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気持ちの変化は突然に
しおりを挟むシャワーを浴びてリビングへ戻ってきたのはいいけど、瀧川くんの姿が見当たらない。人様の家の中をあまりうろちょろするのは気が引けるし……なんて考えていたらラフな部屋着を着て、濡れた髪をタオルで拭きながらやってきた瀧川くん。
「あ、瀧川くん」
私がそう声をかけると、ちらりと私を見るなりすぐ目を逸らす瀧川くんになぜか心がズキッと痛んだ。
「もっとゆっくり入っててもよかったのに。ちゃんと体温めてきた?」
少しだけ素っ気ないというか、よそよそしい。瀧川くんの気に障るようなことしちゃったかな、私。さっきの水シャワー? あれはさすがに呆れるっていうか腹立つよね、水を浴びるはめになったんだし。とろくさい女って思われたかな? あの瀧川くんが私から目を逸らすんだもん、相当だよね。
「篠宮さんおいで、何か飲む?」
冷蔵庫を開けながら私のほうを全然見てくれない瀧川くんにモヤモヤが募っていく。きっと私の感覚がズレてて、どうかしてるんだと思う。瀧川くんは私のことをちゃんと見てくれるのが当たり前だって、そう錯覚している。
瀧川くんの隣に立つとさりげなく私との間に距離を取ろうとする瀧川くんのちょっとした行動に、どうしようもなく胸が締め付けられて苦しくなった。どうしてかな、なんでこんなにも苦しいんだろう。
まるで私を拒絶するような、そんな態度の瀧川くん。
今思えば、あんな浮気野郎でも、私が拒絶したらこんな気持ちに少なからずはなってたのかな? 触られるのが嫌でよく拒否ってたし、態度にも露骨に出てた時もあったと思う。
「何飲む?」
「お茶もらってもいいかな」
「どうぞ」
2人同時にお茶へ手を伸ばして、ピタッと触れ合った手。通常運転の瀧川くんだったら、私のこの手を握って『触れ合っちゃったね』って嬉しそうにニヤニヤしながら笑うんだろうけど、今の瀧川くんは──。
「あ、ごめんね」
スッと手を引いて、私から離れていく。
どうして、なんで私から離れるの? なんて、そんなことを思う資格もないのに、そんなことばかりを考えて勝手に落ち込んで本当に馬鹿みたい。
「……瀧川くん」
「ん?」
私が呼ぶとピタリと足を止めて、少し振り向いた瀧川くんは変わらず私の目を見てくれない、見ようともしない。それがどうしようもなく寂しくて、気に入らなくて、自分でも本当にどうかしてるって思うけど、モヤモヤするこの感情が抑えきれない。私は瀧川くんに近づいてそっと手を伸ばした……けど、その手を優しく払い除けられてた。
「ごめん篠宮さん、今は触らないで」
『触らないで』その一言が私のモヤモヤにトドメを刺す。
「……やっぱ帰るね」
瀧川くんに迷惑かけるわけにはいかないし、私を避けるような瀧川くんの態度にこの先耐えることができないから、もう一緒にはいられない。一度あの優しさと温もりを知ってしまったら、どうしてもそれを求めてしまう。勝手に比較して、落ち込んで、瀧川くんの何者でもないのに──。
瀧川くんの横を通り過ぎようとした時、ギュッと強く腕を握られて動けなくなった。『触らないで』って言ったくせに、なんで私に触れてくるの? どうして引き止めるの?
