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「幻を追い求めて」4話
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「幻を追い求めて」4話
「ねぇねぇ、昨日のキンさん観たぁ?」
「観た観た!キンさん、めちゃくちゃ整体で痛がってるの笑ったんだけど。」
教室ではクラスメイトたちがテレビ番組の事について話している。もちろん、その中には追田もいた。
「追田さぁ、器用なんだから整体とかもいけんじゃね?」
「まさか。でも、肩揉みぐらいなら出来るよ。」
「アハハ!それは俺でも出来るわ!」
男女半々のグループがふざけ合いながら追田の席の周りを囲んでいる。
ーくだらない。
そう冷めた目で一瞥する。今日は休み時間に鉛筆を握る気にはなれなかった。
ーやはりどうにも暇だ。絵を描こうか。
そう思い、筆箱に手を伸ばした瞬間、この間の父と母の会話が頭を過ぎり、そっと手を机に置いた。
すると、一人のクラスメイトが自分を指差した。
「整体って言ったら成瀬が一番必要なんじゃない?猫背だし。」
成瀬の姿勢は日に日に悪くなっていた。あんなに真っ直ぐで姿勢だけでいったら品行方正そのものだったというのに、今では彼の背はぐにゃりと曲がり、まるで映画に出てくる下っ端のゴロツキのようだった。
「成瀬くん。」
ハッと顔を上げると隣に追田が座っていた。
追田は互いの顔をデッサンしたあの日以来、挨拶以外で進んで一人で話しかけてくる事はなかった。
久々に間近で見る彼の顔はあの時と変わらず、生き生きとしていた。
「成瀬くん、昨日観たテレビで姿勢が良くなるツボのことを言っててね。」
そう言うや否や追田は自分の肩にそっと手を置いた。肩が強張る。
「成瀬くん、初めて会った時はあんなに姿勢が良かったんだから、もう少し姿勢に目を向けてもいいんじゃないかな?」
容赦なく白い手が自分の身体に力を入れてくる。
周りのクラスメイトの視線、皆の薄らと嘲笑する為に空いた口が端に見える。
成瀬はそのまま追田を見る。追田はあの時と変わらない微笑みでこちらを見ていた。
ーなんとアンバランスなのだろう。
成瀬は追田の肩を自分の肘で少し強めに押した。
追田が驚いた顔でこちらを見ていた。
さっきまでジロジロ見ていたクラスメイト達はまるで配慮ができない子どもを見るような目で見ている。
「追田、この間のノート見せてよ。」
先程まで追田と話していたクラスメイトが少し離れた席から話しかける。
追田は一瞬キョトンとした顔を見せたが、すぐに「あー、あれね。」と澄ました顔で成瀬の肩から手を離す。
向こうに行く途中、追田はこちらを一度振り向いたが、またすぐに視線を前に戻した。
その日は、ずっと鉛筆をクルクルと回し、授業で描いた絵もすぐにくしゃくしゃに丸めてしまった。
追田の事はいつもなるべく見ないようにしていた。でも、越えたくて越えたくて仕方がない存在でもある。
ーあいつ、馴れ馴れしく触ってきやがって。
また一つ、絵がくしゃくしゃになる。
ームカつく。
放課後に教師から返された、初日に描いた絵を丸めて手に持ち、リュックサックを背負って一階の階段をのしのしと降りる。
「成瀬。」
気怠そうな声が聞こえた。
振り返ると、初日にあのデッサンの指導をした教師が立っていた。
「ねぇねぇ、昨日のキンさん観たぁ?」
「観た観た!キンさん、めちゃくちゃ整体で痛がってるの笑ったんだけど。」
教室ではクラスメイトたちがテレビ番組の事について話している。もちろん、その中には追田もいた。
「追田さぁ、器用なんだから整体とかもいけんじゃね?」
「まさか。でも、肩揉みぐらいなら出来るよ。」
「アハハ!それは俺でも出来るわ!」
男女半々のグループがふざけ合いながら追田の席の周りを囲んでいる。
ーくだらない。
そう冷めた目で一瞥する。今日は休み時間に鉛筆を握る気にはなれなかった。
ーやはりどうにも暇だ。絵を描こうか。
そう思い、筆箱に手を伸ばした瞬間、この間の父と母の会話が頭を過ぎり、そっと手を机に置いた。
すると、一人のクラスメイトが自分を指差した。
「整体って言ったら成瀬が一番必要なんじゃない?猫背だし。」
成瀬の姿勢は日に日に悪くなっていた。あんなに真っ直ぐで姿勢だけでいったら品行方正そのものだったというのに、今では彼の背はぐにゃりと曲がり、まるで映画に出てくる下っ端のゴロツキのようだった。
「成瀬くん。」
ハッと顔を上げると隣に追田が座っていた。
追田は互いの顔をデッサンしたあの日以来、挨拶以外で進んで一人で話しかけてくる事はなかった。
久々に間近で見る彼の顔はあの時と変わらず、生き生きとしていた。
「成瀬くん、昨日観たテレビで姿勢が良くなるツボのことを言っててね。」
そう言うや否や追田は自分の肩にそっと手を置いた。肩が強張る。
「成瀬くん、初めて会った時はあんなに姿勢が良かったんだから、もう少し姿勢に目を向けてもいいんじゃないかな?」
容赦なく白い手が自分の身体に力を入れてくる。
周りのクラスメイトの視線、皆の薄らと嘲笑する為に空いた口が端に見える。
成瀬はそのまま追田を見る。追田はあの時と変わらない微笑みでこちらを見ていた。
ーなんとアンバランスなのだろう。
成瀬は追田の肩を自分の肘で少し強めに押した。
追田が驚いた顔でこちらを見ていた。
さっきまでジロジロ見ていたクラスメイト達はまるで配慮ができない子どもを見るような目で見ている。
「追田、この間のノート見せてよ。」
先程まで追田と話していたクラスメイトが少し離れた席から話しかける。
追田は一瞬キョトンとした顔を見せたが、すぐに「あー、あれね。」と澄ました顔で成瀬の肩から手を離す。
向こうに行く途中、追田はこちらを一度振り向いたが、またすぐに視線を前に戻した。
その日は、ずっと鉛筆をクルクルと回し、授業で描いた絵もすぐにくしゃくしゃに丸めてしまった。
追田の事はいつもなるべく見ないようにしていた。でも、越えたくて越えたくて仕方がない存在でもある。
ーあいつ、馴れ馴れしく触ってきやがって。
また一つ、絵がくしゃくしゃになる。
ームカつく。
放課後に教師から返された、初日に描いた絵を丸めて手に持ち、リュックサックを背負って一階の階段をのしのしと降りる。
「成瀬。」
気怠そうな声が聞こえた。
振り返ると、初日にあのデッサンの指導をした教師が立っていた。
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