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馬鹿女が行方不明 ケヤン&ジェシー 視点
しおりを挟む「あの女、もう戻って来ないでしょ」
「母国が恋しくなったんじゃないかしら」
「だいたい人族の女を正妃に~なんてありえないわ」
はぁー。この地獄耳もなんとかなんねぇもんかね。視覚、聴覚、嗅覚が優れてんのも考えもんだな。
「あの女もいなくなったことだし、これで側妃達も戻ってくるんじゃない?」
「いっそのこと新たな側室を迎えるのもありなんじゃないかしら」
「たしかに。正直エリサ様の我儘にはうんざりよ」
少し離れた所でメイド達がおそらくレディアの話をしている……って、おいおい。あのメイド達なんつってた? 『あの女、もう戻って来ないでしょ』『母国が恋しくなったんじゃないかしら』『いなくなったこだし』……いやいや、どういうことだ? 嫌な予感しかしねぇのは俺の無駄な勘ぐりだと信じたいが、あのレディアだもんな、ほぼ確で何かしらやらかしてんだろ。
「おい。その話、詳しく聞かせてくれ」
そう声をかけると、肩をビクッと跳ね上がらさせたメイド達が一斉に俺のほうへ顔を向け、『なんだ、小鬼か』と露骨に態度を変えた。まぁそんなことは別にどうだっていい。今はあのレディアの行方を知る必要がある。
「小鬼が私達になんの用かしら」
「この小鬼、お金さえ積めば殺しでもなんでもやるんでしょ?」
「あらやだぁ、怖いわ~」
自分が何を言われたって腹を立てることはなかった。苛立つだけ無駄、相手にするだけ無駄だって、そう思って生きてきた。
「……レディア様は何処へ行った」
「な、なによ。あ、あなただって嫌でしょ? あんな女」
「人族の女を世話するなんてまっぴら御免だわ」
「そうよ。あなただってあの女がいなくなってせいせいしてるんじゃないの?」
何を言われたって腹を立てる行為は無駄だって、そう自分に言い聞かせてきたつもりだ。なのに、なんでこうもあの馬鹿女が絡むと苛立つんだろうな、めんどくせえ。
「知らねぇよ。俺はレディア様を何処へやったって聞いてんだ」
「人聞きの悪いこと言わないでくれる!?」
「私達は何もしてないわよ!」
「あなただってこの国の王が人族の女にうつつを抜かしてるなんて嫌でしょ!? それに、リゼ様達が不憫で仕方がないわ」
「あ? 誰だそれ」
「ガノルド様の側室達よ」
レディアに落ち度なんてあったか? んなもんねぇだろ。レディアを選んだのはガノルドだ、目の敵にする相手間違えてんだろ。
「リゼ様達はガノルド様のことを心の底から愛していたのよ!?」
・・・はっ、なんっだそれ。笑わせんなよ。
「金貰ってホイホイ引き下がったのはその女達だろ」
「そ、それはっ」
「本当に好きなら金なんて受け取ってねえんじゃねーの。金受け取ってノコノコと去っていった女共も話なんざどうでもいいんだよ」
レディアだったらそんな金、意地でも受け取ってねぇだろうな。『そんなお金は要らない。私に使うくらいなら寄付でもなんでもしたら?』って突っぱねるだろ。あの女はそういう奴だ。
「……なによ、あなたもしかしてあの女にご好意でもあって?」
「あ?」
「それもそうよね。助けてもらったんだもの、好きになってもおかしくないわ」
女ってすぐそっちの話に持っていきたがるよな、意味わかんねぇし。あの馬鹿女と恋だの愛だの、そんなもんあるわけがねぇだろ。
── 誰も差し伸べてくれなかった手を差し伸べてくれたレディアに借りができたってだけだ。だから俺は無条件にレディアを助ける。
「俺はレディア様の専属護衛だ。それを容認したのはあのガノルド様だってことを忘れるなよ。この意味、馬鹿じゃない限り分かるよな?」
権力は使わねぇと。
皇帝の存在をチラつかせると案の定、メイド達の顔色が変わって嫌そうに口を開いた。
「西門基地行きの荷馬車に乗っていったわ」
「あの女“自ら”その荷馬車に乗ったのよ」
「そうよ、勘違いしないでちょうだいね」
悪態をつきながら俺のもとを去っていくメイド達を横目にデケェため息しか出てこねえわ。全くあんの馬鹿女はなにしてんだよ……。まぁだいたいの予想はつくけどな。どうせ『ちょっと気分転換がてら街に行ってクレープでも食べちゃお~!』的なところだろ。単純明快馬鹿だからな、レディア。
「さて、どーすっかな」
西か、西の森は深いうえにヌナハンとの境が曖昧になってる部分もある。ゆえにこっちの住人とヌナハンの住人が自由に行き来できちまう。まぁ境界線っつーもんがしっかりある以上、境が曖昧になってるとはいえ下手に動けねえから、なぁなぁにしておいても問題ねえって判断だろうけどな。何でも火種になりかねないのが現状だ、境界線をしっかり熟知してる奴らしか危なっかしくてよっぽどうろちょろもしねぇだろうし。
「まあ、厄介なのには変わりねぇ」
何事もなく西門の基地へ辿り着いてくれさえすれば大して問題ではない。この国の警備をしている兵達がレディアの存在を把握してないとは思えない。まあ、なんとかなんだろ。
「今から追えば間に合うか」
馬を借りたいところだが、借り出す理由が見当たらねえ……。下手のこと言えば大事になっちまうし、そもそもユノ様達にバレると面倒だからな。できればバレる前にレディアを連れ帰りたいが、どうしたもんかな。
「ったく」
披露パーティーまで日にちがない、あまり問題を起こすと上役達がうるせえだろうし。まあ、あのガノルド様に楯突く年寄りがいるとは到底思えないが、“老害”っつーくらいだしな。ここぞとばかりにレディアへ危害を加える可能性がある。
「ちっ。バレる前にさっさと連れ戻っ」
「おーい、なにしてるの~? ケヤン」
振り向くとそこにいたのはジェシーだった。
「……まあ、似ても似つかねえよな」
「え? なんて~?」
こっちへ向かってくるジェシーをジッと眺めて、馬鹿馬鹿しいことを考えている俺。まぁでも、念には念をってやつだろ。
手を振りながら歩いてきたジェシーは、なにも言わずただジッと眺めてる俺にキョトンとした顔をしていた。
「オマエ、あいつの身代わりになれ」
「……は? ……え?」
「かくかくしかじかであの馬鹿女が行方不明になってる。つっても行き先は分かってるから心配すんな。俺があの馬鹿女を連れ戻すまで身代わりになれ」
「はい? ちょ、ええっ!?」
「レディアの服着てベッドに隠っとけ! それだけでいい!」
なにか言いたげな顔をしていたジェシーに背を向け走り出す。
「もぉーー!! そんな簡単に言わないでよねーー!!」
ま、ジェシーならレディアのためにって上手いことやってくれんだろ……多分。
何々、レディアが行方不明ってどういうこと!? かくかくしかじかって一体なんなの!? 『身代わりになれ、レディアの服着てベッドに隠っとけ! それだけでいい!』って……それ""だけ""でいいって、なに!?
「ああーーもおーー!!」
ま、レディアのためだからやるけども!!
ということでレディアのベッドに隠ってるのはいいんだけど、レディアの服キッツぅ~! はち切れちゃうって!
「ふぅー。やっぱ人族って小さいなぁ、可愛くて羨ましい~」
・・・レディア、やっぱ狼人族との結婚が嫌で逃げ出したのかな……? いや、あのレディアが大した理由もなくただ逃げ出すなんてありえない。レディアは良くも悪くも自分で決めたことはそう簡単に曲げるような女じゃないって気がするの。だいたい、ケヤンの説明が雑なのよね! 『かくかくしかじかで』って何よ! そこが一番重要じゃん!
こんな代役? 大役? ほんっと勘弁してよね、こんなこと二度と御免だから!
「誰も来ませんように、誰も来ませんように、誰もっ」
コンコンッと扉をノックする音が聞こえて、バクンッと心臓が跳ね上がる。バクバクする心臓を抑えることなんてできるはずもなく、緊張でガタガタ震えだす体。
どっ、どうしよう! 返事なんてできないよ!? そっこーバレるじゃん! とりあえず無視? 無視を極め込む!?
「レディア、入るぞ」
扉越しに聞こえてきたのは、紛れもなくガノルド様の声だった……。
バレたら死ぬバレたら死ぬバレたら死ぬバレたら死ぬぅぅーー!!
「ガノルド様、少しよろしいですか?」
「後にしてくれ。今レディアっ」
「レディア様は現在すっからかんな脳ミソをフル回転させて疲労困憊状態です。使い物になりませんので今は休ませておいたほうが宜しいかと」
「そうか、なら休ませておこう。で、なんだ──」
・・・こんなのレディアが聞いてたらブチギレ案件でしょ……。
遠ざかっていく足音にほっと胸を撫で下ろした。
「ああ、もおーー。早く帰ってきてよぉ、ふたりともぉ……」
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