28 / 31
ヤクザの女(1)
しおりを挟む── 瀧川くんに会えない日々が続いて3週間が経過
寂しくないと言えば嘘になるけど、毎日マメに連絡をくれるおかげで落ち込んだりすることもなく、普通の生活を送れている。少し変わったことといえば、お母さんと久遠さんのお母さんが仲良くなって、私と久遠さんはその2人の姿を少し離れたところから空気のように眺める……という謎の関係性ができたことくらいかな。
「美波さ~ん」
「ん?」
「宮腰さんってまだ出てこれないんですかぁ?」
「みたいだね」
「家業の手伝いでしたっけ~? 宮腰さんの実家って農業とかぁ?」
「ええ……ど、どうだろう。私も詳しくは知らないなぁ」
『極道だよ!』なーんて言えるわけがない。
「なんか地味に仕事量増えてませ~ん? 宮腰さん復帰してきたら奢ってもらお~」
「ははは……そうだね」
鎌倉くんは何も言わず黙々と仕事をこなしてくれる。なんなら瀧川くんの分の仕事まで淡々とこなし始めた鎌倉くんは、将来有望すぎるのでは? とはいえ、後輩にあまり負担をかけるわけにもいかない。
「鎌倉くん」
「はい」
「それ半分こっちに回して。私のもう終わったから」
「相変わらず仕事早いっすね。誰かさんに見習ってほしいっすわ」
「はあ? なんであたしを見て言うわけ~? あたしだってちゃんと仕事してるし~」
「遅ぇわりに雑とか話になんねえ」
「ちょ、鎌倉くんっ」
「あぁそう。だったらあんたが全部やったら? あたし書類整理してきまーす」
「おい、待てよ」
ありゃりゃ。
怒って書類整理をしに行った蛯原ちゃんをすかさず追っかけた鎌倉くん。あの2人、仲が良いんだか悪いんだかいまいち分かんないのよね。
── 終業後
「本当に2人だけで大丈夫? 私も残ろうか?」
「大丈夫なんで帰ってください。お疲れっした」
「ええ~、美波さんも残ってよ~」
「お前がサボってた分のツケが回ってきてんだろ。俺も手伝ってやるからちゃんとやれ」
『おお、鎌倉くん素敵~』なんて思いながら、心の中で拍手喝采。ここで私が居残るのは野暮すぎるか……とか変に勘繰りすぎて、年々こうやってお節介おばさんになっていくんだろうな~ってちょっとツラくなった。
「じゃあお先~」
今日久々に蛯原ちゃんと鎌倉くん誘って飲みにでも行こうかなって思ってたけど、思いきってひとり飲みでもしてみようかな。そう思って何回か行ったことのある居酒屋へ行くと、会社の人達に会ったりして結局はひとり飲みではなくなった。
ちょっと夜風に当たりたくて賑わってる夜の街並みを歩いていると、何となく雰囲気の良さそうなバーが視界に入って、そこへ行ってみることにした──。
「「あ」」
カウンター席に座って横をチラッと見てみると、椅子2脚分先にまさかの人物がいて思わず声が出た。
「こ、こんばんは。久遠さん」
「なにしてんだ、篠宮」
「なにって、飲みに来たんですけど」
「そうか」
それからとくに会話をすることもなく、本当に空気みたいな私達。不思議と気まずくもないし、なんだろう……お兄ちゃんがいたらこんな感じなんだろうなっていう謎の安心感。
一応瀧川くんにはお母さんがいる施設で関わりができた人がいるっていうのはちゃんと報告してあるし、それが男の人だってことも隠さず話してある。まあ、正直一緒の空間にいるだけの関係でしかないから、今瀧川くんにこのことを報告する必要もないかな? とは思うけど。
次々お客さんが帰っていって、残されたのは私と久遠さんだった。
「そろそろ帰りますね」
「送ってく」
「いや、いいです」
「危ねえだろ」
「私達そういう関係でもないですし、すみません。気持ちだけ受け取っときます」
「そうか、気をつけて帰れよ」
「ありがとうございます。じゃあ、また」
お店を出てスマホを見てみたけど、瀧川くんから連絡はナシ。今日は忙しいのかあまりメッセージも来ない。ちゃんとご飯食べてるかな、ちゃんと寝れてるかな。体調崩したり、怪我したりしてないといいけど。
今日はたくさん食べて飲んじゃったし、ちょっとだけ歩こうかな。人通りも多いから危なくもないだろうし。
この時間、カップルがあっちこっちでイチャイチャしてて、『わあー、すごいなー』ってめちゃくちゃ他人事でしかない。
「……あれ?」
周りの情報量が多くて普段来ないような場所だったし、まともに歩いたことのない土地をこんな時間に歩こうなんて思ったのが、そもそもの間違いだったのかもしれない。
ここ、めちゃくちゃホテル街なのでは?