「え、ちょ、篠宮さん! どうしたの? いきなり」
いや、それはこっちのセリフだよ。いきなりなんなの? 目を逸らしたり、触らないでって言ったり、露骨に避けたりして一体なにがしたいの瀧川くんは。
「……瀧川くんが私を見ようとしてくれないから」
「え?」
こんなこと言うつもりなかったのに、口から出てしまった本音は良くも悪くも私の心を乱していく。
「さっきから私のこと避けてるよね? ごめん、瀧川くんの気に障るようなことしちゃったかな。そんな露骨に避けられるとっ」
「いや、ごめん、ごめんごめん、本当にごめん! これは違うんだ」
うつ向いていた顔を上げて瀧川くんを見上げると、困ったような顔をして少し焦っているようにも見えた。
「違うって……なにが?」
「えっとまぁ、見ないようにって気をつけてはいたんだけど、やっぱ視界には入ってくるし、何度も何度も想像して俺を駆り立てた篠宮さんの裸体が……いや、ごめん。なんか変態っぽいよね、自分でも気持ち悪いって思うよ。でも、どうしようもなく欲に駆られて、君をメチャクチャにしちゃいそうなんだ。今だって気を抜くとすぐ勃起しちゃうから」
下半身を指差して『見てよ』とアピールしてくる瀧川くん。私は目を細めてゆっくり視線を下げると── うん、たしかにアレが勃ってる。ズボンがはち切れそうなほど逞しく反り立つ瀧川くんのアレ。
って、待って待って。え? い、いくらなんでもソレ大きすぎない!? なんかもう、すごい大きい、とにかく大きい(あまりの衝撃に語彙力低下中)。いやいや瀧川くん、君のサイズいくつ!?
「あんなことがあった後だし不謹慎なのは分かってるんだけど、どうしても抑えきれなくて。それに自分で言うのもなんだけど俺のデカいし、篠宮さんを怖がらせちゃうかなって……だからごめん」
『私の体は女として、そんなにも魅力がないのだろうか』とか思ってたけど、そういうことでもなかったってこと……だよね?
「あ、あの、私に欲情してくれてるの……?」
「は? え、そんなのするに決まってるでしょ、何を言ってるの? しないほうがおかしいよ、篠宮さんはとても魅力的な女性なんだから」
真顔で一刀両断してくる瀧川くんに若干引き気味で微笑むしかない私。瀧川くんはそんな私を見て困ったように笑ってる。
今までセックスしたいとかあまり思ったことなかったけど……まあ、相手があの浮気野郎だったから尚更だとは思うけどね。でも、今は違う。私を『愛してる』と言ってくれた瀧川くんのことをもっと知りたくて、愛してるを行動で伝えてくれる瀧川くんに……どうしようもなく惹かれているのかもしれない。
単純な女だって笑われるかもしれない、チョロい女だって貶されるかもしれない。でも愛のカタチってそれぞれなわけで、それが“心”からスタートするのか、それとも“体”からスタートするのかなんて、そんなにも重要なことなのかな? こだわる必要ある? どんな始まり方したっていいんじゃないかって、もっと気軽に考えてもバチは当たらないんじゃないかって、そう自分に言い聞かせて何とか正当化しようと試みる。
体から始まる恋なんてこの世にたくさんある。別に悪いことしているわけでもないんだし、お互いフリーなら尚更気にすることなんてないよね? これから少しの間お世話になるし、瀧川くんが私を求めてくれるのなら──。
「瀧川くん」
「ん?」
「私でよければ……その、する?」
「……え?」
呆気にとられた顔をして立ち尽くしてる瀧川くんを見て一気に不安になってきた。どうしよう、やっぱ軽い女だって思われたかな。
「あ、あの……私あまり経験ないし、上手くできないと思うけどっ」
「ちょちょ、ちょっと待って、ごめん。なんか俺卑怯だったよね。でもそういうつもりで篠宮さんを家に招いたわけじゃないんだ。篠宮さんが『体でお礼を……』みたいな感じで思ってるのなら俺の本意ではないよ。だから、そう思わせてしまったのなら本当にごめんなさい」
焦ったような、申し訳なさそうな顔をして私を見つめる瀧川くん。一定の距離を保って、それ以上は近寄って来ないし、触れることができない微妙な距離。このちょっとした距離がもどかしくて寂しい……なんて思う私はもっと卑怯だ。
「瀧川くんは卑怯なんかじゃない、卑怯なのは私のほうだよ。瀧川くんの気持ちに応えることもできないくせに私……瀧川くんだったらって思って、こんなの不純だって分かってるのに、ごめん。でもどうしようもなく寂しくて、なにかに満たされたい。こんなの瀧川くんを利用してるみたいでっ」
