秘めごとは突然に ~地味な同僚くん、実はヤクザでした~

橘ふみの

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ずっと、永遠に(2)

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 この人達は瀧川くんが守りたいもので、いざとなったら瀧川くんを守ってくれる人達でもある。本当はひとりひとりにお礼を言いたいくらい。

「ここです、僕は外で待ってますので」
「ありがとうございます、小栗さん」
「いえいえ」

 小さな声で『お邪魔します』と言いながらドアを開けて病室の中へ──。

 ベッドの上で眠っている瀧川くんに近づいて、少し痩せた頬をそっと撫でた。

 あたたかい、瀧川くんはちゃんと生きてるって実感する。

 安心して情けないくらい涙が溢れ出てきて、必死に声を押し殺して泣いた。『ごめんね』や『ありがとう』や『愛してる』をたくさん伝えたい。

 私は瀧川くんに背を向けて、入口の方へ向かった。ドアの取っ手に手をかけようとした時──

「篠宮さん」

 そう呼ばれて振り向くと、優しく微笑んでいる瀧川くんが私を見ていた。

「……た、瀧川くん」
「ハハッ、すごい格好してるね。変装して来てくれたの? やることなすことが可愛いすぎだよ、篠宮さん。でもそれ露出しすぎじゃないかな? まったく、もっと自覚してよ。自分が死ぬほど可愛くて綺麗でいい女だってこと」

 きっと私の行動も思考も、なにもかもお見通しなんだと思う。そして、いつも通りの瀧川くんになんだか拍子抜けしてしまった。

「よく私だって分かったね。正直誰が見ても私だって分かんないレベルの変装っぷりな自信があったんだけど」
「ククッ、そんなの匂いですぐ分かるよ」

 そんなこと言いながら曇りなき眼で私を見ないで?

「そ、そっか」
「うん。それにいくら変装しようが俺の目は誤魔化せないよ。俺が君を見間違うはずがないでしょ」
「あ、ありがとう……?」
「……ごめんね、こんなカッコ悪い姿見せたくなくて、でも連絡取り合ったら篠宮さんに会いたくなっちゃうだろうし……だからちょっと避けてた、本当にごめん」

 申し訳なさそうな顔をして起き上がった瀧川くんは手招きしている。私がちょこちょこっと瀧川くんに近寄ると抱き寄せられて、そのままベッドの縁に座る。

「泣かせちゃってごめん。連絡もなくて不安だったよね? もうゴタゴタは落ち着いたから。俺、自分のことしか考えられてなくて、ダサい男でごめんね」

 なんだっていい、瀧川くんが生きていてさえくれてたらなんだっていいの。

「生きててよかった……本当によかった。私を守ってくれてありがとう、瀧川くん」

 子供みたいに泣きじゃくる私を優しく抱きしめて、頭や背中をポンポン撫でてくれる瀧川くん。

「もうっ、バカ! 全然かっこ悪くなんかない! なのに……もうバカ!!」
「うん、ごめん……本当にごめんね?」
「社会人なんだから“報・連・相”!!」
「う、うん、ごめんなさい」
「倉本さんに怒られるよ!?」
「た、確かにね」

 泣きじゃくってたのが嘘のように、ぷんすか怒りながら瀧川くんへ説教をする私。

 『どうしよう、篠宮さんめちゃくちゃ怒ってるな~』みたいな顔をして困っている瀧川くん。ま、正直私が説教できる立場ではないんだけどね? 倉本さんにこの前『社会人何年目だ~』って怒られてるし……って、この話は瀧川くんに言わないほうがいいか。会えない間、瀧川くんのことばっかり考えてて私がポンコツだったのがバレちゃうし、瀧川くん倉本さんのことあまり好きじゃないっぽいし。

「瀧川くん」
「ん?」
「……久遠さん、どうなったの?」

 久遠さんのことがずっと気掛かりだった。私を逃がそうとしてくれたし、お母さん同士のこともあるから──。

「久遠健人に関しては不問だよ」
「そ、そっか」

 よかった……と喜んでいいのかは分からないけど、でも……よかった。

「あの人から事情は聞いたし、篠宮さんからもあの人の存在のことはちゃんと聞いていたからね。今回は篠宮さんと篠宮さんのお母さんに免じて不問にしただけだよ。だから、次はない」

