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「幻を追い求めて」26話
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「幻を追い求めて」26話
成瀬は目を見張った。自分と追田以外であの時の話題を出す人間がいるとは思わなかったからだ。
「追田、授業初日からすごかったもんなぁ。」
周りに座ってる元同級生たちも頷いている。やはり、追田はあのクラスの中でただの友人というだけでなく、芸術家として一目置かれる存在だったようだ。
「そうそう!今は有名なデザイナーだってさ。敵わないよな。」
周りの人間は微笑み、また頷いている。
「ほんと、才能ある奴は良いよなぁ。人生勝ち組でよ。」
「そんな奴に敵おうなんて思う方が馬鹿らしくなってきちゃうよな。」
「なー俺なんて諦めてコンビニでバイト中でーす!」
「定職につけよ、お前は。」と話していた男は隣の元同級生を小突いた。
なんだか不思議な気持ちがした。自分と似たようなことを考えていた人間が、こんなにいたということを。一人だけ追い詰められていたのだとずっと考えていたから。
誰かがジョッキを置く音がした。
「追田って自分に才能があるの分かってるって感じだったよなぁ。」
「自分は何でも分かってますって感じなところとか。」
「そうそう。」
成瀬はもう一度見渡した。皆、微笑んでなどいなかった。浮かべているのは嘲笑だった。目が合った人間たちはまるで成瀬に同意を求めているかのように口角を三日月のように上げていた。
成瀬はてっきり自分のことなどみんなに否定的に見られていると思っていたが、あまり邪険には扱われていないことに意外性を感じていた。寧ろ、仲間だと思われているような、そんな気さえした。成瀬は大して酒を飲んでいないのに顔を赤らめ、視線が合わないようにまた畳の目を見つめた。
「ちょっと!オダマキさんの前でそんな話するの止めなさいよ!」
一人の女性の声が個室に響く。成瀬が顔を上げると気の強そうなショートカットヘアの女性がロングヘアの女性の肩に手を添えている。
「オダマキさんが追田くんのこと好きだったの知ってるでしょ!」
声を荒げるショートカットヘアの女性の言葉を聞いて成瀬はようやく思い出した。
ーそうだ。このロングヘアの女性は小田巻という苗字で、あの日、成瀬が絵を海に捨てる前に追田と一緒に歩いていた女性だ。
小田巻さんは罰が悪そうにジョッキの中に入っているカシス・オレンジを口に含んでいた。
「でも、振られてるじゃん。」
「コラ!」
ショートカットの女性の喝を皮切りに暫く下世話な話で全員盛り上がっていた。余計に居た堪れなくなり、どこを見て良いか分からなくて目が泳いだ。
すると、ばったり小田巻さんと目が合った。小田巻さんが先程までちびちび飲んでいたジョッキはすでにすっからかんになっていた。
小田巻さんはじっと成瀬を見ていた。向かいの席からでもまつ毛が長く、すらっとした体型なのは見て分かった。
小田巻さんは成瀬から視線を襖に目を移した。そして隣に座っていたショートカットの女性に何やら耳打ちをして静かに立ち上がった。彼女が襖を引く音など成瀬とショートカットの女性以外誰も気づいていないようだった。
成瀬は慌ててその後を追った。
成瀬は目を見張った。自分と追田以外であの時の話題を出す人間がいるとは思わなかったからだ。
「追田、授業初日からすごかったもんなぁ。」
周りに座ってる元同級生たちも頷いている。やはり、追田はあのクラスの中でただの友人というだけでなく、芸術家として一目置かれる存在だったようだ。
「そうそう!今は有名なデザイナーだってさ。敵わないよな。」
周りの人間は微笑み、また頷いている。
「ほんと、才能ある奴は良いよなぁ。人生勝ち組でよ。」
「そんな奴に敵おうなんて思う方が馬鹿らしくなってきちゃうよな。」
「なー俺なんて諦めてコンビニでバイト中でーす!」
「定職につけよ、お前は。」と話していた男は隣の元同級生を小突いた。
なんだか不思議な気持ちがした。自分と似たようなことを考えていた人間が、こんなにいたということを。一人だけ追い詰められていたのだとずっと考えていたから。
誰かがジョッキを置く音がした。
「追田って自分に才能があるの分かってるって感じだったよなぁ。」
「自分は何でも分かってますって感じなところとか。」
「そうそう。」
成瀬はもう一度見渡した。皆、微笑んでなどいなかった。浮かべているのは嘲笑だった。目が合った人間たちはまるで成瀬に同意を求めているかのように口角を三日月のように上げていた。
成瀬はてっきり自分のことなどみんなに否定的に見られていると思っていたが、あまり邪険には扱われていないことに意外性を感じていた。寧ろ、仲間だと思われているような、そんな気さえした。成瀬は大して酒を飲んでいないのに顔を赤らめ、視線が合わないようにまた畳の目を見つめた。
「ちょっと!オダマキさんの前でそんな話するの止めなさいよ!」
一人の女性の声が個室に響く。成瀬が顔を上げると気の強そうなショートカットヘアの女性がロングヘアの女性の肩に手を添えている。
「オダマキさんが追田くんのこと好きだったの知ってるでしょ!」
声を荒げるショートカットヘアの女性の言葉を聞いて成瀬はようやく思い出した。
ーそうだ。このロングヘアの女性は小田巻という苗字で、あの日、成瀬が絵を海に捨てる前に追田と一緒に歩いていた女性だ。
小田巻さんは罰が悪そうにジョッキの中に入っているカシス・オレンジを口に含んでいた。
「でも、振られてるじゃん。」
「コラ!」
ショートカットの女性の喝を皮切りに暫く下世話な話で全員盛り上がっていた。余計に居た堪れなくなり、どこを見て良いか分からなくて目が泳いだ。
すると、ばったり小田巻さんと目が合った。小田巻さんが先程までちびちび飲んでいたジョッキはすでにすっからかんになっていた。
小田巻さんはじっと成瀬を見ていた。向かいの席からでもまつ毛が長く、すらっとした体型なのは見て分かった。
小田巻さんは成瀬から視線を襖に目を移した。そして隣に座っていたショートカットの女性に何やら耳打ちをして静かに立ち上がった。彼女が襖を引く音など成瀬とショートカットの女性以外誰も気づいていないようだった。
成瀬は慌ててその後を追った。
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