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「幻を追い求めて」2話
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「幻を追い求めて」2話
背筋を伸ばし、目の前の癖っ毛のあどけない笑顔をしている男の絵を素早く紡いでいく。目はキラキラしていて初々しさがあり、正しく入学したての学生を体現していた。
ジッとこちらを見つめてくるのが癪に障るが、大体のアタリを取ってシャッシャッと自分の鉛筆の音が、他人の鉛筆の音と共に教室に鳴り響いた。
その間ずっと追田は恥ずかしげもなくこちらをジッと見つめていた。
その目を当時の自分はただ、意外と肝が据わっているな、としか思わなかった。
授業時間の半分が経つと、先生から「交代して」と言われ、鉛筆を置いて座り直した。今度はこちらが観察される番だ。改めて向かいに座る追田という同級生を何の気無しに見た。
すると、さっきまであどけない笑顔をしていた同級生はそこにいなかった。
俺は背筋が凍った。かつてこんな獲物を喰らうような顔をして絵を描く人間がいただろうか。少なくとも自分の見た中ではいなかった。そう、見てきた自分自身でさえも。
アタリを取る音も他とは違った。ギラリと光った目に身体が少し後ろに仰反る。
「背筋、伸ばして。」
「え?」
「伸ばして。」
先程まで柔らかな声を出していた口から鋭い声が漏れ、思わず強張りながらも背筋を伸ばした。それを見て追田は一瞬眉を顰めたが、そのまま前のめり気味に画用紙に鉛筆を滑らせた。
自分が絵を描いてる時は一瞬で過ぎた時間が、今は気が遠くなるほど長く感じた。俺は相手に気づかれないように固唾を呑んでひたすら待った。とは言っても向こうの視線が鋭過ぎて気づかれずにいられたかどうかも怪しいが。
「ほーい、時間だぞー。」
一体どれくらい待っただろうか。先生の言葉で我に返り、追田が鉛筆を置いた時に急いで冷や汗を拭った。
「せっかくだからお互いの絵を交換して見てみろ。自分が相手にどう見えているのか、他の人の絵を見て勉強する良い機会になるかもしれないぞ。」
先生の残酷な言葉を聞いて恐る恐る顔を上げた。その時には目の前に向かい合ってる相手はただの癖っ毛の少年に戻っていた。
「成瀬くん。絵、見せてよ。」
人懐っこく追田は話しかけてくる。
俺はサッと追田に自分の絵を渡した。本当は渡したくなかった。
自分の手が震えている事に彼は気づいていただろうか。
追田は自分の絵と俺が描いた絵を手で持って見比べる。さっきまで見慣れ始めていた微笑を浮かべた表情が、今となってはどこか妖しく見える。
追田の目はぐるりとそれぞれの絵全体を見てから自分に向けられた。
「やっぱり、成瀬くんは上手だね。僕だったらこんな髪の表現できないもの。」
相手からの賛辞も全く頭に入ってこなかった。
心臓がバクバクと音が鳴る。小さく震える手が二枚の画用紙を手に取り、恐る恐るその正体を見た。
そこには、信じられないほど美しく、綺麗な線で描かれた自分らしき人物が正面を向いてこちらを見ていた。
背筋を伸ばし、目の前の癖っ毛のあどけない笑顔をしている男の絵を素早く紡いでいく。目はキラキラしていて初々しさがあり、正しく入学したての学生を体現していた。
ジッとこちらを見つめてくるのが癪に障るが、大体のアタリを取ってシャッシャッと自分の鉛筆の音が、他人の鉛筆の音と共に教室に鳴り響いた。
その間ずっと追田は恥ずかしげもなくこちらをジッと見つめていた。
その目を当時の自分はただ、意外と肝が据わっているな、としか思わなかった。
授業時間の半分が経つと、先生から「交代して」と言われ、鉛筆を置いて座り直した。今度はこちらが観察される番だ。改めて向かいに座る追田という同級生を何の気無しに見た。
すると、さっきまであどけない笑顔をしていた同級生はそこにいなかった。
俺は背筋が凍った。かつてこんな獲物を喰らうような顔をして絵を描く人間がいただろうか。少なくとも自分の見た中ではいなかった。そう、見てきた自分自身でさえも。
アタリを取る音も他とは違った。ギラリと光った目に身体が少し後ろに仰反る。
「背筋、伸ばして。」
「え?」
「伸ばして。」
先程まで柔らかな声を出していた口から鋭い声が漏れ、思わず強張りながらも背筋を伸ばした。それを見て追田は一瞬眉を顰めたが、そのまま前のめり気味に画用紙に鉛筆を滑らせた。
自分が絵を描いてる時は一瞬で過ぎた時間が、今は気が遠くなるほど長く感じた。俺は相手に気づかれないように固唾を呑んでひたすら待った。とは言っても向こうの視線が鋭過ぎて気づかれずにいられたかどうかも怪しいが。
「ほーい、時間だぞー。」
一体どれくらい待っただろうか。先生の言葉で我に返り、追田が鉛筆を置いた時に急いで冷や汗を拭った。
「せっかくだからお互いの絵を交換して見てみろ。自分が相手にどう見えているのか、他の人の絵を見て勉強する良い機会になるかもしれないぞ。」
先生の残酷な言葉を聞いて恐る恐る顔を上げた。その時には目の前に向かい合ってる相手はただの癖っ毛の少年に戻っていた。
「成瀬くん。絵、見せてよ。」
人懐っこく追田は話しかけてくる。
俺はサッと追田に自分の絵を渡した。本当は渡したくなかった。
自分の手が震えている事に彼は気づいていただろうか。
追田は自分の絵と俺が描いた絵を手で持って見比べる。さっきまで見慣れ始めていた微笑を浮かべた表情が、今となってはどこか妖しく見える。
追田の目はぐるりとそれぞれの絵全体を見てから自分に向けられた。
「やっぱり、成瀬くんは上手だね。僕だったらこんな髪の表現できないもの。」
相手からの賛辞も全く頭に入ってこなかった。
心臓がバクバクと音が鳴る。小さく震える手が二枚の画用紙を手に取り、恐る恐るその正体を見た。
そこには、信じられないほど美しく、綺麗な線で描かれた自分らしき人物が正面を向いてこちらを見ていた。
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