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「幻を追い求めて」8話
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「幻を追い求めて」8話
久しく掻いていなかった脂汗が額から溢れ出しながらも成瀬は上司の話を聞いていた。
「まあ、ジロジロ見られるのは嫌かもしれないが、いつも通り仕事するように。」
朝礼で上司の話が終わると皆それぞれ持ち場に散っていった。
「追田紡求って生だとどんな感じなんすかね。」
隣に立ってる中途採用で入社した後輩の竹田がこちらの気も知らずに話しかけてくる。
「さっき調べたんすけど、成瀬先輩と同い年なんすね。」
竹田は向こうの作業場の方を見て話している。
「同い年で盛大に成功してる人見るとどんな気持ちになるんです?」
成瀬はジロリと竹田を見た。しかし、竹田は向こうを見ていて成瀬の視線に気づきもしない。
心臓がバクバクと音が鳴る。
ー大丈夫。こっちはヘルメットも被ってるし、いつも通り仕事をしていれば気づかれないはず。もう五年も経ってるんだぞ。
脂汗と冷や汗両方が身体から放出される。軍手をつけた手で額を拭う。それを竹田は一瞥してこちらの顔色を少し窺った。
「暑いんすか?なんか飲み物持ってきます?」
そう言って竹田が顔を上げると、彼にしては大きめの声が上がった。
「あ、見てくださいよ!」
竹田が遠くの方を指差す。
成瀬は何となく察しがついた為、一瞬躊躇ったがどうしても気になったので顔を上げた。
竹田の人差し指の向こうには工事現場近くの駐車場に停まっ白いたセダンが見えた。
「うわぁ。泥とか飛んだら何て言われるか分からないっすね。」
竹田の冗談など聞き流し、成瀬は目を逸らしたいのに、その車から目を離せなくなってしまった。
ーついに来てしまった。
車から出てきたのはこの秋にぴったりの茶色のスーツを着た青年が出てきた。
間違いない。あの癖っ毛に柔らかく笑うあの朗らかな表情。
ー追田だ。
追田は表情こそ変わっていなかったが、身長も体格も成人男性そのものになっていた。あの頃の幼い初々しく笑う追田はそこにはいなかった。
「デザイナーってのは、みんな小洒落たスーツを着るんすかね。俺、茶色のスーツなんて初めて見たっす。」
追田はすっかりスーツを着こなす大人になっていた。
追田は駐車場に駆けつけた上長たちと何やら話をしている。
そして話を終えたと思ったら、大きめの白い菓子箱を上長の一人に渡した。
それを見た竹田はまた珍しく大きな声を上げた。
「あ!あれ、こむぎ屋のシュークリームじゃないすか!?この間ムラングで紹介されてたやつっす!」
こむぎ屋もムラングも知らないが、追田が最近の若者の心を鷲掴みしてることだけは分かった。
「差し入れ嬉しいっすね~早く休憩にならないかなぁ」
いつも怠そうに仕事をしている竹田がキビキビと動き始める。
ー頼むからこっちに来ないでくれよ。
追田は上司と話しながらこちらを歩いてくる。
ーせめて俺を見つけないでくれ。
追田が上司から視線を外し、前を向く。
「あ。」
ー仮に見つけてしまっても話しかけたりなんてするなよ。
「成瀬くん?」
ーいつだってそう。俺がそうならないでくれって思った事が必ず起こる。
久しく掻いていなかった脂汗が額から溢れ出しながらも成瀬は上司の話を聞いていた。
「まあ、ジロジロ見られるのは嫌かもしれないが、いつも通り仕事するように。」
朝礼で上司の話が終わると皆それぞれ持ち場に散っていった。
「追田紡求って生だとどんな感じなんすかね。」
隣に立ってる中途採用で入社した後輩の竹田がこちらの気も知らずに話しかけてくる。
「さっき調べたんすけど、成瀬先輩と同い年なんすね。」
竹田は向こうの作業場の方を見て話している。
「同い年で盛大に成功してる人見るとどんな気持ちになるんです?」
成瀬はジロリと竹田を見た。しかし、竹田は向こうを見ていて成瀬の視線に気づきもしない。
心臓がバクバクと音が鳴る。
ー大丈夫。こっちはヘルメットも被ってるし、いつも通り仕事をしていれば気づかれないはず。もう五年も経ってるんだぞ。
脂汗と冷や汗両方が身体から放出される。軍手をつけた手で額を拭う。それを竹田は一瞥してこちらの顔色を少し窺った。
「暑いんすか?なんか飲み物持ってきます?」
そう言って竹田が顔を上げると、彼にしては大きめの声が上がった。
「あ、見てくださいよ!」
竹田が遠くの方を指差す。
成瀬は何となく察しがついた為、一瞬躊躇ったがどうしても気になったので顔を上げた。
竹田の人差し指の向こうには工事現場近くの駐車場に停まっ白いたセダンが見えた。
「うわぁ。泥とか飛んだら何て言われるか分からないっすね。」
竹田の冗談など聞き流し、成瀬は目を逸らしたいのに、その車から目を離せなくなってしまった。
ーついに来てしまった。
車から出てきたのはこの秋にぴったりの茶色のスーツを着た青年が出てきた。
間違いない。あの癖っ毛に柔らかく笑うあの朗らかな表情。
ー追田だ。
追田は表情こそ変わっていなかったが、身長も体格も成人男性そのものになっていた。あの頃の幼い初々しく笑う追田はそこにはいなかった。
「デザイナーってのは、みんな小洒落たスーツを着るんすかね。俺、茶色のスーツなんて初めて見たっす。」
追田はすっかりスーツを着こなす大人になっていた。
追田は駐車場に駆けつけた上長たちと何やら話をしている。
そして話を終えたと思ったら、大きめの白い菓子箱を上長の一人に渡した。
それを見た竹田はまた珍しく大きな声を上げた。
「あ!あれ、こむぎ屋のシュークリームじゃないすか!?この間ムラングで紹介されてたやつっす!」
こむぎ屋もムラングも知らないが、追田が最近の若者の心を鷲掴みしてることだけは分かった。
「差し入れ嬉しいっすね~早く休憩にならないかなぁ」
いつも怠そうに仕事をしている竹田がキビキビと動き始める。
ー頼むからこっちに来ないでくれよ。
追田は上司と話しながらこちらを歩いてくる。
ーせめて俺を見つけないでくれ。
追田が上司から視線を外し、前を向く。
「あ。」
ー仮に見つけてしまっても話しかけたりなんてするなよ。
「成瀬くん?」
ーいつだってそう。俺がそうならないでくれって思った事が必ず起こる。
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