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ただいま

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25 ただいま
━━━━━━

「それで、紀京氏がそこで転んでピーピー言ってたっス」
「はっ!!紀京?今動いたような」
「なんだと!?」


 ぱちぱち、瞬く。聞きなれた声が耳に響く。
皆…ここにいるのか?て言うか俺の恥ずかしい話してたな!?
 ボヤーっとボケた視界の中で、いくつもの顔が覗き込んでくる。


「んぁ…あー、あー。本日は晴天なり…あれ?目を開けたら、見知らぬ人たちだらけだった……」

「あ、紀京!!!」
「紀京氏!?」
「うわあああー!!」
「紀京あぁ!」

「ごふッ…?!ちょ、待て待て情報量が多い!!待って、優しくしてっ!なんでいつも激突してくるの!?」

叫びながら体を起こす。
腕の中で巫女が目を覚ました。
生身の…ふわふわした…巫女が……。

 

「おはよぉ、紀京」
「お、おはよう…巫女……ち、ちがうんだ!!これは……その、他意はないっ!」
「あはは、懐かしいセリフぅ」 
「うぐ」


 なんか知らん男の人たちに抱きつかれて、毛布にくるまってて、しかも巫女が裸で腕の中にいる。なにこれ!!なにこれ!?


「はぁ、お前ら…慎まなくてもいいところで慎むのかよ」
「もしかして清白?!」

「そうだよ。ねぼすけ野郎。おかえり」
「た、ただいま」

 

 まだぽやぽやしながら呆然と眺める。あ、そうか!みんな転生したのか。
 茶髪ショートヘアと茶色い目は変わらないが、背が伸びてる。可愛い系の、なかなかイケメンだな。
 清白はリアルの方がいいな。涼しげな顔が緩やかに微笑んでいる。

 
「清白は普通に真面目そうな、可愛い系イケメンだな」
「うっせえ。どうせ普通だよ」

「紀京氏、おかえりなさいッス」
「美海さん!?美海さんなの!?筋肉は同じだな」


美海さん、金髪はかわらないが髪が短い。首元を刈り上げて、ツンツンヘアーの紛うことなきムキムキマッチョ!!!
 ピアスが沢山耳に着いてるな!オシャレ。
目は、もしかしてカラコンてやつか?
黄泉の国で見たな。見た目は青い目のままだ。


 「美海さんカラコン?」
「えっ!?紀京氏知ってるんスか?」

「黄泉の国で社会勉強してきたんだ。美海さんは顔が優しげ、オシャレイケメンだね」
「あざまス!」


「紀京っ!遅ぇ!待たせやがって!!」
「す、すいません。獄炎さんは想像通りだな」

 獄炎さんはツーブロックって言うんだよな、これ。上の髪の毛が長くて、下が短くて上の髪の毛がオールバックに流されててめちゃくちゃカッコイイ。
 眉毛が太くて、日本人らしい黒一色だけど雰囲気的にはあんまり変わんないな。
 強そうな顔だ!!


「紀京ぁ!あなたたちを運んだのは私ですからねっ!」
「さ、殺氷さんか?お手数かけましてって、あれ?!」

 獄炎さんより髪の毛が長くてショートウルフって髪型だが、同じ顔???

「ぐすっ。私たちは一卵性双生児ですよ。ちなみに私が兄です」
 得意げに言い終わった殺氷さんが、鼻をかんでる。みんな泣きすぎ。

「チッ!大して変わんねーだろ。言う必要あるのかよ」

「それもちょっと前に聞いたセリフだな。
なんだよ、イケメンパラダイスなのは変わんないじゃないか。俺だけ普通」

 

「俺を見てから言え、紀京」
「いや、前よりイケメンじゃん」

「周りをよく見ろ」
「うーん。なんも言えない。フツメン仲間だしいいだろ?」

「はぁ。仲間ならいいか…」

 清白が急におとなしくなった。なんで?
てか急に男性増えたな?奥さんたちと巫女しか女性陣いないのか。
 炎華さんと櫻子さんはここにいないみたいだ。

 

