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「幻を追い求めて」25話
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「幻を追い求めて」25話
「いや、まさか成瀬が来るとは思わなかったよなぁ!」
電球色の照明が強い店内は忘年会シーズンだからか、通常より笑い声と掛け声で溢れかえっていて騒がしかった。
「追田くん、自分は行けないから代わりに成瀬くんが出席しますってチャットで言ってたけどさ、まさか冗談だと思ってたら本当だったなんてね。」
隣に座る元同級生が可笑しそうに困り眉をして笑っている。
ー「じゃあ、成瀬くんが行ってみる?」
あいつ、本気で考えてたのか。最悪だ。帰ったらどう切り出してやろうかと成瀬は目の前に置かれてあるキャベツの白胡麻和えを睨みつける。
周りの名前も顔も覚束ない元同級生たちは成瀬の話はしているが、視線は特に交わらなかった。
しかし、それでも話題は成瀬のことで持ちきりになっていた。まるで絶対に出会うことのないはずの希少種にでも会ったかのような扱いだった。
「成瀬ってずっと絵描いてたよなぁ。だから絶対美大行くって思ってた。」
「分かる!休み時間もずっと描いてたから絵描くの本当に好きなんだって思ったんだよねぇ。」とさっきまで好きなだけ本人の前で噂話していた人間たちが一斉にこちらを見る。
「成瀬って大学行かなかったんだろ?なんで?」
成瀬は追田が初めて職場に来た時のことを思い出した。どうも視線の的になるのは慣れない。
「みんな、よく知ってるな。誰も俺の卒業後なんて興味無いと思ってた。」
成瀬の言葉にみんな目をぱちくりさせていた。やがて、そのうちの一人が吹き出すように笑う。釣られて徐々に周りの元同級生たちも笑い始めた。
さっきまでジョッキの中になみなみに入っていたビールは白い泡だけになっていた。
「だって、成瀬って友達と喋らないでずっと絵描いてたじゃん?みんな知ってるよ。」
人付き合いが少ない成瀬でさえも遠回しに悪目立ちしていると言われていることは分かった。成瀬は俯いて綺麗に揃っている畳の目を見つめた。
ー早く終われ。早く終われ。
すると、よく追田の隣で話していた元男子生徒が卓上コンロで焼き上げられた脂の乗った牛肉を箸で掴む。
「でもさ、ぶっちゃけ高卒で働くってどんな感じ?」
成瀬は返答に窮したが、下手に見栄を張ったところでまた笑い者にされると思い、素直に答えた。
「毎日が単調だけど、自分のお金で自由に過ごせるのは楽。」
「あー、お金あるのは良いよなぁ。」
元男子生徒は牛肉を自分の皿の上に置き、タレを豪快につけて口に運んだ。
「俺、美大に入ろうと思って留年したけど、家で生きた心地しなかったわぁ。」
「お前は二浪したからな。」と横でフライドポテトを摘んでいた元男子生徒が口を挟む。
「なんだよ!好きで二浪したわけじゃねぇよ!」
「お前こそ飲んでないで絵描けよ。」
ケラケラとフライドポテト男は笑い、牛肉男は膨れっ面をしていた。
恐らく、学生時代も似たようなやり取りをしていたのだろうと成瀬はぼんやり二人を眺めた。完全に話題は成瀬から外れているのを確認すると、成瀬はまた畳と睨めっこすることにした。
暫くは成瀬とは関係の無い話題で各々勝手に盛り上がり、時間も良い感じに過ぎて行った。その状況を見て、誰かが自分に話題を振ったら頃合いを見て何とか理由をつけて店を後にしようと成瀬は算段していた。
「成瀬さぁ。」
自分の名前を呼ばれたので成瀬は勢い良く顔を上げた。名前を呼んだのは先ほど牛肉を食べていた元男子生徒だった。
彼は少し苦笑して成瀬に言った。
「お前も災難だったよなぁ、初っ端から追田とペアなんて組まされてさ。」
「いや、まさか成瀬が来るとは思わなかったよなぁ!」
電球色の照明が強い店内は忘年会シーズンだからか、通常より笑い声と掛け声で溢れかえっていて騒がしかった。
「追田くん、自分は行けないから代わりに成瀬くんが出席しますってチャットで言ってたけどさ、まさか冗談だと思ってたら本当だったなんてね。」
隣に座る元同級生が可笑しそうに困り眉をして笑っている。
ー「じゃあ、成瀬くんが行ってみる?」
あいつ、本気で考えてたのか。最悪だ。帰ったらどう切り出してやろうかと成瀬は目の前に置かれてあるキャベツの白胡麻和えを睨みつける。
周りの名前も顔も覚束ない元同級生たちは成瀬の話はしているが、視線は特に交わらなかった。
しかし、それでも話題は成瀬のことで持ちきりになっていた。まるで絶対に出会うことのないはずの希少種にでも会ったかのような扱いだった。
「成瀬ってずっと絵描いてたよなぁ。だから絶対美大行くって思ってた。」
「分かる!休み時間もずっと描いてたから絵描くの本当に好きなんだって思ったんだよねぇ。」とさっきまで好きなだけ本人の前で噂話していた人間たちが一斉にこちらを見る。
「成瀬って大学行かなかったんだろ?なんで?」
成瀬は追田が初めて職場に来た時のことを思い出した。どうも視線の的になるのは慣れない。
「みんな、よく知ってるな。誰も俺の卒業後なんて興味無いと思ってた。」
成瀬の言葉にみんな目をぱちくりさせていた。やがて、そのうちの一人が吹き出すように笑う。釣られて徐々に周りの元同級生たちも笑い始めた。
さっきまでジョッキの中になみなみに入っていたビールは白い泡だけになっていた。
「だって、成瀬って友達と喋らないでずっと絵描いてたじゃん?みんな知ってるよ。」
人付き合いが少ない成瀬でさえも遠回しに悪目立ちしていると言われていることは分かった。成瀬は俯いて綺麗に揃っている畳の目を見つめた。
ー早く終われ。早く終われ。
すると、よく追田の隣で話していた元男子生徒が卓上コンロで焼き上げられた脂の乗った牛肉を箸で掴む。
「でもさ、ぶっちゃけ高卒で働くってどんな感じ?」
成瀬は返答に窮したが、下手に見栄を張ったところでまた笑い者にされると思い、素直に答えた。
「毎日が単調だけど、自分のお金で自由に過ごせるのは楽。」
「あー、お金あるのは良いよなぁ。」
元男子生徒は牛肉を自分の皿の上に置き、タレを豪快につけて口に運んだ。
「俺、美大に入ろうと思って留年したけど、家で生きた心地しなかったわぁ。」
「お前は二浪したからな。」と横でフライドポテトを摘んでいた元男子生徒が口を挟む。
「なんだよ!好きで二浪したわけじゃねぇよ!」
「お前こそ飲んでないで絵描けよ。」
ケラケラとフライドポテト男は笑い、牛肉男は膨れっ面をしていた。
恐らく、学生時代も似たようなやり取りをしていたのだろうと成瀬はぼんやり二人を眺めた。完全に話題は成瀬から外れているのを確認すると、成瀬はまた畳と睨めっこすることにした。
暫くは成瀬とは関係の無い話題で各々勝手に盛り上がり、時間も良い感じに過ぎて行った。その状況を見て、誰かが自分に話題を振ったら頃合いを見て何とか理由をつけて店を後にしようと成瀬は算段していた。
「成瀬さぁ。」
自分の名前を呼ばれたので成瀬は勢い良く顔を上げた。名前を呼んだのは先ほど牛肉を食べていた元男子生徒だった。
彼は少し苦笑して成瀬に言った。
「お前も災難だったよなぁ、初っ端から追田とペアなんて組まされてさ。」
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