 これに関して瀧川組の中で賛否は必ずあったはず。けど、瀧川くんは私とお母さんの為に動いてくれた。ヤクザの世界は甘くない、そんなの素人の私でも理解してる。だから『次はない』の言葉がどういう意味なのかを……私も肝に銘じておかなくちゃいけない。

「うん」

 真っ直ぐ瀧川くんの瞳を見つめると、私の頬にそっと手を添えて瞳の奥底まで覗き込んでくるような瀧川くんの綺麗な瞳が、私を捉えて離そうとしない。

「君はどこまでも美しくて強いね。ますます手離してあげられなくなるよ」
「瀧川くんがいれば何も怖くない。瀧川くんに愛されてる限り、私はいくらでも強くなれる気がするの」
「……本当に敵わないな、篠宮さんには。ずっと、永遠に愛し続けるよ」
「私、瀧川くんより強くなっちゃうかもね」
「ハハッ。なにそれ、可愛い」

 どちらからでもなく、永遠の愛を誓うように私達の唇は重なった──。


 あれから瀧川くんは無事に退院、仕事にも復帰して日常が戻りつつある。

 少し変わったことと言えば、蛯原ちゃんと鎌倉くんには瀧川くんと付き合ってるってことを伝えた……というか、会社内でキスしてたところを見られてバレた。これは完っ全に瀧川くんのせい。

 そしてまさかのまさかで、鎌倉くんは瀧川くんが“瀧川”なことを知っていて、ヤクザだってことも把握済みだったとか。

 瀧川くんが居酒屋で顔出しした時に気づいたらしい。ある意味他人に興味がない鎌倉くんは、『ああ、まあ、何かしらの事情があんだろうなーって思って。別に俺と蛯原に害が無ければどーでもいいかなって』……だそうです。

 ちなみに蛯原ちゃんは瀧川くんがヤクザだってことは知らない。これは私と瀧川くんと鎌倉くんの秘めごとってことで。

 あの時、鎌倉くんがあの先輩の居酒屋へ私を連れていってくれたのは、私が瀧川組の情報を少しでも得ることができればな……みたいな気遣いだったんだろうなって今になって思うと、本当にいい後輩すぎて先輩感激だよ。

「──さん。ねえ、篠宮さん聞いてる?」
「え? ああ、うん」
「どっちがいいかな?」
「どっちでもいいと思うけど……」
「こっちのスーツのほうがいい?」
「いや、そもそもスーツじゃなくてもいいんじゃないかな……」
「ダメだよ、初めてのご挨拶なんだから。緊張するなぁ」

 いやいや、そんなかしこまらなくてもぉ……とはいえ、私も瀧川くんのご両親へいきなり挨拶をしに行くってなった時(瀧川くんの退院日)は本当に緊張したし、いきなりすぎて瀧川くんをめちゃくちゃ恨んだし、思いっきり頬をつねくったな。

「ねえ、ネクタイ曲がってない?」
「ねえ、肌の調子悪くないかな?」
「ねえ、髪型おかしくない?」
「ねえ、変なところにシワ入ってないかな?」
「ねえ、大福これだけでいいの? 買い占めようか、お店ごと」

 隣でひたすらあれこれ騒いでいる瀧川くんに呆れるしかない私。

「あの、瀧川くん。ちょっと落ち着いて? 大丈夫だから」
「だってさ、『こんなだらしないヤクザに篠宮ちゃんはあげない!』なんて言われたらショックで立ち直れないよ? 俺」
「いやいや、見ただけじゃヤクザなんて分からないから。とくに瀧川くんは」
「……篠宮さん。俺ちゃんとヤクザだって言うよ、篠宮さんのお母さんに隠し事はしたくない」

 瀧川くんのこういうところが本当に好きだなって思う。私だけじゃなくて、私の大切な人も大切にしようとしてくれるところが瀧川くんらしくて、大好きが加速していく。私、この先もずっと瀧川くんと一緒にいたい──。


「こんにちは、篠宮さん」
「あら、いらっしゃい篠宮ちゃん……と噂の彼氏君かしら!? あらやだっ、とってもイケメンじゃないの~! 連れてきてくれたのね!? 嬉しい~!」
「はじめまして、美波さんとお付き合いさせていただいております。瀧川司と申します」
「そんっな堅っ苦しい挨拶はいいわよ~。私、篠宮ちゃんの親じゃないんだからぁ、ねえ? 篠宮ちゃん」
「……ははっ、そうですね」

 何度言われてもこの言葉は慣れないな。面と向かって言われると、ちょっとキツい……。

 瀧川くんがそっと私の背中に手を当てて、ポンポンッと優しく撫でてくれた。これだけで気持ちがスッと楽になって心が救われる。

 それからお母さんと瀧川くんはすぐに打ち解けて、会社での瀧川くんからは想像もつかないほどのコミュ力の高さ。

「あの、実は僕……ヤクザなんです」

 ちょ、瀧川くん!? 唐突すぎない!?

「え?」
「家業で絶やすわけにも……というのが現状で、ゆくゆくは僕が背負うことになります」
「……そ、そうなのね……」
「すみません」
「……そうね。篠宮ちゃんが全てを知ってて、それでも瀧川君を選んだのなら……それが答えよ。いいじゃない、それで。ね? 篠宮ちゃん」

 お母さんが瀧川くんを受け入れてくれた、認めてくれたって気がして、それが本当に嬉しくて涙が滲んできた。鼻の奥がツンッとして痛い。

「必ず美波さんを幸せにします」
「あら、やだぁ~! なんだか結婚の挨拶みたいね~!」
「その時はまた改めてご挨拶に伺いますね」
「フフフッ。いい男ね~、瀧川君。楽しみに待ってるわ」


 ── 帰宅早々、私をギュッと抱きしめてきた瀧川くん。

「はあー、緊張した」
「お母さんすごく楽しそうだった。ありがとう、瀧川くん」
「こちらこそ会わせてくれてありがとう、篠宮さん」
「夜ご飯なに食べたい?」
「篠宮さん」
「もうっ! 違う!」
「ハハッ、ごめんごめん……ねえ、篠宮さん」
「ん?」

 私をゆっくり離して、ちょっと緊張してるような表情の瀧川くん。一体どうしたんだろう。

「俺は最初からそのつもりだったんだけど、ちょっと言葉足らずだったかな? って今さらながら心配になったというか不安で……篠宮さん、俺と結婚を前提にお付き合いしてください」

 え?

 あの、ごめん。私はそのつもりだったんですけど……?

「もちろん。よろしくお願いします」
「本当に?」
「うん……というか、そのつもりだったよ? 私も」
「はあ、そっか……よかったぁ。あ、ちょっと待ってて?」
「え、あ、うん」

 へにゃへにゃな顔をして心底安心したような顔をしている瀧川くん。ああいう顔も結構好きだったりする。

「これ、篠宮さんに受け取ってほしい」

 瀧川くんが持ってきたのは── 指輪だった。しかもとても綺麗で素敵な指輪。

「……瀧川くん、これって……」
「婚約指輪」
「いいの?」
「いいも何も、君のだよ。つけてもいいかな?」
「うん」

 私の左薬指に控えめに輝く指輪が──。

「これからも俺と一緒にいてください」
「ありがとう。これからも一緒にいさせてください」
「……もっとちゃんとした場所でって思ってたのに、気持ちが高ぶっちゃって……家でごめんね?」

 場所なんて関係ない、瀧川くんがいればどこだってそこが“特別”になっちゃうんだから。

 この先も色々なことがあると思う……楽しいことも、もちろん悲しいことも。だけど瀧川くんと一緒なら乗り越えられる気がするの。瀧川くんの傍にいたい、瀧川くんの隣に立って、肩を並べて歩いていきたい。

「篠宮さん、愛してる」
「私も愛してるよ、瀧川くん」

 ずっと、永遠に──。
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