「ボクは?ボクには?紀京!」

「はっ。巫女!!ただいま。めちゃくちゃ可愛くて美人で綺麗な、俺のお嫁さん。大好きだ」
「ボクもぉ……大好き」


「カーっ!!!懐かしいな!!ちくしょう!!傷を抉れ!もっといちゃつけっ!!!」

「お、おう?清白のそれはなんか進化したな?てかここどこ?」

 清白はゴロゴロ転がりだした。床の色が紫…散々聞いたおどろおどろしい音楽。俺たちがいるのは結界の中。
 そして焚き火……。ここはまさか。

 

「「「「北原天満宮」」」」
「ですよねー!!何でこんなとこに??」


「美海さんが偽造の証拠で裁判で晒し者になって騙された民衆に焼き討ちされそうになったから引きこもり中」
「いや、息継ぎなしに言われましても。あ、皇か?」

「そうだよ。アレ見ろ」


 清白が指さす先はボス部屋入口。うごうご蠢いてる鬼モブさんと、ボスの道真。
 その先の入口でぴいぴい言ってるおかっぱの皇。
 あー。なるほど。裁判じゃ勝てないから民意操作して、始末するつもりだったのか。
皇の後ろでたくさんの人が蠢いてる。


「なるほどな。わかった」
「分かったのかよ…」

「民意操作だろ?やりそうな事だな。さて、えーと。なにするんだっけ?」
「とりあえず服着ろ」

はっ、そうだった。

 

「み、巫女!服着ようか!」
「んー。あったかいし、気持ちいいし、このままでもいいよぉ?」
「ちょ、それはまずい。そこ触っちゃだめっ!巫女っ!服着て!!」
「んふふ。じゃあこっちにする」
「そこはもっとマズイっ!アッー!」

「今度こそ慎めバカタレ!!!」



━━━━━━

「大変失礼しました。」
「んふふ」

 いつもの法衣と巫女の真っ黒コートのよそおいでやっと落ち着いた。
 巫女のおへそ…柔らかかったな……。
いかんいかん!!!忘れろっ!!
なぜみんな笑顔なんだ。この空気耐えられない。

 

「じゃ、とと様のところに行って、役員会議して、発表会だね」
「役員会議」

 黄泉の国で聞いたことあるな、それ。

「そう。これからボク達がやることはクニツクリだよ。あそこにいる人たちも導いてあげないと」

「なるほどブラック企業創設、ということですね分かります」

「紀京は黄泉の国で何してきたんだよ。急に社会に明るくなったな」

「ふっ……スーツ着て、高層ビルで書類整理してた」

「なんだそりゃ。とりあえず行くか。みんな、あと頼みます」


「おう」
「頑張ってください」
「昼寝して待ってるッス」

「いやボス部屋で昼寝するんかい」
「昼寝するくらい時間かかりそうだし、いいだろ。」
「そ、そうだな。巫女、お願いします」
「はぁい。ゲームマスター!アクセス!」


 
 うおぉー?!この前みたいにぎゅんぎゅん引っ張られるけど……巫女カタカナ強くなったな!?

真っ白な光にまた包まれて、俺たちは意識を手放した……。


━━━━━━

「紀京ああぁーーーー!!!」
「おわあ!?お、お父さん!落ち着いて!ま、眩しっ!!」
「あ、めんごめんご。調整忘れてたッピ☆」

 もはやギャル語でもないんだが。


 現在地、神界。
神楽殿だったはずだけど、とんでもなくでっかい社が出来てる。
 一目で見切れない、白亜の社。平等院鳳凰堂みたいなサイズだ。改築したのか??

 
「とと様、紀京返して」
「そうだ。返せ」
「巫女は分かるけど、清白?どした??」

 巫女と一緒に頬を膨らませてるし。
 本当にどうした??

「うっせ。俺は巫女の次に紀京過激派だ。さっさとこっち来い」
「えっ?な、何それ??」


 お父さんが離してくれたので、清白と巫女の間に戻る。
 両側からぎゅっと抱きしめられてるけど、何が起きてるんだ?

「どうしてこうなった?」
「んふふ。スズは素直になっただけだよねぇ。紀京のこと大好きだもん」

「ほぁ?」

「おう。ボーイズラブじゃねぇぞ。人としてだ」

「ほぁ??」


「相変わらず面白いな。紀京が無事戻って本当によかったよ」
「おかえりなさいまし」

「ツクヨミ、姉姫様、ただいま戻りました」

 ツクヨミと姉姫様が微笑んでる。

 俺、帰ってきたんだな。やっと実感湧いたよ。ところでぼーいずらぶってなに?
 説明はない感じか。後で調べよう。うん。


 
「母上の色気攻撃刺さんなかったね☆紀京ちっとも反応しなかったな。まぢウケた♪」
「私も心配してたが、あそこまで無反応だと逆に紀京の方が心配になるな」

「何の心配なんだ?巫女の偽物はすぐわかるし、イザナミにドキドキする訳ないじゃないですか」

 今思い出しても全然似てなかったぞ。
本物はこんなに可愛いんだ。巫女の柔らかい頬をなぞる。
 あーかわいい。記憶と寸分変わらない巫女が愛おしくて仕方ない。

「んふふ」
「かわいい」
「おい、慎め。さっさと会議するぞ」
「うむ、ではでは!それ、わーぷ☆」

 アマテラスがパチン!と指を弾く。
一度視界が暗転して、ピカピカに磨かれた床、大きな梁が支える天井の高い部屋の中に突然入ってる。
瞬間移動?

 もう一度指を弾くと座布団が突然ドサッ、と現れる。
何この大量の座布団。

 

「自分の分は自分で持ってー。これから主要神様と顔合わせするから。
紀京、巫女、清白は上座。君たちがこれから主神になるんだからねぇ」

「えっ?上座!?お父さんとツクヨミは?」

「そうだよ。私たちは専務だから。現世に合わせて会社という形にしてみた。
とりあえずの形だがその方がやりやすいと思うし。
 紀京の仲間たちを待たせているから、一旦この形にするからな。事後報告ですまないが。
 神は全て裁定者の部下になる。ちゃんと顔と名前覚えるんだぞ。」

なんてこった。マジか。

 

「俺、覚えられる気がしないから紀京に任せた。お前頭いいだろ」
「んなっ!?ちょっと!清白頭いいキャラじゃないの??」
「紀京には勝てないことがよく分かった。頼んだからな」

 えぇーまじかぁ。
 しおしお項垂れつつ、上座に座布団を敷いて座る。居心地が悪い。
 


「ところでなんで俺が真ん中なの?」
「紀京がいちばん偉くなるからぁ」
「はい?巫女じゃないのか?」
「紀京が主役だからねぇ」
「そうだな。俺も長って柄じゃない」

 ぴこん、とシステムメッセージがポップする。
《清白 があなたをギルドマスターに指名しました 交代しますか?》


「おおおい!清白!?」
「俺はサポートがいい。お前の傍で一緒に働きたい。導くのはお前だ」

 清白が真っ直ぐな瞳で真剣な顔して見てくる。
な、なんだよ。素直に言われるとちょっと困るじゃん。
 仕方なく了承ボタンを押して、ギルドマスターになってしまった。

「複雑だ」
「ふふ、紀京かっこいいよ」
「俺はやっと落ち着いた」

 うーん。いいのかなぁこれ。
俺こそマスターって柄じゃない気がするんだけどな。

 

「おーい、服着替えようか」

 ツクヨミが前回もやった指でつついて模様替えをしてくれる。
 俺の黒い洋風の法衣が真っ白な浄衣に変わる。
袖括りと言われる、袖のステッチが金色の糸で出来ていて、真っ白の布の中に銀色の糸でびっちり全面に刺繍が入ってる。
 た、高そう。

 刺繍派手すぎんか。真っ白しろすけじゃないか。体が動く度にきらきらしてる。
巫女は下の指貫《さしぬき》という裾が膨らんだズボンが赤い。
 巫女さんらしい巫女の衣装。ダジャレじゃないぞ!!清白だけ真っ黒だな。刺繍も入ってない。


「夫婦はお揃いで同格の神様、清白はお供だ」

「へいへい。俺は地味でいい」

 えぇ。そういうのやだなぁ……。

「清白もお揃いがいいんだけど」
「バカ。こう言うのは差別じゃなくて区別なんだ。お前は長になるんだからしゃんとしろ。」
「うーん……うーん……」

 

 てかなぜ俺が社長なの?俺やるって言ってないんですけど。

「紀京、諦めろ。イザナミのところで叩き込まれたろ。クニツクリの書類や処理、生きるから死ぬまでのノウハウを知ってるのは紀京だけだ」
「うーわ、そういう事???」

「なるほどねぇ、それで返してくれなかったのかぁ」
「もう紀京がなるしかないって事だな。頼むぜ、社長」

「退路が断たれた!」

 仕方ない。納得するしか無さそうだ。

━━━━━━

 シャン!と鈴がなる。なんか始まる時に鳴るんだな、これ。
入り口脇でツクヨミと姉姫様が入場券を配るみたいに座布団を手渡す。
お父さんは案内役か。


「ご挨拶申し上げます。新たなる創造の神、紀京様。イザナギ、イザナミが参りました。経験者として、お手伝いさせていただきます」


 座布団を持った二人が笑顔でぺこり、とお辞儀する。
あーっ!!!イ ザ ナ ギイイ!!
待ってたぞ!!ここで会ったが百年目…とはいかんか。後で話そう。

 

「イザナギ、後で話があるんだが」
「紀京様。何となく知ってます。お手柔らかに」
「紀京、ちゃんと時間を取ってやるから我慢しなさい」

「ぐぬぬぬ」

 二人でニコニコしながら端っこに座ってるし。むむむ。


 
 イザナギはイザナミと同じ、細い目で黒い髪、黒い目。
長い髪を2人ともお揃いのお団子頭にまとめてる。
 俺達と服の時代が違うな……?
浄衣は平安時代だし、イザナギ達は古墳時代の服装。
 黄泉の国の民俗資料博物館で見た姿絵、前世で見た掛け軸の写真も確かにあの格好だったな……。


 イザナギは衣褌きぬはかま姿と言う古墳時代のメンズファッションだ。

 ゆったりした作務衣みたいな上下の服を手首、足首を手結たゆい足結あゆいという紐で縛ってる。
 黒い勾玉が着いた首飾り、剣とリボン型に結んだ腰の帯。古事記でもよく見る服装。


 イザナミは衣裳きぬも姿。
上着はイザナギとおなじだが、腰から巻きスカートを巻いたような裳を重ねている。
 さらに、領巾ひれという長細い布をショールのようにまとって同じく黒い勾玉と腰のリボンみたいな帯。
 それに、裾に向かって色が透けていく不思議な羽織を肩からかけてる。


 次々に入ってくる人たちもカラーが違うものの皆同じ服を着てる。
 あれ動きやすそうだな。あっちの方がいいな。これだと薬草採集とか戦闘がやりにくいよ。

 お?ツクヨミがやって来た。


「ごめんごめん、説明忘れてた。一人ずつ挨拶してくるから、受けてくれ。頷くだけでいいぞ。後でまとめて説明する」

「わかった。それにしても人数多くないか?」
「紀京、これは上位の神だけだ。忘れたか?日本には八百万の神がいる」
「忘れてました」

 だろうな、と笑って、姉姫様のところに戻っていく。
ペシ、とおでこ叩かれてる。んふふ。


 
「あれ、もしかして姉姫様の元ダンナ来るんじゃ?」
「来るだろうねぇ。あ、ちょうど来たよ」

 ちょっと背が低めの好青年が来た。あれがニニギか。
 姉姫様から座布団を渡されるが、ツクヨミが取り返して別の座布団渡してる。
しょんぼりしながらてくてく歩いてきた。
 うわー。内情が気になる。

「天孫ニニギノミコトが参りました」

声ちっさ!
頷きを返すと、とぼとぼ歩いていく。


「ツクヨミがどうしてああなったのか後で聞いてみようかな」
「ボクも気になってるんだよねぇ」


 しょんぼりしながら仲良く座布団を配るツクヨミ夫婦を眺め、ニニギはため息を落としている。
 ツクヨミがニニギの目線に気づき、冷たい目でニニギを見つめる。
こわっ。目だけで殺せそうだな。


「紀京もああいう顔する時かっこいいよねぇ。ボクドキドキしちゃうよ」
「えっ!?俺あんな顔してるか?」

「戦闘時とか姉様を見てる時そんな感じだよ?あと、あの時も。身代わりスキルの」
「うっ、あー、あー」
「ボク、お祭りが終わったら紀京にお説教するからねぇ」


巫女が微笑むが、目が笑ってない。
怖い!でも、キレイだ。

「紀京は喜んでんじゃねぇ!」
「はひ」
「んふふ……」

 
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