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「幻を追い求めて」12話
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「幻を追い求めて」12話
「それ、成瀬くんに渡したかったんだ。」
すぐ後ろから先程までリビングで笑っていた聞き覚えのある声がした。
成瀬は反射的に振り返った。
そこには案の定、自分のすぐ後ろに追田が立っていた。
「なんだよ、これ。」
平静を装うとしたが声が震える。
「これは、成瀬くんだよ。」
「なんで。」
特に何も考えず矢継ぎ早に問いただす。
追田は少し屈んでこちらに視線を合わせた。追田の茶色い瞳がいつもよりくっきり見える。
「何でって。成瀬くんを描きたいから描いてるんだよ。」
追田はいつもと変わらず微笑んでいた。
気がつけば成瀬はアパートの入り口から外へ走って出ていた。
息を切らしながら電車に乗ってボロアパートの扉を潜る。
ーなんなんだ、あいつ。
靴を脱ぎ捨て、すぐに畳の上へ仰向けになって転がった。雨漏りなどが積み重なって出来た天井のシミがまるで今にも動き出して一箇所に集中し、一つの人間の顔の輪郭を描いてるように見えた。
そう、あの、水を豊富に含んだであろう、あの画用紙の…。
成瀬は身震いした。自分がいるのはボロアパートの畳の上ではなく、冷たい、冬の海の上にいるような感覚だった。海水が身体にひっついて離れないような、あの気持ち悪さが成瀬を襲った。
ーやっぱり気に食わなかった奴と二人で食事なんてどうかしてた!
ー大体、初めて会った時から馴れ馴れしくて好きじゃなかったんだ。どうしてそんな大事なことを俺は忘れていたんだろう!
成瀬は頭を掻きむしった。
ーもうあいつとは関わらない!関わりたくもない!
数日後、追田はこの間のことなど特に気にする様子もなく、当然のように会社へやってきた。
愛想の良い笑みを浮かべる彼に、初めは警戒していた社員たちはすっかり心を開いている様子だった。
そんな彼らの様子を横目で見遣ると、成瀬は大きく溜息をついた。
それを隣で見ていた竹田が不思議そうにこちらを見た。
「成瀬先輩、何かあったんすか?」
「え?」
「だって、この間まで成瀬先輩、追田さんと話してたじゃないすか。今日は避けてる感じっすね。」
成瀬があまりにも苦虫を噛み潰したような顔をしたので竹田は含み笑いをした。
「あー、こりゃ何かありましたね。」
竹田のまるでゴシップを見つけたかのような顔にまた成瀬は大きくため息をついた。
「なんすか、なんすか、何があったんすか?」
まさに他人の不幸は蜜の味、と言わんばかりの顔だ。
だが、あんなグロテスクな、まるでホラー映画のような話をどうやって説明しろというのだ。
「簡単に話せたら苦労はしない。」
そう言って顔を上げると、遠くでまた何かを描いている追田が目に入った。
前は全く気づかなかったが、遠くにいるのに何だか追田と目があったような気がする。
ーまさか。
「やっぱり。」
思わず休憩中に走って土手道に座ってる追田の元へ向かった。
自分でも馬鹿だと思ったが、どうしても確認しなければ気が済まなかった。
そこには、追田が手に持ってるスケッチブックには、成瀬と思われる人物がスコップを持っている姿で描かれていた。
「それ、成瀬くんに渡したかったんだ。」
すぐ後ろから先程までリビングで笑っていた聞き覚えのある声がした。
成瀬は反射的に振り返った。
そこには案の定、自分のすぐ後ろに追田が立っていた。
「なんだよ、これ。」
平静を装うとしたが声が震える。
「これは、成瀬くんだよ。」
「なんで。」
特に何も考えず矢継ぎ早に問いただす。
追田は少し屈んでこちらに視線を合わせた。追田の茶色い瞳がいつもよりくっきり見える。
「何でって。成瀬くんを描きたいから描いてるんだよ。」
追田はいつもと変わらず微笑んでいた。
気がつけば成瀬はアパートの入り口から外へ走って出ていた。
息を切らしながら電車に乗ってボロアパートの扉を潜る。
ーなんなんだ、あいつ。
靴を脱ぎ捨て、すぐに畳の上へ仰向けになって転がった。雨漏りなどが積み重なって出来た天井のシミがまるで今にも動き出して一箇所に集中し、一つの人間の顔の輪郭を描いてるように見えた。
そう、あの、水を豊富に含んだであろう、あの画用紙の…。
成瀬は身震いした。自分がいるのはボロアパートの畳の上ではなく、冷たい、冬の海の上にいるような感覚だった。海水が身体にひっついて離れないような、あの気持ち悪さが成瀬を襲った。
ーやっぱり気に食わなかった奴と二人で食事なんてどうかしてた!
ー大体、初めて会った時から馴れ馴れしくて好きじゃなかったんだ。どうしてそんな大事なことを俺は忘れていたんだろう!
成瀬は頭を掻きむしった。
ーもうあいつとは関わらない!関わりたくもない!
数日後、追田はこの間のことなど特に気にする様子もなく、当然のように会社へやってきた。
愛想の良い笑みを浮かべる彼に、初めは警戒していた社員たちはすっかり心を開いている様子だった。
そんな彼らの様子を横目で見遣ると、成瀬は大きく溜息をついた。
それを隣で見ていた竹田が不思議そうにこちらを見た。
「成瀬先輩、何かあったんすか?」
「え?」
「だって、この間まで成瀬先輩、追田さんと話してたじゃないすか。今日は避けてる感じっすね。」
成瀬があまりにも苦虫を噛み潰したような顔をしたので竹田は含み笑いをした。
「あー、こりゃ何かありましたね。」
竹田のまるでゴシップを見つけたかのような顔にまた成瀬は大きくため息をついた。
「なんすか、なんすか、何があったんすか?」
まさに他人の不幸は蜜の味、と言わんばかりの顔だ。
だが、あんなグロテスクな、まるでホラー映画のような話をどうやって説明しろというのだ。
「簡単に話せたら苦労はしない。」
そう言って顔を上げると、遠くでまた何かを描いている追田が目に入った。
前は全く気づかなかったが、遠くにいるのに何だか追田と目があったような気がする。
ーまさか。
「やっぱり。」
思わず休憩中に走って土手道に座ってる追田の元へ向かった。
自分でも馬鹿だと思ったが、どうしても確認しなければ気が済まなかった。
そこには、追田が手に持ってるスケッチブックには、成瀬と思われる人物がスコップを持っている姿で描かれていた。
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