幻を追い求めて2

三旨加泉

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「幻を追い求めて2」12話

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「幻を追い求めて2」12話


 一壱が再び煌びやかな歓楽街に出ると、スマホを弄っている盛り髪の女が向かいのビルの外壁に寄りかかっていた。女は顔を上げると目を丸くしてこちらに手を振った。
「まつなん~」
 この間も同じように手を振ってきた、"元"自分の担当だった。一壱はもうここの歓楽街には来ないだろうと思い、置き土産感覚で控え目に手を振った。白いストーンがたくさんあしらわれたビブネックレスが目立つ嬢は嬉しそうに控え目に手を振り返した。

 一壱はアパートに帰るまで店長に言われたことを気にしていた。
ー確かに、ずっと注意深く見ていたら、自分が演技していることに気づく奴もいるだろう。
 特に、一壱を恨んでいたような奴からしてみれば。一壱は長が自分の行動理念のようなものに気づいてる可能性を考え、唸った。
 気づいたからといって、やっぱり長が自分に親身になって転職を勧める理由がよく分からなかった。
ーまあ、既に転職もして働き始めたんだから、さすがにもう何も言ってはこないだろ。

 アパートの錆びた屋根が見えてくる。ホッと一息つけると一壱が階段を上がろうとすると、後ろから女の声がした。
「まつなーん。」
 驚いて振り向くと、黒いショートパンツを履いた黒い巻き毛の女が立っていた。一壱は眉を吊り上げて言ってやった。
「はるこ。」
 すると、女は口を尖らせた。
「なによー!源氏名で呼ばないでよ!」
「それはこっちのセリフ。」
 一壱は階段から離れて女の方に歩いていく。
 この女性、はるこは元大学の同級生だ。大学を卒業してから一壱と同じで歓楽街でキャバ嬢をしている。
 はるこはついさっきの会話など忘れ、ヒールの高い靴を鳴らし、こちらに近寄った。
「ねぇねぇ!あんた、ホスト辞めたの?」
「うん、辞めたよ。」
「うっそ!」とはるこは目を丸くして口に手をあてた。そして呆れ顔で言った。
「せっかく、あんたがホストはじめた頃、ちょっと指名しに行ってやったりしたのにぃ。」とはるこは膨れっ面で一壱を睨んだ。
「なんで辞めたのよ?」
「ちょっと、見られたら不都合な人に見つかったから、かな。」
「ふーん」
 はるこは腕組みして電柱に寄りかかった。
「でも、あんた気をつけた方がいいよ。辞めて客とトラブル、とかよくあるからさ。」
 バサバサのまつ毛から覗く瞳が一壱を捉える。
「この間なんて、あたしと同じくらいに入った子、待ち伏せされて危なかったんだから。」
「そんな客、考える限り思い浮かばないけどなあ」と顎に手を当てる。
「大丈夫だと思うけど。」
 はるこは大きなため息をついて、自分の腰に手を当てた。
「あのねぇ、一壱。」と懐かしい呼び名ではるこは険しい顔を前に突き出した。
「気づいてないのかもしれないけど、あんたは相手を狂わす才能があるんだよ。」
 一壱は目をぱちくりさせた。
「えー?俺が?」
「そう。」
 あまりにも速い即答にまたもや一壱は目を丸くした。はるこは唸っている。
「うーん。なんていうか、一壱って良い意味でも悪い意味でも人を立てちゃうじゃん?一緒にいると何かさ、自分が特別な物語の登場人物になったような気分になるの。」
 一壱は眉を顰める。そんなことをした記憶が無かったからだ。自分はただ、自分が自由でいようと過ごしてるだけだったからだ。
「そういう優しい奴は、執着されちゃうんだよ。気をつけなよ。」
 一壱ははるこを凝視した。
ー優しい?何を言っているんだ、はるこは。
 はるこはショートパンツのポケットに親指を突っ込んだ。
「みんな、そんな幻みたいな男が好きなんだよ。気をつけなよ、一壱。」
 一壱はいつもと雰囲気が違うはるこを凝視しながら聞いた。
「つまり、はるこは俺のこと好きって、こと?」
 はるこは一瞬目が点になったが、すぐに品がない笑い声をあげて一壱の肩を強く叩いた。

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