幻を追い求めて

三旨加泉

文字の大きさ
9 / 30

「幻を追い求めて」9話

しおりを挟む
「幻を追い求めて」9話


「成瀬くん!こんなところにいたんだね!」

 追田は迷わず自分のところに早歩きでやってくる。

 上長たちが一斉に自分を見る。いつもいるのか、いないのかよく分からないと評価される自分がこんなに人に注目される事なんて後にも先にも無いのではないかと思う程だった。

「成瀬と知り合いなんですか?」と上司が追田の後をついてきて言った。

 追田は何の躊躇無く言い放った。
「はい!高校の時のクラスメイトなんです!」

「え、追田さんはどこの高校だったんです?」
「ほら、海原橋の向こうにある青海中のデザイン科なんです。」
「へー!あそこの!」
 上司は成瀬と追田を見比べて言った。

「成瀬、お前デザインの勉強なんてしてたんだなぁ!全然知らなかったぞ!」
「そんな感じの顔してないもんなぁ。」
 上司たちがカラカラと笑っている。

 成瀬は俯いてなるべく存在を消そうと努力したが、現場にいる人たちの視線は相変わらず自分に集中していた。

 しかし、追田は表情を変えず、こちらに笑いかけてくる。
「久しぶり。元気だった?何年ぶりだろうね。」
「ご、五年くらい。」
「そう。」

 追田は手短に挨拶を終えるとまた上司のいるところに戻り、話の続きをしていた。そして暫くすると乗ってきたセダンを運転して走り去っていった。


「それにしても、まさか成瀬先輩が追田紡求とクラスメイトなんて知りませんでしたよ。」
 竹田は仕事帰りも無意識に成瀬の傷口をつついた。

「追田紡求って学校だとどんな人だったんすか?」
 竹田の不意の質問に少し狼狽したが、成瀬は帰り道の何も通過しない道路を眺めながら言った。
「いや?普通に友人たちと仲良く過ごしてたな。いわゆる陽キャってタイプだった。」
「あー、ぽいっすね。」
 竹田は大きく頷く。
 
 遠くまで真っ直ぐ見える路側帯が目に入る。

 追田と再会してみて、特にどうという事は無かった。そりゃ初めは緊張したし嫌悪感すら抱いた。
 しかし、それは昔の知り合いと再会したことでの嫌悪感であって、別に追田だからというわけではない。
 寧ろどうしてあんなに追田に対して距離を置いたりライバル視していたのか分からなくなる程、今の自分には充分な時間が経ったことを実感する。
 
 一体、追田が何をしたというのか。自分は追田に何をされた?
 追田にされたことなんて同級生の悪ふざけで整体の真似事を自分に施したくらいだ。ベタベタ肩を触られたのは気に入らなかったが、たったそれだけだ。
 しかも本人は良かれと思ってやっているようだったので、まあ、少しタチは悪いと思う。

 物思いに耽っていると竹田のスマホの音が鳴った

「あ、ヤベ。アニキからかも。」
 そう言ってスマホの明かりで照らし出された顔がみるみる青ざめていく。
「すんません!俺、先に帰りますね!」と言うと竹田は路側帯のすぐ横を一目散に走って行った。
 
 竹田とは同じアパートの住民だ。会社からも近いのでボロいが案外、人は寄り付くのかもしれない。

 竹田が見えなくなってくるとようやく後ろから車が一台来たのか、成瀬の背中をヘッドライトが照らした。自分の影がハッキリと前に現れる。

 しかし、いつまで経っても車は通り過ぎる気配が無く、不思議と思った成瀬はふと後ろを振り向いた。

「あ、やっぱり。」

 そこにいたのは、フロントドアガラスから顔と手を振る、つい数時間前に会っていた癖っ毛の男だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

僕の部下がかわいくて仕方ない

まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

処理中です...