「篠宮さん、いいよ。俺は利用されてるなんて微塵も思わないし思ってないけど、仮にそうだとしてもそれでいい。君に利用されるなんて本望だよ。それならもっと俺を利用して? 俺をもっと使ってよ。俺は必ず君の役に立つよ、だからたくさん甘えて? 篠宮さんが『もう要らない』って言うまで、思う存分満たしてあげるから」
『おいで』とは言わないものの、両手を広げて私を受け入れようとしてくれてる瀧川くん。あくまで私の判断に任せようとする瀧川くんはどこまでも優しくて、私のことを想ってくれてる。こんな人、やっぱりもう二度と現れないよ──。
私は導かれるように歩み寄って瀧川くんを抱きしめると、そんな私を優しく包み込んでくれる瀧川くん。
「抱いていいかな、篠宮さんのこと」
「うん、瀧川くんで満たして」
「怖かったり痛かったり不快だったら言ってね、すぐやめるから」
「瀧川くんは優しすぎだよ」
「こんなの普通だよ。それに篠宮さんが思ってるほどいい人でもなければ、出来た人間でもないよ。俺は篠宮さんだから大切にしたい、優しくしたいって思えるんだ。だからあまり買い被りすぎないでね? 幻滅されたくないから」
その辺の価値観は人それぞれだと思う。でも私は、誰にでも優しい人より私だけに優しい人のほうがいいなと思ってしまう。そのほうが愛されてるって実感ができると思うから。けど、欲を言えば私が大切に思う人には、少し優しくしてくれると嬉しいなって思う。図々しいっていうか、欲張りだな……私は。
「でも、篠宮さんの大切は俺にとっても大切だから、君の大切なものも必ず守るよ。だから安心してね? 無下にはしないから」
ドクンッドクンッ……と胸が高鳴る。全身で瀧川くんの想いに触れてる気がして、この包容力から抜け出せそうにない。
── 気持ちの変化は突然に
どうしよう、瀧川くんに大切にされてるって実感すればするほど、どうしようもなく瀧川くんに惹かれて、欲しくて、私だけの瀧川くんにしたいという欲に駆られる。
私はきっと、瀧川くんを好きになってしまう──。
「ごめん、篠宮さん。もう我慢できそうにないや」
「ひゃあっ!?」
ひょいっと私を軽々持ち上げて抱っこする瀧川くんに慌てて抱きついた。
「愛してるよ、篠宮さん」
「んっ」
愛の言葉を囁いて、唇を重ねてきた瀧川くん。私を抱えたままゆっくり歩き始め、舌を這わせながら私の唇を舐めて舌先を口の中へ入れてきた。舌を絡め合って、私も積極的に舌を絡ませにいくと、もっと激しく瀧川くんが応えてくる。
「……はぁっ、可愛いことするね? 篠宮さん」
「んっ、はぁっ」
全てを喰らい尽くすように私の口の中を隅々まで這い回って、絡めとって、音を立てながら啜ってくる。それがとても気持ちよくておかしくなりそう。
「ねえ、篠宮さん………もっとちょうだい」
「んっ、こう……?」
瀧川くんが私にしてくれるような丁寧で優しく、そして甘く激しい口づけをそのまま瀧川くんに返す。ちゃんとできてるのかな? これ。
「……っ、上手だね」
「言わないで……っ、恥ずかしいから……」
「はあ、たまんない」
「んむっ!?」
立ち止まって、これでもかってくらい激しく私の口内を犯す瀧川くん。ねっとりした音が響いて、その音と瀧川くんの吐息に体の芯がぎゅっと疼いてぞくぞくする。キスだけでこんなことになっちゃうなんて、恥ずかしくて瀧川くんには知られたくない。
「可愛いなぁ、篠宮さんは」
「もう……っ、やだ」
「そう? ならやめる?」
私の頭を優しく撫でながら、瀧川くんの寝室の前まで来てピタリと止まった。色っぽい瞳をして優しく微笑む瀧川くんはイジワルだ、私がやめたくないの分かってるくせに。
「やめ……たくない」
「うん、知ってる。死ぬほど愛してあげるよ、篠宮さん」
後悔するかもしれない。
そもそも瀧川くんは、中途半端な気持ちで関係を持っていいような人じゃない。覚悟だってできてないし、この先どうなるかも分からない。ヤクザの女になるって、そんな簡単なことじゃないから。でも、それでも今はただただ瀧川くんに溺れたくて、どうしようもなく瀧川くんが欲しいの。
だから、後悔するなら瀧川くんに抱かれた後で──。
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