「うん、帰ろ。タクシー呼んで帰ろ。えーっと……」
「篠宮さん」
「ひっ!?」
真後ろから突然呼ばれて、体をビクンッ! と跳ね上がらせながらバッと後ろへ振り向くと、そこにいたのは──。
「たっ、瀧川くん!?」
3週間ぶりに見る瀧川くんは物凄くぅ……怒ってらっしゃる。それになんだろう、なんて言うかぁ……とてもヤクザ色に染まっているっていうか、極道! って感じの雰囲気が駄々漏れになっててとんでもなく色っぽいし、やばいくらい怖い。
「なにしてるの、こんな場所で」
なにしてるのって……なにしてたんだっけ? なにもしてないよね?
「あっ、え、いやっ」
そういえばここ、ホテル街だったあー。そりゃ瀧川くんが闇落ち寸前な瞳で私を見てくるわけだ……ど、どうしよう。別に何もしてないのに怒られるの嫌だよ、さすがに。
「ここで何をしてるの、篠宮さん」
怒ってる、これは怒ってる、怒ってるー!!
「なにも、何もしてないから! 迷い込んじゃった……みたいな感じで!」
「へえ? 迷い込んだ……ねえ。こんな時間に1人で?」
「だっ、だってひとり飲みしてたんだもん!」
「ふーん」
「ちょっ……!?」
いきなり私を抱き寄せた瀧川くんは、クンクンしながら私の首周りを嗅いでくる。
「男が至近距離にいた……ってことは無さそうだね。居酒屋とバー行ってた? で……」
「んっ!?」
突然唇を奪われて、口の中に舌を入れてきた瀧川くんは何かを探るように、確かめるようなキスをしてくる。
「最後にギムレット飲んだでしょ」
「……の、飲んだけど……って、バカ!」
「いててっ」
瀧川くんの額にチョップを食らわせて慌てて離れると、周りにいた人達が『ヒューヒュー』とか『アツいね~』とか、もう最悪すぎる。
「ていうか、瀧川くんこそ何してるの? ""こんな場所で""」
ジトーッとした目で瀧川くんを睨み付けると、ニヤニヤして嬉しそうにしているのがこれまた腹が立つ。そもそも私なんかより瀧川くんがなんでこんな場所にいるのかが知りたい!! そっちこそ誰とどこで何をしてたのよ! 今日連絡も少なかったのに!
「ハハッ。なに、気になるの? 可愛いね」
「もうっ、からかわないで!」
「怒ってる篠宮さんも本当に可愛い。食べちゃいたい」
「だーかーらー! ふざけないで!」
「ごめんごめん、可愛くてついつい。この辺うちの管轄なんだよ。だからちょっと見回りしてたんだけど、まさか篠宮さんがいるなんてね。ま、君が悪いことしてないっていうのは、ちゃーんと信じてるから」
なんて言いながらニコニコ笑ってる瀧川くんに大きなため息を吐くしかない私。
まったく、ちょっと疑ってたくせにー。めちゃくちゃ声低かったし顔若干怒ってたし!
10
あなたにおすすめの小説
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜
yuzu
恋愛
人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて……
「オレを好きになるまで離してやんない。」
定時で帰りたい私と、残業常習犯の美形部長。秘密の夜食がきっかけで、胃袋も心も掴みました
藤森瑠璃香
恋愛
「お先に失礼しまーす!」がモットーの私、中堅社員の結城志穂。
そんな私の天敵は、仕事の鬼で社内では氷の王子と恐れられる完璧美男子・一条部長だ。
ある夜、忘れ物を取りに戻ったオフィスで、デスクで倒れるように眠る部長を発見してしまう。差し入れた温かいスープを、彼は疲れ切った顔で、でも少しだけ嬉しそうに飲んでくれた。
その日を境に、誰もいないオフィスでの「秘密の夜食」が始まった。
仕事では見せない、少しだけ抜けた素顔、美味しそうにご飯を食べる姿、ふとした時に見せる優しい笑顔。
会社での厳しい上司と、二人きりの時の可愛い人。そのギャップを知ってしまったら、もう、ただの上司だなんて思えない。
これは、美味しいご飯から始まる、少し大人で、甘くて温かいオフィスラブ。
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
お客様はヤの付くご職業・裏
古亜
恋愛
お客様はヤの付くご職業のIf小説です。
もしヒロイン、山野楓が途中でヤンデレに屈していたら、という短編。
今後次第ではビターエンドなエンドと誰得エンドです。気が向いたらまた追加します。
分岐は
若頭の助けが間に合わなかった場合(1章34話周辺)
美香による救出が失敗した場合
ヒーロー?はただのヤンデレ。
作者による2次創作的なものです。短いです。閲覧はお好みで。
取引先のエリート社員は憧れの小説家だった
七転び八起き
恋愛
ある夜、傷心の主人公・神谷美鈴がバーで出会った男は、どこか憧れの小説家"翠川雅人"に面影が似ている人だった。
その男と一夜の関係を結んだが、彼は取引先のマネージャーの橘で、憧れの小説家の翠川雅人だと知り、美鈴も本格的に小説家になろうとする。
恋と創作で揺れ動く二人が行き着いた先にあるものは──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる