26 / 30
「幻を追い求めて」26話
しおりを挟む
「幻を追い求めて」26話
成瀬は目を見張った。自分と追田以外であの時の話題を出す人間がいるとは思わなかったからだ。
「追田、授業初日からすごかったもんなぁ。」
周りに座ってる元同級生たちも頷いている。やはり、追田はあのクラスの中でただの友人というだけでなく、芸術家として一目置かれる存在だったようだ。
「そうそう!今は有名なデザイナーだってさ。敵わないよな。」
周りの人間は微笑み、また頷いている。
「ほんと、才能ある奴は良いよなぁ。人生勝ち組でよ。」
「そんな奴に敵おうなんて思う方が馬鹿らしくなってきちゃうよな。」
「なー俺なんて諦めてコンビニでバイト中でーす!」
「定職につけよ、お前は。」と話していた男は隣の元同級生を小突いた。
なんだか不思議な気持ちがした。自分と似たようなことを考えていた人間が、こんなにいたということを。一人だけ追い詰められていたのだとずっと考えていたから。
誰かがジョッキを置く音がした。
「追田って自分に才能があるの分かってるって感じだったよなぁ。」
「自分は何でも分かってますって感じなところとか。」
「そうそう。」
成瀬はもう一度見渡した。皆、微笑んでなどいなかった。浮かべているのは嘲笑だった。目が合った人間たちはまるで成瀬に同意を求めているかのように口角を三日月のように上げていた。
成瀬はてっきり自分のことなどみんなに否定的に見られていると思っていたが、あまり邪険には扱われていないことに意外性を感じていた。寧ろ、仲間だと思われているような、そんな気さえした。成瀬は大して酒を飲んでいないのに顔を赤らめ、視線が合わないようにまた畳の目を見つめた。
「ちょっと!オダマキさんの前でそんな話するの止めなさいよ!」
一人の女性の声が個室に響く。成瀬が顔を上げると気の強そうなショートカットヘアの女性がロングヘアの女性の肩に手を添えている。
「オダマキさんが追田くんのこと好きだったの知ってるでしょ!」
声を荒げるショートカットヘアの女性の言葉を聞いて成瀬はようやく思い出した。
ーそうだ。このロングヘアの女性は小田巻という苗字で、あの日、成瀬が絵を海に捨てる前に追田と一緒に歩いていた女性だ。
小田巻さんは罰が悪そうにジョッキの中に入っているカシス・オレンジを口に含んでいた。
「でも、振られてるじゃん。」
「コラ!」
ショートカットの女性の喝を皮切りに暫く下世話な話で全員盛り上がっていた。余計に居た堪れなくなり、どこを見て良いか分からなくて目が泳いだ。
すると、ばったり小田巻さんと目が合った。小田巻さんが先程までちびちび飲んでいたジョッキはすでにすっからかんになっていた。
小田巻さんはじっと成瀬を見ていた。向かいの席からでもまつ毛が長く、すらっとした体型なのは見て分かった。
小田巻さんは成瀬から視線を襖に目を移した。そして隣に座っていたショートカットの女性に何やら耳打ちをして静かに立ち上がった。彼女が襖を引く音など成瀬とショートカットの女性以外誰も気づいていないようだった。
成瀬は慌ててその後を追った。
成瀬は目を見張った。自分と追田以外であの時の話題を出す人間がいるとは思わなかったからだ。
「追田、授業初日からすごかったもんなぁ。」
周りに座ってる元同級生たちも頷いている。やはり、追田はあのクラスの中でただの友人というだけでなく、芸術家として一目置かれる存在だったようだ。
「そうそう!今は有名なデザイナーだってさ。敵わないよな。」
周りの人間は微笑み、また頷いている。
「ほんと、才能ある奴は良いよなぁ。人生勝ち組でよ。」
「そんな奴に敵おうなんて思う方が馬鹿らしくなってきちゃうよな。」
「なー俺なんて諦めてコンビニでバイト中でーす!」
「定職につけよ、お前は。」と話していた男は隣の元同級生を小突いた。
なんだか不思議な気持ちがした。自分と似たようなことを考えていた人間が、こんなにいたということを。一人だけ追い詰められていたのだとずっと考えていたから。
誰かがジョッキを置く音がした。
「追田って自分に才能があるの分かってるって感じだったよなぁ。」
「自分は何でも分かってますって感じなところとか。」
「そうそう。」
成瀬はもう一度見渡した。皆、微笑んでなどいなかった。浮かべているのは嘲笑だった。目が合った人間たちはまるで成瀬に同意を求めているかのように口角を三日月のように上げていた。
成瀬はてっきり自分のことなどみんなに否定的に見られていると思っていたが、あまり邪険には扱われていないことに意外性を感じていた。寧ろ、仲間だと思われているような、そんな気さえした。成瀬は大して酒を飲んでいないのに顔を赤らめ、視線が合わないようにまた畳の目を見つめた。
「ちょっと!オダマキさんの前でそんな話するの止めなさいよ!」
一人の女性の声が個室に響く。成瀬が顔を上げると気の強そうなショートカットヘアの女性がロングヘアの女性の肩に手を添えている。
「オダマキさんが追田くんのこと好きだったの知ってるでしょ!」
声を荒げるショートカットヘアの女性の言葉を聞いて成瀬はようやく思い出した。
ーそうだ。このロングヘアの女性は小田巻という苗字で、あの日、成瀬が絵を海に捨てる前に追田と一緒に歩いていた女性だ。
小田巻さんは罰が悪そうにジョッキの中に入っているカシス・オレンジを口に含んでいた。
「でも、振られてるじゃん。」
「コラ!」
ショートカットの女性の喝を皮切りに暫く下世話な話で全員盛り上がっていた。余計に居た堪れなくなり、どこを見て良いか分からなくて目が泳いだ。
すると、ばったり小田巻さんと目が合った。小田巻さんが先程までちびちび飲んでいたジョッキはすでにすっからかんになっていた。
小田巻さんはじっと成瀬を見ていた。向かいの席からでもまつ毛が長く、すらっとした体型なのは見て分かった。
小田巻さんは成瀬から視線を襖に目を移した。そして隣に座っていたショートカットの女性に何やら耳打ちをして静かに立ち上がった。彼女が襖を引く音など成瀬とショートカットの女性以外誰も気づいていないようだった。
成瀬は慌ててその後を追った。
0
あなたにおすすめの小説
新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜
若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。
妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。
ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。
しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。
父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。
父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。
ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。
野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて…
そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。
童話の「美女と野獣」パロのBLです
青龍将軍の新婚生活
蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。
武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。
そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。
「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」
幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。
中華風政略結婚ラブコメ。
※他のサイトにも投稿しています。
【完結】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―
綾波絢斗
BL
この世界には、二つの特別な称号を持つ者たちが存在する。
一つは、絶対的な権力を持つ王の称号――ルガル(lugal)。
もう一つは、ルガルと対をなし、その力を補う「番」――ムル(mul)。
ルガルは生まれながらに選ばれし存在。
国家からエリート教育と地位を与えられ、能力に応じて厳格なランク分けが行われる。
最上位のルガルは、政治さえも動かす絶対者だ。
一方で、ムルは生まれた瞬間にはその正体がわからない。
遺伝子検査や学力テストを経て候補が絞られるが、
最終的に「真のムル」かどうかを見極められるのは――ルガルだけ。
ムルが覚醒したとき、同じ場所に「紋章」が現れ、その瞬間から、ルガルとムルの力は共鳴し始める。
ムルの能力はルガルの力を最大限に引き出す。
ゆえにルガルたちは、自らのムルを求め、時には他人のムル候補を奪い合う。
そして、すべての出生データと遺伝情報を管理するのは、
巨大企業イルジオン――国家をも超える存在。
その頂点に立つ社長、一条レイ。
冷徹なルガルの頂点に君臨する彼が「自分のムル」と出会った。
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
偽りの聖者と泥の国
篠雨
BL
「感謝すら忘れた者たちに、明日を語る資格はない」
自らの都合で聖王セシルを追放し、異世界から新たな「勇者」を召喚したアドレアン聖王国。
しかし、その身勝手な選択が、国を、大地を、そして人々の心を根底から腐らせていく。
壊れゆく少年勇者と、彼を歪に愛した騎士。
二人の執着が交わったとき、聖王国は二度と再生不能な終焉へと突き進む。
裏切り者たちには、因果応報という名の、容赦なき報いが下る。
これは、傲慢な国が崩壊するまでの、無慈悲な記録。
-----------------------------------------
『嘘つき王と影の騎士』から引き続き読んでくださる皆様へ
この物語は、セシルを虐げた者たちが、ただただ因果応報の末路を辿るだけの物語です。
本編に救いはありません。
セシルたちのその後が気になるという方は、本編は飛ばして、最終話の後に掲載する「閑話」のみをお読みいただくことをお勧めいたします。
本作は『嘘つき王と影の騎士』の続編となりますが、前作をお読みでない方でも一つの物語としてお楽しみいただけます。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる