12 / 27
「幻を追い求めて2」12話
しおりを挟む
「幻を追い求めて2」12話
一壱が再び煌びやかな歓楽街に出ると、スマホを弄っている盛り髪の女が向かいのビルの外壁に寄りかかっていた。女は顔を上げると目を丸くしてこちらに手を振った。
「まつなん~」
この間も同じように手を振ってきた、"元"自分の担当だった。一壱はもうここの歓楽街には来ないだろうと思い、置き土産感覚で控え目に手を振った。白いストーンがたくさんあしらわれたビブネックレスが目立つ嬢は嬉しそうに控え目に手を振り返した。
一壱はアパートに帰るまで店長に言われたことを気にしていた。
ー確かに、ずっと注意深く見ていたら、自分が演技していることに気づく奴もいるだろう。
特に、一壱を恨んでいたような奴からしてみれば。一壱は長が自分の行動理念のようなものに気づいてる可能性を考え、唸った。
気づいたからといって、やっぱり長が自分に親身になって転職を勧める理由がよく分からなかった。
ーまあ、既に転職もして働き始めたんだから、さすがにもう何も言ってはこないだろ。
アパートの錆びた屋根が見えてくる。ホッと一息つけると一壱が階段を上がろうとすると、後ろから女の声がした。
「まつなーん。」
驚いて振り向くと、黒いショートパンツを履いた黒い巻き毛の女が立っていた。一壱は眉を吊り上げて言ってやった。
「はるこ。」
すると、女は口を尖らせた。
「なによー!源氏名で呼ばないでよ!」
「それはこっちのセリフ。」
一壱は階段から離れて女の方に歩いていく。
この女性、はるこは元大学の同級生だ。大学を卒業してから一壱と同じで歓楽街でキャバ嬢をしている。
はるこはついさっきの会話など忘れ、ヒールの高い靴を鳴らし、こちらに近寄った。
「ねぇねぇ!あんた、ホスト辞めたの?」
「うん、辞めたよ。」
「うっそ!」とはるこは目を丸くして口に手をあてた。そして呆れ顔で言った。
「せっかく、あんたがホストはじめた頃、ちょっと指名しに行ってやったりしたのにぃ。」とはるこは膨れっ面で一壱を睨んだ。
「なんで辞めたのよ?」
「ちょっと、見られたら不都合な人に見つかったから、かな。」
「ふーん」
はるこは腕組みして電柱に寄りかかった。
「でも、あんた気をつけた方がいいよ。辞めて客とトラブル、とかよくあるからさ。」
バサバサのまつ毛から覗く瞳が一壱を捉える。
「この間なんて、あたしと同じくらいに入った子、待ち伏せされて危なかったんだから。」
「そんな客、考える限り思い浮かばないけどなあ」と顎に手を当てる。
「大丈夫だと思うけど。」
はるこは大きなため息をついて、自分の腰に手を当てた。
「あのねぇ、一壱。」と懐かしい呼び名ではるこは険しい顔を前に突き出した。
「気づいてないのかもしれないけど、あんたは相手を狂わす才能があるんだよ。」
一壱は目をぱちくりさせた。
「えー?俺が?」
「そう。」
あまりにも速い即答にまたもや一壱は目を丸くした。はるこは唸っている。
「うーん。なんていうか、一壱って良い意味でも悪い意味でも人を立てちゃうじゃん?一緒にいると何かさ、自分が特別な物語の登場人物になったような気分になるの。」
一壱は眉を顰める。そんなことをした記憶が無かったからだ。自分はただ、自分が自由でいようと過ごしてるだけだったからだ。
「そういう優しい奴は、執着されちゃうんだよ。気をつけなよ。」
一壱ははるこを凝視した。
ー優しい?何を言っているんだ、はるこは。
はるこはショートパンツのポケットに親指を突っ込んだ。
「みんな、そんな幻みたいな男が好きなんだよ。気をつけなよ、一壱。」
一壱はいつもと雰囲気が違うはるこを凝視しながら聞いた。
「つまり、はるこは俺のこと好きって、こと?」
はるこは一瞬目が点になったが、すぐに品がない笑い声をあげて一壱の肩を強く叩いた。
一壱が再び煌びやかな歓楽街に出ると、スマホを弄っている盛り髪の女が向かいのビルの外壁に寄りかかっていた。女は顔を上げると目を丸くしてこちらに手を振った。
「まつなん~」
この間も同じように手を振ってきた、"元"自分の担当だった。一壱はもうここの歓楽街には来ないだろうと思い、置き土産感覚で控え目に手を振った。白いストーンがたくさんあしらわれたビブネックレスが目立つ嬢は嬉しそうに控え目に手を振り返した。
一壱はアパートに帰るまで店長に言われたことを気にしていた。
ー確かに、ずっと注意深く見ていたら、自分が演技していることに気づく奴もいるだろう。
特に、一壱を恨んでいたような奴からしてみれば。一壱は長が自分の行動理念のようなものに気づいてる可能性を考え、唸った。
気づいたからといって、やっぱり長が自分に親身になって転職を勧める理由がよく分からなかった。
ーまあ、既に転職もして働き始めたんだから、さすがにもう何も言ってはこないだろ。
アパートの錆びた屋根が見えてくる。ホッと一息つけると一壱が階段を上がろうとすると、後ろから女の声がした。
「まつなーん。」
驚いて振り向くと、黒いショートパンツを履いた黒い巻き毛の女が立っていた。一壱は眉を吊り上げて言ってやった。
「はるこ。」
すると、女は口を尖らせた。
「なによー!源氏名で呼ばないでよ!」
「それはこっちのセリフ。」
一壱は階段から離れて女の方に歩いていく。
この女性、はるこは元大学の同級生だ。大学を卒業してから一壱と同じで歓楽街でキャバ嬢をしている。
はるこはついさっきの会話など忘れ、ヒールの高い靴を鳴らし、こちらに近寄った。
「ねぇねぇ!あんた、ホスト辞めたの?」
「うん、辞めたよ。」
「うっそ!」とはるこは目を丸くして口に手をあてた。そして呆れ顔で言った。
「せっかく、あんたがホストはじめた頃、ちょっと指名しに行ってやったりしたのにぃ。」とはるこは膨れっ面で一壱を睨んだ。
「なんで辞めたのよ?」
「ちょっと、見られたら不都合な人に見つかったから、かな。」
「ふーん」
はるこは腕組みして電柱に寄りかかった。
「でも、あんた気をつけた方がいいよ。辞めて客とトラブル、とかよくあるからさ。」
バサバサのまつ毛から覗く瞳が一壱を捉える。
「この間なんて、あたしと同じくらいに入った子、待ち伏せされて危なかったんだから。」
「そんな客、考える限り思い浮かばないけどなあ」と顎に手を当てる。
「大丈夫だと思うけど。」
はるこは大きなため息をついて、自分の腰に手を当てた。
「あのねぇ、一壱。」と懐かしい呼び名ではるこは険しい顔を前に突き出した。
「気づいてないのかもしれないけど、あんたは相手を狂わす才能があるんだよ。」
一壱は目をぱちくりさせた。
「えー?俺が?」
「そう。」
あまりにも速い即答にまたもや一壱は目を丸くした。はるこは唸っている。
「うーん。なんていうか、一壱って良い意味でも悪い意味でも人を立てちゃうじゃん?一緒にいると何かさ、自分が特別な物語の登場人物になったような気分になるの。」
一壱は眉を顰める。そんなことをした記憶が無かったからだ。自分はただ、自分が自由でいようと過ごしてるだけだったからだ。
「そういう優しい奴は、執着されちゃうんだよ。気をつけなよ。」
一壱ははるこを凝視した。
ー優しい?何を言っているんだ、はるこは。
はるこはショートパンツのポケットに親指を突っ込んだ。
「みんな、そんな幻みたいな男が好きなんだよ。気をつけなよ、一壱。」
一壱はいつもと雰囲気が違うはるこを凝視しながら聞いた。
「つまり、はるこは俺のこと好きって、こと?」
はるこは一瞬目が点になったが、すぐに品がない笑い声をあげて一壱の肩を強く叩いた。
0
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜
若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。
妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。
ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。
しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。
父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。
父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。
ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。
野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて…
そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。
童話の「美女と野獣」パロのBLです
青龍将軍の新婚生活
蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。
武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。
そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。
「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」
幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。
中華風政略結婚ラブコメ。
※他のサイトにも投稿しています。
【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
偽りの聖者と泥の国
篠雨
BL
「感謝すら忘れた者たちに、明日を語る資格はない」
自らの都合で聖王セシルを追放し、異世界から新たな「勇者」を召喚したアドレアン聖王国。
しかし、その身勝手な選択が、国を、大地を、そして人々の心を根底から腐らせていく。
壊れゆく少年勇者と、彼を歪に愛した騎士。
二人の執着が交わったとき、聖王国は二度と再生不能な終焉へと突き進む。
裏切り者たちには、因果応報という名の、容赦なき報いが下る。
これは、傲慢な国が崩壊するまでの、無慈悲な記録。
-----------------------------------------
『嘘つき王と影の騎士』から引き続き読んでくださる皆様へ
この物語は、セシルを虐げた者たちが、ただただ因果応報の末路を辿るだけの物語です。
本編に救いはありません。
セシルたちのその後が気になるという方は、本編は飛ばして、最終話の後に掲載する「閑話」のみをお読みいただくことをお勧めいたします。
本作は『嘘つき王と影の騎士』の続編となりますが、前作をお読みでない方でも一つの物語としてお楽しみいただけます。
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる