13 / 30
「幻を追い求めて」13話
しおりを挟む
「幻を追い求めて」13話
「あ。わざわざモデルが近くに来てくれた。」
追田が見るからに嬉しそうにこちらを見てきた。
スケッチブックの中の自分は綺麗に背筋を伸ばして憂いを帯びた目をしていた。
「成瀬くん、休憩?ちょっと隣に座ってくれる?近距離でも描いてみたいんだ。」
追田は脇目も振らず、自分の顔を覗き込みながらスケッチブックに鉛筆を立てた。特に陽射しは強くないが、奴の目はキラキラと反射している。
「するわけないだろ!!」
成瀬は強めに追田の肩を押してその場を立ち去った。
本当は追田に自分のデッサンを描くことを止めさせたかったが、これ以上関わることの方が百倍嫌だった。
徐々に日没の時間が早まり、帰る頃にはすっかり遅くなっていた。
今日もいつも通り竹田と帰り道を歩く。
「それで、どうなんすか?」
「なにが。」
「追田紡求と何があったのかっすよ。地味に気になるんすけど。」
「どうだっていいだろ。」
竹田がつまらなさそうな顔で頬を膨らます。
成瀬は辺りを見回した。この間まで紅葉が綺麗だった木はもうすっかり葉を散らし、裸になっていた。風は冷たく、成瀬の頬を撫でる。
「あれ?」
竹田の訝しげな声が気になり、成瀬は再び前を向く。
そこには赤錆が目立つアパートの隣に大きなトラックが停まっていた。
トラックの横に立っているのは入居初日に挨拶したっきりの大家さんだった。
竹田が駆け寄って話しかける。
「あの、どうしたんすか?」
大家は辛うじて残ってる白髪を触り、困り眉で話した。
「あー君たちか。すまないね。」
大家の目尻の皺が深くなる。
「実はこのアパート、違法建築だったみたいでね~建て直すことになったんだよ。ホント、嫌になっちゃうよなあ!」
大家の言葉に頭が真っ白になる。まだ雪には早いはずなんだが。
「まあ、ボロボロアパートだって散々言われてたし、ちょうど良いっちゃ、ちょうど良いよなぁ!」
大家の不謹慎なジョークも全く頭に入ってこなかった。
隣を見ると、ただでさえ肌が白い竹田の肌はすっかり血の気が引いていた。普段、上司に叱られても全く動じず、太々しい竹田が顔を青ざめているのを見るのは少し愉快だった。まあ、そんなことを言っている場合ではないわけだが。
「ごめんね~ちゃんとお金は払うから。悪いけど、アパート、退去してね。」
大家の無責任な言葉に段々と現実が見え始める。
ーどうする?今日はどこか、カプセルホテルとか探すか?
自分に事情を話して泊まらせてくれる友人などいない。一か八か同じ状況の竹田に頼ってみるかと思い、横を見ると竹田は誰からか電話が掛かってきたようで通話していた。
「え!?なんで!兄貴となんて、絶対に嫌だ!」
何やらまたお兄さんと揉めているようだ。竹田がスマホを耳に当てて声を荒げている。その間、呆然とアパートを見上げる。
ーどうしよう。実家に帰ろうか。いや、実家からだと遠いし面倒だな。
そんな漠然と悩んでいると竹田が慌ててこちらにやってきた。
「どうしよう。兄貴の家に行かなくちゃいけなくなっちゃいました!!」
竹田の青ざめた表情を見て、兄弟仲が良くないのは一目瞭然だった。
「でも、良かったじゃないか。それでも泊まれそうな場所が出来たんだろう?俺はちょっと困ってるんだよ。」
「良くないですよ!兄貴と二人っきりなんて…」
そう竹田は言い掛けてその場で何か考え始めた。
「待てよ。成瀬先輩も一緒に来ればいいんじゃないか?」
手を顔に当てたまま竹田はこちらを見て言った。竹田の目は輝き、期待で満ちているのが分かった。
普段の成瀬だったらここで断るはずだろう。しかし、今はそんな事を言っている場合では無かったし、他人と泊まるのは気が引けるが、それでも今晩泊まれる場所を確保できるというのは成瀬にとって大きかった。
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
「ちょっと待った。」
「あ。わざわざモデルが近くに来てくれた。」
追田が見るからに嬉しそうにこちらを見てきた。
スケッチブックの中の自分は綺麗に背筋を伸ばして憂いを帯びた目をしていた。
「成瀬くん、休憩?ちょっと隣に座ってくれる?近距離でも描いてみたいんだ。」
追田は脇目も振らず、自分の顔を覗き込みながらスケッチブックに鉛筆を立てた。特に陽射しは強くないが、奴の目はキラキラと反射している。
「するわけないだろ!!」
成瀬は強めに追田の肩を押してその場を立ち去った。
本当は追田に自分のデッサンを描くことを止めさせたかったが、これ以上関わることの方が百倍嫌だった。
徐々に日没の時間が早まり、帰る頃にはすっかり遅くなっていた。
今日もいつも通り竹田と帰り道を歩く。
「それで、どうなんすか?」
「なにが。」
「追田紡求と何があったのかっすよ。地味に気になるんすけど。」
「どうだっていいだろ。」
竹田がつまらなさそうな顔で頬を膨らます。
成瀬は辺りを見回した。この間まで紅葉が綺麗だった木はもうすっかり葉を散らし、裸になっていた。風は冷たく、成瀬の頬を撫でる。
「あれ?」
竹田の訝しげな声が気になり、成瀬は再び前を向く。
そこには赤錆が目立つアパートの隣に大きなトラックが停まっていた。
トラックの横に立っているのは入居初日に挨拶したっきりの大家さんだった。
竹田が駆け寄って話しかける。
「あの、どうしたんすか?」
大家は辛うじて残ってる白髪を触り、困り眉で話した。
「あー君たちか。すまないね。」
大家の目尻の皺が深くなる。
「実はこのアパート、違法建築だったみたいでね~建て直すことになったんだよ。ホント、嫌になっちゃうよなあ!」
大家の言葉に頭が真っ白になる。まだ雪には早いはずなんだが。
「まあ、ボロボロアパートだって散々言われてたし、ちょうど良いっちゃ、ちょうど良いよなぁ!」
大家の不謹慎なジョークも全く頭に入ってこなかった。
隣を見ると、ただでさえ肌が白い竹田の肌はすっかり血の気が引いていた。普段、上司に叱られても全く動じず、太々しい竹田が顔を青ざめているのを見るのは少し愉快だった。まあ、そんなことを言っている場合ではないわけだが。
「ごめんね~ちゃんとお金は払うから。悪いけど、アパート、退去してね。」
大家の無責任な言葉に段々と現実が見え始める。
ーどうする?今日はどこか、カプセルホテルとか探すか?
自分に事情を話して泊まらせてくれる友人などいない。一か八か同じ状況の竹田に頼ってみるかと思い、横を見ると竹田は誰からか電話が掛かってきたようで通話していた。
「え!?なんで!兄貴となんて、絶対に嫌だ!」
何やらまたお兄さんと揉めているようだ。竹田がスマホを耳に当てて声を荒げている。その間、呆然とアパートを見上げる。
ーどうしよう。実家に帰ろうか。いや、実家からだと遠いし面倒だな。
そんな漠然と悩んでいると竹田が慌ててこちらにやってきた。
「どうしよう。兄貴の家に行かなくちゃいけなくなっちゃいました!!」
竹田の青ざめた表情を見て、兄弟仲が良くないのは一目瞭然だった。
「でも、良かったじゃないか。それでも泊まれそうな場所が出来たんだろう?俺はちょっと困ってるんだよ。」
「良くないですよ!兄貴と二人っきりなんて…」
そう竹田は言い掛けてその場で何か考え始めた。
「待てよ。成瀬先輩も一緒に来ればいいんじゃないか?」
手を顔に当てたまま竹田はこちらを見て言った。竹田の目は輝き、期待で満ちているのが分かった。
普段の成瀬だったらここで断るはずだろう。しかし、今はそんな事を言っている場合では無かったし、他人と泊まるのは気が引けるが、それでも今晩泊まれる場所を確保できるというのは成瀬にとって大きかった。
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
「ちょっと待った。」
0
あなたにおすすめの小説
新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜
若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。
妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。
ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。
しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。
父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。
父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。
ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。
野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて…
そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。
童話の「美女と野獣」パロのBLです
青龍将軍の新婚生活
蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。
武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。
そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。
「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」
幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。
中華風政略結婚ラブコメ。
※他のサイトにも投稿しています。
【完結】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―
綾波絢斗
BL
この世界には、二つの特別な称号を持つ者たちが存在する。
一つは、絶対的な権力を持つ王の称号――ルガル(lugal)。
もう一つは、ルガルと対をなし、その力を補う「番」――ムル(mul)。
ルガルは生まれながらに選ばれし存在。
国家からエリート教育と地位を与えられ、能力に応じて厳格なランク分けが行われる。
最上位のルガルは、政治さえも動かす絶対者だ。
一方で、ムルは生まれた瞬間にはその正体がわからない。
遺伝子検査や学力テストを経て候補が絞られるが、
最終的に「真のムル」かどうかを見極められるのは――ルガルだけ。
ムルが覚醒したとき、同じ場所に「紋章」が現れ、その瞬間から、ルガルとムルの力は共鳴し始める。
ムルの能力はルガルの力を最大限に引き出す。
ゆえにルガルたちは、自らのムルを求め、時には他人のムル候補を奪い合う。
そして、すべての出生データと遺伝情報を管理するのは、
巨大企業イルジオン――国家をも超える存在。
その頂点に立つ社長、一条レイ。
冷徹なルガルの頂点に君臨する彼が「自分のムル」と出会った。
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
偽りの聖者と泥の国
篠雨
BL
「感謝すら忘れた者たちに、明日を語る資格はない」
自らの都合で聖王セシルを追放し、異世界から新たな「勇者」を召喚したアドレアン聖王国。
しかし、その身勝手な選択が、国を、大地を、そして人々の心を根底から腐らせていく。
壊れゆく少年勇者と、彼を歪に愛した騎士。
二人の執着が交わったとき、聖王国は二度と再生不能な終焉へと突き進む。
裏切り者たちには、因果応報という名の、容赦なき報いが下る。
これは、傲慢な国が崩壊するまでの、無慈悲な記録。
-----------------------------------------
『嘘つき王と影の騎士』から引き続き読んでくださる皆様へ
この物語は、セシルを虐げた者たちが、ただただ因果応報の末路を辿るだけの物語です。
本編に救いはありません。
セシルたちのその後が気になるという方は、本編は飛ばして、最終話の後に掲載する「閑話」のみをお読みいただくことをお勧めいたします。
本作は『嘘つき王と影の騎士』の続編となりますが、前作をお読みでない方でも一つの物語としてお楽しみいただけます。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる