明そうな佇まいに正信は舌を巻いた。
正史上では既に亡き者である阿君丸も、改変により生きながらえていることを再び追記する。
「これを我が殿より・・・どうぞ。」
正信が阿君丸に手渡した袋の中・・・
「なんと・・・なんと威風堂々たる人形の数々・・・」
阿君丸はそうつぶやくと中に入っていた一枚の紙きれに目をやった。
そして正信を見ると義景に進言し始める。
「父上、私はいい加減に近江の浅井長政の所業に我慢が出来ませぬ。」
「え?」
驚く義景に対し畳みかける阿君丸。
「もしも私に兵を一万与えてくだされば浅井を攻め落としましょう。」
その二日後であった。
「出陣!!」
越前国一乗谷から出陣する朝倉軍、その数は二万。
総大将として朝倉義景自身が出陣していた。もちろん馬上ではなく籠の中である。
果たしてその向かう先は・・・!?
そして阿君丸を突き動かした人形とは!?
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~
杵築しゅん
ファンタジー
戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。
3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。
家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。
そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。
こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。
身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる