秘めごとは突然に ~地味な同僚くん、実はヤクザでした~

橘ふみの

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ずっと、永遠に(1)

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 ── あの騒動から1週間と少し経過


 瀧川くんから一度メッセージが来たっきり連絡が途絶えている。私からメッセージを送っても既読にならないし、電話も繋がらない。

 〖少し連絡が取れなくなるかもしれないけど、心配しないでね〗ってメッセージの一部に書いてあったけど、こんなの本当に大丈夫なの……? って心配するに決まってるじゃん。

 腹部を撃たれてるから病院にいるのは絶対だと思うけど、その病院の場所さえ分からないし、そもそも瀧川組のことを私は何も知らない。本当にいいのかな……何も知らないままで、もっと瀧川くんのことが知りたい。

 ねえ、瀧川くん。あなたは今どこにいるの……? 無事なの? 本当に大丈夫なの……? 会いたいよ、瀧川くん──。

「──さん。美波さ~ん」
「え、あぁうん。ごめん」
「最近スマホばっか見て大丈夫ですかぁ?」
「大丈夫だよ、ごめんね?」

 瀧川くんの安否が気になって仕事に集中できない日々が続き、ちょっとしたミスが増えて『おい、さすがにたるみすぎだぞ。社会人何年目だ、しっかりしろ』って倉本さんに怒られる始末……。

「篠宮さん、ここ入力ミスってますよ」
「……本当だ、ごめんね鎌倉くん」
「あの、今日飲みに行きませんか」
「え?」

 あの鎌倉くんが私と飲みに? ていうかあの鎌倉くんが自ら飲みの誘いをしてくるなんて……めちゃくちゃ気を遣わせてるよね、これ。私が倉本さんに怒られてるの多分聞こえてただろうし、死ぬほど気を遣わせてるに違いない。

 鎌倉くんと2人で……か。ちょっとどうだろう……それは。

「いや、蛯原も一緒ですよ」

 私の思考は全て読まれていたのか物凄く真顔で私を見ている鎌倉くん。

「ああ、うん、だよね」
「行きませんか」
「あ、うん。ぜひ」

 ── 仕事を終えて、鎌倉くん達と向かった居酒屋は、えーっと……なんと言いますか、とてもヤンチャな人達が集まっているお店です!

「ここ、鎌倉の先輩がやってるお店なんですって~」
「へ……へぇ、そうなんだ」
「味はいいんで」

 いや、そんな心配はしてないし、その言い方絶妙に失礼にならない? 大丈夫か、鎌倉くん。やっぱ鎌倉くんは正真正銘の元ヤンだ……きっとね。

 そして、周りの人達の話題はあの騒動で持ちきりだった。

「あれ、久遠組の詰めが甘かったらしいな。瀧川組に喧嘩吹っ掛けたようなもんだろ」
「瀧川組の奴、撃たれて入院してるって聞いたぜ」
「まあ、あの病院だろうな。しばらく近づくのは止めておいた方が無難か」

 ちょ、その話もっと詳しく! どこの病院ですか、それ! 私は耳をダンボにして人様の会話を盗み聞きしていた……けど、結局その病院がどこかは分からなかった──。

「鎌倉くん、今日はありがとう」
「いえ、ちょっとでも役に立てばって思ったんすけど」
「ん? なにが?」
「まあ、なんでも」
「そ、そっか……?」
「送ってきます」
「え、いやっ、いいよいいよ。蛯原ちゃんのことよろしくね」
「篠宮さんに何かあったら俺が殺させる」
「え? いやいや誰に?」
「宮腰さん」
「……お願いします」

 ぐっすり眠ってる蛯原ちゃんをおんぶしながらタクシーを拾った鎌倉くん。そのタクシーに乗り込んで、とくにこれといった会話もなく、何の気なしに瀧川くん家まで送ってもらってしまった。

『しまった、アパートにしておけばよかったぁ』とは思ったけどもうあのアパートは引き払ってるし、鎌倉くんの場合、私が中に入ってくまでしっかり見届けてくれちゃいそうだからどちらにしろ小細工は通用しないか。

「すげぇー」
「は、はははっ……」
「うちの給料じゃあ到底無理そうっすけど」
「……そ、そうだねぇ? じゃあ今日はありがとう。おやすみ」
「うす」

 何に追われてるわけでもないのにハラハラしながら帰宅した。

 なんか鎌倉くん、怖いぃぃーー!!

 お風呂に入って、今日も勝手に瀧川くんのベッドに寝転んで少しでも瀧川くんの匂いやぬくもりを感じようとする私はもう末期状態。

「瀧川組……かあ」

 そもそも瀧川組って有名なのかな……? もしかして、検索したら出てきたりする?

「……はあ、私って馬鹿なのかな。なんで今まで検索しようって思わなかったんだろう」

 スマホを手に取り“瀧川組”と検索をかけたら、ズラァーーッと色んな記事やら何やら出てきて、ひとつ気になった掲示板を見つけた。

 そこには『瀧川組お抱えの病院マジでヤバいらしい』『凄腕の医者がいるって噂だぜ!』『ワイ、ヤブ医者って聞いたけど』等々書かれていた。

 血眼になってスクロールし続けた私はようやく病院名を見つけて、すぐその病院名を検索する……と、めちゃくちゃ普通の内科クリニックが出てきた。ごくごく普通にありそうな診療所。本当にこれで合ってる……?

 ただの噂でしかないかもしれないし、掲示板に書かれてることだから信憑性もないけど、何でもいいから何かに縋りたい。


 ── 数日後

 がっつりギャルに扮装した私はその病院へ向かうことに。

 あの騒動から監視されているような視線を感じる時があって、それが瀧川組なのか久遠組なのか分からない以上、私のまま行動するのは危険だと判断した。だから私とは真逆すぎる金髪ギャルに! 私は完璧に演じてみせるよ! 金髪ギャルを!

 とにかく電話をしているふりをしながら外を歩く。

「ええ!? マジィ? ちょーウケんだけどぉ~。ハハッ!! そりゃナイわ~。だぁから言ったじゃ~ん。マジでそれなぁ? わかりみが深ぁい~。ナイナイ、マジでナイってぇ」

 うん、ナイわ。マジでナイわ。死ぬほど似合わなさすぎてナイわ。でも瀧川くんに会うためよ、がんばれ私! まさか金髪ギャルになっているとは思ってもみなかったのか、今日は一切視線や違和感を感じない。


 ── ここ、だよね……?

 やっぱ普通のクリニック……だーけーどー! やっぱりここで間違いない。だって黒塗りの高級車がズラーッと停められてるし、私服ではあるけど雰囲気があっち系っぽい人が外にチラホラいて、警備してるっぽい。

 私は金髪ギャル私は金髪ギャル……と暗示をかけながら院内に入ることに成功。めちゃくちゃチラチラ見られてたけど大丈夫だったかな……?

 さて、瀧川くんはどこに? 表向きはただの内科クリニックで入院施設はないはずなんだけど──。

「君、ちょっといいか」
「……へ? わ、あっ、あたしですかぁ~?」
「そう、""君""だよ」
「……は、はい……」

 大柄の男に連れてこられたのは、院内の特に何もない一室だった。

「で、君は?」
「『で、君は?』って言われてもぉ~。てゆうかぁ、あんたが誰ぇ? てきな感じだしぃ~」

 私は金髪ギャルを続行している。めちゃくちゃ冷めた目で見られているけど私は金髪ギャルを演じ抜く!

「何が目的だ」
「……っ、ただ病院に来ただけってゆうね~。調子悪くって~」
「はあー、どっからどう見ても挙動不審なんだよ。なんでこんな女通したんだ、外の奴らは一体何してやがる」

 ダメだ、きっとこの人には下手な芝居も何もかも通用しない。正直に話したほうがいいかも。

「あ、あのっ……ごめんなさい。実は瀧川くんに会いに来たんです」
「瀧川? 誰ですか、知りませんけど」

『いますよ~』『いませんよ~』なんて簡単に口を割るわけがないか。私は今、物凄く疑われてるわけだし。かと言って瀧川くんとの関係性を証明できるものなんて……ない、ないよ、そういえば何も無い!! 私も写真とかあまり得意なタイプではないから、どこへ行っても風景や物を撮るばかりで瀧川くんとのツーショットが……無いぃぃー!!

「いや、私は決して怪しい者では……瀧川司、瀧川くんのっ」
「何者だ、おまえ」

 もう疑いの目でしか私を見れなくなってるこの人に私はどうすればいい!? 証明できるものはないけど、私は正真正銘“瀧川くんの女”なの!

「私は瀧川くんの恋人です」
「……あ? なに言ってんだ。こんな派手な女だとは聞いてねーぞ」
「そりゃ変装してるからよ」
「なんの為に変装する必要がある……""恋人""に会いに来たんだろ?」
「あの騒動以降、時々監視されているような視線を感じていたので、どちらの監視か分からない以上、変装してここへ来るしかありませんでした。あの騒動の場にいた女は瀧川くんの恋人である私以外いないはず。あの時のこと、詳しく説明したら信じてもらえますか?」
「……ちょっと待ってろ、確認する。名前は」
「篠宮美波です」

 誰かに電話をして、その後この部屋に入ってきたのは……多分瀧川くん専属の運転手さんで何度か私とも会ったことがある人。あの日も私を送り届けてくれた。瀧川くんは『小栗さん』って呼んでたな。

「小栗さん……ですよね?」
「ちょ……篠宮さん!? いや、何ですか、その格好は」
「念のため変装したほうがいいかなって。なんか大事になっちゃってすみません」
「いや、僕は声で篠宮さんだって分かりますけど、見た目じゃもう判別できませんね。よーく見れば、何となく篠宮さんではありますけど。まさかここまで来るとは……若に会いに来たんですよね?」
「ごめんなさい、どうしても瀧川くんに会いたくて。少しでもいいの、瀧川くんの姿が見られればそれだけで」
「……はあ、若は今就寝中です。こそっと見ます?」
「おい、いいのか? 小栗。怒られても知らねーぞ」
「いいよ。万が一、若に怒られたら篠宮さん盾にしますけどいいです? おっかないんですよ、あの人」
「はい! いくらでも盾になります!」
「頼もしい、では案内しますね」

『関係者以外立入禁止』と書かれた扉を開けて中に入っていく小栗さんの後を追うと、スーツを着た人達が一定の間隔で配置されてるって感じで、異様な雰囲気だった。私は不審者でも見るかのような眼差しを浴びながらも1人1人に頭を下げながら歩く。

「堂々としてればいいんですよ。若の恋人なんですから」
「い、いえ……そういうわけには……」
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