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「幻を追い求めて」9話
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「幻を追い求めて」9話
「成瀬くん!こんなところにいたんだね!」
追田は迷わず自分のところに早歩きでやってくる。
上長たちが一斉に自分を見る。いつもいるのか、いないのかよく分からないと評価される自分がこんなに人に注目される事なんて後にも先にも無いのではないかと思う程だった。
「成瀬と知り合いなんですか?」と上司が追田の後をついてきて言った。
追田は何の躊躇無く言い放った。
「はい!高校の時のクラスメイトなんです!」
「え、追田さんはどこの高校だったんです?」
「ほら、海原橋の向こうにある青海中のデザイン科なんです。」
「へー!あそこの!」
上司は成瀬と追田を見比べて言った。
「成瀬、お前デザインの勉強なんてしてたんだなぁ!全然知らなかったぞ!」
「そんな感じの顔してないもんなぁ。」
上司たちがカラカラと笑っている。
成瀬は俯いてなるべく存在を消そうと努力したが、現場にいる人たちの視線は相変わらず自分に集中していた。
しかし、追田は表情を変えず、こちらに笑いかけてくる。
「久しぶり。元気だった?何年ぶりだろうね。」
「ご、五年くらい。」
「そう。」
追田は手短に挨拶を終えるとまた上司のいるところに戻り、話の続きをしていた。そして暫くすると乗ってきたセダンを運転して走り去っていった。
「それにしても、まさか成瀬先輩が追田紡求とクラスメイトなんて知りませんでしたよ。」
竹田は仕事帰りも無意識に成瀬の傷口をつついた。
「追田紡求って学校だとどんな人だったんすか?」
竹田の不意の質問に少し狼狽したが、成瀬は帰り道の何も通過しない道路を眺めながら言った。
「いや?普通に友人たちと仲良く過ごしてたな。いわゆる陽キャってタイプだった。」
「あー、ぽいっすね。」
竹田は大きく頷く。
遠くまで真っ直ぐ見える路側帯が目に入る。
追田と再会してみて、特にどうという事は無かった。そりゃ初めは緊張したし嫌悪感すら抱いた。
しかし、それは昔の知り合いと再会したことでの嫌悪感であって、別に追田だからというわけではない。
寧ろどうしてあんなに追田に対して距離を置いたりライバル視していたのか分からなくなる程、今の自分には充分な時間が経ったことを実感する。
一体、追田が何をしたというのか。自分は追田に何をされた?
追田にされたことなんて同級生の悪ふざけで整体の真似事を自分に施したくらいだ。ベタベタ肩を触られたのは気に入らなかったが、たったそれだけだ。
しかも本人は良かれと思ってやっているようだったので、まあ、少しタチは悪いと思う。
物思いに耽っていると竹田のスマホの音が鳴った
「あ、ヤベ。アニキからかも。」
そう言ってスマホの明かりで照らし出された顔がみるみる青ざめていく。
「すんません!俺、先に帰りますね!」と言うと竹田は路側帯のすぐ横を一目散に走って行った。
竹田とは同じアパートの住民だ。会社からも近いのでボロいが案外、人は寄り付くのかもしれない。
竹田が見えなくなってくるとようやく後ろから車が一台来たのか、成瀬の背中をヘッドライトが照らした。自分の影がハッキリと前に現れる。
しかし、いつまで経っても車は通り過ぎる気配が無く、不思議と思った成瀬はふと後ろを振り向いた。
「あ、やっぱり。」
そこにいたのは、フロントドアガラスから顔と手を振る、つい数時間前に会っていた癖っ毛の男だった。
「成瀬くん!こんなところにいたんだね!」
追田は迷わず自分のところに早歩きでやってくる。
上長たちが一斉に自分を見る。いつもいるのか、いないのかよく分からないと評価される自分がこんなに人に注目される事なんて後にも先にも無いのではないかと思う程だった。
「成瀬と知り合いなんですか?」と上司が追田の後をついてきて言った。
追田は何の躊躇無く言い放った。
「はい!高校の時のクラスメイトなんです!」
「え、追田さんはどこの高校だったんです?」
「ほら、海原橋の向こうにある青海中のデザイン科なんです。」
「へー!あそこの!」
上司は成瀬と追田を見比べて言った。
「成瀬、お前デザインの勉強なんてしてたんだなぁ!全然知らなかったぞ!」
「そんな感じの顔してないもんなぁ。」
上司たちがカラカラと笑っている。
成瀬は俯いてなるべく存在を消そうと努力したが、現場にいる人たちの視線は相変わらず自分に集中していた。
しかし、追田は表情を変えず、こちらに笑いかけてくる。
「久しぶり。元気だった?何年ぶりだろうね。」
「ご、五年くらい。」
「そう。」
追田は手短に挨拶を終えるとまた上司のいるところに戻り、話の続きをしていた。そして暫くすると乗ってきたセダンを運転して走り去っていった。
「それにしても、まさか成瀬先輩が追田紡求とクラスメイトなんて知りませんでしたよ。」
竹田は仕事帰りも無意識に成瀬の傷口をつついた。
「追田紡求って学校だとどんな人だったんすか?」
竹田の不意の質問に少し狼狽したが、成瀬は帰り道の何も通過しない道路を眺めながら言った。
「いや?普通に友人たちと仲良く過ごしてたな。いわゆる陽キャってタイプだった。」
「あー、ぽいっすね。」
竹田は大きく頷く。
遠くまで真っ直ぐ見える路側帯が目に入る。
追田と再会してみて、特にどうという事は無かった。そりゃ初めは緊張したし嫌悪感すら抱いた。
しかし、それは昔の知り合いと再会したことでの嫌悪感であって、別に追田だからというわけではない。
寧ろどうしてあんなに追田に対して距離を置いたりライバル視していたのか分からなくなる程、今の自分には充分な時間が経ったことを実感する。
一体、追田が何をしたというのか。自分は追田に何をされた?
追田にされたことなんて同級生の悪ふざけで整体の真似事を自分に施したくらいだ。ベタベタ肩を触られたのは気に入らなかったが、たったそれだけだ。
しかも本人は良かれと思ってやっているようだったので、まあ、少しタチは悪いと思う。
物思いに耽っていると竹田のスマホの音が鳴った
「あ、ヤベ。アニキからかも。」
そう言ってスマホの明かりで照らし出された顔がみるみる青ざめていく。
「すんません!俺、先に帰りますね!」と言うと竹田は路側帯のすぐ横を一目散に走って行った。
竹田とは同じアパートの住民だ。会社からも近いのでボロいが案外、人は寄り付くのかもしれない。
竹田が見えなくなってくるとようやく後ろから車が一台来たのか、成瀬の背中をヘッドライトが照らした。自分の影がハッキリと前に現れる。
しかし、いつまで経っても車は通り過ぎる気配が無く、不思議と思った成瀬はふと後ろを振り向いた。
「あ、やっぱり。」
そこにいたのは、フロントドアガラスから顔と手を振る、つい数時間前に会っていた癖っ毛の男だった。
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