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「幻を追い求めて」11話
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「幻を追い求めて」11話
次の休日、成瀬は大きな高層マンションの前に立っていた。
自分が住んでるよりも市街地に近い場所に大きなマンションがあるのは知っていたが、そこに知り合いが住んでいるのは正直予想つかなかった。
「成瀬くん、海好き?」
ボーッと目の前に聳え立つ高い建物を眺めていると視界の隅に追田が現れる。
「んー、まあ、普通だな。」
成瀬は追田の後を追ってエントランスを通る。大理石でできた床が光を反射していて眩しく感じた。
追田はエレベーターのボタンを押しながら言った。
「ここから海がよく見えるんだ。僕、海を眺めてるとアイディアが浮かびやすくてさ。実家から遠くはないんだけど、思い切って購入してみたんだ。」
もう追田とは住む世界が違うんだな、と成瀬は追田の広くなった背中を眺めながら思った。
あの時、あいつの描いた絵を見て絶望したのが遠い昔のことのように思える。
赤い絨毯の上を歩くと、追田は茶色の小綺麗なドアを開けた。
ドアの向こうには一面のコバルトブルーが見えた。
思わず窓の側に成瀬は近寄った。
「綺麗でしょう。学校から見るのとはまた違うよね。」
「ああ。何だか海が小さく見える。」
気がついたら自然と追田と言葉を交わしていた。
追田が窓に手を触れる。
「海が小さく見えると、色々な事が客観的に見えるようになるんだよね。天体観測して同じように感じる人もいるみたいだけど、僕は海派だなぁ。」とじっくり追田は海を眺める。
成瀬は追田と同じように広がっている海を見た。
追田の言ってることは正直よく分からなかったが、確かに色々な事がちっぽけに感じた。今、こうして追田と二人で話してるのも訳なかった。
追田は学生時代から器用だった。家庭科の調理実習でも手際が良くて先生に褒められていた程だ。
追田が作ったよく分からないサラダや焼き魚も何だか香味が独特だったが美味しかった。
そうして食事を終えると、追田にお手洗いを借りると言って成瀬は部屋を出た。
お酒も入ったからかその時は自分でも思いの外上機嫌だった。
ーなんだ。何も問題なんて無かったじゃないか。
成瀬は追田が教えたであろう部屋のドアノブに手をかけた。
ー時が経てば蟠りが無くなって打ち解ける事もあるもんだな。
ゆっくりとドアノブを回す。
ー俺も大人になったもんだな。
ドアを開けると、そこは一面真っ黒だった。
一瞬何が起こったのか分からず、成瀬は慌てて目を擦る。
目を擦って成瀬は初めてその黒が鉛筆の黒だという事に気づいた。
そこにはたくさんのデッサン画が飾られていた。
小さい用紙から大きい用紙までたくさん飾られていた。
まず、そのデッサン画を見るという行為をしていた成瀬は、やがてデッサンの内容に目を向ける。
あまりにも繊細で綺麗な線で描かれていた為、その人物が自分だという事に気づくのに暫く時間が掛かった。
いや、繊細で綺麗だから気づかなかったのではない。
あまりにもそこに描かれた人物が、姿勢が良かったからだ。
つーっと自分の頬に、大して暖房が効いてもいないのに汗が伝う。
思わず目を背けて下を見る。
するとそこには、皺だらけで何が描かれてあるのか分からない画用紙が、数々の自分のデッサン画の中から顔を覗かせていた。
ー分かる。俺には分かる。見覚えがある。
ーあの辛うじて見えるくるくるとした線。
ーあれは、俺が海に捨てた、追田の顔じゃないか!!
次の休日、成瀬は大きな高層マンションの前に立っていた。
自分が住んでるよりも市街地に近い場所に大きなマンションがあるのは知っていたが、そこに知り合いが住んでいるのは正直予想つかなかった。
「成瀬くん、海好き?」
ボーッと目の前に聳え立つ高い建物を眺めていると視界の隅に追田が現れる。
「んー、まあ、普通だな。」
成瀬は追田の後を追ってエントランスを通る。大理石でできた床が光を反射していて眩しく感じた。
追田はエレベーターのボタンを押しながら言った。
「ここから海がよく見えるんだ。僕、海を眺めてるとアイディアが浮かびやすくてさ。実家から遠くはないんだけど、思い切って購入してみたんだ。」
もう追田とは住む世界が違うんだな、と成瀬は追田の広くなった背中を眺めながら思った。
あの時、あいつの描いた絵を見て絶望したのが遠い昔のことのように思える。
赤い絨毯の上を歩くと、追田は茶色の小綺麗なドアを開けた。
ドアの向こうには一面のコバルトブルーが見えた。
思わず窓の側に成瀬は近寄った。
「綺麗でしょう。学校から見るのとはまた違うよね。」
「ああ。何だか海が小さく見える。」
気がついたら自然と追田と言葉を交わしていた。
追田が窓に手を触れる。
「海が小さく見えると、色々な事が客観的に見えるようになるんだよね。天体観測して同じように感じる人もいるみたいだけど、僕は海派だなぁ。」とじっくり追田は海を眺める。
成瀬は追田と同じように広がっている海を見た。
追田の言ってることは正直よく分からなかったが、確かに色々な事がちっぽけに感じた。今、こうして追田と二人で話してるのも訳なかった。
追田は学生時代から器用だった。家庭科の調理実習でも手際が良くて先生に褒められていた程だ。
追田が作ったよく分からないサラダや焼き魚も何だか香味が独特だったが美味しかった。
そうして食事を終えると、追田にお手洗いを借りると言って成瀬は部屋を出た。
お酒も入ったからかその時は自分でも思いの外上機嫌だった。
ーなんだ。何も問題なんて無かったじゃないか。
成瀬は追田が教えたであろう部屋のドアノブに手をかけた。
ー時が経てば蟠りが無くなって打ち解ける事もあるもんだな。
ゆっくりとドアノブを回す。
ー俺も大人になったもんだな。
ドアを開けると、そこは一面真っ黒だった。
一瞬何が起こったのか分からず、成瀬は慌てて目を擦る。
目を擦って成瀬は初めてその黒が鉛筆の黒だという事に気づいた。
そこにはたくさんのデッサン画が飾られていた。
小さい用紙から大きい用紙までたくさん飾られていた。
まず、そのデッサン画を見るという行為をしていた成瀬は、やがてデッサンの内容に目を向ける。
あまりにも繊細で綺麗な線で描かれていた為、その人物が自分だという事に気づくのに暫く時間が掛かった。
いや、繊細で綺麗だから気づかなかったのではない。
あまりにもそこに描かれた人物が、姿勢が良かったからだ。
つーっと自分の頬に、大して暖房が効いてもいないのに汗が伝う。
思わず目を背けて下を見る。
するとそこには、皺だらけで何が描かれてあるのか分からない画用紙が、数々の自分のデッサン画の中から顔を覗かせていた。
ー分かる。俺には分かる。見覚えがある。
ーあの辛うじて見えるくるくるとした線。
ーあれは、俺が海に捨てた、追田の顔じゃないか!!
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