11 / 30
「幻を追い求めて」11話
しおりを挟む
「幻を追い求めて」11話
次の休日、成瀬は大きな高層マンションの前に立っていた。
自分が住んでるよりも市街地に近い場所に大きなマンションがあるのは知っていたが、そこに知り合いが住んでいるのは正直予想つかなかった。
「成瀬くん、海好き?」
ボーッと目の前に聳え立つ高い建物を眺めていると視界の隅に追田が現れる。
「んー、まあ、普通だな。」
成瀬は追田の後を追ってエントランスを通る。大理石でできた床が光を反射していて眩しく感じた。
追田はエレベーターのボタンを押しながら言った。
「ここから海がよく見えるんだ。僕、海を眺めてるとアイディアが浮かびやすくてさ。実家から遠くはないんだけど、思い切って購入してみたんだ。」
もう追田とは住む世界が違うんだな、と成瀬は追田の広くなった背中を眺めながら思った。
あの時、あいつの描いた絵を見て絶望したのが遠い昔のことのように思える。
赤い絨毯の上を歩くと、追田は茶色の小綺麗なドアを開けた。
ドアの向こうには一面のコバルトブルーが見えた。
思わず窓の側に成瀬は近寄った。
「綺麗でしょう。学校から見るのとはまた違うよね。」
「ああ。何だか海が小さく見える。」
気がついたら自然と追田と言葉を交わしていた。
追田が窓に手を触れる。
「海が小さく見えると、色々な事が客観的に見えるようになるんだよね。天体観測して同じように感じる人もいるみたいだけど、僕は海派だなぁ。」とじっくり追田は海を眺める。
成瀬は追田と同じように広がっている海を見た。
追田の言ってることは正直よく分からなかったが、確かに色々な事がちっぽけに感じた。今、こうして追田と二人で話してるのも訳なかった。
追田は学生時代から器用だった。家庭科の調理実習でも手際が良くて先生に褒められていた程だ。
追田が作ったよく分からないサラダや焼き魚も何だか香味が独特だったが美味しかった。
そうして食事を終えると、追田にお手洗いを借りると言って成瀬は部屋を出た。
お酒も入ったからかその時は自分でも思いの外上機嫌だった。
ーなんだ。何も問題なんて無かったじゃないか。
成瀬は追田が教えたであろう部屋のドアノブに手をかけた。
ー時が経てば蟠りが無くなって打ち解ける事もあるもんだな。
ゆっくりとドアノブを回す。
ー俺も大人になったもんだな。
ドアを開けると、そこは一面真っ黒だった。
一瞬何が起こったのか分からず、成瀬は慌てて目を擦る。
目を擦って成瀬は初めてその黒が鉛筆の黒だという事に気づいた。
そこにはたくさんのデッサン画が飾られていた。
小さい用紙から大きい用紙までたくさん飾られていた。
まず、そのデッサン画を見るという行為をしていた成瀬は、やがてデッサンの内容に目を向ける。
あまりにも繊細で綺麗な線で描かれていた為、その人物が自分だという事に気づくのに暫く時間が掛かった。
いや、繊細で綺麗だから気づかなかったのではない。
あまりにもそこに描かれた人物が、姿勢が良かったからだ。
つーっと自分の頬に、大して暖房が効いてもいないのに汗が伝う。
思わず目を背けて下を見る。
するとそこには、皺だらけで何が描かれてあるのか分からない画用紙が、数々の自分のデッサン画の中から顔を覗かせていた。
ー分かる。俺には分かる。見覚えがある。
ーあの辛うじて見えるくるくるとした線。
ーあれは、俺が海に捨てた、追田の顔じゃないか!!
次の休日、成瀬は大きな高層マンションの前に立っていた。
自分が住んでるよりも市街地に近い場所に大きなマンションがあるのは知っていたが、そこに知り合いが住んでいるのは正直予想つかなかった。
「成瀬くん、海好き?」
ボーッと目の前に聳え立つ高い建物を眺めていると視界の隅に追田が現れる。
「んー、まあ、普通だな。」
成瀬は追田の後を追ってエントランスを通る。大理石でできた床が光を反射していて眩しく感じた。
追田はエレベーターのボタンを押しながら言った。
「ここから海がよく見えるんだ。僕、海を眺めてるとアイディアが浮かびやすくてさ。実家から遠くはないんだけど、思い切って購入してみたんだ。」
もう追田とは住む世界が違うんだな、と成瀬は追田の広くなった背中を眺めながら思った。
あの時、あいつの描いた絵を見て絶望したのが遠い昔のことのように思える。
赤い絨毯の上を歩くと、追田は茶色の小綺麗なドアを開けた。
ドアの向こうには一面のコバルトブルーが見えた。
思わず窓の側に成瀬は近寄った。
「綺麗でしょう。学校から見るのとはまた違うよね。」
「ああ。何だか海が小さく見える。」
気がついたら自然と追田と言葉を交わしていた。
追田が窓に手を触れる。
「海が小さく見えると、色々な事が客観的に見えるようになるんだよね。天体観測して同じように感じる人もいるみたいだけど、僕は海派だなぁ。」とじっくり追田は海を眺める。
成瀬は追田と同じように広がっている海を見た。
追田の言ってることは正直よく分からなかったが、確かに色々な事がちっぽけに感じた。今、こうして追田と二人で話してるのも訳なかった。
追田は学生時代から器用だった。家庭科の調理実習でも手際が良くて先生に褒められていた程だ。
追田が作ったよく分からないサラダや焼き魚も何だか香味が独特だったが美味しかった。
そうして食事を終えると、追田にお手洗いを借りると言って成瀬は部屋を出た。
お酒も入ったからかその時は自分でも思いの外上機嫌だった。
ーなんだ。何も問題なんて無かったじゃないか。
成瀬は追田が教えたであろう部屋のドアノブに手をかけた。
ー時が経てば蟠りが無くなって打ち解ける事もあるもんだな。
ゆっくりとドアノブを回す。
ー俺も大人になったもんだな。
ドアを開けると、そこは一面真っ黒だった。
一瞬何が起こったのか分からず、成瀬は慌てて目を擦る。
目を擦って成瀬は初めてその黒が鉛筆の黒だという事に気づいた。
そこにはたくさんのデッサン画が飾られていた。
小さい用紙から大きい用紙までたくさん飾られていた。
まず、そのデッサン画を見るという行為をしていた成瀬は、やがてデッサンの内容に目を向ける。
あまりにも繊細で綺麗な線で描かれていた為、その人物が自分だという事に気づくのに暫く時間が掛かった。
いや、繊細で綺麗だから気づかなかったのではない。
あまりにもそこに描かれた人物が、姿勢が良かったからだ。
つーっと自分の頬に、大して暖房が効いてもいないのに汗が伝う。
思わず目を背けて下を見る。
するとそこには、皺だらけで何が描かれてあるのか分からない画用紙が、数々の自分のデッサン画の中から顔を覗かせていた。
ー分かる。俺には分かる。見覚えがある。
ーあの辛うじて見えるくるくるとした線。
ーあれは、俺が海に捨てた、追田の顔じゃないか!!
0
あなたにおすすめの小説
恵方巻を食べてオメガになるはずが、氷の騎士団長様に胃袋を掴まれ溺愛されています
水凪しおん
BL
「俺はベータだ。けれど、クラウス様の隣に立ちたい」
王城の厨房で働く地味な料理人ルエンは、近衛騎士団長のクラウスに叶わぬ恋をしていた。身分も属性も違う自分には、彼との未来などない。そう諦めかけていたある日、ルエンは「伝説の恵方巻を食べればオメガになれる」という噂を耳にする。
一縷の望みをかけ、ルエンは危険な食材探しの旅へ! しかし、なぜかその旅先にはいつもクラウスの姿があって……?
勘違いから始まる、ベータ料理人×氷の騎士団長の胃袋攻略ラブファンタジー!
新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜
若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。
妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。
ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。
しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。
父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。
父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。
ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。
野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて…
そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。
童話の「美女と野獣」パロのBLです
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
【完結】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―
綾波絢斗
BL
この世界には、二つの特別な称号を持つ者たちが存在する。
一つは、絶対的な権力を持つ王の称号――ルガル(lugal)。
もう一つは、ルガルと対をなし、その力を補う「番」――ムル(mul)。
ルガルは生まれながらに選ばれし存在。
国家からエリート教育と地位を与えられ、能力に応じて厳格なランク分けが行われる。
最上位のルガルは、政治さえも動かす絶対者だ。
一方で、ムルは生まれた瞬間にはその正体がわからない。
遺伝子検査や学力テストを経て候補が絞られるが、
最終的に「真のムル」かどうかを見極められるのは――ルガルだけ。
ムルが覚醒したとき、同じ場所に「紋章」が現れ、その瞬間から、ルガルとムルの力は共鳴し始める。
ムルの能力はルガルの力を最大限に引き出す。
ゆえにルガルたちは、自らのムルを求め、時には他人のムル候補を奪い合う。
そして、すべての出生データと遺伝情報を管理するのは、
巨大企業イルジオン――国家をも超える存在。
その頂点に立つ社長、一条レイ。
冷徹なルガルの頂点に君臨する彼が「自分のムル」と出会った。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる